言峰綺礼(転生者)が激辛麻婆豆腐を食わせる話 作:マーボードーフ、おまたせアルー!
原作:Fate/
タグ:R-15 残酷な描写 転生 憑依 AI本文利用 激辛麻婆豆腐 ×愉悦○加虐心 原作改変 ギャグ 言峰綺礼 独自展開
言峰綺礼として異世界に転生を果たした男は、深い溜息とともに自らの両手を見つめていた。
前世の記憶は鮮明に残っている。そして、生前の友人が冗談めかして放った「お前ってさ、雰囲気も考え方もなんか言峰綺礼に似てるよな」という言葉も。まさか本当に、あの『Fate/Zero』の悲劇の代行者、言峰綺礼その人として目を覚ますことになろうとは思いもしなかった。
覚悟を決めた彼は、原作崩壊による世界の破綻や不要な悲劇を防ぐため、血の滲むような努力を開始した。幼少期から修行を重ね、代行者としての八極拳を骨の髄まで叩き込み、洗礼詠唱と魔術回路の運用を完璧にマスターした。技術や知識の面において、彼は間違いなく「完璧な言峰綺礼」へと成長を遂げたのである。
しかし——ただひとつだけ、どうしても獲得できないものがあった。
それこそが、言峰綺礼という存在を決定づける最重要の核、「愉悦」という感情であった。
他者の不幸や苦悶を愛で、そこにしか生きている喜びを見出せないという歪んだ感性。転生前の自分は、どれほど「言峰に似ている」と言われようと、根はまともな一般人であったのだ。人の苦しむ姿を見ても不快感や同情しか湧かず、どうしても「愉悦」なるものを理解できない。このままでは聖杯戦争が始まった際、遠坂時臣やギルガメッシュとの関係性において致命的な齟齬が生じ、世界が崩壊してしまうのではないかという焦りが、常に彼の胸を締め付けていた。
そんなある日の昼下がり。聖堂教会の任務の合間に冬木市を訪れていた彼は、腹を空かせて街を彷徨い、ふと怪しげな中華飯店『紅洲宴歳館・泰山』の暖簾をくぐった。
店内には香辛料の鋭い香りが充満している。メニューの隅に書かれた「激辛麻婆豆腐」という文字に惹かれ、彼は特に深く考えずそれを注文した。
運ばれてきた深皿を見て、彼は息を呑んだ。
それは料理というよりも、地獄の赤池をそのまま切り取ってきたかのような異形の一品であった。暗赤色の油がグツグツと泡を立て、大量の花椒と唐辛子が容赦なく主張している。
レンゲですくい、口に運ぶ。
「——ッ!?」
脳裏を落雷が突き抜けた。
舌を灼く強烈な烈火の如き激痛。しかし、その激痛の直後に押し寄せる、重厚な肉の旨味と複雑なスパイスの奔流。発汗が止まらなくなり、息が吹き飛ぶほどの刺激。
「辛い……! だが……なんという美味さだ……!!」
彼は無我夢中でレンゲを動かし、汗だくになりながらあっという間に皿を空にした。生まれて初めて味わう、痛覚と味覚の極限の境界線。それが彼の運命を変える第一歩となった。
数日後。彼は聖堂教会で知り合ったシスターであり、後に自身の妻となる運命を持つ女性、クラウディア・オルテンシアを連れて再び泰山を訪れた。
「綺礼さん……あの、私のような病弱な体が、そのような強いお食事を受け付けるでしょうか……?」
消え入りそうな儚げな声で、不安そうに自分を見上げるクラウディア。本来の歴史であれば、彼女は夫の歪みを正そうと苦悩し、悲劇的な最期を迎えるはずの存在であった。
「案ずるな、クラウディア。これは新陳代謝を極限まで高める至高の霊薬だ。一口食べてみるといい」
ポーカーフェイスを崩さぬまま、綺礼はレンゲにすくった真っ赤な麻婆豆腐を彼女の前に差し出した。おずおずと、可憐な口唇を開いてそれを食すクラウディア。
次の瞬間——。
「——ッ!?〜〜〜〜ッッ!!???」
声にならない絶叫。クラウディアの白皙だった頬が一瞬で茹でたタコのように真っ赤に染まり、大きな瞳からボロボロと大粒の涙が溢れ出した。彼女は喉をかきむしり、全身を痙攣させながら、テーブルの上でのたうち回り始めた。あまりの辛さに、可憐なシスターのなりふりなど完全に吹き飛んでいる。
その凄絶な苦悶の姿を見つめた瞬間、綺礼の胸中で何かが決定的に弾けた。
(おお……なんという美しさだ。なんという可憐さ、そして——なんて愛おしいのだ……!)
