今、夏凜の目の前には気持ち良さそうに寝ている女の子がいる。
まだあどけなさを感じさせる幸せそうな寝顔は起こす事を躊躇わせる可愛らしさだ。
しかし夏凜は既に知っていた、この可愛さに釣られて起こさずにいると彼女は午後まで眠ったままでいる事を。
夏凜は心を鬼にして布団を引っぺがした。
「園子ー!朝よ!お、き、な、さい!!」
「うにゅ~……?」
「早く起きないと夜までご飯抜きよ!」
「それは困る~……zzz」
「困るとか言いながら寝てるんじゃないわよ!ほら起きろー!!」
ベッドから女の子 ― 乃木園子を引きずり出すとようやく彼女は目をこすりながら上半身だけ起こした。
「おお、よっしーおはよー」
「よっしーおはよー、じゃないわよ!!ほら早く着替えてリビング来なさい、朝ごはん冷めちゃうわよ!」
「は~い」
座ったままもぞもぞとパジャマを脱ぎ始める園子を見て夏凜はため息をつきつつ台所へと戻った。
そもそも何故彼女が園子の世話をしているのか?
事の始まりは先週へと遡る。
「来週から一週間部活を休ませて貰うわ」
文化祭の演劇が終わって勇者部の活動も落ち着いた頃、夏凜は勇者部のメンバーを部室に集めると唐突に切り出した。
「あんたが部活を休むなんて珍しいわね」
「夏凜ちゃん急に突然どうしたの?何か困った事でもあった?」
「引越しでもするの?」
「何か手伝える事あるなら言って下さい!」
夏凜が無闇に部活を休むような人物ではないと勇者部の面々は知っていたので、真っ先に彼女を気遣うように質問を始めた。
会ったばかりの頃と変わらない優しい部員達に嬉しさを感じつつ、夏凜は質問に答えていく。
「心配いらないわ、大赦の仕事よ。
詳しい事はまだ聞いて無いんだけど、私は元々大赦から派遣された勇者だったからそれ絡みの仕事らしいわ」
「そうなんだ」
「でも一週間っていうのは結構長いわね」
「私の方には特に連絡無かったけど、夏凜だけの仕事なの?」
「ええ、なんか一応元勇者だと一番連絡を取り合ってたし命令に忠実だったから安心出来るらしいわ」
以前の夏凜ならなら誇らしげに話していたであろう内容だが、今となっては苦笑するばかりである。
「あー……そう言われるとちょっと悪いわね」
「風先輩は悪くありませんよ!あの時は樹ちゃんを思って怒ってたんですから!」
「そうですよ、それにあの後乃木さんがもう少し勇者の気持ちを考えるべきだったって大赦内で取り成してくれたんですから」
「乃木さんって?」
初めて耳にする名前に夏凜が首を傾げる。
「あ、夏凜ちゃんはまだ知らなかったね」
「先代の勇者なのよ。私はその人から壁の外の情報について教えて貰ったの」
「へえ、そうだったの」
「そして東郷さんが私の隣の家に引っ越して来る前の大親友さんなんだよ!」
「散華で記憶を失っていたんだけど、供物が戻ってきたから思い出す事が出来たの」
「東郷先輩の親友さんですか、学校はどちらなんでしょう?」
「今まではお役目でずっと大赦内にいたけど、先日解放されたから多分そのうち学校に来れると言っていたわ」
「じゃあ、乃木園子さんが無事学校に入学出来たら、勇者部入学お祝いパーティね!」
「おお、風先輩ナイスアイディア!」
「きっとそのっちも喜ぶと思います」
わいわい盛り上がる勇者部のメンバーを見ながら夏凜はまだ見ぬ勇者に思いを馳せた。
友奈と東郷を呼び寄せ大赦の意向を無視してまで散華と壁の外の真実を伝えた勇者がいかなる人物なのか興味がわいた。
「会えたらじっくり話をしてみたいわね」
そして夏凜の願いは意外にも早々に叶えられる事となる。
*
当日、大赦に呼び出された夏凜は任務の内容を告げられた。
今回の任務は大赦で管理されていた元勇者の生活のサポートをする事。
彼女は今まで大赦内で生活していたが、お役目の終了にともなって普通の学生として生活を送れる事になった。
その際転入先は既存の勇者と同じ讃州中学が予定されているが、長い間散華の影響で通常の生活から離れていた彼女にいきなり一人暮らしをさせるのは心配である為、夏凜に5日間彼女の生活をサポートさせる事になったらしい。
