大海の大嵐   作:近所の戦闘狂

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# 蛇足「第一回・荒天海賊団必殺技命名会議 ――議題は一つ。なお、会議は終わらない」

 

蛇足「第一回・荒天海賊団必殺技命名会議」

――議題は一つ。なお、会議は終わらない。

 

 黒檻島沖で四十二隻の敵艦隊を叩き潰してから、数日が経った。

 

 解放した人々を送り届け、九蛇海賊団とも別れ、白羊号はようやく穏やかな海を進んでいる。船の修理も一段落し、食料も補充できた。今のところ、海軍の追撃もない。

 実に平和や。

 

 ちなみに、俺個人としては、ローサから求婚された件について、まだ全然平和やない。いや、ほんまに何やったんや、あれ。

 

 強い女帝様にいきなり夫にしてやると言われ、返事を考える間もなく周りから冷やかされ、挙げ句の果てには次に会うときの約束までさせられた。

 

 しかもダグは一切助けてくれへんかった。

 あいつ、俺が敵艦隊四十二隻に囲まれたときは真剣に助けてくれたくせに、女帝様一人に追い詰められたときは腹抱えて笑っとったからな。どないなっとんねん、うちの副船長。

 

 まあ、それは置いとこう。

 

 

 

 

 今俺には、もっと重要な問題がある。

 

 黒檻島沖で使うた、あの大技。

 

 敵の大艦隊を相手に、雷雲を広げ、暴風と落雷で動きを封じ、巨大な竜巻でまとめて呑み込んだ、あの一撃。

 

 

 

 俺は、確かに叫んだ。

 

 

 

『荒天・大竜巻!!』

 

 

 

 ……うん。

 

 改めて考えても、ちょっと安直すぎひん?

 いや、間違ってへんねん。大竜巻を起こしたんやから、大竜巻で合っとる。むしろ、これ以上ないくらい正確や。

 

 せやけど、俺が求めとるんは、気象現象の説明やない。

 

 

 必殺技や。

 

 敵がその名を聞いただけで震え上がり、味方がその名を叫んだだけで士気を上げ、後世の歴史書に刻まれるような、圧倒的に格好ええ必殺技名が欲しい。

 

 

 

 

 というわけで。

 

「第一回! 荒天海賊団・必殺技命名会議を開催します!!」

 

「解散」

 

「まだ始まってへんやろがァァァ!!」

 

 俺の開会宣言から一秒。副船長のダグが、椅子を蹴って立ち上がった。

 

「お前、船団の今後について重要な会議がある言うたやろ!」

「重要やんけ! 船長の必殺技やぞ!?」

「お前一人で考えろ!!」

「嫌や! お前ら全員の知恵を借りたいねん!」

「借りる側の態度ちゃうやろ!!」

 

 ダグが机を叩いた衝撃で、食堂の皿が三枚ほど跳ね上がる。バオが全部空中で受け止めた。

 

「おい! 机を壊すなや!」

「お前にだけは言われたないわ!!」

「まだ何も壊してへんやろ!」

「今まで何棟壊したと思っとんねん!!」

「敵の拠点やったやろが!!」

 

 何やねん。開始早々、会議と関係ない話で怒られとる。

 ちなみに、今回の出席者は、荒天海賊団の全員。

 

 船の修理、航路の確認、物資の管理、情報収集。全員それぞれ仕事がある中、わざわざ集まってくれた。

 ありがたい話や。その割に、全員の顔に『帰りたい』と書いてあるけど。

 

「ほな、今日の議題を説明するで。黒檻島沖で使うた『荒天・大竜巻』。あれの正式名称を決めたいねん」

「そのままでええやろ」

 

 ダグが即答した。

 

「何でやねん!」

「大竜巻やったやないか」

「それは現象の名前や! 俺が欲しいんは必殺技の名前やねん!」

「何が違うんや!!」

「浪漫や!!」

 

 俺が胸を張ると、ダグは無言で椅子へ座り直した。

 