溢れ出す全能感。脳内を突き抜ける極上の快楽。悶絶し、涙を流して苦しむ彼女の姿が、どうしようもなく愛おしく、愛おしくてたまらない。
(これが……これこそが『愉悦』というものか……!!)
(※本人は真面目に言峰綺礼としての精神的覚醒を果たしたと思い込んでいるが、実際には単なる『激辛料理で苦しむ愛妻を愛でるドSな加虐心』の発露であった。)
「さあクラウディア、もう一口だ。残しては店主に失礼だろう」
「ふぐっ……!? む、無理です、綺礼さん! んぐぁぁぁッ!?」
涙目で必死に首を振る彼女の口内へ、綺礼は容赦なく二杯目、三杯目の激辛麻婆豆腐をレンゲで押し込んでいった。
その夜、正気に戻ったクラウディアから涙ながらに猛烈なお説教と抗議の平手打ちを食らったのは言うまでもない。しかし不思議なことに、この「激辛麻婆豆腐ショック療法」によって全身の細胞と自律神経が爆発的に活性化されたのか、それまで病床に伏しがちだったクラウディアの病気は急速に回復。すっかり元気一杯の健康体となった彼女と、なんだかんだで二人の距離は急速に縮まり、晴れて正式に結婚することとなったのである。
◇
そして時は流れ、1994年。運命の「第四次聖杯戦争」が幕を開けた。
原作崩壊を防ぎつつ、自らの「愉悦(激辛麻婆豆腐による他者の悶絶鑑賞)」を満たすため、綺礼は準備に余念がなかった。泰山の店主に弟子入りして完璧な激辛麻婆豆腐の調理技術を完全習得。さらに、断熱と保温の重厚な魔術を施した特製の「おかもち」を特注作成し、それを片手に持ち運んで聖杯戦争へと出陣したのである。
【遠坂邸地下工房:遠坂時臣と吉爾伽美什】
「綺礼、アサシンの諜報活動は順調か?」
優雅にワイングラスを傾ける師・遠坂時臣。その傍らには、新たに召喚された黄金の英霊、吉爾伽美什(ギルガメッシュ)が尊大に佇んでいる。
「ええ、時臣師。ところで……英雄王の御前にて、東洋の最高級たる『もてなし』を用意いたしました」
綺礼はおかもちの蓋を恭しく開けた。瞬間、工房内に充満する、目と鼻を刺す凶悪な唐辛子と花椒の刺激臭。持ち出されたのは、ドロリと蠢くような真っ赤な器であった。
「ほう……雑種め、余に捧げものか。どれ、この時代の珍味か……」
不敵な笑みを浮かべ、金色の盃ならぬレンゲで一口食す黄金の王。
一秒の静寂。
「………………ぬぅおおおおおおッッ!?!?」
英雄王の金色の瞳が限界まで見開かれ、全身の黄金の鎧から威圧的な魔力が暴走した。
「貴様ッ! 余に毒を盛ったかッ!? 舌が、舌が焦げ付くわ戯けが!! 水だ! 蔵から最古の神酒を出せッ!!」
胸を押さえ、床を転がりながら喉をかきむしる英雄王。
時臣は顔面を蒼白にし、「き、綺礼! 何という不敬をーっ!?」と絶叫するが、綺礼は満足げに目を細め、静かに胸中で「ふはは、王とて激辛には勝てぬか」と歓喜に打ち震えていた。
【夜の街頭:ケイネス&ランサー】
ソレイユ・ビルを拠点とする時計塔のエリート講師、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトと、そのサーヴァントたる槍兵・ディルムッド・オディナ。彼らの前に、おかもちを携えた漆黒の代行者が立ち塞がる。
「水銀の魔術師ケイネス・エルメロイ。時計塔の貴殿に、東洋の深遠なる錬金術の結晶を授けよう」
「ははっ、聖堂教会の代行者ごときが私に何を……ん?」
ケイネスの『月霊髄液(ヴォルク・コンストリクト)』が瞬時に防御陣を敷く。だが、綺礼は八極拳の勁力を込めた極限の踏み込みで水銀の膜を打ち破ると、至近距離に肉薄。ポケットから取り出した特製「激辛麻婆ペースト」をケイネスの口内に直接叩き込んだ。
「ガハッ……!? ぐわあああああああッ!? 脳が! 脳が焼けるぅぅッ! 舌の細胞が滅却していくううッ!」
「我が主(マスター)!? おのれ無礼者ッ!」
槍を交えて突撃するランサー。しかし綺礼はすれ違いざま、おかもちから直接すくった麻婆豆腐をランサーの顔面に投擲した。
「んぐっ!? 〜〜〜〜ッッ!? か、辛い……! サーヴァントたる私にすら激痛を及ぼすこの猛炎……おのれぇぇッ!」
路地裏で悶絶し、のたうち回る主従。綺礼は「フッ……これぞ洗礼……」と深く頷いた。
【未遠川の廃工場:雨生龍之介&キャスター】
血と惨劇の宴を繰り広げていた狂気のマスター・雨生龍之介と、キャスター(ジル・ド・レ)。
「ヒャッハー! 師匠、この死体の並べ方最高っすね!」
「おお、龍之介! これぞ神への最高の反逆、最高のCOOOOOOL……」
バシャッ!!
