いきなり金持ち人生 作:草原で昼寝したいけど明るいと寝れない
昨日の俺の生配信での言葉が、社畜解放宣言としてネットでバズったらしい。なんじゃそりゃ。
ちょっとした有名人になってしまった気がして、普段みたいに一人で出歩くのも少し恥ずかしかった俺はだれかと一緒に映画でも見に行こうと思った。
エンタメ部に行くと、布袋のバンドがいた。
「布袋ー、映画見に行かねぇ?」
「え、あー、ウン、俺ちょっと忙しくてさァー、ナンカ氷室がヒマそォーだから一緒ニ行ったらァ?」
「なんかお前日本語下手になった? ええっと、暇なら、氷室さん、一緒に映画とか……いや、社長からこういうの誘うのパワハラか。すいません失礼します」
なんか固まっている氷室さんに頭を下げて俺はそそくさと退散した。
「クソがぁー!」
背後から聞こえるロックな叫び声が、きっと未来のヒット曲になるんだろうなと思った。
どうすっかなと社長室に戻ると、ちょうど海老名と
「七福さん……、昨日は、お疲れ様です……!」
「応援ありがとうございました。緊張がほぐれたんで本当にありがたかったです」
お互いにありがとうありがとうとお礼を言いあっているうちに海老名がどっかに行ってしまいそうだったので、呼び止めた。
「ああ、海老名、ちょっと待って」
「エ? なんだ?」
「いや、ちょうどいい時間だし昼でもどうかと思って」
そうすると、何やら慈嶋さんがパントマイムを始めたので不思議に思っていると、海老名も挙動不審になった。
「アー、俺はもう先に食べチャッタからァー、いいかナー」
「あ、わたわた、私まだ食べてない、です……」
なんかちょいちょいこういうのあるんだよな。海老名とか布袋が都合合わない時。そういう時、近くにいる女性陣と一緒に行くようにこいつらは促してくるけどなんなんだ。女性と二人きりで飯とか心理的ストレス半端ないんだけど。
「そうなんですね。さっき氷室さんも暇だって言ってたんで、女性陣皆で親睦会かねてお昼ご飯いってきても大丈夫ですよ。領収書持ってきていただけたら経費で落とせますんで」
「……ハイ、アリガトウゴザイマス」
慈嶋さんは数秒フリーズした後、ぎこちない様子で社長室を出ていった。
残った海老名が俺を見て言った。
「カス」
「なんだァ、テメェ?」
喧嘩を売ってきたのは海老名だというのに、なぜか俺は説教をされることになった。
「お前、なんで一緒に飯行かないの」
「いや、買収先企業の社長と俺が飯に行ったらなんか権力を盾に強制してるみたいになるだろうし、相手も誘われたら断りづらいだろ」
「なるほどね。なあカス」
なんだクズ。
「お前は昔からそうだけどクソほど自己中心的だよな」
「……いや、まあ、そうかもだけど、俺も社会人になって人のこと考えるようになったはずだ」
「いや、そんなことは無い。いいか、お前が自己中心的であることの否定しようのない事実だけを列挙しよう」
海老名は小学校時代から現在に至るまでの俺のエピソードをグチグチと言い始めた。なんだこいつ。昔のクソエピソード対決だったら俺だって負けちゃいないぞ。
「そういうことなら、海老名。お前は昔からナチュラルに人を下に見ることがある」
「いや、それは一部の人間に対してだけだ」
「いいや、そんなことは無い。お前が高慢である理由を話そう」
俺は海老名のクソエピソードを無限に話した。奴は否定も肯定もできないようで無言で聞いていた。
「……ああ分かった。その通り、俺は高慢だ。そしてお前は自己中心的だ」
「そうだな、お前は高慢で、俺が自己中心的かもしれないことを認めよう」
そう言うと、海老名は溜めて、言った。
「お前は自分を第一に考えるから、人に踏み込むことができない。気づいているか? 何人かの女性はお前にアプローチをかけているんだぞ」
「……え?」
耳を疑った。
「え? え? え? ちょっと待って、それってよくあるあの子お前のこと好きらしいぞみたいな実体のない噂話じゃなくてガチで裏鳥が取れてるタイプの話? さすがに嘘とかだとマジで傷つくけどガチリアル?」
「そこで自分の心配をするあたりが自己中心的だという話をしているんだ。気づいているか、と言っただろう。裏返せば、お前は相手の思いを無碍にしているということだ」
……なるほど。海老名に言われてそうかと思った。俺は今舞い上がって、自分がモテているのだと思い、うれしくなって自分のことしか考えていなかった。
宝くじに当たった時、思ったはずだ。金に見合うふさわしい男になり、女性にモテたときに金由来ではなく自分の魅力によってモテたのだと言えるような男になると。
今振り返るとどうだ? 俺は良い男になっているのか?
