時間断層存続を選んでしまった地球、その選択の行き先––––

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第1話

 

 ––––時に西暦2236年。

 

 地球・ガミラス連合と、白色彗星帝国の熾烈極まる戦争から数十年。

 時間断層を維持するか、放棄するかの国民投票は、断層維持派が勝利して久しい。

 

 来たる新たな侵略者に備え、地球連邦は軍備を増強。

 時間断層工場は第7層まで開拓され、内5層が艦船・兵器工廠。

 残った2層でかつてG計画と呼ばれた、ヒューマノイド開発計画が進行していた。

 

 ガルマン・ガミラスとボラーの戦争に介入を企てる地球は、時間断層をフル稼働。

 乗る人間などいない、船だけが吐き出される毎日。

 

 そんな中で、1人の連邦軍人が艦の自室でため息をついていた……。

 

「本当に……、戦争になるんだろうか」

 

 地球連邦軍 宇宙海軍所属。

 今宮幸助(いまみや こうすけ)。

 

 階級は3曹で、地球と宇宙の平和を志して入隊した。

 

『間もなくワープに入る、ワープ後は戦場だ、各員戦闘配置のまま待機』

 

 1日3回が限度のワープを、既に6回……。

 今宮は思わずため息をついた。

 

「ガミラスだって、もう少しは乗員をいたわるだろうに……。こういう任務こそ無人艦隊が役立つだろ」

 

 

 彼の乗る船の名は、『アークトゥルス』。

 アンドロメダ級宇宙戦艦の315番艦であり、最近では珍しい有人仕様。

 その艦隊の陣容は、

 

 

 ・アンドロメダ級宇宙戦艦1隻

 ・BBB級無人前衛航宙艦8隻

 ・ヒュウガ級戦闘空母15隻

 ・アスカ級強襲揚陸艦10隻

 ・ドレッドノート級宇宙戦艦40隻

 ・インディペンデンス級護衛艦20隻

 ・空間戦闘機900機

 

 完全編成の打撃艦隊だ。

 しかも、大半の乗組員は行き先も任務も知らない。

 既に地球を離れて5日、次のワープで答えを知りたいところだった。

 

 ––––ドンッ––––

 

 軽い揺れと同時に、眩暈。

 ワープが終了したのだ。

 同時に、けたたましい警報が鳴った。

 

『レーダーに艦影確認、戦闘班は指定の配置につけ!!』

 

 ちょうどシフトの交代も重なった。

 床を蹴って、そのまま艦橋へ。

 戦術長と交代し、砲術席へ腰を落とした。

 

「……すまない」

 

 戦術長の残した言葉が、妙な感触を与えた。

 

「艦種識別! アーコフ型戦艦1、カーシャ型火力投射艦15、クロトガ型標準戦艦40、アマンガ型ミサイル戦艦40!!」

 

 レーダー員の若い女性隊員が、素早く読み上げた。

 

「機先を制する、拡散波動砲発射用意!!」

 

 艦長の言葉に、今宮は思わず振り向いた。

 

「艦長! ボラーに攻撃するのですか!?」

 

「そうだ、今より本艦隊の任務を伝える」

 

 アラートが鳴り、艦内が一気にヒリつく。

 

「我が艦隊の任務は、惑星破壊ミサイルを製造するボラー軍需工場の破壊だ。たった今、連邦政府により宣戦布告が通達された」

 

「ボラーと……戦争」

 

「そうだ、……言いたいことはわかる。だが我々は軍人だ、口より先に手を動かすぞ」

 

「りょ、了解!!」

 

 慌てて席につき、波動砲のトリガーを引き出す。

 敵艦隊も気づいたのか、警戒しているようだ。

 距離にして1天文単位。

 

 光速より速く飛翔する波動砲なら、確実に仕留められる距離だ。

 ついに……、ボラーと戦争。

 

「ターゲットスコープ、オープン。電影クロスゲージ明度20。射角固定。艦隊連動!!」

 

 旗艦『アークトゥルス』に倣って、艦隊が拡散波動砲の発射体勢に入る。

 

 波動砲––––正式名称“次元波動爆縮放射器”。

 射線上に余剰次元を過剰展開し、本来の力を取り戻した重力によってマイクロブラックホールを形成。

 そのホーキング放射を利用した、タキオンバーストを浴びせる惑星破壊兵器。

 

「ボラー艦隊、回避運動!!」

 

 余剰次元の展開を探知したボラー艦隊は、すかさず回避へ。

 しかし、既に遅かった。

 

「拡散波動砲––––発射ッ!!!」

 

