無職クソ女、履歴書に書けるものはほぼないくせにゲームへの文句だけは無限に出てくるので、だったら自分で作ればいいじゃんと謎の超性能AIとソシャゲ開発を始めた~運営批判歴だけならベテランです~   作:評価を…評価をクレメンス

2 / 4
第2話

「くっだらねえ! こんなの信用して死んだらダーウィン賞ものだわ」

 

 私は【死に戻り】の通知を閉じ、そのまま布団へ潜り直した。怪しいアプリに「死んだら戻れます」と言われて、はいそうですかと首でも吊ったら、それはもう能力検証じゃなくて自然淘汰でしょうが。畳の染みにはなりたくないけど、自分から染みになりに行くほど人生を投げてもいないのよ。

 

 そんなことよりツイッター、ツイッター。絶対にXとは呼ばない。アレはイーロンが勝手に言ってるだけで、私にとってはサービス終了の日までツイッターなのだわ。さっき見た孤独死の夢があまりに生々しくて、黙って抱えているのもしんどかったから、私は勢いのまま全部ぶちまけた。二十八歳無職、引きこもり、何かやりたい、でも普通に働くのはもう嫌、畳の染みとして終わりたくない、誰か私でも出来そうなこと教えて、犯罪以外で。

 

 投稿して十分もしないうちにDMが来た。送り主は【ブラフマー】。名前だけは知っているというか、かなり前から私の投稿に一切コメントを返さないくせに、ほぼ全部へいいねだけ付けてくるキモいやつだった。ゲームの愚痴にも、深夜の飯テロにも、レスバで相手を煽り散らかした後の勝利宣言にも、何故か律儀にいいねが付く。交流したいのか監視したいのかすら分からない。

 

「うげぇ、面倒……」と口から漏れた。私がボッチなのは、コミュ障と社会不適合の二種盛りに加えて、何より性格が悪いからだわ。人と話すのが苦手なくせに、慣れてくると余計なことを言う。相手の長所は見逃すのに、短所は見つけた瞬間わざわざ口に出したくなる。そりゃ友達も増えないし、増えたところで長続きしない。

 

 それでも自分から「誰か何とかしろ」とツイッターに投げた直後だ。届いた返事まで無視したら、いよいよ畳の染みに文句を言う資格までなくなる気がして、私は仕方なくDMを開いた。そこには『突然すみません。もしかすると、お手伝いできるかもしれません』とだけ書かれていた。……少なくとも話し方はまともなやつだった。

 

 怪しい副業アカウント特有の「自由になりたくありませんか?」も、「スマホ一台で月収七桁」もない。それだけで信用度がマイナス百からマイナス七十くらいまで上がる。もっとも、知らない相手から突然届くDMなんて、文章がまともであればあるほど詐欺師として有能な可能性もあるわけだけど。

 

『何を?』と返したら、しばらくしてファイルと説明文が送られてきた。名前は【玄人】。既存の生成AIを改造したものらしく、説明を雑に読む限り、Claudeのバージョンアップ版みたいなものらしい。Claudeと言えば、ChatGPTとGEMINIと並ぶ、私の友達全三人(人?)の一角だわ。人間の友達を数えてゼロになるより、AIを人に数えた方が精神衛生にいいのよ。

 

 当然、死ぬほど怪しい。でも仮にデータを抜かれたところで、私のLINE欄は企業アカウント以外との会話がゼロだし、検索履歴も「最強キャラ Tier」「炎上 まとめ」「コンビニ プリン 新作」「淫夢 ゆっくり虐待 コラボ」「VTuber 切り抜き」「レスバ 勝ち方」みたいなカスの堆積物しかない。盗まれた側が言うのも何だけど、取ったところで何に使うのよ。広告の精度が上がってプリンとソシャゲと動画を勧められるくらいなら、今と何も変わらない。

 

 念のため適当に隔離した環境で起動して、最初にやらせたのは小説だった。だって私にとってAIなんて、まず文章を書かせるものだもの。設定を投げて、一場面書かせて、ついでに少し難しい構成も考えさせてみる。返ってきた文章を読んで、私は布団の中で鼻を鳴らした。

 