ふたりの狂宴を遮り、おかもちの蓋が開く。
「静かにしろ。クール(冷却)が必要なのは、お前たちの口内だ」
綺礼の八極拳・肘打ちが龍之介の腹に突き刺さり、口が大きく開いた瞬間、麻婆豆腐が大量に流し込まれる。続いて、驚愕に目を見開くキャスターの巨大な眼球と口内へ、容赦なく麻婆豆腐が叩き込まれた。
「あばばばばばばばッッ!? か、神よ! これぞ地獄の業火! 絶望の炎だあああッ!」
「がはっ、ヒハッ、辛い! 酷い! でも新しい刺激ぃぃぃッ!」
地獄絵図のような絶叫を上げる狂人コンビ。綺礼は「フッ、私の愉悦に比べればお前たちの美学など児戯に等しい」と冷ややかに言い放った。
【公園のベンチ:ウェイバー&ライダー】
夜の公園で作戦会議をしていたウェイバー・ベルベットと征服王イスカンダル。
暗闇からすっと現れたおかもち男に、イスカンダルは豪快に笑った。
「征服王よ。覇道を進む者に、この『至高の赤』を捧げよう」
「ほう! 東洋の珍味か! 試練とあらば受けて立つのが王の器というもの!」
皿から直接、豪快に口へ流し込むイスカンダル。
「……む? むぐ……むおおおおおッ!? むせ返るような灼熱の突撃! まるでペルシャの砂漠を裸足で走らされているかのごとき激痛! 素晴らしい、素晴らしいぞ……だが水! 水をくれ少年!!」
「えっ、ライダー!? そんなに辛いの……ひぎゃあああッ!?」
油断していたウェイバーの口にも綺礼のレンゲが迫り、流し込まれる。
「うわああん! 辛い! 鼻の奥がツーンとする! 死んじゃうよおじさん!!」
抱き合って涙を流す巨漢の英霊と華奢な少年。その微笑ましくも惨絶な光景に、綺礼の加虐心(愉悦)は最高の充足感を味わっていた。
【暗い路地裏:間桐雁夜&バーサーカー】
刻印蟲に蝕まれ、死に体で歩く間桐雁夜と、黒いもやを纏う狂戦士バーサーカー。
「葵さん……櫻……俺は……」
「間桐雁夜。苦痛を和らげる特効薬だ」
綺礼は問答無用で雁夜の口に麻婆豆腐を押し込み、唸り声を上げて襲いかかってきたバーサーカーの兜の隙間(目孔)にも麻婆豆腐を直接注ぎ込んだ。
「ぐわあああッ!? 痛い! 蟲の毒より辛さが痛いッ!!」
「ARRRRRRR——!?(※辛さのあまり狂化の魔力ラインが乱れ、激痛で一時的に正気に戻りかけるランスロット)」
【アインツベルン森の決戦:衛宮切嗣&セイバー】
そして、最大の宿敵・衛宮切嗣との対決。
「言峰綺礼……お前の目的は何だ……!」
コンテンダーを構え、警戒を極限まで高める切嗣。傍らには聖剣を握る騎士王セイバー。
綺礼は静かにおかもちを開けた。
「衛宮切嗣。言葉はいらん。喰らえ」
『固有時制御(タイムアルター)——三重加速(トリプルアクセル)!』
超スピードで距離を取ろうとする切嗣。しかし、綺礼の八極拳ステップと、魔術的に補正された麻婆豆腐の投擲技術はそれを凌駕した。空中で正確な放物線を描いた麻婆豆腐が、切嗣の開いた口に見事にホールインワンする。