 宇宙に青白い閃光が走った。

 空間の引き裂かれる音が響き、発射された波動砲は螺旋を描きながら飛翔。

 ある地点でその二重螺旋が合流すると、波動砲は文字通りシャワーのように拡散した。

 

 

 ……一瞬だった。

 威容を誇ったボラー艦隊は、なんの抵抗もできずに拡散した波動流に叩き潰された。

 かつて、ガトランティスの第7機動艦隊約250万隻を、一時的にとはいえ押し返した戦略兵器だ。

 波動砲が通った後には、戦艦だった焦げた残骸しか残らなかった……。

 

「……っ」

 

 引いた、自分が……波動砲の引き金を。

 訓練でしか経験しなかったそれを、今……実戦でやった。

 奪った命は何人、いや何百だ?

 そんな思考が今宮の脳裏によぎった時。

 

「敵艦隊排除、これよりプラー星系第3惑星の軌道上に展開する」

 

 艦長は、努めて冷静だった。

 その声で現実に引き戻された今宮は、汗をかきながらも波動砲のトリガーを収めた。

 

「第3惑星フォローに到着、艦隊。衛星軌道上に展開します」

 

 波動エンジン搭載艦にとって、星系内の移動は一瞬だ。

 だが、これから何をするのかと思った矢先––––

 

「これより、フォロー星首都に対し、軌道爆撃を開始する。対地戦闘用意!」

 

「ッ!!!」

 

 今宮は席を立ち、艦長を睨んだ。

 

「首都には民間人がいます! ここから砲撃なんてすれば、無差別になります!!」

 

「……言いたいことはそれだけか?」

 

「ッ!!!」

 

 衿を正した艦長は、口調を変えずに続けた。

 

「首都には軍需工場が隠蔽されている、既に退避勧告は出した。これでまだ残っている人間は戦闘員と定義される。戦時国際法上では爆撃も合法だ」

 

「詭弁です!! 退避勧告に従う人間が、一体––––!!!」

 

 そこまで言ったところで、今宮は気づいた。

 

「その理屈のために……、わざわざ本艦1隻を有人艦で……!!」

 

「今宮3曹、ここで取り逃がせばいつ地球に惑星破壊ミサイルが降ってくるかわからない。これは自衛の範疇だ」

 

「自衛……」

 

「一度だけ言う……席に戻れ。仕事をしろ。これが“今の”地球のやり方だ」

 

 まるで“調律”されているかのようだった。

 もしここで自分1人が抵抗しても、艦隊が止まることはない。

 今ようやく、シフトを変わった戦術長の謝罪の意味がわかった。

 

「一体いつから……、地球は選択を誤ったんだッ」

 

 艦隊の主砲が旋回し、惑星の首都へ向けられた。

 

「もしあの時、別の選択をしていたら……!!」

 

 魚雷発射管が開き、弾頭が装填された。

 

「これが……、その結末なのか!」

 

 首都に、青色の死が降り注いだ。

 地球軍は軌道上からショックカノン、三式融合弾、対地ミサイルでもって攻撃。

 ヒュウガ級からは、数百機のコスモタイガーⅡが発艦。

 大量のミサイルを都市に浴びせ、機銃掃射を繰り返した。

 

 惑星には軌道砲撃用の砲台があったが、その反撃も波動防壁の前には無力。

 

 ––––ドゴンドゴンッ––––!!!

 

 ドレッドノート級が、隊列を組んで三式弾を連続発射していた。

 3つある砲身を、2門が撃てば1門が装填、1門が撃てば2門が装填する交互撃ち方。

 口径が小さい護衛艦は、陽電子衝撃砲を連射していた。

 

「……」

 

 軌道上からでも、首都が赤く染まっているのはハッキリ見えた。

 あの向こうで一体何人が……。

 

「考えるな、今宮」

 

「ッ!!」

 

 振り向けば、艦長はただ真っすぐ正面を見ていた。

 

「我々は……、どこで選択を間違えたんだろうな」

 

 その言葉に、今宮は返答できなかった。

 する必要が無かったと言えば良いだろう。

 いつ、どこで。そんなの皆分かってる。

 

 もしあの時、国民投票の結果が逆だったなら……。

 ひょっとすると、違う未来があったのかもしれない。

 

 だが、選択は既に決定されていた。

 

 

 

 

 

 ––––後に、この地球の奇襲攻撃は第一次銀河大戦の引き金として記憶された。

 血で血を洗う、銀河中を巻き込んだ戦争は、この先数百年に渡って続くこととなる。

 

 そして、土星沖の空間は……静かに軋み始めていた。

 後世は後にこれを、“暗黒の千年史”と呼んだ。

 


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