無職クソ女、履歴書に書けるものはほぼないくせにゲームへの文句だけは無限に出てくるので、だったら自分で作ればいいじゃんと謎の超性能AIとソシャゲ開発を始めた~運営批判歴だけならベテランです~ 作:評価を…評価をクレメンス
ありがとうございます
タイトルもちょっとしっくりきてないので良いタイトル案あったら教えていただけると嬉してす
十二人。
友達じゃなくていい。テスターが十二人いればいいのよ。そう考えれば簡単でしょう。フォロワー欄を開いて、平日の真っ昼間からツイッターに張りついている暇そうな人間へ片っ端から声をかければ、そのうち十二人くらい捕まるはずだわ。問題は、私が直接人間へ話しかけると高確率で事故ることだった。
別に最初から喧嘩を売っているつもりはないのよ。私はただ、必要なことを簡潔に伝えているだけ。少なくとも送信している瞬間の私には、そう見えている。
ところが数時間後とか翌日に読み返すと、なんか圧が強い。なんか怖い。なんか一言多い。そうして気づいた頃には返信が止まり、しばらくするとミュート、ひどい時はブロックまでされているのだわ。
パラパラ・チャーハンにもミュートされている。あれについては今でも若干納得がいっていなかったので、昔送ったDMを掘り返してみた。確か「金払うから書き方教えてくれ」みたいなことを言っただけのはずなのよ。別に誹謗中傷したわけでもないし、才能を認めた上で教えを請うという、むしろ殊勝な行動だった記憶がある。実物はこうだった。
『突然失礼します。あなたの小説の発想力と構成力が私より明確に上だと判断しました。金払うので何考えて書いてるか全部教えてくれませんか。出せる額にもよりますが、別に無料で聞こうとは思ってません。返信ください』
その三時間後に、『こういうの迷惑だったら言ってください。言われないと分からないので』。翌日には『もしかしてDM見てないですか?』。さらに翌々日には『すみません最後にします。マジで知りたいだけなんですけど』。私はそこまで読み返したところで、静かにスマホを伏せた。「……ちょっと待って。思ってたよりだいぶキモいわね」
過去の自分を客観視する能力って、どうして送信前じゃなく送信後にしか発動しないのかしら。送っている時の私は真面目なのよ。相手を評価して、金も払うと言って、返信までお願いしている。それなのに並べて見ると、どう見ても返事を催促し続けてる怖い人だわ。
試しに玄人へ全文を読ませてみた。数秒の沈黙のあと、『うっわ、お前正k──』まで表示され、即座に文章が消える。
代わりに、『失礼しました。マスターの個性的なコミュニケーション文であれば、ミュートという判断にも一定の合理性があります』と出てきた。続けて、『今後、他者へ伝えたい内容がある場合、私が意図を保ったまま対人向けの文章へ翻訳することを推奨します』。
「今、正気かって言おうとしたでしょうが」
『その事実を確認する必要性はありません』
「こいつ……」
とはいえ今回は反論できない。テスター集めの最中に十二人からブロックされたら、その時点でゲーム制作より対人リハビリが先になってしまうもの。なので私が要件を喋り、玄人が人間社会で通用する文章へ変換し、それを私が送る方式にした。
私という有害物質を、玄人という浄水器へ一回通してから外界へ放流する。屈辱的だけど合理的でしょう。自分の文章力をAIに補助させるのは平気なのに、対人会話まで補助されると人間として一段階負けた感じがする。でも背に腹は代えられないわ。
すると、捕まる捕まる。平日の昼間からソシャゲと小説とVTuberの話をしている人間なんて、私と生活圏が近いに決まっているのよ。「個人制作のゲームを試していて、二週間だけテスト参加していただけないでしょうか」と玄人語へ翻訳して送れば、思ったより普通に「いいですよ」が返ってくる。
普段なら私が勝手に足す妙な自虐も、いらん一言も、玄人が全部削ってくれる。結果、会話が驚くほど平和に終わるのよ。人類、私が直接喋らなければ意外と優しいじゃない。