「がはっ……!? ぐっ……タイムアルター……解除……! か、辛い……胃が、胃が焼きちぎれる……ッ!」
「切嗣!? おのれ言峰綺礼! 王の名において討ち果たす……むぐっ!?」
セイバーの口にも、隙を見逃さない綺礼のレンゲが突き刺さった。
「んぐっ……くっ……! なんという強烈な……! 辛い、辛いが……む? この奥深い肉の旨味……英国にはなかったこの濃密な味覚……! いや、しかし辛い!! 舌が麻痺する!!」
苦悶しながらも、なぜか完食しようとする食いしん坊な騎士王の姿に、綺礼は高らかに笑い声を上げた。
「フハハハハ! 見よ、これぞ至高の『愉悦』だ!」
◇
すべてのマスターとサーヴァントが、麻婆豆腐の圧倒的な激辛ショックによって物理的・精神的に戦意を完全に喪失。あるいは苦悶のあまり自脱・無力化され、第四次聖杯戦争は言峰綺礼の圧倒的な完全勝利(優勝)で幕を閉じた。
聖杯降臨の際、内部から溢れ出そうとした「この世の全ての悪(アンリマユ)」の黒い泥すらも、綺礼が聖杯の中にぶち込んだ「自作・超激辛麻婆豆腐(大鍋10杯分)」の凄絶なカプサイシンパワーとマグマのような熱量によって完全に中和・消滅。冬木の大災害は影も形もなく回避され、街には穏やかな平和が残されたのである。
◇
それから数年後。
大災害の起きなかった平和な冬木市。日差しが柔らかい昼下がり。
中華飯店『紅洲宴歳館・泰山』の暖簾をくぐる、三人連れの家族の姿があった。
先頭を歩くのは、激辛ショックによって全身の細胞が活性化し、かつての病弱な面影など微塵もない元気いっぱいの妻、クラウディア・オルテンシア。
その後ろを、漆黒の法衣をまとった言峰綺礼と、ふたりの間に生まれた可憐な少女、カレン・オルテンシアが歩いている。
「さあ、着いたぞ。我が家ゆかりの名店だ」
綺礼は手慣れた様子でテーブル席につき、店員に迷いなく注文を出した。
「『激辛麻婆豆腐』を三つ。ひとつは子供用だ」
「綺礼、カレンはまだ小さいんだから、あんまり辛いものはダメよ?」
「案ずるな、クラウディア。これは言峰家の英才教育だ」
しばらくして、真っ赤なマグマのようにグツグツと煮立つ麻婆豆腐が運ばれてきた。湯気だけで目が痛くなるような強烈な刺激臭。
幼いカレンは首をかしげながら、小さな手でレンゲを持ち、麻婆豆腐をすくって口へ運んだ。
モグ……。
次の瞬間。
カレンの白磁のような肌が一瞬で朱に染まり、大きな瞳からボロポロと大粒の涙が溢れ出した。
「〜〜〜〜ッッ!!??? ぶはっ、ふぐぅぅ……っ!!」
カレンは言葉を失い、喉を打ち震わせながら、テーブルの上に置いてあった冷たい麦茶のピッチャーを両手で掴むと、ゴクゴクゴク! と猛烈な勢いで麦茶をがぶ飲みし始めた。涙をボロボロとこぼしながら、必死に舌を冷やそうとしている。
その可哀想で、しかしどこか愛くるしい娘の悶絶ぶりを、満足そうに目を細めて見つめる綺礼。
「ふっ……素晴らしい。実に素晴らしいぞ、カレン。これぞ『愉悦』だ……」
パコォォォンッッ!!!