自分の情けなさに学理と膝を折った。俺の会社は大きく成長したが、俺はたいして成長していなかったのかもしれない。
「え、海老名ぁ、俺、カスだったかもしれない……」
「ああ、お前はカスだ。だが、踏みとどまれたカスだ……」
四つん這いで落ち込んでいる俺の肩をポンと叩くと、にこやかな笑顔の海老名が言う。
「男を磨こう」
「海老名ロボティクスが実施しているブートキャンプがある」
「それに行くんだ」
いつの間にか社長室には布袋と福路が居て、俺の周りをぐるぐると練り歩きながら呪文のように変なことを言っている。
「幻聴と幻覚が……!」
「七福、お前の内なる心がそう言ってるんじゃないか? さあ、一緒に鍛えよう」
胸筋をパンプアップさせた海老名はクソほど力強く、抵抗したが普通に車に押し込められた。
「おぉい! シャレになってないぞ! 拉致じゃねぇかこんなもん!」
「オイ、車出せ!」
俺は後部座席で縛られ固定され、そのまま海老名ロボティクスまで二時間ほど騒いでいたが解放されることなく、到着してしまった。
「さあ! 着いたぞ七福! いよいよ観念しろ!」
「いやだいやだ! ぬくぬく独善的に生きていきたい!」
そうだ。自己中心的で何が悪い。所詮己を理解できる他人なんていないのだ。分かり合えない人と関わり続けることのコスパは悪すぎてやる気起きないんだ。
「社員にはコスパタイパ気にしない生き方してほしいとか言ってたのにお前はそうなのかよ」
「うるせェー知らねェー! 俺は俺の生きたいように生きる!」
宝くじで大金当てて人生クリアしたんだから余生でいいだろもう。
「ハッ、七福ぅー! お前はこれからも全力で生きてもらうぞぉー! ぬくぬくと社長室に引きこもってぶくぶく太る時間は終わりだぁー!」
一緒についてきていた布袋が俺に地獄のような要求をしてくる。
「俺はお前が0か100かでしか調整が利かない不器用な人間だって知ってるんだ! お前はこのままだと0の状態で終生まで過ごすだろう! だから! 今後! 100でずっと生き続けるのだァ!」
「嫌だって言ってるだろ! やりたくない!」
「嫌だ嫌だ! やってもらう!」
「嫌だ嫌だ嫌だ!」
「ダメ! やれ!」
「そうだ、お前には報いを受けてもらう」
地獄の底からの海老名の声で、俺は海老名ロボティクス社員寮に住み込みで仕事をすることになってしまった。毎朝プロテインや鶏むね肉を食べ、昼休みにはドッヂボールをし、定時後にはジムで筋トレ。休日にはサイクリングや登山。
筋肉の波に飲み込まれて二年経過する間に世間はどんどん変わっていったらしい。
まず、日本の平均年収が上昇したらしい。七福グループの就業条件に少しでも近くないと新入社員が入らないようになってしまったのだ。それは大企業でも同じで、それで平均年収が上昇したみたいだ。
さらに、企業による買収が活発になった。先ほどの就業条件の上昇について行けない企業を刈り取るように七福グループが買収を仕掛けまくったことにより、大企業でも買収が加速した。結果、グループ企業同士による住み分けのようなものが進み、日本ではグループ企業に属していない企業はもはや珍しいくらいになってしまったらしい。
一方で俺は、大きく成長していた。
( ・ω・)( ・ω・)( ・ω・)
「きゃあぁー! 誰か助けてぇー!」
平和なお昼のオフィスに女性の甲高い悲鳴がこだまする!
「ぐへへー! 貴様! 昼食帰りの社会人だろう! このまま足止めして、午後の業務時間に間に合わないようにしてやる!」
女性の前にいるのは両手を横に広げて通せんぼを続ける男だ! 機敏な動きで進行を許さない決意の証が汗となって周囲に飛び散った!
「だ、だれか……!」
「ぐへへへ! このままお茶でもどうですか……!」
ああ、女性に救いは無いのか。神は彼女を見捨てたのか!
「待てェい!」
「何奴っ!?」
その時! ショッピングモールの二階部分から雄々しい声が轟いた!
「トゥッ!」
二階からゆっくりと飛び降り、音もなく仁王立ちで飛び降りたその姿は近頃話題の男だ!
紫色のマントをはためかせ、金属のフルアーマーに覆われたその背中には海老名ロボティクスの製造マークがきらりと見えるが全く誰だかわからない!
