無職クソ女、履歴書に書けるものはほぼないくせにゲームへの文句だけは無限に出てくるので、だったら自分で作ればいいじゃんと謎の超性能AIとソシャゲ開発を始めた~運営批判歴だけならベテランです~ 作:評価を…評価をクレメンス
世界はクソ。社会もクソ。努力は才能の前座、夢は成功者が後から売りつけてくる情報商材、朝日は勤労者のもの、夜は無職の領土。働け、納めろ、役に立て、知らんがな。私は今日も真冬の布団でぬくぬく全裸、玉織伊代二十八歳、無職、社会不適合者の世界憎悪クソラップを脳内で垂れ流しながら二度寝を決め込んでいたのだわ。
……で、起きた。目を開けても天井はいつもの薄汚れた天井で、鼻まで被った布団はぬくぬく、股間も腹も当然すっぽんぽん。暖房代をケチっているから、布団の外だけが冷蔵庫みたいに冷えている。なのに背中には気持ち悪い汗が張りついていて、心臓だけが全力疾走した後みたいに鳴っていた。
夢を見ていた。私が死ぬ夢。それも大往生だの病院のベッドだの、そんな人間扱いされた死に方じゃない。誰にも看取られず、誰にも声をかけられず、この部屋で一人、畳の上に転がって死んでいた。窓いっぱいに毒々しい夕日が差し込んで、壁も畳も私の死体も気色の悪い橙色に染めていた。夕日、夕日、夕日。目を閉じてもまだ瞼の裏に焼きついている。
死ぬ直前の私は必死だった。嫌だ、まだ死にたくない、こんな終わり方は嫌だって、息のできない喉で何度も喚いて、動かない手足で畳を引っ掻いていた。私なりに考えたことも、腹を立てたことも、誰かを好きになったことも、しょうもないことで喜んだことも、クズなりに足掻いた努力も、全部そこにあったはずなのよ。でも世界の側から見れば関係ない。数週間後に発見された私は、名前より先に臭いで存在を知られて、最後には畳に残った染みとして片づけられる。
それが、どうしようもなく怖かった。玉織伊代という人間が何を考えて、何を嫌って、何に失敗して、何をやろうとしていたかなんて、世界は一ミリも知らないまま回っていく。私が死んでも誰も気づかないし、気づいた頃には私自身より畳の張り替え代の方が具体的な問題になっている。こうなりたくない。社会復帰……おえ。思いついただけで胃が反転しそうになったけど、畳の染みよりはマシでしょうよ。
そもそも今までの二十八年、何をしていたのか。アニメ、ゲーム、漫画、動画、お菓子、VTuber、ソシャゲ、レスバ、イヨニー、惰眠。書き並べると驚くほど社会に何も返してないわね。ゲーム内では世界を何十個も救ったし、掲示板では何百人とも戦ったし、推しの配信には何千時間だって吸われたのに、現実の私は一部屋からほとんど動いていない。文明が私を甘やかす技術だけ、あまりにも完成されすぎている。
夢の中では親父が先に死んでいた。それなのに私は、しばらく気づかなかった。父子家庭で育ったくせに、二十年以上まともに会話していないから、数日姿を見なくても異常だと思わなかったのだわ。天才プログラマーだか何だか知らないけど、親父は親父で人間との喋り方をどこかに置き忘れているし、私は私で取りに行く気がなかった。その結果が、親が死んだことにすら気づけない娘。夢とはいえ、あまりにも完成度の高い地獄だった。
じゃあ働くか。そう思って、過去の就労実績を脳内から呼び出した時点で吐きそうになった。大学受験では必死こいて勉強して、必死こいたまま失敗。日雇いでは色々あってトラックを壊した。コンビニではうっかり店を燃やして、弁償は親父がした。うっかりで店が燃えるなという話だけど、燃えたものは仕方ないでしょうが。
一番続いたのは某アマゾン倉庫だった。単純作業なら私でもいけるじゃない、と一瞬だけ人類社会との和解が見えたのに、私より安く雇えて私よりよく働く外国人の集団が入ってきた頃、私は一瞬で契約を切られた。因果関係が本当にそうだったかは知らない。私の中ではそういう話になっている。何にせよ、真っ当な方向から社会へ戻ろうとすると、社会の方が露骨に嫌そうな顔をしてくるのよ。
なら邪道か。炎上まとめYouTuberでもやる? 人の長所を見つける能力は壊滅してるけど、短所なら三秒で七個くらい見つけられる。誹謗中傷まとめサイトも向いてるかもしれないし、昔はメキシコマフィアのTwitterに凸って、チャッピーに翻訳させた罵詈雑言を投げたことまである。思い返すほど夢の孤独死が妥当な結末に見えてくるのやめてほしいわ。悪行の棚卸しをして反省より適性職が見つかるの、人として終わってるでしょうよ。
じゃあAI小説。これは一応、多少は受けた。承認欲求も満たせたし、超がつくほどのマイナージャンルとはいえランキング一位も取った。文章そのものはAIにかなり頼っていたけれど、発想だけは私のものだと思っていたのよ。文章力はアレでも発想は面白い、それだけが無職の私に残された小さな自尊心だった。
そこへ現れたのが、パラパラ・チャーハン。何そのふざけた名前と思ったし、実際向こうは私に何もしていない。煽られてもいない、盗作されたわけでもない、存在すら認識されていないと思う。ただ、読んだら分かった。本物だった。AIを使い始めた本当に発想の面白い奴が、本当に面白いものを次々出してきて、私が大事に抱えていた「発想ならいける」という札を、本人はこっちも見ずにタイヤで踏み潰していった。
しかも一人じゃなかった。AIが広まるほど、私より頭のおかしい発想をする奴、私よりゲームを知っている奴、私より執念深く書く奴がいくらでも湧いてきた。道具さえ同じなら自分のアイデアで勝てる、なんて驕りまで綺麗に処刑されたわけよ。努力して負けるのも嫌だけど、唯一の取り柄だと思っていたものが取り柄ですらなかったと分かるのは、もっと嫌だった。布団の中でスマホを握ったまま、私は天井に向かって唸った。じゃあ、何をしろってのよ。
スマホが震えた。通知欄に見覚えのないアイコンが出ていて、広告かスパムかと思って指で払おうとしたのに消えない。アプリ名のところには【血肉の歯車】とだけ書かれていた。趣味の悪さだけなら私と気が合いそうだった。
【血肉の歯車】によって【死に戻り】を付与されました。
しばらく読んで、私は布団の中で瞬きをした。死に戻り。字面だけなら死んだら戻れる、たぶんそういうやつ。夢の畳の染みがまだ脳裏に残っている朝に送ってくる内容としては最低最悪だけど、一つだけ問題がある。これ、性能を確かめるためには一回死ななきゃ駄目じゃない。