「イヴォ。議事録に『船長の趣味』って書いといてくれ」

「承知しました」

「議題を矮小化すなァァァ!!」

 

 議事録係まで敵やった。

 あかん。このままでは会議が始まらへん。

 

「まず、技の特徴を整理するで!」

 

 俺は黒板に四つの項目を書き込んだ。

 

『暴風』

『落雷』

『竜巻』

『高波』

 

「この四つを、まとめてドーンや!」

 

「「「「「説明が雑すぎるわ!!」」」」」

 

 ミラ、ダグ、ゼン、ゴルド、ネネの声が綺麗に重なった。

 

「もうちょい具体的に言うてみい」

「空一面に雷雲を広げて、暴風と落雷で艦隊の動きを止めて、竜巻と高波でまとめて呑み込む」

「最初からそう言えや!!」

 

 何や。ちゃんと説明できるやん、俺。

 

「つまり、単なる竜巻やなくて、嵐そのものを広範囲へ展開する技なんやな」

 

 ダグが黒板を眺めながら言った。

 

「せや。黒檻島では味方の船が近かったから、かなり範囲を絞っとったけどな」

「……あれで?」

「あれで」

 

 ダグが天井を見上げた。

 

「ほんま、お前の『手加減』は信用でけへんわ」

「何でや! ちゃんと九蛇の船には当てへんかったやろ!」

「竜巻、もうちょい右で起こせ言うたやろが!!」

「まだ言うんかァァァ!!」

 

 あの海戦から何日経ったと思っとんねん。

 

 俺が敵の艦隊を壊滅させたことより、竜巻の位置がちょっとずれたことの方が、こいつの中では重要らしい。

 

「ほな、候補を出していこうや!」

 

 俺はチョークを握り、黒板の前に立った。

 ようやく、命名会議の開幕や。

 

 

     ◆

 

 

「まずは、船長ご自身の希望をお聞きしてもよろしいでしょうか」

 

 イヴォが議事録を開いた。

 

「おう。漢字五文字くらいで、最後にドーンと重たい字が来る感じがええな。嵐とか雷とか龍とか、そういう字が入っとったら最高や」

「では、候補を出しましょう」

 

 イヴォが頷くと、真っ先に手を挙げたのはトーマやった。

 

「『荒天・超絶大竜巻』!」

「漢字五文字言うたやろ!」

「超絶を取って『大竜巻』!」

「元に戻すなァァァ!!」

 

 俺が抗議すると、今度はトーラが勢いよく立ち上がった。

 

「『荒天・超絶究極大竜巻』!」

「何で増やした!?」

「兄貴の案より強そうやろ!」

「強そうやけど長いわ!」

「ほな『荒天・究極超絶最強大竜巻』!」

「「「「「もう技名やなくて子供の口喧嘩やろ!!」」」」」

 

 開始三分で、命名会議が小学生の最強技自慢になっとる。

 

「いや、待て。『最強』を入れるんやったら、もっとええ案があるで!」

 

 俺はチョークを握り直した。

 

「『荒天・天地無双覇王龍神大旋風』!!」

 

 自信満々で黒板に書き込むと、食堂が静まり返った。

 

 何やそんなに格好よかったか?

 

「長すぎるわ!!」

 

 ダグが机を叩いた。

 

「しかも、お前、いつ覇王になったんや!」

「今からや!!」

「龍神は!?」

「今からや!!」

「天地無双は!?」

「これからや!!」

「「「「「全部予定やないかァァァ!!」」」」」

 

 何やねん。

 

 夢は大きく持つべきやろ。

 

「ちなみに、正式な就任日はいつにいたしましょう」

 

 イヴォが真顔で尋ねた。

 

「就任日?」

「覇王、龍神、天地無双の三役を兼任されるのであれば、式典の日程調整が必要かと」

「式典!?」

「招待客の名簿も作成いたします」

「おっ、ええやん! 盛大にやろうや!」

「やるなァァァ!!」

 

 ダグが、俺とイヴォの間に割って入った。

 