「社会人の貴重な昼休みを奪うもの……人はそれを、許しはしない! そんなお前に、名乗る名は無い!」
「貴様! 七福マンだな!」
「えぇい、そんな名前ではない!」
七福マンは、最近の日本の就業条件上昇の恩恵を受けられず、鬱屈したストレスをその従業員に向ける行動をとる、七福氷河期世代と呼ばれる人の前に現れることがある社会正義の使者だ!
海老名ロボティクスの最新の外部着装型パワーアシストロボット
「貴様ァ! 年齢を言えェ!」
「俺は25歳で就職浪人じゃぁ! クソがァ!」
悔し涙を流して懐に入れていた大量のお祈りメールをプリントアウトした男は遮二無二構わず七福マンに突っ込んでくる。そのタックルは彼が学生時代に熱中し、その結果身を崩したラグビーの成果だった!
しかしそのタックルも七福マンの鋼鉄のボディには通用しない! 機械の圧倒的なパワーに、男性は崩れ落ちるしかなかった。
「く、クソォ! 俺のこの肉体が通用しないなんてぇ! もうどうにもならないんだぁ!」
男性は泣き崩れ、周囲の人々はその悲劇に息をのむしかなかった。七福マンは金属の膝を地面につけ、男性の肩をポンと叩いた。
「君いい身体してるね! 海老名ロボティクスに入らないかい?」
「え、海老名ロボティクス……? そんな、七福グループ傘下の大企業に俺なんかが入れるわけ……!」
「フン! そんな常識! タックルでぶち破れ! 海老名ロボティクスだって数年前までは大企業でも何でもない! 君もまだ何者でもないが、数年後には大企業になってるかもしれないだろ!」
励まされた男の目は先ほどまでの、社会人の憩いの時間を邪魔していた濁った眼ではなく、澄み切った新社会人の目になっていた。
「うん! ありがとうございます! 俺、トライしてみます!」
「ああ、その意気だ! おっと、俺ももう、昼休み終了の時間だ! 帰らせてもらう!」
最近喜多方エネルギーシステムが発明したと言われている、小型ブースターエンジンによってふわりと空中に浮きあがった七福マンに、男は声をかける。
「七福マン! お名前を聞かせてください!」
「俺の真の名前は……」
グッと溜を作り、空高く飛び立った七福マンからひらりと一枚の名刺が落ちてきた。
~まさにここにある出会い~ 七福リクルート 営業部 七福リクルートマン
「彼もまた社会人だったのか……」
七福グループの人材不足のため、戦え! 七福リクルートマン! 行け! 七福リクルートマン! 全ては日本の就業条件を引き上げてしまったお前の責任を取るために!
完
あとがき
完結です。ありがとうございました。
なぜ最後にこんなことになってしまったのか。ノリと勢いで書いていたらこんなことになってしまった。しょうがない。
最後に各キャラの思想や思惑を書いて終わります。
七福:主人公。運がものすごくいい。内弁慶と言っているが、仲間と外で壁があるだけ。それは気の置けない仲間が幼少期から一緒だったことの弊害でもある。
リクルートマンの中の人であることは公然の秘密。
海老名:実家の海老名ロボティクスを世界一の企業にしようと頑張っていたら、その手段が目の前に転がり込んできたので飛びついた。株主総会の時点でもしかしたら七福かもとは考えていたが、マジでそうだとは思っていなかった。最初の焼肉屋での話し合いの時点で七福グループ設立から、海老名ロボティクスを七福グループ製造部トップに据える計画を考えていた。
最後に二年くらい七福を海老名ロボティクスにぶち込んだのは、企業間闘争が激化することが予測できていたので、七福が狙われる危険性を考えたため。
後のロボシュリンプ。リクルートマン最大の敵でリクルートマンがリクルートしようとした人を常に海老名ロボティクスに就職させようとする謎の人物。
布袋:バンドはデビュー後、人気の絶頂で電撃解散した。なんか氷室の婚活のためらしいとかなんとか。七福が布袋のミュージシャンの夢を応援したように、布袋も七福に全力で生きてほしいと思っている。七福は昔、「どう生きるかじゃなくてどう死ぬかだ」とか適当なことを言ったために布袋はロックに傾倒した過去がある。
後のエンタメ仮面。リクルートマンの仲間になる。
福路:七福グループの買収先企業を見た段階で、大きな会社になると予想はしていたが、喜多方多聞の研究速度と天才性だけは計算外だった。
今では買収した企業を黒字化させるために東奔西走している。
後のブラックジュークボックス。歌が下手。
大黒:かつてバリバリ働いていたが、息子がブラック企業に心を壊されてから働き方を変えた。