夏凜に白羽の矢が立ったのは彼女自信が元々大赦内で研鑽を積み、讃州中学に派遣された勇者であるからだ。
夏凜としてはこのような任務ならば勇者部の活動にも通ずる所がある為、吝かでは無かった。
そして任務内容の確認が済んだ所で早速二人は挨拶を交わす事になった。
「初めまして、私は乃木園子だよ~」
「初めまして、三好夏凜です。これからよろしくお願いします」
「じゃあ早速出発しようか、よっしー」
「よ、よっしー?」
「三好さんだからよっしーだよ。お固いのは苦手だし同い年なんだから気楽に話そう」
「…分かった。じゃあわたしも下の名前で呼ばせて貰うわ、園子」
「えへへよろしくね、よっしー」
私が園子を見て初めに抱いた印象は掴み所が無くてとても人懐っこい女の子という感じだった。友奈とは別の意味で緊張感を全く感じさせない感じ。
話はしやすいけれど、長い事大赦の中で切り札として大事にされていた勇者にはとても見えない。
まあ樹とかも普段からは想像もつかないような勇気を戦いの時には発揮するし、そういう事もあるのかも知れないわね。
「じゃあ行ってきまーす」
「「「「園子様、お気をつけて」」」」
「うむ、よきにはからえ」
全く様になっていない偉そうな言動に思わず笑ってしまいそうになるが、流石にまずいのでそれは堪える。
さて、帰ったら早速園子が暮らす為の準備をしないといけないわね。
大赦の車で私の家まで送って貰うと園子の荷物も既に届いていた。
といっても園子の私物は驚く程少なく、荷物の整理よりも先に生活に必要な物を買い出しに出かけなければならなかった程だ。
下着はともかくとして服が少ないのは困る。
家に着いて早々に私は彼女を連れて近場のイネスに向かった。
「わー、こっちにもイネスがあるんだね~」
「こっちにも?」
「私が前住んでた所にもあったんだよ。友達が案内してくれたんだ~」
「そりゃあ、イネスは全国展開してるショッピングモールだからあっちこっちにあるわよ」
「そうなんだ。私は大赦に住みこむ前もあまり家から出かけた事が無かったから、知らなかったな~」
「そういえば乃木家って大赦の中でも格式の高い家だったわね。悪かったわ……」
「全然気にしてないよ~」
どうやら園子は想像以上の温室育ちのようだ、私と暮らす一週間の間に頑張って色々教えてあげないと。
「それで、何を買うの?」
「服と洗面用具と、それからご飯を作るのに必要な食材ね。学校で必要な物は通販でも買えるから大丈夫よ」
「そうなんだ、じゃあまずは服かな」
「そうね、食材は生物も多いから最後に買って急いで帰るわよ」
「りょ~かい」
ひとまず園子に合いそうな服を四着程見繕い、残りの買い物を済ませてその日は急いで帰った。
「久しぶりに凄く歩きまわったから疲れたね……」
「お疲れ、学校入るまでに最低限の運動が出来る程度には鍛え直した方が良いかも知れないわね」
「小学生の頃は私もそこそこ運動出来たんだけどね~」
「取り敢えず、あんたはお客さんだし今日は休んでなさい。私が夕飯を作ってあげるわ」
「おお、よっしー料理出来るの?凄いね~」
「任せなさい!とはいっても簡単な物しか作れないんだけどね」
「簡単でも作れるなら凄いよ~」
「今晩は簡単でも美味しいラーメンよ」
友奈を初めて泊めた時に一緒に作ったラーメンはとても美味しかったのであれから私だけでもよく作っているのだ。
具や味付けも色々試しているので私の数少ない得意料理になっている。
せっかく園子が泊まりに来た初日なので、私が最も美味しく作れそう物を選んだ。
「園子ー、スープは何味が良い?」
「よっしーのオススメで良いよ」
「じゃあ塩で」
よし、気合い入れて作るわよ!
「出来たわよ」
「わ~い」
私が料理をしている間園子は何をするわけでもなく私が料理している様子をじーっと見ていた。
私の部屋もテレビぐらいはあるので見てても良いって言ったんだけど、興味ないのかしら?