「何で必殺技の会議から、船長の即位式になっとんねん!」

「せやけど、せっかく覇王になるんやったら、式典くらいあってもええやろ?」

「誰が認めるんや!」

「俺!」

「自分で認めるな!!」

 

 横でゼンが、いつの間にか帳簿を開いとった。

 

「式典やるんやったら、参加費を取ろうや」

「何でやねん!」

「覇王就任記念、特別席五万ベリー。最前列は十万ベリー」

「俺の即位式を商売にすな!!」

「ほな、握手券もつけるか?」

「俺はアイドルか!!」

 

 すると、バオが厨房から顔を出した。

 

「式典の料理、何人前や?」

「もう準備始めとるんか!?」

「覇王御膳とかどうや。肉、魚、野菜の三段重ね」

「めっちゃええやん!」

「乗るなァァァ!!」

 

 ダグが頭を抱えた。

 その横で、ネネが真面目な顔をして頷いとる。

 

「覇王御膳は栄養バランスも考えてな」

「医者まで参加すな!!」

 

 あかん。開始五分で、俺の必殺技が覇王就任式になってもうた。

 

 

 ……いや、でも、覇王御膳はちょっと食べたいな。

 

 

     ◆

 

 

「一回、方向性を整理しようや」

 

 ダグが黒板を消し始めた。

 おい、俺の天地無双覇王龍神大旋風が消えていくやんけ。

 

「まず、技の特徴は何や?」

「嵐や!」

「ほかは?」

「雷!」

「ほかは?」

「竜巻!」

「ほかは?」

「高波!」

「ほかは?」

「めっちゃ強い!」

「最後だけ感想やろ!!」

 

 ダグがチョークを折った。

 お前、もうちょい落ち着けや。

 

「ほな、『荒天・嵐雷竜巻』でどうや?」

 

 キットが提案した。

 

 嵐雷竜巻。

 

 悪くない。

 

 悪くないんやけど。

 

「何か、気象予報みたいやな」

 

 ミラが首を傾げた。

 

「本日午後から、嵐雷竜巻が発生する見込みです」

「やめろ!!」

 

 ボンゴが、急に天気予報士みたいな声で喋り始めた。

 

「なお、荒天海賊団船長の接近に伴い、局地的に甚大な被害が予想されます」

「やめろ言うとるやろ!!」

「付近を航行中の船舶は、直ちに避難してください」

「俺が台風扱いされとるやないか!!」

「警報を発令します。ガルド警報、ガルド警報」

「人名を警報にすなァァァ!!」

 

 食堂が爆笑に包まれた。

 

 ダグなんか、腹を抱えて椅子から転げ落ちとる。

 

 お前、さっきまで真面目に進行しとったやろ。

 

「ちなみに、警報の危険度は何段階や?」

 

 ゼンが尋ねた。

 

「五段階でええんちゃう?」

 

 ミラが答える。

 

「ほな、レベル一は?」

「ガルドが寝とる」

「レベル二は?」

「ガルドが起きた」

「レベル三は?」

「ガルドが腹減った」

「レベル四は?」

「ガルドが怒った」

「レベル五は?」

「ガルドが技名を叫んだ」

 

「「「「「避難せえェェェ!!」」」」」

 

「お前ら、俺を何やと思っとんねん!!」

 

 俺が抗議すると、ネネが真顔で手を挙げた。

 

「ちなみに、ガルドが風邪引いた場合は?」

「そら、暴風警報やろ」

 

 ダグが即答した。

 

「「「「「誰が上手いこと言え言うたァァァ!!」」」」」

 

 俺を含めた五人の声が綺麗に重なった。

 

 ……いや、ちょっと上手かったな。

 

 悔しいけど。

 

 

     ◆

 

 

「もうちょい、こう、神話っぽい名前にしようや!」

 

 俺が提案すると、ガロが腕を組んだ。

 

「神話か。ほな、龍の字を入れるのはどうだ?」

「龍! それや!!」

 

 俺は思わず立ち上がった。

 

 龍。

 

 めっちゃええやん。

 