快音覚めやらぬ静寂。
クラウディアの遠慮のない平手打ちが、綺礼の後頭部に痛烈に炸裂した。
「綺礼ッ!! 自分の娘になんてもの食べさせてるのよッ!! 冗談じゃないわよ本当に!!」
仁王立ちになり、激怒して拳を振り上げる元気一杯のクラウディア。
頭を押さえ、痛みに顔をしかめる綺礼。
しかし、その唇の端には、どこか穏やかで、真に満ち足りた「愉悦」の笑みが浮かんでいた。
冬木の平穏な空の下、泰山の店内には、娘が麦茶を飲む音と、妻の怒鳴り声、そして男の満足げな吐息が、温かく響き渡っていたのだった。
ギャグ要素・独自展開モリモリの番外編、アサシンが食べてないという意見を頂き書きました
番外編:聖杯問答?いいえ激辛麻婆豆腐対策会議(対策できるとは言ってない)
重厚な塗りが施された黒漆のおかもちを、絹の布で丁寧に磨き上げていた言峰綺礼は、ふと作業する手を止めた。
「……待てよ」
代行者としての精密な記憶領域を検索していた彼は、自らの不手際に眉をひそめた。
遠坂時臣、英雄王、ケイネス主従、雨生龍之介とキャスター、征服王と少年、間桐雁夜にバーサーカー、そして衛宮切嗣と騎士王。聖杯戦争に参加する名だたるマスターとサーヴァントたちには、あまねく自作の『激辛麻婆豆腐』による慈悲深きもてなし(洗礼)を施してきたはずであった。
しかし——ただひとつ、致命的な盲点が存在していた。
「我がサーヴァントであるアサシン(百貌のハサン)に……まだ食わせていないのではないか?」
己の影として忠実に従い、諜報活動に明け暮れていたハサンたち。マスターとして彼らに正当な労いを与えていなかったという事実は、完璧主義者たる言峰綺礼の矜持を深く傷つけた。そして何より、あの舌を灼く業火のなかで他者が悶絶する美しさを愛でる彼の「愉悦(加虐心)」が、身内のサーヴァントだけをその幸福から除外することを断じて許さなかったのである。
「これはいかん。サーヴァント間の平等を損なう行為だ。ただちに『もてなし』を執り行わねばならん」
綺礼は熱々の激辛麻婆豆腐がぎっしりと詰まった巨大なタッパーを特製保温おかもちへと収めると、重厚な八極拳の足取りで教会の地下を後にした。
◇
同じ頃。アインツベルン城の美しい露台(テラス)では、本来であれば「王とは何か」を気高き威厳をもって問い合うはずの儀式——『聖杯問答』が催されていた。
庭園に配された重厚な木樽。そこから汲み出された極上のワインが盃を満たしているというのに、そこに集う三人の王とふたりのマスターたちの表情は、極度の警戒と疲弊に彩られていた。
「——でだ、少年。お前はあの漆黒の代行者が現れた際、どのような防御陣形を張るつもりだ?」
豪快に髭を蓄えた巨漢の英霊、征服王イスカンダルが、盃を片手に大真面目な顔で問いかける。隣に座る小柄なマスター、ウェイバー・ベルベットは、思い出しかけた悪夢に顔を歪ませて頭を抱えた。
「対策も何も無理に決まってるだろぉッ! なんだよあの『赤き泥』みたいな食い物は! 舌の皮が全部剥がれたかと思ったんだぞ!? 鼻からスパイシーな煙が出たんだぞ!? 僕、あのあと三日間牛乳しか飲めなかったんだからな!」
「ガハハ! 確かにあれは凄絶な試練であった! 砂漠の行軍すら生ぬるいと感じるほどの熱量……まさに覇道を阻む灼熱の壁よ!」
「笑い事か戯けがッ!!」
黄金の甲冑を纏った英雄王、吉爾伽美什(ギルガメッシュ)が、不快感を全身から撒き散らしながら盃をテーブルに叩きつけた。
「余の財宝をもってしても、あの不快極まりない痛覚の毒を無効化できなんだのだぞ!? 雑種が……余に二度もあのような無礼を働いて生き残れると思うなよ。次に見かけたら、問答無用で『乖離剣エア』の露露としてくれるわ!」
「ですが……英雄王」
気高く可憐な甲冑の少女、騎士王アルトリアが、どこか複雑な、そして苦々しい表情で口を開いた。
「確かにあの辛さは邪悪そのもの……騎士としての尊厳を打ち砕く激痛でした。ですが……ですが不覚にも、あの痛みの奥底に潜む濃密な豚肉の旨味と、複雑怪奇なスパイスの調和……思い出すだけで身の毛がよだつと同時に、不覚にも腹が鳴ってしまうのです……!」
「おいセイバー、お前正気か!? あんなの兵器だよ!」
「ふふ、でも切嗣も大変だったのよ?」
上品に微笑むアインツベルンの錬金術師、アイリスフィール・フォン・アインツベルンが手皿を添えて会話に加わる。
「あのあと城に戻ってきてからずっと『胃が……僕の胃が溶ける……』って泣きながら氷嚢を抱えていたわ。聖杯戦争どころじゃないわね」
