スキル『日本』。初期は『勤勉になるだけ』のゴミだったが、開花するにつれ、ゼロ戦、忍者、和食、台風……いくらなんでも強すぎて、みな頭を抱えてる‐センエース‐ 作:閃幽零
16話 さらば敵よ、撃ちまくる船は、浮遊戦艦ヤ~マ~ト~
動き出した鉄の船を見て、カバノンは、
「……っ! 魔導兵団! 障壁を――」
とっさに号令を飛ばした。
だが、その声は、最後まで続かなかった。
――ドォオオオオオオンッ!!
空が、割れたかと思った。
砲口から噴き出した炎が、一瞬、船体の半分を隠すほどに膨れ上がる。
遅れて届いた衝撃波が、平原の草を、一斉になぎ倒した。
次の瞬間、
連合軍の隊列の真ん中に、巨大な火柱が立ち上った。
地面ごと、兵がめくれ上がる。
鎧も、盾も、馬も、人も、区別なく、土砂と一緒に空へと巻き上げられていく。
たった一発の着弾で、数千の兵が、跡形もなく消し飛んだ。
「ずがぁあああ!!」
「ひぎぃいいいい!!」
巻き上げられたものが、ばらばらと降ってくる。
土の塊。
ひしゃげた兜。
誰かの、腕。
二発目、三発目が、立て続けに着弾した。
撃っているのは、前方の砲塔だけではない。
後方の砲塔も、側面に並んだ小さな砲台も、一斉に火を噴いた。
船体の至るところから突き出した細い筒からは、光の尾を引く弾丸が、雨のように降りそそぐ。
ドォン! ドォン! ドドドドドドドッ!!
平原は、地獄に変わった。
「ぎゃあああああ!」
「逃げろ、逃げろぉお!」
「どこへ逃げるんだ! 空から撃ってくるんだぞ!」
騎兵の馬が、狂ったように暴れ出す。
主を振り落とし、逃げ惑う歩兵を、次々と踏みつぶしていく。
魔導兵の一団が、とっさに円陣を組み、障壁を何重にも張った。
だが、淡い光をまとった砲弾は、その光の膜を、薄氷のように突き破った。
円陣ごと、地面がえぐれる。
それを見ていた魔導兵団長が、真っ青な顔で、
「ばかなぁ! ランク9の結界だぞ!? 王族の魔法すら拒絶する壁で……なんで止まらないぃい!」
ドーンの将軍の一人が、馬上で剣を抜き、空へと切っ先を向けた。
「撃ち落とせぇ! あんなもの、ただの鉄の塊だ! 雷槍ランク8!」
雷の槍が、うなりをあげて空を駆け上がる。
周りの魔導兵たちも、次々と、炎と氷を撃ち上げた。
だが、そのすべてが、船腹に届く寸前で、見えない壁にぶつかったように砕け散った。
船腹の手前で、閃光と火花が弾ける。
――光が、おさまった時、
船体には、焦げ跡ひとつ、ついていなかった。
「……はぁあ!?」
将軍の顔が、驚愕にゆがむ。
本陣から、その光景を見上げていたカバノンも、息をのんでいた。
(まさか……あの城と同じように……魔法障壁が? ……だ、だとしたら……いったい、どうすれば……堀か? 堀を埋めればいいのか? これほどの砲撃のなか、どうやって堀を……いや、そもそも、城の堀を埋めたからといって、船の障壁が消えるものなのか……)
答えなど、出るはずもなかった。
船は、何事もなかったかのように、砲塔を、わずかに旋回させた。
ちょうど、将軍のいるあたりへと。
「ま……待て――」
気が狂うような轟音。
名状しがたい閃光。
――将軍のいた場所には、もう、何もなかった。
ドーン軍の先頭近く。
ついさっき、一個大隊で足りると笑っていた古参兵が、地面に這いつくばって、土をかいていた。
「なんだ、これ……兵が1000しかいない国だって……楽勝の掃討戦だって……そう言ってたじゃねぇか……話が違――」
その声も、土煙に飲まれた。
★
本陣も、もはや、本陣の体をなしていなかった。
「第三、第四大隊、壊滅!」
「属国の部隊が、勝手に後退を始めています!」
「止めろ! 逃げる者は斬れぇ!」
「斬る側も逃げております!」
カバノンは、馬上で、空を見上げたまま、動けなかった。
丸眼鏡に、砲口の閃光が、何度も映り込む。
そのたびに、平原のどこかで、何千という兵が消えていく。
(……ハッタリでは……なかった……)
積み上げてきた兵站《へいたん》の計算も。
何度も練り直した包囲の段取りも。
ミシャ王女を投降させるための、言葉の一手も。
そのすべてが、砲声ひとつで、紙くずのように吹き飛んでいく。
空から一方的に撃ち下ろされる砲弾から、逃げられる場所など、どこにもない。
100万の軍勢は、もはや、軍勢の形をなしていなかった。
カバノンは、こぶしで、自分の太ももを殴りつけた。
痛みで、頭の芯が、わずかに冷える。
「障壁を重ねろぉ! 生き残った魔導兵は、すべて本陣へ集まれ! 将軍の周りを固めるのだぁ!」
