スキル『日本』。初期は『勤勉になるだけ』のゴミだったが、開花するにつれ、ゼロ戦、忍者、和食、台風……いくらなんでも強すぎて、みな頭を抱えてる‐センエース‐ 作:閃幽零
17話 カバノン主席の言う通りだ! 船は、もういない!
50万の兵を失い、平原には、絶望が満ちていた。
このまま軍が瓦解しても、おかしくない。
しかし、そこで、カバノンが、
「全軍、ひるむなぁああ!」
平原に、声を轟かせた。
軍服は土にまみれ、丸眼鏡には、ひびが入っている。
それでも、カバノンは、馬上で背筋を伸ばし、拡声の魔法で、声を張り上げていた。
「空を見ろ! あの船は、もう消えた!」
兵たちが、のろのろと顔を上げる。
「各隊、隊列を組み直せ! 負傷者は後方へ下げろ! 生き残った魔導兵は、将軍のもとへ集まれ!」
矢継ぎ早に飛ぶ指示に、兵たちの体が、半ば反射的に動き始める。
考えるより先に、手足を動かさせる。
恐怖に飲まれた兵を立て直す、何より確かなやり方だった。
(敗戦の将になど、なってたまるかぁあ! クソを漏らさせられ、鼻で笑われ、デカールやフーマルまで巻き込んで、100万を引き連れて……それで、1000相手に敗走だとぉお?! ありえるかぁあああ!)
実際には、あの場でカバノンを笑った者など、一人もいなかった。
だが、自分が去ったあとで、腹を抱えて笑っているに決まっている。
そう信じて疑わないのは、自分なら、間違いなくそうするからだ。
カバノンは、さらに声を張り上げた。
「敵は、たかだか1000だ! ここで足を止めれば、死んだ者たちは、ただの犬死にになるぞ!」
ゼイは、思わず、カバノンの横顔を見つめた。
側近を失い、50万の兵を失い、自分も死の淵をかすめたばかり。
それなのに、丸眼鏡の奥の目は、少しも濁っていなかった。
(これほどの打撃を受けて、それでも目に宿る炎に、かげりがない……すさまじい胆力だ……私も、見習わなければならんな……)
ゼイは、深く息を吸い込んだ。
そして、馬の腹を蹴り、カバノンの隣に並ぶと、腹の底から声を張り上げた。
「カバノン主席の言う通りだ! 船は、もういない!」
かつて、謁見の間を震わせた、あの太い声。
レベルは落ちても、その声の芯だけは、失われていなかった。
「よく考えろ! あれほどの力を無制限に使えるなら、セファイラは、とうの昔に、この大陸を手に入れている! あれは、おそらく……いや、確実に一度きりの切り札だ! もう二度とは撃てん!」
ゼイは、剣を抜き、城へと切っ先を向けた。
「我らは、まだ50万いる! 向こうは、城にこもった1000だけだ! 恐れず進め! 正義は我らにあり!!」
一拍の沈黙。
やがて、どこからともなく、声が上がった。
「……そ、そうだ……あの変な船は、もういない……」
「まだ、50万いるんだ……」
「総大将は、二人とも無事だぞ……!」
「魔導兵団だって、まだ大勢残ってる!」
ばらばらだった声が、少しずつ、ひとつに重なっていく。
「進め……進めぇえ!」
「死んだ仲間の仇をとれぇえ!」
「正義はわが軍にありぃいいい!!」
震えていた将軍たちが、剣を握り直す。
へたり込んでいた兵たちが、一人、また一人と、立ち上がっていく。
完全に立ち直ったわけではない。
恐怖は、まだ、兵たちの顔にこびりついている。
それでも、50万の軍勢は、再び、城へと向かって動き始めた。
カバノンとゼイの指揮は、ロスのそれとは、出来がまるで違った。
「第一から第十大隊、東側の堀へ! 土魔法の使い手は前列、盾兵はその頭上!」
「デカール軍は西側を受け持つ! 土を運ぶ者は三列で回せ! 列を崩すな!」
二人の号令が飛ぶたびに、50万の兵が、ひとつの生き物のように動いた。
障壁が、何重にも張られる。
その下で、土魔法が地面を盛り上げ、作り出された土の塊が、次々と堀へ押し出されていく。
後ろからは、土嚢《どのう》を担いだ兵の列が、途切れることなく続いていた。
★
石垣の上で、センは、舌打ちをした。
「くそっ……ロスの時より、埋まるのが早ぇ……」
あれでは、どれだけ手裏剣を降らせても、埋め立ては止まらない。
(止めるのは無理だ……なら、作業してる連中を、一人でも多く削る)
センは、声を張り上げた。
「堀の縁《ふち》で作業してる連中を狙え! 障壁の切れ目を見逃すな! 片っ端から削れぇええ!」
狭間《さま》から、手裏剣とクナイの雨が降りそそぐ。
石垣の中から現れた忍者兵が、堀の縁にいた兵を斬り捨て、再び石の中へと消えていく。
