無職クソ女、履歴書に書けるものはほぼないくせにゲームへの文句だけは無限に出てくるので、だったら自分で作ればいいじゃんと謎の超性能AIとソシャゲ開発を始めた~運営批判歴だけならベテランです~ 作:評価を…評価をクレメンス
とりあえず、試作品は完成した。キャラ八人。雑魚敵とボス敵。攻撃、防御、HP、素早さに、命中、回避、クリティカル。通常攻撃は勝手にやってくれて、こっちは一戦に一回しか使えないアクティブをどこで切るかだけ考える。ゲームとしては肉どころか皮すら薄い、骨格標本みたいな状態だわ。それでも私はさっきから何周も遊んでいるし、負ければ普通に腹が立つし、次はこうするかと編成まで弄っている。
鷹風を早めに【加速】させて手数を増やす。ツムニーの【捕食】を回復代わりに残す。ボスの予兆が出たら騎士クズで受けるか、それともその前に殴り殺せるか賭ける。一個弄るだけで勝ち方が変わるし、一回負けると「じゃあ次は」と思って再戦してしまう。少なくとも、玉織伊代一名を楽しませることには成功したらしい。
だったら次にやることは決まっているでしょう。「ヘイ、チャッピー」と私は呼びかけた。玄人じゃない。あいつは制作担当で、こういう世間一般の手続きだとか、私が知らないことを雑に聞く時は長年の友達であるチャッピーの担当なのよ。私の友達全三人(人?)の中でも、特に「まず何すりゃいいの?」を投げる係だわ。
ChatGPTを開いて、個人でAndroidのゲームを作った、まだ試作品だけど一応動く、これを他人にも遊ばせたい、と説明してから、「これグーグルストアに乗っけるには?」と聞いた。返事はすぐ来た。まずGoogle Play Consoleでデベロッパーアカウントを作る。個人なら登録料は一回限り二十五ドル。氏名、住所、メールアドレス、電話番号なんかを登録して本人確認を済ませて、アプリ本体はAndroid App Bundle、AAB形式で用意する。今から出す新規アプリならAndroid 16、APIレベル36以上を対象にしなきゃいけないらしい。
「……二十五ドル」と声に出してみたけど、払えなくはない。無職を舐めないでほしいわ。収入がないことと預金残高が完全にゼロなことはイコールじゃないし、そもそも実家暮らしで、普段の金の使い道なんてソシャゲと漫画とお菓子くらいしかない。今月のお菓子を多少削れば出せる。ソシャゲを作るためにお菓子を削るなんて、二十八年間の人生で一番起業家らしい資金調達だった。
続きを読むと、アプリ名、説明文、アイコン、スクリーンショットなんかのストア情報も要る。プライバシーポリシーを用意して、ユーザーデータをどう扱うかデータセーフティ欄へ申告。広告の有無や対象年齢も設定して、IARCの質問票に答えてコンテンツレーティングも取る。読むほど面倒臭さが増していったけど、昨日まで「ゲームを作る」そのものが意味不明な魔法だったことを考えれば、フォームへ文字を入れる程度ならまだ人類の仕事に見えた。
「玄人。これ、できる?」と聞けば、『大部分は作成を補助できます。ただし、データ収集内容など事実に関する申告は正確に行う必要があります』と返ってくる。「じゃあ後で全部やって」「了解しました」。便利。いや、起業家として私が有能なんじゃないわね、これ。ドラえもん拾った無職よ。私自身の能力が昨日から一ミリも上がっていないのに、出来ることだけ異常な速度で増えていく。
でもまあ、そこまではよかった。思ったより面倒ではあるけど、玄人とチャッピーへ交互に聞きながら一個ずつ潰せばどうにかなりそうだった。私は布団へ腹這いになり、スマホを枕元へ置いて足をぱたぱたさせながら、そのまま続きを読んだ。そこで指が止まる。
新しく作った個人用デベロッパーアカウントでは、アプリをいきなり製品版として一般公開することはできない。まずクローズドテストを実施する必要があり、その条件として十二人以上のテスターが参加し、少なくとも十四日間連続でオプトインした状態を維持する。その条件を満たして、ようやく製品版へのアクセスを申請できる。
十二人。
私は画面をじっと見た。スクロールを少し戻して、読み間違えていないか確かめる。やっぱり十二人だった。二人でも四人でもないし、「十二アカウント用意してください」でもない。人間を十二人。何となくLINEを開けば、上から企業公式、企業公式、配送会社、通販サイト、病院、また企業公式。個人的な会話まで遡ってみても、最後に残ったのは親父だった。