何が好きなのか聞いてみた方が良いかな。
私は今まで自分から友達作った事無いからこういう時困るわね……友奈ならこういう時何も悩まずに話せそうなんだけど。
「水コップに汲んで箸出してくれる?」
「どこにあるの?」
「コップはそっちの食器棚、箸はシンクの脇の入れ物」
「あった~」
手伝う時の動きは意外と危なげない。
「よし、じゃあいただきます」
「いただきま~す」
あ、紅生姜とか胡椒無かったわね、出してあげた方が良かったかしら…?
「美味し~い!!」
「うわびっくりした!?」
「よっしー凄い美味しいよこれ!ラーメンってこんなに美味しかったんだね」
「え、あんたもしかしてラーメン食べたこと無かったの?」
「今までは大赦のコックさんが作ってくれるもっと色々並ぶ物しか食べた事無かったからね~。小学校でも友達と外で食べる時は驚きの連続だったよ」
「そ、そうなのね」
流石名家ね、でもラーメンも食べた事無いなんて…私ですら家族で外食ぐらいはした事あるわよ。
でも美味しいって食べてくれるのは嬉しいわね、いつも一人で食べてたから。
「美味しくて良かったわ。食べた事が無い物が多いならこれから色々食べれば良いのよ!」
「おお、よっしーの料理楽しみだよ~!」
「いや流石に私はまだそんなに料理出来ないからオススメの店に連れて回るわ……」
もっと料理覚えないと、学校に復帰したら勇者部のメンバーにも教えてもらおう。
「ご馳走様でした」
「お粗末様、お風呂の沸かし方は分かるかしら?」
「ごめん、分からない」
「ああ落ち込まなくて良いから!教えてあげるから覚えなさい!」
「ふふ、良いよ~」
それから食器を片付けて風呂の沸かし方を教えて、買ってきた洗面具を片付けてから寝る準備をして、二人でくたくたになった頃にはもう夜になっていた。
と、寝巻きに着替えた所で一つ問題に気付く。
「布団が無かったわね……すっかり忘れてた」
「一緒に寝れば良いよ~、私も小学生の頃は友達の布団によく入ってたよ」
「まあ、今日は疲れたしそれでも良いか」
友奈とのお泊まりの時はなかなか寝付けなかったけどその日は疲れが溜まっていたので私も園子もあっという間に眠れた。
明日からも頑張らないと。
*
そんな初日から数日間、最初のうちは慣れない事が多く失敗の連続だった。
朝ごはんを用意するのを忘れて急いで外に買いに出たり、ゴミを出し忘れそうになったり、朝起こさなかったら園子が昼頃まで起きて来なかったり……そりゃあもう大変だった。
でもそんな生活にもなんとか慣れ、園子も家事を覚えてきた。園子は見かけによらず要領が良かったので今では問題なく二人暮らし出来ている。
「zzz……」
「こらー!!着替えてる途中で寝るんじゃなーい!」
……マイペースですぐ寝ちゃう所は相変わらずなんだけどね。
二人で朝食のベーコンと目玉焼きを食べながら今日の予定について話し合う。
私は断然醤油派なんだけど、園子は日によってケチャップをかけてみたりソースをかけてみたり塩コショウだけにしてみたりと色々楽しんでいる。何かに付けて不思議な子だ。
「もう園子、口にソース付いてるわよ。中学生なんだからしっかりしなさい」
「ありがとうよっしー」
園子の口元を拭いてあげてから今日の予定について話を始めた。
「今日はジョギングして公園まで行くわ」
「いつもとは違うコースにするの?」
「ええ、この前運動用のズボンを買ったからせっかくだから思い切り体を動かせる遊びをするわよ!」
「楽しみだね~」
ここ最近、ずっと室内暮らしで体がなまっている園子の為に朝は一緒にジョギングをしていた。
まだ数日なので体力は無いけれども、元勇者だけあって根性はある。
小学生の頃は毎日訓練をしていたというのでこのまま続ければ私や友奈に肩を並べられるぐらいになるかも知れないわね。