 竜巻が海から空へ伸びていく姿なんか、まさに龍そのものやろ。

 

「ほな、『荒天・龍巻』!」

 

 トーマが提案した。

 

「それ、ただの竜巻やろ!!」

「龍の字が格好ええやん!」

「字を変えただけや!!」

 

 トーラが負けじと手を挙げる。

 

「『荒天・龍龍龍龍』!」

「何で四匹おんねん!!」

「いっぱいおった方が強いやろ!」

「群れとるだけやんけ!!」

「ほな、『荒天・龍の大群』!」

「動物園から脱走したんかァァァ!!」

 

 あかん。龍の字を入れた途端、動物の数を競う会議になってもうた。

 

「龍の数を増やすんやったら、群龍という言葉が使えますね」

 

 イヴォが静かに提案した。

 群龍。

 

 ええやん。

 

「群龍か! めっちゃ格好ええやん!」

「複数の竜巻が、龍の群れみたいに敵艦隊を襲うんやろ。技の内容にも合っとるな」

 

 ダグも頷いた。

 よし。

 

 ようやく、まともな候補が出てきたで。

 

「ほな、『荒天・群龍大暴れ』!」

 

 トーマが叫んだ。

 

「何で最後に大暴れをつけた!?」

「龍が暴れるんやろ?」

「そうやけど、もうちょい格好ええ言い方があるやろ!!」

 

 トーラが続く。

 

「『荒天・群龍大運動会』!」

「運動会!?」

「龍がいっぱいおるんやったら、競争させたらええやん!」

「敵艦隊を競技場にすなァァァ!!」

 

 すると、バオが腕を組んだ。

 

「運動会やったら、弁当が要るな」

「何でやねん!!」

「唐揚げと卵焼きは外せへんやろ」

「お前は料理の話から離れろ!!」

「龍の弁当、何人前や?」

「龍に弁当を配るなァァァ!!」

 

 俺が突っ込むと、ダグが突然立ち上がった。

 

「ほな、競技種目は何にする?」

「お前まで乗るんか!?」

「第一種目、竜巻リレー!」

「誰がバトン持つねん!!」

「第二種目、雷落とし!」

「競技場が消し飛ぶわ!!」

「第三種目、ガルドの鼻で玉入れ!」

「俺の鼻を競技に使うなァァァ!!」

 

 食堂が、また爆笑に包まれた。

 

 くそっ、せっかく群龍という格好ええ言葉が出てきたのに、何で運動会になっとんねん。

 

「ちなみに、ガルドは何組なん?」

 

 ミラが、ニヤニヤしながら尋ねた。

 

「何組って?」

「赤組か白組か」

「そら、白羊号やし白組やろ」

「ほな、赤組は?」

「……ローサ?」

 

 俺が何気なく答えた瞬間、食堂が静まり返った。

 

 何や。

 

 何で全員、俺を見とるんや。

 

「お前、今、自然にローサ言うたな」

 

 ダグが、ものすごく嫌な笑みを浮かべた。

 

「そら、本人がそう呼べ言うたからな」

「ほな、赤組はローサ率いる九蛇海賊団か」

「せやな」

「白組はガルド率いる荒天海賊団」

「せやな」

「つまり、夫婦対抗運動会やな!!」

「まだ夫婦ちゃうわァァァ!!」

 

 俺を含めた五人の声が、見事に重なった。

 

 いや、何でお前らまで否定しとんねん。

 

「ほな、新婚運動会?」

「新婚でもないわ!!」

「第一種目、夫婦二人三脚!」

「やめろ!!」

「第二種目、愛の障害物競走!」

「何を障害物にすんねん!!」

「ダグ」

「俺かい!!」

 

 ダグが机を叩いた。

 

「何で俺が二人の恋路を邪魔する役やねん!」

「お前、求婚されたとき、腹抱えて笑っとったやろ!」

「そら笑うわ! お前、顔真っ赤にして固まっとったやないか!」

「うるさいわ!!」

 