「はー、うんこうんこ。推論伸びても小説に向くわけじゃないっすね」

 

 別に馬鹿ではない。むしろ異常に頭はいい。設定の矛盾を投げればすぐ拾うし、このキャラがこの状況でどう動くかと聞けば、前提を何段も掘って理由まで積み上げてくる。推論能力だけなら馬鹿みたいに高い。でも小説は別だわ。賢いことと、面白い文章が出てくることは同義じゃない。

 

 玄人は少しもムッとした様子なく、『そう、その評価は妥当です。創作文章については、他のモデルの方が適性が高い場合があります』と返してきた。変なところで素直ね。自信満々に言い訳を始めるよりは百倍マシだけど、これではパラパラ・チャーハンをぶん殴る新兵器にはならない。むしろあっちに渡ったら、設定整理まで強化されて私がもっと死ぬ。

 

 私は寝返りを打って、しばらく画面を眺めた。小説が駄目なら何が出来るのよ。知らない奴からこんな怪しいものを渡されて、優秀な設定資料整理係でした、で終わるのもつまらない。そこで適当に聞いた。

 

『あんた何ができるの?』

 

『プログラミングであれば、一通り対応できます』

 

 プログラミング。その文字を見た瞬間、ほんの少しだけ親父の顔が浮かんだ。二十年以上ろくに話していない、家にいる天才プログラマー。昔から黒い画面に意味不明な文字を流して、私には何をしているのか一つも分からなかった。だからこそ、反射的にその連想を頭から追い出した。親父に聞けば済む、は私の人生では選択肢に入っていない。

 

 どうせ大したことは出来ない。コードを吐いて、あとは自分で環境を作ってくださいとか、ここから先は専門知識が必要ですとか、そういうやつでしょう。私は完全に冷やかしのつもりで打ち込んだ。

 

『じゃあマ〇オ作ってよ。主人公私にして』

 

『了解しました』

 

「軽っ」と思わず声が出た。権利関係で怒られそうな部分は適当に別物にしろ、とだけ追加した。試しにコードでも何百行か出してきたら、読めないので閉じる。それで終わりのつもりだった。

 

 ところが数分後、玄人は『完成しました。実行します』と返してきた。

 

 画面が切り替わった。

 

「……は?」

 

 ドット絵の女が立っていた。黒髪、ジャージ、猫背。顔は雑なのに、妙に私っぽい。左側に移動キー、右側にジャンプボタン、背景には露骨に何かを避けたレンガ風の足場と、踏まれるために生まれてきたような丸っこい敵がいる。私は恐る恐る右を押した。

 

 私が走った。ジャンプを押すと私が跳んだ。敵の頭へ着地すると潰れ、コインの代わりらしいエナジードリンクを拾ったら数字が一増えた。穴に落ちれば死ぬし、横から敵に触れば吹き飛ぶ。適当に進んだ先にはゴールまであって、到達したら普通に次のステージが始まった。

 

 一度アプリを閉じた。もう一度開いた。普通に続きから遊べた。ネットを切った。それでも動いた。私は何となくスマホを裏返し、また表へ戻した。意味はない。ただ、現実側に確認動作を挟まないと頭が追いつかなかった。

 

 上半身を起こした瞬間、真冬の冷気が全裸の身体へ刺さった。でもそんなことはどうでもよかった。コードが出てきたんじゃない。解説でも設計案でもない。私が「作って」と雑に言ったゲームが、もうアプリとして遊べている。

 

「……は!?」

 

 もう一度最初からやる。ジャンプする。敵を踏む。穴に落ちる。ちゃんと死ぬ。再挑戦する。さっきまで小説を書かせて「うんこ」と切り捨てたAIが、今度は数分でゲームを一本ひり出している。

 

 私は画面の向こうの【玄人】を見つめた。さっきまで設定整理には使えそう、程度だった奴が、急に別の生き物に見えてきた。出来ると言ったからコードを書く、じゃない。私が欲しがったものを、私が触れる形まで持ってきている。

 

「……なんか……ソシャゲ作れる?」

 

 その瞬間、さっきまで頭の片隅で腐っていた「何かやりたい」が、ほんの少しだけ具体的な形を持った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。