「食器を片付けたら水筒用意してくれる?」
「いつもの粉スポーツドリンクだね」
「そう、私は他の荷物用意しておくから」
「りょ~かい」
その後は諸々の準備を手早く済ませて家を出発した。
「よっしー荷物全部持って貰っちゃって良いの?」
「良いのよ、大した量じゃ無いしあんたに持たせたら着くのが遅れちゃうもの」
「えへへよっしーは優しいね~、ありがとう」
「べっ別に早く着きたいだけだからお礼なんか言わなくて良いわよ!ほら急いで!」
「は~い」
園子も勇者部のメンバーと同じように、なんというか、その、とても良い子だからなんだか調子が狂う部分がある。
まったく勇者は皆お人好しばかりなのかしら……
私と園子は無事公園に到着して、少し休憩してから奥の遊び場に向かった。
私があらかじめ目を付けておいた遊具がそこにある。
「あれは何?」
「あれは『そり』よ!」
「そり?」
「そう、取り敢えず荷物を置いて早速山に登るわよ!」
「分かった~」
この場所は幼稚園の子達とのレクリエーションの候補として以前私が調べておいた場所なのだ。
人工芝を敷き詰めた小山の上をそりで滑れる単純ながら絶対楽しい遊び。
結局その時はなるべく幼稚園内で出来る事に絞る為に廃案になったのだけれど、機会があれば誰かと来ようと思ってたのよね。
「この紐をしっかり握って前に座って」
「な、なんだか高くて少し怖いよ?」
「大丈夫よ、勇者の時に飛び跳ねた高さよりは大した事ないでしょ?」
「あ、確かに」
「私は後ろに座るから、さあ滑り下りるわよ!」
「よ~し行くよ~」
そりを軽く水に付けてから二人で乗り込み、園子が紐を握ったのを確認してから地面を蹴った。
二人分の体重を乗せたそりが人工芝の上を凄い勢いで滑り下りる。
「わ~すごーい!!」
「ちょっと園子!?危ないからあんまり身を乗り出さないで!」
「あ、そうだね」
しかし時既に遅く……一番下に付いた途端にそりはバランスを崩してひっくり返ってしまった。
私は横に受け身を取ったから大丈夫だったけど園子は前にごろごろ転がって動かなくなった。
慌てて駆け寄って抱き起こす。
「そ、園子大丈夫!?」
思わず園子の体をぺたぺた触り怪我をしてないか確かめる。
右腕を擦りむいてるけど大きな怪我は無いかしら。
私が体を見ている間園子は目をぱちぱちさせて私を見ていた。
意識もはっきりしてるみたいだし大丈夫そうね、良かった……
私が安心してると園子は突然私の手をぎゅっと握りしめてぱあっと笑顔を見せた。
「な、何?」
「よっしーそりって凄くエキサイティングだね!
私こんな乗り物初めてだよ~!!もう一回やろうもう一回!」
「わ、分かったけどあんた腕擦りむいてるじゃない」
「これぐらいなら全然大丈夫だよ!」
「そ、そう…じゃあ取り敢えず消毒して絆創膏貼ってからね」
「うん、ありがと~」
絆創膏を貼ってあげると園子は私の腕をぐいぐい引いて山を登り始めた。
気に入ってくれたのは良いけど気をつけて欲しいわね。
取り敢えず今度は私が後ろからしっかり抱えておこう。
「よっしー行くよ~!」
「今度はひっくり返らないようにしっかりくっついて行くわよ!」
私達は昼過ぎまでそりで遊び続け、園子が満足した所で一旦昼ごはんを買って休憩する事にした。
「これ確かお祭りでも売ってた気がする~」
「フランクフルトは出店でよく売ってるわよ。園子お祭りは行った事あったのね」
私達は公園にブルーシートを敷いて景色を見ながらフランクフルトと焼きそばを食べている。
外で友達と一緒に食べるご飯はやっぱり格別ね。
大赦の勇者だった頃の自分では決して出来なかった食べ方に思わず頬が緩む。
「うん、小学生の頃友達が連れてってくれたんだよ。
あの時は色々あって回りきれなかったけど楽しかったな~」