拡声の魔法に乗った怒声が、悲鳴と轟音を突き抜けて、平原に響き渡った。
ばらばらに逃げ惑っていた魔導兵たちが、その声に引き寄せられるように、本陣へと駆け込んでくる。
一人では紙のように破られる障壁も、数百人で重ねれば、話は違う。
魔導兵団が、血を吐きながら、何重もの障壁を張る。
カバノンとゼイ、そして将軍たちの頭上に、分厚い光の天蓋《てんがい》が広がった。
砲弾が、天蓋に叩きつけられる。
パリンッ、パリンッと、障壁が立て続けに割れていく。
「止まらんっ……!」
「張れ! 張り続けろぉ!」
十枚近くを砕かれて、ようやく、砲弾が止まった。
割れた端から、魔導兵たちが、障壁を張り直していく。
将軍たちは、その下で、かろうじて生き延びていた。
だが、天蓋の外にいた兵たちは、そうはいかない。
――やがて、砲撃が止んだ。
土煙が、ゆっくりと風に流されていく。
カバノンは、障壁の下から、平原を見渡した。
穴だらけだった。
あちこちに、巨大なすり鉢状のくぼみがうがたれ、その周りに、数えきれない兵が転がっている。
「……被害は」
かすれた声で問うと、側近が、おびえきった声で答えた。
「わ、わかりません……ですが、少なく見積もっても……20万は……」
「……20万……」
手綱を握るカバノンの指が、かすかに震えた。
その隣で、ゼイが、空を見上げたまま、低くつぶやいた。
「……まだだ」
「え?」
「まだ、終わっていない」
ゼイの視線の先。
空に浮かぶ船の、最前部。
巨大な刃のように尖った船首に、光が、集まり始めていた。
はじめは、ろうそくの火ほどの、小さな光。
それが、みるみる膨れ上がっていく。
青白い光の渦が、船首を中心に、ぐるぐると巻き込むように集まっていく。
空気が、うなった。
肌が、ひりついた。
障壁を張る魔導兵たちの顔から、血の気が引いていく。
「な、なんだ、あの魔力量は……」
「ありえない……宮廷魔導士を1000人集めても、あんな……」
その時、船から、声が響いた。
「魔力エネルギー、充填完了《じゅうてんかんりょう》……発射マデ、3……2……1……」
平原の隅々にまで、はっきりと届く声。
そして、
「――異次元砲《いじげんほう》、発射シマス――」
船首から、光が、放たれた。
青白い奔流《ほんりゅう》が、一直線に、平原を貫いていく。
音は、なかった。
あまりにも巨大な力は、音すら置き去りにする。
光は、何重にも張られた障壁に触れた。
そして、まるで、そこに何もなかったかのように、すり抜けた。
砲弾を十枚がかりで受け止めた天蓋が、一枚の抵抗も見せなかった。
障壁を張っていた魔導兵たちが、光に飲まれ、輪郭ごと、ほどけるように消えていく。
その後ろにいた兵たちも。
そのさらに後ろにいた兵たちも。
光の通り道にあったすべてが、平原から、消えた。
――やがて、光が途切れた。
平原には、地平の果てまで続く、一本の、黒く焼けた道が刻まれていた。
カバノンは、馬上で、凍りついていた。
頭上の障壁は、跡形もない。
周りを固めていた魔導兵も、いない。
自分が生きているのは、ただ、光の通り道から、わずかに外れていたからにすぎない。
「……ひ……被害は……」
問いかけた声に、答える者はいなかった。
側近も、もう、そこにはいなかった。
――この日。
開戦から、わずか一刻足らず。
デカール・ドーン連合軍100万のうち、およそ50万が、平原から姿を消した。
★
ふいに、空の船が、揺らいだ。
巨大な鉄の船体が、輪郭から、淡い光の粒になってほどけていく。
あとには、雲ひとつない空と、城だけが残っていた。
平原は、静まり返っていた。
生き残った兵たちは、誰一人、声を出せずにいた。
大半が、焼け焦げた一本の道の向こうを、ただ、呆然と見つめている。
武器を取り落としたまま、その場にへたり込む者も少なくなかった。
レベル100を超える将軍たちですら、顔から血の気が引いていた。
剣の柄を握ったまま、その場に立ち尽くしている。
ゼイは、焼けた道を見つめたまま、奥歯をかみしめていた。
(し……信じられん……まさか、ロスも、あの船の砲撃にやられたのか……だとしたら、ジョカはなぜ、報告書に書かなかった……まさか、謀《はか》ったか、ジョカ……)
頭の中が最悪の想定でぐるぐるまわる。
ゼイは、小さく首を振った。
今は、それを考えている場合ではない。
(対応を……対応をしなければ……し、しかし……ぁ、あんなもの……どうしろというのだ……)
ゼイの背筋を、冷たいものが這い上がった。