「冗談ではない! 聖杯を賭けた聖戦が、なぜあの男の気まぐれな中華料理対策会議に変貌せねばならんのだ!」
ギルガメッシュが苛立ちを露わにした、まさにその瞬間であった。
ズシン……ズシン……。
静まり返ったアインツベルンの森から、規則正しく、しかし圧倒的な圧迫感を伴った足音が近づいてくる。
庭園の空気が凍りついた。全員の視線が、闇の奥から現れた一人の男へと注がれる。
漆黒の法衣。鍛え上げられた身の丈。そして、その右手には静かに携えられた、重厚な塗りの保温おかもち。
「——宴の最中に失礼する。王たちよ」
「「「「出たあぁぁぁぁぁッッ!!!???」」」」
ウェイバーが悲鳴を上げ、イスカンダルが咄嗟に愛剣の柄に手をやり、アルトリアが聖剣を実体化させ、ギルガメッシュの背後に無数の黄金の宝具の門が開く。
「雑種がァッ! どの面下げて再び余の前に姿を現したッ!」
「待て、王たちよ。今宵の私の目的は、お前たちではない」
綺礼は王たちの殺気を完全に無視すると、静かに露台の隅、誰もいない空間へと視線を向けた。
「アサシンよ。出てくるがいい」
空間が揺らぎ、黒い髑髏の仮面をつけた潜伏者が姿を現す。百貌のハサンの一体であった。
「ま、マスター……。我らに何かご命令でしょうか……?」
「うむ。アサシンよ。主たる私は、これまでお前たちに重大な不義理を働いていた。他のサーヴァントらには与えた『至高の活力』を、影に潜むお前たちにだけ与えていなかったのだ。その非を深く深く反省している」
「は? 至高の……活力……?」
ハサンが首を傾げた瞬間、綺礼は躊躇なく右腕の袖をぐっと捲り上げた。そこには燦然と輝く、赤き魔術の刻印——令呪が存在していた。
「な、何をする気だマスター!?」
「——令呪をもって命ずる。アサシンよ、宝具『妄想幻像(ザバーニーヤ)』を全開で発動し、所有する八十の全個体へと分裂せよ」
ジュッと令呪が一画、目眩く光を放って消失する。
「なっ……!? 令呪の無駄遣いにも程があるだろぉぉッ!?」
ハサンの絶叫とともに、魔力が爆発的に拡散。露台から庭園にかけて、百貌のハサンのあらゆるバリエーション——大柄な男、小柄な女、敏捷な少年、巨大な巨漢など、実に八十体に及ぶアサシンたちがワラワラと出現し、アインツベルン城の庭園を隙間なく埋め尽くした。
「よし。壮観だな」
綺礼は満足そうに頷くと、逃げ出そうと後ずさりするハサンたちに向けて、容赦なく二画目の令呪を提示した。
「——二画目の令呪をもって命ずる。全個体、その場に留まり、絶対に一つに融合して逃走することを禁ずる。また、口を大きく開けて待機せよ」
「「「「狂ってやがるこのマスターぁぁぁぁぁッッ!!!???」」」」
八十人のハサンたちが異口同音に絶叫した。しかし令呪の絶対遵守の強制力により、彼らはその場に縛り付けられ、断腸の思いでガバッと口を開けさせられる。
「良し。では、日頃の労をねぎらうとしよう」
綺礼はおかもちの蓋を静かに開けた。
ドッと溢れ出す、空間を歪めるかのごとき凶悪な唐辛子と花椒の刺激臭。あまりの香気に、近くにいたウェイバーが「ぶふっ!?」と吹き出し、目から涙をボロボロと流し始める。
綺礼は特製おかもちから、特大の中華おたまを取り出した。
そして——八極拳の神速の歩法『すり足』が炸裂する!
瞬ッ!
「ぐはっ!?」
まず一体目、女性型のハサンの口内へ、容赦なく超高熱の激辛麻婆豆腐が叩き込まれた。
「〜〜〜〜ッッッ!!?? か、辛い! 辛すぎる! 毒手なんてレベルじゃない! 霊体どころか存在理由が吹き飛ぶぅぅッ!」
パパンッ! ズドンッ!
綺礼の影が残像を描いて庭園を縦横無尽に駆け巡る。八極拳の寸勁による超高速の突きとともに、寸分の狂いもなく八十体のアサシンたちの口内へと、次々に赤きマグマが流し込まれていく!
「あばばばばばッ!? 脳が! 脳が焦げるぅッ!」(巨漢ハサン)
「ママぁぁぁッ! お口の中に太陽があるよおぉぉッ!」(子供ハサン)
「おのれ言峰ぇぇぇッ! 殺せ! いっそ我らを首切りバサミで殺せぇぇッ!」(長身ハサン)
庭園全体が、八十人の仮面の暗殺者たちによる狂乱と悶絶の地獄絵図と化した。転がり、のたうち回り、地面を叩き、激痛に叫び声をあげるアサシンたち。
その惨絶な光景を、言峰綺礼は心底愛おしそうに、慈愛に満ちた満面の笑み(※本人は聖母のような笑顔のつもりだが、周囲から見れば悪魔そのものの冷酷な笑み)で見つめていた。
(ああ……素晴らしい。八十の個体がそれぞれ異なる苦悶の旋律を奏でている……これぞ、これぞ至高の『愉悦』だ……!)