「この近くでも夏はお祭りやるのよ、また行けば良いわ」
「良いね~、今度はよっしーに案内してもらうよ」
「お祭なんて案内がなくても誰でも回れるわよ。ま、まあ一緒に行ってあげるのは吝かじゃないけどね」
「えへへ、はぐれないようにしっかり手を繋がないとね」
「あんた手を繋がないとはぐれちゃうの…?」
「人混みはちょっと苦手なんだよね~、うーあ~ってすぐ流されてっちゃうんだよ」
「時々園子が本当に凄い勇者だったのか疑わしくなるわね……」
楽しい昼ごはんの時はあっという間に過ぎ去り、二人でこれからどうするのか考え始めた。
「よっしーよっしー、私あれやってみたい」
「アレ?ああ、ジェット風船ね」
園子が指さした先には子供が膨らませて飛ばしているジェット風船があった。
そういえば私もテレビでは見た事あったけど自分で飛ばしてみた事はなかったわね。
「よし、じゃあ買ってくるわ。園子はここで荷物見てて」
「りょーかい」
売店に行くと意外と色々なおもちゃを売っていた。
せっかくだから別のも見て行こうかしら。
「零戦、ライトニング、スピットファイヤー…飛行機のおもちゃか、東郷が好きそうね」
一応買っておこう。他にはバトミントンとフリスビーで良いかしら。
使い終わったら勇者部に寄付すれば良いだろう。
「戻ったわよー」
「おかえり~、たんぽぽがたくさん生えてたから種を集めてたよ」
「そこは素直に飛ばしてあげなさいよ」
早速風船をふくらませてみよう。
袋から風船を取り出して園子にも分けると一緒に膨らませ始めた。
と、ここで問題が発生する。
「あんたの風船なかなか膨らまないわね」
「ふーっ!んむーっ!」
「肺活量の問題かしら」
「うー、よっしーやって~」
「しょうがないわね、ほら、私の風船持ってて」
「はい」
園子から受け取った風船を代わりに膨らませ始める。
私が膨らませたらあっさり膨らみ始めたからやっぱり園子が苦手だっただけみたいね。
風船膨らませられなくても困る事は少ないと思うけど、練習した方が良いのかしら。
そんな事を考えながら膨らませ終わると、私が膨らませる様子をじっと見ていた園子が唐突に耳元で囁いた。
「奪われちゃった♡」
聴覚が言葉を脳に伝達した瞬間に私は園子を張り倒していた。
「ばっばばば馬鹿な事言ってんじゃないわよ!!!女同士で!!」
「じょ、ジョークだよジョークよっしー、落ち着いて~」
「全くもう!!人が膨らませてあげたのに変な事言うんじゃないわよ!!」
「ごめんごめん」
一度膨らました風船は流石に膨らませられるようなので園子はしばらくそれで遊んでいたけど私はモヤモヤしてしょうがなかったので飛行機を作り始めた。
「それは?」
「スチロールで出来た飛行機よ、投げると飛ぶの」
「それも面白そうだね~」
「作る?」
「やってみる」
園子に一つ渡してあげると、こちらは非常に手際良く組み立て始める。
この子手先は器用なのよね。
「出来た~」
「よしじゃあどっちが遠くまで飛ばせるか勝負よ!」
「良いよ~」
「えいっ」「飛んでけ~」
悪くないと思ったんだけど、私の方は早くに落下にしてしまい、園子の方は直線の軌道を描いて遠くまで飛んで行った。
「わ~い勝った~」
「ま、負けた……園子本当に手先器用ね」
「えへへそれ程でも」
「もう一回!」
「何度でもかかってきたまえ!」
その後は飛行機を飛ばしたり、飛行機を飛ばしてからフリスビーで狙ってみたり、バトミントンでラリーをしたりしているうちにあっと言う間に時間が過ぎてしまった。
夕方になったので荷物をまとめて私達は帰途に就く。
「よっしーお腹すいた~」
「そうね、今晩は疲れたし何か簡単に出来る料理が良いわね……」
「どんな料理なら簡単に出来るの?」
「うーん、チャーハンとかカレーとか、あとはうどんね」