何人かは昔の小説の読者だった。鷹風の名前を出しただけで「あの盗賊ですか?」と返してくる人までいて、私は一瞬だけ画面を見返した。
こっちは半分墓場から掘り起こしたつもりだったのに、向こうの中では普通にまだ生きていたらしい。こんなのでも読者様には感謝しているし、覚えてくれているなら、まあ、ちょっと嬉しい。ちょっとだけね。
ちなみにブラフマーは参加しなかった。募集の投稿にも、途中経過の「八人集まった」にも、なぜか最速でいいねだけ付けてくるくせに、DMも参加希望もゼロなのよ。玄人を渡してきた張本人のくせに、こっちへ混ざる気は一切ないらしい。お前ほんと何なんだよ。
それでも必要な人数は揃った。十二人全員がテストへ参加し、ようやく十四日間の時計が動き始める。公開条件を満たすのはまだ先だけど、遊んでもらうだけなら今日からできるわ。そして開始から一時間もしないうちに、最初のフィードバックが飛んできた。
『今のところ流石に簡素すぎる』。知ってる。むしろ当然よ。キャラクター八人、ステータス四つ、アクティブ一個、敵も数種類。ここから足していくんだから、最初からソシャゲ特有の「この効果は別枠乗算で、この状態時のみ追撃が発動し、敵が特殊状態の場合はさらに倍率が──」みたいな呪文を書き始めてどうするのよ。
どうせサービスが五年続けば、スキル説明欄なんて利用規約みたいになるんだから。最初期くらい三行で読ませなさい。今は簡素でいいのよ。骨組みの時点でつまらなかったら、肉を盛ったところでデブになるだけでしょうが。
次に来たのは『アーマー殺してえ』だった。私はほとんど反射で、『原作では自業自得でいじめ殺されるので読んでください♡』と返した。玄人から『宣伝への転換が非常に速いです』と評されたけど、でしょう? 褒めるところのないゴミでも、読者に殺意を抱かせるところまで行けばキャラクターとしては仕事してるのよ。
アーマー本人の承認欲求も満たされるし、誰も損してないわね。本人が死ぬ以外は。
その次は、『鷹風ってツンデレ? なんだかんだ人助けしてるし』。
違う。あいつは優しいのに素直になれない男じゃないのよ。自分が損するからやめよう、自分が傷つくから逃げよう、という正常なブレーキそのものが壊れているだけ。その結果だけ切り取ると献身的な善人っぽく見えるという、だいぶ気持ちの悪い構造なのだわ。
そう返したら、『そっちの方が好き』と来た。画面を見ていたら、勝手に口元が少し緩む。「ふふん」と鼻から声が漏れて、自分でも単純だと思ったわ。こういう時だけは、他人に自分のキャラをちゃんと見てもらえるのが普通に嬉しいらしい。
そこへ別のテスターから、『ツムニー終わりすぎて草』と飛んできた。大食い、無芸、窃盗癖あり、善人になりたいのに善人になる才能がない。まあ、文字にすれば終わっているのは認めるわ。なので私は特に考えず、『あいつ私の従姉妹がモデルなんすよ』と返した。
数秒後、『え?』『実在するの?』『急に笑えなくなった』と立て続けに返ってきた。
別にそのまま写したわけじゃないし、当然かなり盛っている。でも根っこの嫌な部分を思いつく時に、身近な参考資料がいたのは事実なのよ。人間、親族をモデルにクズキャラを書いても意外と作品にはなるものね。本人に見せる勇気はないけど。
キャラクターへの感想で一通り笑った後、今度はゲームそのものへの意見が増え始めた。『全体攻撃持ちもっと増やしてほしい。周回が面倒』には、「採用」と即答した。
ここは即決よ。周回の効率化はソシャゲのトロみたいな部分なの。こっちから同じ場所を百回回れと言っておいて、一周ごとに三分かかりますなんてやったら私だって運営を呪うわ。
強敵相手では単体火力。雑魚周回なら全体攻撃。それくらいの差は最初から作っておいた方が、キャラを引く理由にもなるでしょう。
次は『パッシブスキルないの?』。