「ひ、ヒィィィィッ……!!」
ウェイバーが腰を抜かし、ガクガクと震えながら後ずさる。イスカンダルですら額に大汗をかき、「なんという惨状……まさに地獄の具現……!」と絶句していた。
八十体のアサシンを完全に無力化(悶絶)させた綺礼は、中華おたまをくるりと回すと、ゆっくりと露台の王たちへと向き直った。
「さて……アサシンへの給餌は終わった。次はお前たちの番だ」
「ふ、ふざけるな雑種ッ! 余は王だぞ! この英雄王吉爾伽美什だぞッ!」
「理由なき無差別テロは覇道に反するぞ、代行者ッ!」
「理由ならある」
綺礼は保温おかもちの底をコンコンと叩いた。
「おかもちの中に、まだ大量に余っているのだ。食品ロスは聖堂教会の教理に反する」
「どんな理由だァァァッ!!」
次の瞬間、綺礼の足元で爆音が生じた。
『八極拳・頂肘』を踏み込むがごとき超神速の突進!
「ひぇっ!?」
悲鳴を上げたウェイバーの首筋を、綺礼の指先が鋭く突いた(ツボ刺激による口開けの強制)。パカッと開いたウェイバーの口内へ、躊躇なくおたま一盛り分の麻婆豆腐が叩き込まれる!
「んぐっ……!? ぶはぁっ! 鼻! 鼻からマグマが出たぁぁぁッ! ママ! おうちに帰りたいよぉぉッ!」
涙と鼻水を撒き散らしてのたうち回る少年マスター。
「おのれ小造りをッ! 征服王イスカンダル、推して参る!」
イスカンダルが巨拳を振り下ろすが、綺礼は流れるような身こなしで攻撃を捌くと、おたまに盛った麻婆豆腐を、投擲の魔術を乗せてイスカンダルの開いた口内へ正確に射出した。
「ぬおおおおッ!? むぐっ……!? ぐああああッ! 喉が! 喉が神話級の業火に包まれるわぁぁッ! ペルシャの砂漠を裸足で走らされた時より辛いッ! 水だ! 誰か水をくれぇぇッ!」
巨漢の英霊が胸を押さえて転倒し、床を激しく転がり始める。
「おのれぇぇッ! ゲート・オブ・バビロン——」
ギルガメッシュが空間を穿ち、無数の宝具を放とうとした瞬間、綺礼は洗礼詠唱の音波で一瞬の隙を作り出すと、近接戦闘の絶対的間合いへと潜り込んだ。
「英雄王。二度目の味わいはまた格別だぞ」
「なっ……やめ——んぐぬっ!?」
口内にダイレクトに突き立てられるレンゲ。
「〜〜〜〜〜ッッッッ!!!!! 戯けがぁぁぁぁッ! 王の口内にそのような汚物を流し込むなとあれほどぉぉぉッ! 舌が! 舌の細胞が完全滅却していくうううッ!」
黄金の王が威厳も何も投げ打ち、悶絶しながら豪華なカーペットの上でのたうち回り始めた。
「くっ……騎士として、この邪悪な暴挙を止めてみせます!」
アルトリアが聖剣を構えて突進するが、綺礼は攻撃の軌道を完璧に見切り、すれ違いざまに麻婆豆腐を一さじ、彼女の口元へ添えた。
「んむっ……!? くっ……! か、辛い……! ですが……ですがやはり……美味しい……いや辛い! 脳が揺れます! 涙が止まりませんッ!」
葛藤しながら膝をつき、必死に耐えようとする食いしん坊な騎士王。
そして——最後の一人が残された。
アインツベルンの妻、アイリスフィール・フォン・アインツベルンである。
「あら……? 私にも……くれるの……?」
他者たちの惨状を見ても、ホムンクルスゆえの世間知らずさからか、ぽかんと首をかしげるアイリスフィール。綺礼は静かに、特大のレンゲに並々と盛った『極辛麻婆豆腐』を彼女の口元へと差し出した。
「うむ。アインツベルンの貴婦人よ。遠慮はいらん」
「あ……あん」
素直に一口、それを口に含むアイリスフィール。
咀嚼した、その一秒後——。
「……あ」
カプサイシンと花椒が放つ、生物の許容量を遥かに超えた暴力的刺激。繊細な魔術回路で構成されたアイリスフィールのホムンクルスとしての神経系が、瞬時にキャパシティオーバーを起こして完全ショートした。
コテン……。
アイリスフィールの瞳から光が消え、白目を剥いてその場に崩れ落ちる。激辛によるショック死(仮死状態)であった。
「アイリ——ッ!?」
悶絶していたアルトリアが血相を変えて叫んだ。
しかし!