「うどんで良いんじゃないかな」
「そうね、うどんにしましょう」
「わ~い!」
ちょっとした野菜と肉と麺さえあれば出来るうどんは楽だし美味しいし、やっぱりうどんは素晴らしい。
「園子夕飯食べる前に寝ないでよね」
「あ、無理かも」
「少しは努力するそぶりを見せなさいよ!」
「むしろ今寝ちゃいそ~…」
「せめて家まで歩けー!!」
最後は苦労させられたけどそこそこ楽しい一日だった。
夕飯は園子を風呂に叩き込んでなんとか食べさせた。
*
「今日が最後ね」
「早かったね~」
「そうね、終わってみれば早かったわ」
今日の夕方には園子は一旦大赦に帰り、家を用意されてそこに住む事になる。
荷物はその時に全部引き取られる予定だ。
学校でまた会えるとはいえ、少し寂しいわね。
「よっしー、私よっしーの事まだあまり聞いてないから、別れる前に聞いておきたいな」
「あー確かにそうだったわね、私も園子が強い勇者だったって事以外あまり知らなかったわね」
「なんだかあまりお互いの事知らなかったのに友達、っていうのも不思議だね~」
「でもそんなものじゃない?友達なんて、自然と仲良くなってそれからだんだん相手の事知るものだと思うわよ」
まさか私が友達について語る日が来るとは思わなかったわね。
「そうだね、確かに小学生の時もそうだったかも」
「そうよ、そんなものよ!」
「そっか~、うん分かった。じゃあよっしーの話聞いても良いかな」
「私の話なんてそんな大したもんじゃないけどね」
今の所友奈にしかしていない、私の話。
別にもう誰に話しても構わないんだけど、勇者の時は必死だったし話す時間も無かったわね。
勇者として認められるよりもこれから皆と過ごせる事の方が大事になった私にとってはどうでも良い話だけど、まあ聞かせても良いか。
「私にはね、とっても優秀な兄貴がいるのよ」
「よっしーお兄さんいたんだ、びっくり」
「ええ、今は大赦の中で働いてるから普段全然会えないんだけどね。三好春信って言うんだけど、園子は知らない?」
「う~ん、ごめん分からない。私は大赦の人とはよく会ってたけど、それぞれの人の名前は知らないんだ」
「そう、いや別に良いのよ。確か大赦の大事な所で働いてるから情報漏えい防ぐ為に滅多に会えないのよね。
で、まあその兄貴が子供の頃からとても優秀で、勉強、スポーツ何でも出来る超人みたいな奴だったのよ。
私はそんな兄貴と一緒に育って、親は私の事は見向きもしなかった。だから私は、私だけが出来る勇者の御役目で武功を立てて周りに認めてもらおうと思ったのよ」
「そうだったんだ~……」
「でも私は讃州中学の勇者部に入って、初めて友達が出来て、何もしなくてもちゃんと私の事を見てくれる人達と会えた。
だから勇者の御役目は終わっちゃったけどもう良いのよ」
「そう、今のよっしーが楽しそうで良かったよ~」
「ええ、毎日楽しくて疲れるぐらいよ!
あんたも讃州中学に入ったらもしよければ勇者部に紹介してあげるわ。
園子ならきっとすぐ友達になれるわよ!」
「ふふふ、ありがと~」
園子なら文芸部とかでも良いかもしれないけど、せっかくこうして知り合ったのだから一緒の部活に入れたら嬉しいな。
「私はね~、よっしーとは違って勇者の御役目は私の家が大赦の中でも格式の高い家だからなったんだ。
小学生の頃に友達と一緒に頑張ってたんだよ」
「そう、勇者部のメンバーもそうだったんだけど、自分からなったわけじゃないのにやらされるのって凄く大変よね……」
「うん、でもね、勇者の適正っていうのはそうやっていきなりやっても大丈夫かとかも見てるらしいんだ。
だから私も選ばれた時は不安だったけど大丈夫だったよ~。あ、これ一応内緒ね」
「そ、そうだったんだ」
「うん、それに私も御役目のお陰で大事な友達が出来たんだよ!