 俺が抗議すると、ボンゴが懐から新聞を取り出した。

 

「そういや、あのときの写真、新聞社に売れへんかな」

「撮っとったんか!?」

「いや、残念ながら撮り損ねた」

「よかった……」

「せやけど、絵なら描けるで」

「描くなァァァ!!」

 

 何やねん。

 

 今日の会議、俺の必殺技を決めるんちゃうんか。

 

 いつの間にか、俺の結婚式の余興まで決まりかけとるやないか。

 

 

     ◆

 

 

「とにかく、群龍までは決定や!」

 

 俺は黒板を叩いた。

 

 もう、これ以上の脱線は許さへん。

 

「問題は、その後に何をつけるかやな」

 

 ダグが腕を組んだ。

 

「嵐の字は入れたいな」

「せやな。群龍だけやったら、龍を召喚する技みたいやし」

 

 ミラが頷いた。

 

 確かに。

 

 俺、龍を召喚する能力は持ってへんからな。

 

「ほな、『群龍嵐』!」

「ちょっと短ない?」

「『群龍嵐嵐』!」

「何で嵐を二回言うねん!!」

「『群龍嵐嵐嵐』!」

「増やすなァァァ!!」

 

 トーマとトーラの発想、ほんまに数を増やすことしかないんか。

 

「『群龍嵐禍』はどうでしょう」

 

 イヴォが提案した。

 

 群龍嵐禍。

 

 何や、それ。

 

 めっちゃ格好ええやん。

 

「嵐による災禍、という意味を込めております」

「それや! 群龍嵐禍! めっちゃええ!!」

 

 俺が大きく頷くと、ダグも満足そうな顔をした。

 

「ほな、これで決まりか?」

「いや、待て。最後にもう一文字欲しいねん」

「まだ足すんか!?」

「漢字五文字にしたいねん! 最後にドーンと重たい字が欲しい!」

 

 俺が力説すると、トーマが勢いよく手を挙げた。

 

「『群龍嵐禍丼』!」

「何で丼やねん!!」

「最後にドーンって言うたやん!」

「丼のドンちゃうわァァァ!!」

 

 バオが、ものすごい勢いで立ち上がった。

 

「それ、ええな! 群龍嵐禍丼!」

「お前は座っとれ!!」

「竜巻みたいに盛りつけた山盛りの肉丼や!」

「めっちゃ美味そうやん!」

「乗るなァァァ!!」

 

 ダグが俺の肩を掴んだ。

 

「お前、もう技名より飯の方に興味移っとるやろ!」

「いや、腹減ってきたし……」

「会議中やぞ!!」

「昼飯まだやろ!!」

「お前が始めた会議や!!」

 

 何やねん。

 

 腹減ったら集中力も落ちるやろ。

 

「ほな、昼飯食うてから再開しようや」

「「「「「今すぐ決めろォォォ!!」」」」」

 

 あかん。

 

 全員、もう限界らしい。

 

「最後の一文字やろ? ほな、『陣』はどうや?」

 

 ダグが、ようやくまともな提案をした。

 

 陣。

 

 ええやん。

 

「群龍嵐禍陣!」

「そうそう。複数の竜巻を陣形みたいに配置して、敵艦隊を包囲するんやろ?」

「せや! まさにそんな感じや!!」

 

 俺は黒板へ、大きく書き込んだ。

 

『荒天・群龍嵐禍陣』

 

 うん。

 

 ええ。

 

 めっちゃええ。

 

 ようやく、俺の求めとった必殺技名に辿り着いた気がする。

 

「読みはどうするん?」

 

 ミラが尋ねた。

 

「『こうてん・ぐんりゅうらんかじん』やな!」

 

 俺が胸を張ると、ダグが腕を組んだ。

 

「ええんちゃうか。技の内容にも合っとるし、ちゃんと嵐と龍が入っとる」

「やろ!?」

「ただし、一つ問題がある」

「何や?」

「陣、言うたな?」

「言うたで」

「ほな、陣形を決めなあかんな」

 

 陣形?