アイリスフィールのすぐ目と鼻の先には、サーヴァントたるアルトリアが存在していた。そしてアイリスフィールの体内には、かつて切嗣によって埋め込まれた最高の概念武装——契約の英霊が近くにいることで発動する絶技【全て遠き理想郷(アヴァロン)】が存在していたのである!
ブワッ……!!
アイリスフィールの身体から、清浄なる青き聖なる光が爆発的に放たれた!
アヴァロンの絶対的な再生能力が作動。ショック死を起こした細胞と神経系を、コンマ一秒の超スピードで「完全健康状態」へと強制修復・蘇生させたのである!
「ハッ……!? 私……いま美しい花畑が見え——」
「ほう。生き返ったか。ならば、まだ器に半分残っているぞ」
「えっ、ちょっと待っ——んぐぅぅぅッ!?」
綺礼は迷うことなく、蘇生したばかりのアイリスフィールの口内へ二杯目の麻婆豆腐を流し込んだ。
「(白目・ショック死)」
『ブワッ!(アヴァロンによる超高速全回復)』
「はっ!? 私また——んぐっ!?」
「(白目・ショック死)」
『ブワッ!(アヴァロンによる超高速全回復)』
「はっ!? もうやめ——んむぐぁぁッ!?」
【ショック死 ➔ アヴァロン超高速再生 ➔ 綺礼が容赦なく麻婆投薬 ➔ 再びショック死 ➔ 即座に超高速再生……】
恐ろしい無限の死と生のループ(激辛リアクション永久機関)が発生した。
「やめてあげてください言峰! アイリの精神が壊れてしまいます!」
アルトリアが叫ぶが、綺礼は「生と死の狭間で揺らぐ彼女の姿……なんと神聖で美しいのだ……」と恍惚の表情で麻婆豆腐を注ぎ足し続ける。
そして、十数回におよぶショック死と超高速再生のエネルギー衝突が繰り返された、その時であった。
あまりの過剰負荷(オーバーロード)に、アイリスフィールの体内に形成されていた「小聖杯(アインツベルンの器)」の魔術回路が致命的な処理バグ(エラー)を引き起こした。
「うっ……おえぇぇぇっ……!!」
耐えかねたアイリスフィールが、涙目になりながら豪快に吐き気を催した。
ゴトンッ……コロンコロン……。
彼女の口から吐き出されたのは……なんと、激しい魔力を放ち、黄金に輝く「小聖杯(聖杯の器)」そのものであった!!
(※なお、食べた激辛麻婆豆腐は、カプサイシンの強烈な粘着性と旨味により、しっかりと彼女の胃の中に留まったままである。)
芝生の上を虚しく転がる黄金の聖杯。
「はぁ……はぁ……出たわ……何かが私の中から吐き出されたわ……! でも、胃の中が熱い……焼けるように熱いのよぉぉっ! 水! 水を戴戴戴戴ッ!」
アイリスフィールは涙をポロポロとこぼしながら、髪を乱して露台のワイン樽に頭を突っ込み、バシャバシャと音を立ててワインをがぶ飲みし始めた。
綺礼は転がった小聖杯を拾い上げると、興味深そうに光にかざした。
「ほう……聖杯とは、このようにして体外へ排出されるものだったのか。激辛の刺激による新陳代謝の極致……実に貴重な知見を得た」
彼は満足そうに頷くと、小聖杯を特製保温おかもちの空きスペースへと丁寧に仕舞い込み、カチャンと蓋を閉めた。
庭園を見渡せば、八十人のアサシンが虫の息で地面に転がり、三人の覇王とひとりの少年マスターが胃を押さえて苦悶の呻き声を上げ、アインツベルンの貴婦人がワイン樽に顔を突っ込んで悶絶している。
まさに、誰も傷ついていない(※胃腸を除く)完璧な平和と愉悦の光景。
「ふむ。全員に『もてなし』は行き渡ったな。これにて我が務めは完了した」
綺礼は漆黒の法衣を整えると、一同に向けて恭しく一礼した。
「王たちよ、そしてマスターたちよ。聖杯戦争の続きは……胃腸の調子が整ってからにしようではないか。では、私はこれで失礼する」
おかもちを手に、風のように爽やかにアインツベルンの森へと去っていく漆黒の代行者。
残された庭園には、夜空に虚しく響き渡る、王たちの呻き声と少年マスターの絶叫だけが、いつまでも温かく(?)響き渡っていたのであった。