ミノさんとわっしーって言ってね、二人共とっても良い子だったよ~。
私はいつも学校ではぼーっとしてばかりだったし、家が偉いからあまり友達が出来なかったんだ。
だから友達が出来て、私はそれだけで勇者になって良かった」
部室で東郷が話をしてくれた時に、東郷は乃木園子を小学生の時の戦友だと話していた。
この時の片方がそうだったのだろう。
「そう、園子も勇者になって友達が出来たのね」
「うん!でもね、私の頃の勇者はバーテックスを倒せなかったからとても大変だったんだ~。
よっしーの勇者システムは御霊を出してバーテックスを倒せるんだよね?」
「ええ、封印して御霊を出せば倒せるのよ。満開すれば封印しなくても倒せる事はあったけど」
「凄いよね~、私の頃はまだ勇者は弱くて、追い返すのが精一杯だったんだ。
精霊もいなかったから怪我もしちゃってね。それで私達三人の内一人が途中で、亡くなっちゃったんだ」
「え……?バーテックスに、殺された?」
「うん、そう。その時はわんわん泣いちゃってね~、とても悲しかった」
私は、自分が勇者の御役目に就いた時は認めてさえ貰えればそれで全て良かった。
死ぬ事もあまり意識していなかったし、戦いの中で死んで認めて貰えるなら、それもまた良いと思ったかもしれない。
でも、果たして勇者部の誰かを任務で失ったとしたら、今の私はどう思うんだろう……
「大赦の人達が頑張ってくれて、私達二人だけになってから勇者には精霊が付くようになった。
満開もその時から出来るようになったんだよ。供物が代償として捧げられる事は、私達も知らなかったんだけどね」
満開、あの強力であるも、恐ろしいシステム。
あれを園子とその友達も使ったのか!
「園子は、満開したの?」
「うん、したよ~。私もわっしーもとても強くなれたんだよ。
わっしーには使わせたくなかったから途中で敵に弾き飛ばされちゃった時にそのまま寝てて貰って、私が頑張ったんだけどね」
「……どれぐらい?」
「20回かな」
「に、20回!?」
園子は、あれを、あの身体が失われていく恐怖に耐えながら20回以上も満開したっていうの!!?
「あんた、そんなに満開して、怖くなかったの!?」
「勿論怖かったよ、でも大丈夫だった。痛くは無かったし、それに友達の為なら無限の力が湧いてくる。
ミノさんも言ってたから、勇者は根性!ってね」
― 互いを思えば何倍でも強くなれる!無限に根性が湧いてくる!
― 大好きな人がいるのだから、何度でも立ち上がる!だから、勇者は絶対、負けないんだ!!
思い出すのは劇であった勇者の台詞。友奈も同じ事を言っていた。
「わっしーは二回の満開で済んだんだよ。
捧げられた供物の中に記憶があったから、私とはお別れになっちゃったけど、それでも無事だった」
「それから、園子はずっと大赦の中にいたの…?」
「うん、そうだよ。動けないけど、お世話は大赦の人がしてくれたから楽だったよ~。
ちょっと寂しかったけど、欲しい物は大体頼めば貰えたしね」
「あんた、無茶しすぎよ……」
「それを言ったら、よっしーだってそうだよ」
「え?」
「私はよっしーの事は詳しくは知らなかったんだけどね、話はちょっとだけ聞いてたんだ。
もし治らなかったら、私と同じ場所に来るかも知れなかったんだよ?よっしーも十分無茶してると思うよ~」
そうか、あの時は夢中だったし、すぐに治ったからあまり気にしてなかったけど、私も園子みたいに一人になってしまう可能性があったのか。
私はあの時、戦いが終わって友奈が帰って来なかった時、とても悲しかった。
でも友奈も私が満開してボロボロになった時、悲しんだのだろう。
見えなかったし聞こえなかったけど、あの子はそういう子だ。
私は、今までその事に気付いていなかった。
結局供物は戻ってきたけど、友達に心配をかけていたのは私だって同じじゃない。
私も園子の事を偉そうな口を利いて抗議出来る立場なんかじゃ、無かったんだ。
そう考えたら、なんだか私は悲しくなってきた。
もう終わった事だ、今更悲しんでもしょうがない。
理屈ではそう分かっているはずなのに、何故か悲しみが胸から溢れて止まらない。
「友達を助けられても、一緒にいられなくなったら意味が無いじゃない」
「よっしー?」
「馬鹿よ、勇者なんて皆馬鹿。友達の為って言って結局友達と一緒にいられなくなって!友奈も園子も、私も!」
「よっしー泣いてるの…?」
「供物が戻ってこなかったら皆一緒にいられなくなっちゃってたのよ!なんで無茶するのよ!!」