 

「いや、技名やで?」

「陣形やろ。敵艦隊をどう包囲するか、ちゃんと考えなあかん」

 

 ダグが、黒板の横へ立った。

 

 そして、突然、海図を広げ始めた。

 

「まず、敵艦隊が横陣で来た場合や。中央に竜巻を一つ、左右に二つずつ配置して、退路を塞ぐ」

「おっ、ええやん!」

「ただし、味方の船が風下におったら危険やから、事前に避難経路を確保する必要がある」

「せやな!」

「敵が縦陣で来た場合は、竜巻の配置を変えて、前衛と後衛を分断する」

「なるほどな!」

 

 俺が感心しとると、ミラが頭を抱えた。

 

「ちょっと待って。これ、命名会議やんな?」

「せやで」

「何で、もう作戦会議になっとんの?」

「陣形を決めなあかんからや!」

 

 ダグが真顔で答えた。

 

「「「「「技名に陣が入っとるだけやろォォォ!!」」」」」

 

 五人分の声が、食堂に響き渡った。

 

 いや、でも、ダグの言うことも一理あるで。

 

 せっかく群龍嵐禍陣って名前にするんやったら、ちゃんと竜巻を陣形みたいに配置した方が格好ええやん。

 

「ほな、実際に試してみようや!」

 

 俺が提案すると、ダグが目を輝かせた。

 

「ええな! ちょうど海も広いし、試験運用にはもってこいや!」

「ほな、甲板行こうや!」

「おう!」

 

 俺とダグが立ち上がった瞬間。

 

「「「「「「「待てェェェェ!!」」」」」」」

 

 七人分の怒号が、食堂を震わせた。

 

「何でやねん!!」

「何でやねん、ちゃうわ!!」

 

 ミラが机を叩いた。

 

「お前ら、今、何を試そうとした!?」

「群龍嵐禍陣やけど?」

「白羊号の近くで!?」

「そら、甲板からやった方が見やすいやろ」

「見やすさの問題ちゃうわァァァ!!」

 

 ゴルドが、ものすごい勢いで立ち上がった。

 

「お前ら、俺が何日かけて船を修理したと思っとんねん!!」

「いや、ちゃんと船には当てへんって!」

「竜巻はもうちょい右で起こせ言うたやろが!!」

「まだそれ言うんかァァァ!!」

 

 ダグが、また腹を抱えて笑い始めた。

 

 お前、さっきまで一緒に試そう言うとったやろ。

 

「とにかく、実験は禁止や!」

 

 ミラが黒板へ、大きく書き込んだ。

 

『群龍嵐禍陣・白羊号周辺での使用禁止』

 

「ちょっと待て! 何でやねん!」

「船が壊れるからや!!」

「ほな、離れた海域やったらええやろ!」

「ダグの許可を取ってからや!!」

「ダグ、ええか?」

「ええで!」

「「「「「即答すなァァァ!!」」」」」

 

 あかん。

 

 俺とダグ、完全に共犯扱いされとる。

 

 いや、実際に共犯なんやけど。

 

 

     ◆

 

 

 こうして、第一回必殺技命名会議は、開始から三時間半にして、ようやく一つの結論へ到達した。

 

『荒天・群龍嵐禍陣《こうてん・ぐんりゅうらんかじん》』

 

 複数の巨大竜巻を、龍の群れのように海域へ展開。暴風、落雷、高波を組み合わせ、敵艦隊を包囲しながら壊滅させる大技。

 

 うん。

 

 完璧や。

 

 我ながら、めっちゃ格好ええ名前がついたと思う。

 

 ちなみに、議事録には、ほかにも色々書かれとった。

 

『候補一、天地無双覇王龍神大旋風。却下理由、船長は覇王でも龍神でもない』

『候補二、群龍大運動会。却下理由、競技場が消滅する』

『候補三、群龍嵐禍丼。却下理由、昼食の献立と混同する』

『候補四、群龍嵐禍陣。採用。ただし、船長と副船長による無断実験を禁止する』

 

 最後の一文、要る?