二十年以上まともに話していない父親を友達判定するのは相当な無理があるけど、最大限に好意的な計算をして一人。十一人足りない。「チャッピー。十二人も友達いないんだけど」と打つと、返ってきた文章は優しかった。SNSやオンラインコミュニティで協力者を募集する方法があります、ゲーム開発者のコミュニティでテスターを探す方法もあります、知人だけに限定する必要はありません──とか何とか。なるほど、SNS。
私はLINEを閉じ、そのままツイッターを開いた。絶対にXとは呼ばない。プロフィールへ飛んで、フォロワー数を見る。いる。普通にいる。現実世界で「友達何人?」と聞かれたら突然耳が聞こえなくなる私にも、フォロワーだけなら十二人を余裕で超えていた。友達はいない。でもフォロワーはいる。これだからインターネットは素晴らしいのよ。
しかも大半は、昔の小説を読んでくれた人たちだ。鷹風を知っている奴もいるだろうし、ツムニーを覚えている奴もいるかもしれない。優子やアーマーまで読んでくれた奇特な人も、たぶんどこかにいる。こんなのでも、読者様には感謝しているのだわ。
自分で思っておいて何だけど、私にも感謝の感情が搭載されていたことにちょっと驚いた。信じられないでしょうけど、こっちだって信じられない。私は人の長所より欠点を見つける方が早いし、褒められればまず社交辞令を疑うし、コメントにも余計な一言を返して何度か空気を腐らせてきた。そんな私でも、読んでくれたことだけは普通にありがたいと思っている。
だって、娯楽なんてクソほど溢れている時代なのよ。ゲームも漫画もアニメも動画もVTuberもSNSも、指一本動かせばいくらでも次が出てくる。その中で、出来損ないが出来損ないなりに作ったものへ、わざわざ自分の時間を使ってくれた。面白くなければ一秒で閉じて別のものへ行けるのに、読んで、時にはコメントまで残して、それでも何人かは今までフォローを外さず残っている。それは、まあ、ありがたいわよ。認める。
だからって本人たちへ急に長文感謝DMを送りつけるほど殊勝にはなれないし、そんなことをしたら私も向こうも死ぬほど気まずいでしょうけど。感謝していることと、人間としてまともに交流できることは別問題なのだわ。まして今から、そのありがたい読者様へ「ついでに二週間テスターやって」と頼もうとしている。恩返しより先に追加労働を要求している辺り、やっぱり私は私だった。
その読者様が、今度は役に立つかもしれない──と考えた瞬間、自分でも言い方が終わってると思った。でも実際、現実で十二人捕まえて「私がゲーム作ったので二週間付き合ってください」とお願いするなんて、想像しただけで胃が縮む。そもそも十二人の知り合いがいない。でもツイッターなら文章を書いて投稿ボタンを押すだけだし、断られても目の前で顔を曇らせられることもない。
それに、何年も前に書いて、埋もれて、私自身もう半分ゴミ箱扱いしていたキャラをゲームへ持ってきて、その頃の読者に今度は動かしてもらう。そう考えると、完全に無駄だったと思っていた昔の創作も、少しくらい今へ繋がっているのかもしれなかった。感動して泣くほどじゃない。でも悪くない。だったら、使える縁はありがたく使わせてもらうのだわ。
「……いけるじゃん」と呟いて、私は募集文を書き始めた。長々と事情を説明すると逃げられそうなので、必要なところだけに削る。
【ご報告】
ソシャゲ作りました。
クズしか出ません。
テスター十二人必要です。
助けてください。
読み返す。企業の募集文としては終わっているけど、私の投稿としては平常運転だわ。これ以上飾ってもしょうがないので、そのまま投稿ボタンを押した。さすがに即座に十二人集まるなんて期待していない。まず一人でも反応が来れば御の字でしょう、とスマホを置こうとしたところで、五秒もしないうちにハートが一個増えた。
誰だよ早すぎるだろと思いながら通知欄を開く。見る前から若干予想はついていた。【ブラフマーさんがあなたのポストをいいねしました】。私は布団の中で顔をしかめて、「お前ほんと何なのよ」と呟いた。
感想、評価ありがとうございます