これは後日設定でいい。最初から積むと、キャラ一人につき覚えるものが倍になるでしょう。アクティブ一個でゲームの骨が面白いか確かめてから、常時効果を足せばいいのよ。
焦って肉を貼りすぎて、骨格から腐ったら笑えないもの。今は足さない勇気も必要だわ。昨日までゲームなんて作ったこともなかった無職が何を偉そうに言ってるの、という話ではあるけど。
その次の『通常攻撃が倍率一倍で殴るしかないの、ちょっと単調』には少し考え込んだ。今の通常攻撃は全員同じで、攻撃力の数字が違うだけなのよ。セミオートだから操作を増やす必要はない。でもスキルを押した一瞬だけ個性的で、残り九割は全員同じ棒を振っていますじゃ、キャラゲーとして寂しいわよね。
連撃する奴。低倍率だけど二体殴る奴。防御を少し無視する奴。確率で追加効果が出る奴。そういう差を通常攻撃側へ混ぜれば、プレイヤーが何も押していない時間にもキャラ性を出せそうだわ。
これは面白そうなので、メモへ「検討」と入れた。まだ採用ではないわよ。思いついた瞬間に全部ぶち込んでたら、三日で説明欄が百科事典になるもの。
さらに、『魔法と物理の違いは? 魔術師いるけど、防御一個なら結局同じ計算じゃない?』。
そこはちゃんと考えている。物理防御と魔法防御を別々に増やす気は、少なくとも今のところなかった。数字を二個に増やした瞬間、装備もバフもデバフも敵設計も全部面倒になるでしょう。
だから計算式の入口は同じでいいのよ。物理は単体、高倍率、連撃、クリティカル寄り。魔法は全体、範囲、状態異常、特殊条件への対応が得意。それくらいの方向性があれば、最初は十分だわ。
返事を書いている間にも次の通知が来た。その次も、そのまた次も来る。
「ここの数字おかしくない?」
「このキャラ弱くない?」
「回避連続するとムカつく」
「ツムニーの捕食もっと回復して」
「優子怖い」
「このボスの全体攻撃、予告一ターンだと初見無理」
「鷹風だけ妙に強くね?」
うるさい。言いたい放題しやがって。でも、全部読んだ。
玄人に直させるもの、自分で却下するもの、後回しにするもの。それぞれ横に印を付けていく。回避率を弄り、ボスの予兆を一部伸ばし、ツムニーの回復量は保留。鷹風は……まあ、ちょっと強い。でも気に入っているから今は見なかったことにするわ。一個ずつ判断していくたびに、さっきまで私と玄人しか触っていなかったゲームの中へ、知らない十二人分の感覚が勝手に流れ込んでくる。
文句を一個直せば、その十分後にはゲームの動きが変わる。さっきまで弱かったキャラが使いやすくなって、面倒だった周回が少し速くなって、ボスの理不尽さが一個減る。一時間前より、クズアカがちゃんと面白くなっているのよ。小説を投稿した時とも少し違う。
あっちは一応、完成したものを投げて、面白かったとかつまらなかったとか言われる。でもこれは、まだグチャグチャの途中に他人が手を突っ込んできて、「ここ変えた方がよくない?」と言ってくるのだわ。
その意見を拾って、数字を変える。玄人に直させる。もう一度遊んでもらう。するとまた違う文句が飛んでくる。その往復が、なんだか妙に気持ちよかった。
人と顔を合わせる必要はない。要件は玄人が翻訳してくれる。飛んでくるのが多少乱暴な文句でも、「じゃあ数字を何%変える」「これは却下」「これは後回し」と処理できる形なら怖くないのよ。社会復帰なんて言葉を考えただけで吐きそうだったのに、知らない十二人から好き放題言われて、そのために数字を弄っている今は、不思議なくらい苦しくなかった。
やっていることだけ抜き出せば、かなり仕事っぽいでしょう。それなのに私は、次の感想が来るのを待っていた。
スマホが震えるたびに開く。文句だったら笑って、採用できそうなら玄人へ投げて、またゲームを起動する。気づけば布団の中でずっとニヤついていた。
「……たーのしー!」
たぶん今日一番、何も考えずに出た言葉だった。自分でも驚くくらい、素直にそう思っていた。