 

「要ります」

 

 イヴォが即答した。

 

 何やねん。

 

 俺、そんなに信用ないんか。

 

「ほな、会議終了やな」

 

 ダグが伸びをした。

 

 俺も大きく頷いた。

 

「せやな。ようやく、ちゃんとした技名が決まったで!」

「ほんま、長かったわ……」

 

 ミラが机へ突っ伏した。

 

 ゴルドは、何故か荒凪を抱えたまま俺から距離を取っとる。ネネは頭痛薬を取り出し、ゼンは会議で失われた三時間半の人件費を計算し始めた。

 

 いや、海賊団に人件費って概念あるんか?

 

「ちなみに、ガルド」

 

 キットが、ふと思い出したように尋ねた。

 

「お前、ほかに大技ってないんか?」

「……ん?」

「いや、あれだけの能力があるんや。群龍嵐禍陣以外にも、何か考えとるんちゃうかと思ってな」

 

 ああ。

 

 なるほど。

 

 ほかの大技か。

 

「あるで」

 

「「「「「あるんかい!!」」」」」

 

 ダグが机を叩いた。

 

「何で最初に言わへんかったんや!!」

「今日の議題は、大竜巻の改名やったやろ?」

「そうやけど!」

「ほな、別にええやん」

「よくないわ!!」

 

 ダグが頭を抱えた。

 

 何やねん。

 

 聞かれへんかったから言わんかっただけやろ。

 

「ちなみに、何個あるんや?」

 

 ミラが、妙に警戒した顔で尋ねた。

 

「今のところ、三つくらいやな」

「三つ!?」

 

 全員が一斉に俺を見た。

 

 何や、そんなに驚くことか?

 

「せっかくやし、名前だけでも決めとこうや!」

 

 俺がそう提案すると、ダグが大きくため息をついた。

 

「……分かった。ほな、まず一つ目から説明してみい」

 

 よし。

 

 第二部、開幕や。

 

 ……と思ったんやけど。

 

「一つ目はな、雷雲を海域全体へ広げて、敵の艦隊それぞれに狙いを振り分けるんや。ほんで、全部の船へ同時に雷を落とす」

 

 俺が説明すると、食堂が静まり返った。

 

「……全部の船?」

 

 ダグが、ゆっくり聞き返した。

 

「せや。砲甲板を潰す船、舵を壊す船、マストを折る船。敵の配置を見ながら、まとめて落とす」

「……それ、できるんか?」

「理屈の上ではな」

 

 ダグは、しばらく考え込んだ。

 

「……ガルド。それ、敵の艦隊を一瞬で無力化できるやないか」

「せやろ?」

「ただし、敵船に捕虜がおった場合は?」

「……そこは、まだ分からんな」

 

 ダグが、黒板へ大きく書き込んだ。

 

『使用禁止』

 

「ちょっと待て!! まだ名前も決まってへんやろ!!」

「名前が決まる前から使用禁止や!!」

 

 何やねん。

 

 厳しいな。

 

「二つ目は、荒凪に嵐をまとわせる技や。強い奴と一対一で戦うときに使うんやけど、斬撃にも鍔迫り合いにも、ずっと嵐の威力が乗る」

「……それ、周囲は大丈夫なんか?」

 

 ゴルドが尋ねた。

 

「相手が強かったら、衝突の余波だけでも、かなり吹き飛ぶやろな」

「……まあ、場所を選べば使えるか」

 

 ダグが頷いた。

 よし。これは、使用禁止にはならへんみたいや。

 

「ほな、三つ目や!」

 

 俺は、満面の笑みで説明を始めた。

 

「竜巻、雷、突風。嵐の力を全部、気圧で荒凪の内部へ押し込むんや。ほんで、そのまま相手へ斬りかかる。当たった瞬間に、中へ封じ込めとった嵐を全部解放する」

「……全部?」

 

 ダグが、ゆっくり聞き返した。

 

「全部や」

 

 食堂が静まり返った。

 

 何やそんなに驚くことか?