口寄せの獣たちも、大いに暴れた。
堀の水面が、ぼこりと盛り上がる。
水中に潜んでいたガマが、巨大な舌を伸ばし、土嚢を運んでいた兵を、まとめて水の底へ引きずり込んだ。
石垣の隙間からは、白い蛇が、音もなく這い出してくる。
敵の障壁の内側へ滑り込み、土魔法の使い手の首に、牙を突き立てた。
出城の門からは、若手のユーセーとシグレが、分身と獣を連れた忍者兵を率いて飛び出していく。
炎をまとった狐が、敵の列の中を駆け抜け、
雷をまとった犬が、混乱した兵の喉笛に食らいつく。
ちなみに、ミシャは、本当は、この突撃部隊の先頭に立つつもりでいた。
当然、側近も重臣も、全員が必死に止めた。
それでも、ミシャは聞かずに飛び出そうとしたので、最後はセンが、後ろから羽交い絞めにして、全力で押さえつけている。
「セン! 離しなさい!!」
「レベルが上がって一番よかったのは、このドスファンゴを、どうにか力ずくで止められるようになったことだな……」
★
激しい戦いが続く。
セファイラの忍者兵は、死力を尽くした。
しかし、敵の数が、あまりに多すぎた。
「ぐぁっ……!」
「すまん、ここまでだ……っ」
城の外へ打って出た忍者兵が、一人、また一人と、槍に貫かれて倒れていく。
(……もう、100人近く死んでる……)
センは、奥歯をかみしめた。
(千本桜は、まだ使うわけにはいかねぇ。使うなら、いったん全滅してから……っ! くそ、正直、きつい……ヤマトがもう一回使えればなぁ……もしくは、なにか、ほかの――)
その時、世界の声が聞こえた。
――究極超スキル2『十六夜・百鬼夜行』が拡張進化。
――進化スキル『十六夜・百鬼夜行/精霊馬《しょうりょううま》』を獲得!!
効果:戦場で命を落とした馬たちは、神に仕える霊馬《れいば》へと昇華する。レベル70相当。その中のいくらかに、力を貸してもらえるよう願うことができる。攻撃されても傷は負わないが、そのぶん霊気が削られていく。尽きれば一時的に天へ還《かえ》るが、一日たてば、再び降りてくる。
注意:霊馬は、もはや神の眷属《けんぞく》であり、その気高さは、生前とは比べものにならない。少しでも雑に扱えば、容赦なく蹴り殺される。
(……死んだ馬たちが、神様の馬になって……その一部が、手を貸してくれるってことか……元ネタは、盆のきゅうり馬かな……てか、最後の一文、こわすぎだろ……プライドの高い神様の馬って……接し方、間違えたら即死……ま、まあ、いいけど……うちの兵隊で、馬を雑に扱うバカはいねぇし)
センは、平原を見下ろした。
(……こい!! 十六夜《いざよい》・百鬼夜行《ひゃっきやこう》!!)
――平原の空気が、ぞわりと変わった。
穴だらけの平原の奥。
砲撃の跡に転がっていた亡骸が、黒い煙となって、鎧の隙間から立ちのぼる。
亡骸ひとつ残らなかった焼け跡からも、同じように、黒い煙が湧き上がっていく。
煙は、すぐに、空気に溶けるように見えなくなった。
姿を消したまま、50万近い妖怪たちが、敵陣の中を、静かに這い進んでいく。
(そして! きてたもれ、精霊馬《しょうりょううま》!!)
倒れていた軍馬たちの亡骸からは、青白い光が立ちのぼった。
光は、ゆらりと馬の形をとり、そのほとんどが、静かに天へとのぼっていく。
その中で、2000頭ほどの霊馬が、地上にとどまり、センのほうを振り返った。
ただ、そこに立っているだけで、背筋が伸びるほどの、気高い気配。
(……へ、へへ……残っていただき、すいやせんね! もしよろしければ、助けていただけやせんかねぇ? えへへ)
センが、心の中で、全力でもみ手をしながら、最大限ていねいに願うと、霊馬たちの半分が、透きとおった四肢で大地を蹴った。
蹄《ひづめ》の音もなく、敵陣へとなだれ込んでいく。
残る半分は、その場に静かにたたずんだまま、動かなかった。
まるで、乗り手が来るのを待っているかのように。
突撃隊の先頭で、ユーセーが、目を見開いた。
「な、なんだ、この馬……味方か!?」
センは、戦場に向かって、声を張り上げた。
「おそらく、協力してくれる、ありがたい守り神様のお馬様だ! こうべを垂れてつくばいながら、かしこみ、かしこみ、乗せていただきあそばせたまいたもう!! 言うまでもないが、絶対に雑に扱うな!!」
続けて、心の中で命じる。
(妖怪たちは一点集中……狙いは、最強のカバノンただ一人! 軍を立て直したあいつさえ潰せば、指揮が崩れる! 全力で呪え!!)