という設定だけがあったが、書いているうちになんか会社潰した人になってしまった。
永石:大黒と知り合いの弁護士。喜多方多聞の特許関係でクッソ忙しい。ワケあって、政治家再デビューしたら、七福グループの集団投票もあって普通に当選した。
慈嶋:当初からヒロインとして想定していたが、なんかジメジメした人になってしまった。一応、描写外では頑張ってアプローチしていたことになっているが、彼女が成功している姿は思い描けない。
喜多方:天才キャラでそのまま。研究所に行かずに実家を注いだのは、研究所より実家の方が自由に研究ができたから。研究を好きにやった結果、会社が傾いてしまった。
朱鷺:喜多方の奥さん。書いているうちに生えてきた。
氷室:布袋の元マネージャーであり、バンドメンバー。いつの間にか生えてきて、描写外で七福にアプローチしていることになった。
海老名の親父:なぜか筋肉モリモリのマッチョになってしまい、海老名ロボティクスもつられて筋肉が伝染してしまった。リクルートマンを生み出した元凶かもしれない。
四風動画メンバー:書いているうちに全員生えてきた。
灰村:水歩銀行の女性銀行員。季節の節目には挨拶に行き、ワンチャン玉の輿を狙っているが、七福は営業努力頑張っててすごいとしか感じていないぞ。
あとがき
完結です。ありがとうございました。
なぜ最後にこんなことになってしまったのか。ノリと勢いで書いていたらこんなことになってしまった。しょうがない。
最後に各キャラの思想や思惑を書いて終わります。
七福:主人公。運がものすごくいい。内弁慶と言っているが、仲間と外で壁があるだけ。それは気の置けない仲間が幼少期から一緒だったことの弊害でもある。
七福リクルートマンの中の人であることは公然の秘密。
海老名:実家の海老名ロボティクスを世界一の企業にしようと頑張っていたら、その手段が目の前に転がり込んできたので飛びついた。株主総会の時点でもしかしたら七福かもとは考えていたが、マジでそうだとは思っていなかった。最初の焼肉屋での話し合いの時点で七福グループ設立から、海老名ロボティクスを七福グループ製造部トップに据える計画を考えていた。
最後に二年くらい七福を海老名ロボティクスにぶち込んだのは、企業間闘争が激化することが予測できていたので、七福が狙われる危険性を考えたため。
後のロボシュリンプ。リクルートマン最大の敵でリクルートマンがリクルートしようとした人を常に海老名ロボティクスに就職させようとする謎の人物。
布袋:バンドはデビュー後、人気の絶頂で電撃解散した。なんか氷室の婚活のためらしいとかなんとか。七福が布袋のミュージシャンの夢を応援したように、布袋も七福に全力で生きてほしいと思っている。七福は昔、「どう生きるかじゃなくてどう死ぬかだ」とか適当なことを言ったために布袋はロックに傾倒した過去がある。
後のエンタメ仮面。リクルートマンの仲間になる。
福路:七福グループの買収先企業を見た段階で、大きな会社になると予想はしていたが、喜多方多聞の研究速度と天才性だけは計算外だった。
今では買収した企業を黒字化させるために東奔西走している。
後のブラックジュークボックス。歌が下手。
大黒:かつてバリバリ働いていたが、息子がブラック企業に心を壊されてから働き方を変えた。
という設定だけがあったが、書いているうちになんか会社潰した人になってしまった。
永石:大黒と知り合いの弁護士。喜多方多聞の特許関係でクッソ忙しい。ワケあって、政治家再デビューしたら、七福グループの集団投票もあって普通に当選した。
慈嶋:当初からヒロインとして想定していたが、なんかジメジメした人になってしまった。一応、描写外では頑張ってアプローチしていたことになっているが、彼女が成功している姿は思い描けない。
喜多方:天才キャラでそのまま。研究所に行かずに実家を注いだのは、研究所より実家の方が自由に研究ができたから。研究を好きにやった結果、会社が傾いてしまった。
朱鷺:喜多方の奥さん。書いているうちに生えてきた。
氷室:布袋の元マネージャーであり、バンドメンバー。いつの間にか生えてきて、描写外で七福にアプローチしていることになった。
海老名の親父:なぜか筋肉モリモリのマッチョになってしまい、海老名ロボティクスもつられて筋肉が伝染してしまった。七福リクルートマンを生み出した元凶かもしれない。
四風動画メンバー:書いているうちに全員生えてきた。
灰村:水歩銀行の女性銀行員。季節の節目には挨拶に行き、ワンチャン玉の輿を狙っているが、七福は営業努力頑張っててすごいとしか感じていないぞ。