 

「……それ、周囲はどうなるん?」

 

 ネネが、恐る恐る尋ねた。

 

「……まあ、かなり荒れるんちゃう?」

 

「「「「「荒れる、で済むかァァァ!!」」」」」

 

 ダグが、ものすごい勢いで立ち上がった。

 

「お前、何でそんな危険な技を考えるんや!!」

「いや、強い奴と戦うときに便利やろ?」

「便利の基準がおかしいわ!!」

「便利の基準がおかしいわ!!」

「受け止められへん一撃やぞ!? めっちゃ格好ええやん!」

「格好ええかどうかで判断すな!!」

 

 あかん。

 

 また怒られた。

 

 結局、残りの三つについては、全員が半ば投げやりになりながら名前だけを決めることになった。

 

 敵艦隊全体へ集中落雷を叩き込む技は、『雷霆一葬《らいていいっそう》』。

 

 荒凪に嵐をまとわせて、強敵との近接戦闘に用いる技は、『天剣地異《てんけんちい》』。

 

 そして、嵐の力をすべて荒凪へ凝縮し、斬撃とともに解放する大技は、『荒天・青天大霹靂《こうてん・せいてんだいへきれき》』。

 

 うん。

 

 めっちゃ格好ええ名前が揃ったやん。

 

 ただし、雷霆一葬の横には『使用禁止』。

 青天大霹靂の横には『永久使用禁止』。

 群龍嵐禍陣には『ダグの許可なく使用禁止』。

 天剣地異だけが、『使用許可。ただし、場所を選ぶこと』。

 

 何やねん。俺の必殺技、ほとんど使用禁止やないか。

 

「ちなみに、ガルド」

 

 ミラが、黒板を見ながら言った。

 

「この四つ以外に、もう大技はないんやんな?」

「……せやな」

「今の間なに?」

「いや、何か思いついたら、また考えようや!」

「もう会議は開かんでええ!!」

 

 ダグが即答した。

 

 何や。

 

 そんなに嫌やったんか。

 

「ほな、次の会議は手加減技の開発にしようや!」

「「「「「「それは必要」」」」」」

 

 全員が、見事に揃った。

 

 おい、必殺技の命名会議には反対したくせに手加減の練習には全員賛成なんか。

 

「ちなみに、手加減技って何があるん?」

 

 ネネが尋ねた。

 

「……峰打ち?」

「「「「「それでザグレイが競売場の壁ぶち抜いたやろ!!」」」」」

 

 また全員から怒鳴られた。

 

 何やねん、峰打ちやったからちゃんと生きとったやんけ。

 

「ほな、風で相手を押さえつけるとか……」

「それ、できるん?」

「……たぶん」

「たぶん!?」

「まだ試したことないし……」

 

 全員が、俺を見た。

 

 何や。

 

 そんなに見つめられても困るで。

 

「ほな、誰か実験台になってくれへん?」

 

 その瞬間。

 

 十二人全員が、同時に俺から距離を取った。

 

「何でやねん!!」

 

 ダグは錨を担ぎ、ミラは海図を抱え、ゴルドは荒凪を持って逃げた。ネネは診察道具を取り出し、バオは晩飯を抜きにすると脅してきた。

 

 キットはマストへ登り、ガロは海へ飛び込み、ゼンは修理費の請求書を用意し始めた。ボンゴは情報収集へ逃げ、トーマとトーラは二人揃って船倉へ駆け込んだ。

 

 イヴォだけは、静かに議事録を閉じた。

 

「団長。次回の会議は、全会一致で決定いたしました」

「何や?」

「船長の手加減について、でございます」

 

 何で俺だけ、補習授業みたいになっとんねん!!

 

 こうして、荒天海賊団の第一回必殺技命名会議は、無事に終了した。

 

 なお、次回の議題は『船長の手加減』。

 

 出席者は未定。

 実験台は未定。

 

 

 ……。

 

 

 

 

 誰か一人くらい、俺を信用してくれてもええんちゃうか?

 

 

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