私は気持ちがぐちゃぐちゃになって泣いていた。
何か言葉で説明出来るようなはっきりした理由があるわけじゃない。
それでも、友達の為を思って行動して、結局友達を悲しませてしまっている自分達がただただ悲しくて、気持ちが抑えられなかった。
その時、私の頭を園子が抱きしめた。
「ごめんね、よっしー。泣かないで?」
「違う……私が泣いてるのは、別に園子せいじゃない……ゴメン、私もよく分からないの」
「私は、ちょっとだけ分かるよ」
その言葉に驚いて園子を見ると、園子はいつもより少しだけ真剣な眼差しで私を見つめていた。
「よっしーは私達がどう頑張っても友達を悲しませちゃってた事を悲しんでくれたんだよ。
勇者は友達を救う時はその事に夢中で、友達を見ている余裕が無いんだよ。
だから、今よっしーはその時の私達の代わりに悲しんでくれたんだよ」
「なんで私達は、自分達が悲しい事をしてるってその時気付け無いの?」
「私達が勇者だから。大切な友達の為を思えば、身体が勝手に動いちゃうから」
「……う、うううぅ、ぁあああああ!!」
・
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結局、私は園子にしがみついてしばらく泣いてしまい、気付けば夕方になっていた。
園子はその間ずっと私を抱きしめてくれていて、泣き止んでから恥ずかしくてまともに園子の顔を見る事が出来なかった。
「せ、世話かけたわね」
「ふふふよっしー可愛かったよ」
「……園子、友達として、あんたにお願いがあるわ」
「何?」
「勇者の御役目は終わったけど、私は友達の事になればきっとまた無茶をするかも知れない。
その時は、あんたが私を止めてくれる?私の、友達の為に」
「うん、分かった。じゃあよっしーも、私が無茶しそうな時は私を止めてね?」
「ええ、約束するわ」
それは果たせるのか分からない難しい約束、それでも約束しないよりはマシじゃないかしら。
私は、友達を自分の為に悲しませるような勇者にはなりたくないから。
「あ、大赦の人達が来たみたいだよ~」
「え、もう!?あー最後なのに辛気臭い話になっちゃって悪かったわね……」
「仕方ないよ、私が言い出した事だからね。学校でまた話そう」
「そうね、また学校で会いましょう」
そう、また学校ですぐ会えるんだし大丈夫。
「またね、園子。楽しかったわよ」
「ありがとう、よっしー。私はすっごく楽しかったよ!!」
こうして私と園子の短い共同生活は終わった。
まあ友達なんだし、友奈が泊まった時みたいにまた泊める機会はあるわよね。
*
「で、一人暮らしを始めたはずのあんたがなんでわ、た、し、の、家にいるわけ……?」
「こ、これには深いわけがあるんだよよっしー」
「ほーう、聞かせてみなさい」
「家に帰ったら、夕飯がなかったの」
「それで?」
「よっしーに作ってもらおうと思って」
「あんたはヒモか!!」
翌日、無事一人暮らしを始めた園子は学校のクラスでも歓迎され、勇者部での挨拶も済んだ。
園子はまだ引っ越しの荷物の整理があるので帰らざるを得なかったのだが、記憶が戻った東郷との挨拶も済んで一安心出来たのは良かった。
で、勇者部の活動を終えた私が家に帰ってきてみれば……何故か園子が私の家の中で気持ちよさそうにテーブルで寝ていたのである。
「というかね、引っ越したばかりだから夕飯作れないのはしょうがないとして、買えば良かったんじゃないの?」
「おお、よっしー頭良い!」
「普通思いつくでしょうが!」
「うー、だってよっしーに会いたかったんだもん」
「うぐっ、あ、あんたねえ……」
「よっしーお願い!今日はもう暗いし食べ物買いに行くのは無理だよ~」
「はぁ……しょうがないわね、今日は泊まって行って良いわよ」
「やったー!」
東郷と風にも協力してもらって園子にも料理教えて貰わないと……
でも、無邪気に喜ぶ園子を見ているとなんだかもう素直に再会を喜べば良い気がしてきてしまうから困る。
「私、甘いのかなあ……」
「優しいよっしーが私は大好きだよ~」
「うっさい!私がいつまでも甘いと思ったら大間違いよ!」
私が怒鳴っても園子は変わらずにこにこしていて、結局私はこの子には敵わない気しかしないのだった。
絶対に口にはしないけどね。
今回は原作で絡みのないキャラ同士という事で結構試行錯誤が多い内容となりました。
今後の参考にする為に良い点悪い点関わらずコメントで感想を述べて頂ければ幸いです。
ここまで読んでいただきありがとうございました。