気づいたら月の住人になっていた件 作:新月
☆月・日
全国各地に水田稲作が普及したことにより、日本に弥生時代が到来したことをお知らせいたします。
俺らが縄文時代に降り立って何年経っただろうか。
数百年かもしれないし、あるいは数千年かも。そんな永い時を生きてきた。
不変の存在として、この世界に在り続ける。それは死ぬことよりもっと恐ろしく、過酷で辛いものであった───とかいう、物語上でよくある不死のデメリットといったものは特になかった。
だって、かぐやいたし。友達が隣にいるってのに、死にたがるヤツが何処にいるんだって話。
まぁでも、人間百年ぐらいが丁度いいなとは思った。
〒月▱日
俺たちは少しばかり大きな集落に身を寄せている。
人数は一五〇人程度で、川も近くて飲み水に困らない、なかなか良物件な場所だ。
俺たちはそこに浪人として居候させてもらってる。
とはいえ、普通は余所者を自分たちのテリトリーに入れるなど、普通はありえない。
何か特別な理由がなければならない───そう、例えば喋るウミウシがいるとか。
おそらく未来でも解明できないであろう喋るウミウシを古代の人々が見たらどうなると思う?
無論、理解できないものだとし、それはつまるところ“
はい、なんとかぐやちゃんは神様的な扱いです。
そんで俺は神の側付きだと思われてます。
いやはや、かぐやがウミウシになってくれたメリットがこんなところに出てくるとは。人生とは分からないものである。
×月ゞ日
かぐやはゲリラでコンサートを開催する。
集落の人たちからは大好評。感動しすぎて涙を流すヤツもいた。
とか言う俺も、彼女の歌が好きな人間の一人だ。彼女の歌には精神的セラピーがあるのかもしれない。
かぐやは歌を歌い終わると、必ず俺に「どうだった?」と確認してくる。まるで褒められ待ちの犬のようだ。
何故、俺にばかり確認を取ってくるのか分からないが、毎度「最高だった」と言っている。
【月】日
お世話になっていた集落が滅んだ。原因は人間と人間の争いである。
いつの間にか鉄の武器手にしてたし、なんだか一気に時代が動いた感がある。見てないだけで青銅器とかもあったのかな。
誰もいないかつて集落だった場所で、二人で死者を弔った。
何百回と経験してきたことだが、知人の死顔を見るのは慣れやしないな。
〻月♭日
遥か遠方の地で、超巨大なクニが出現したと風の噂で聞いた。
噂になっている場所は、以前まで大規模な内戦が行われていた場所だ。だから近づかなかったが、知らぬ間に状況が一変したらしい。
その集落は、規模、人数、戦力、その全てが規格外。
例えるなら、今まで安定していたソシャゲの環境にチートキャラが放たれたことで、全てをぶっ壊すような。そんな集落が現実で起こっている。
かぐやも気になっているようだし、せっかくだし見に行ってみようか。
¥月∧日
旅すること数ヶ月。とうとう噂のクニを発見した。
えー、やばいですね。あまりに完成されすぎてる。というか、数ヶ月前よりもさらに拡大してるし。
なに?宇宙人の介入でもあったんすかね?
場所は……多分、感覚的に畿内か九州あたりだと思う。
というかデカすぎやね。主人が住んでいるであろう宮殿が全く見えませんわ。
これも風の噂だが、このクニを治めているのは、なんと呪術を扱う女王とのことだ。内戦を収めたのも彼女であるらしい。
呪術……本物か偽物か。どちらにせよ、こんな大規模な集落を統治できる豪傑だ。一度お目にかかりたいものだ。
!月⌘日
集落に入ることができた。
あぁ、今回は裏口からの侵入などではなく、ちゃんと正面入り口から入らせていただいた。
美声を轟かせるウミウシとかいう色モノを無視などできなかったようだ。
では早速女王との謁見を!──と、そうトントンに話は進むわけもなく。多忙な女王と会うには、事前にアポが必要のようだ。
だが、
ちなみに、女王の名前は卑弥呼というらしい。知人でもないのに、すごく聞き馴染みのある名前だ。
……………え?卑弥呼???
」月《日
まさか歴史の教科書に登場する偉人と出会う日が来るとは……
変に緊張してるもんだから、かぐやに心配されてしまった。
さて、卑弥呼──いや、卑弥呼さんとの初邂逅を果たしたわけだが………普通にいい人だった。
最初は喋るウミウシを見て驚いていたが、コミュ強かぐやによるパーフェクトコミニュケーションにより、すぐに仲良くなってた。
ついでに前まで暮らしてた集落が滅亡して、現在宿無しで困ってることを伝えたら、気が済むまで集落に居ていいと言ってくれたし……美人な上に慈悲深いのかよ。そりゃみんな着いてきたがるわ。
∞月…日
今日は卑弥呼さんの弟さんと勝負した。
なんでも、まだ余所者である俺らのことを認めていないらしい。
この集落の執政は──もうあれだから、先んじて邪馬台国と呼称する──卑弥呼さんと弟さんの二人三脚で執り行っているらしい。
実務はほとんど弟さんがやっているとか。なるほど、そりゃしっかり者になるわ。
勝負内容は───かけっこだ。
弟さんは剣術勝負をしろとか言って、マジもんの剣だしてきたから、すぐに却下してやった。
いやはや、この時代は本当に血生臭くて参っちゃうよね。これ以上かぐやの前で血を見せたくないんだよ、俺は。
かけっこ勝負の結果は、俺の圧勝だった。
そりゃそうだろと。宇宙人+相手は実務担当なんだぜ?負けたらやばいでしょ。
完敗した弟さんは、次回のリベンジを誓った後、握手して潔く帰って行った。
なんか……彼とは長い付き合いになりそうだ。奇妙な友情を感じる……
そのことを伝えると、かぐやがポツリと「男の子って単純だよね〜」と呟いたが……そんな単純ではないことを心込めて伝えたい。
◇月」日
今日は卑弥呼さんにお呼ばれして、宮殿で宴会をした。
卑弥呼さんはほとんど宮殿の外に出ない。そして、外部の人間を宮殿に入れたことも一度もないという。
弟さんから「相当気に入られてるようだな」と言われた。まぁ、気に入られてるのはかぐやの方だろうけど。
宴会だし、折角なので、ウチの自慢の歌姫によるコンサートを開催してあげた。
やはり大好評。千人のうち約九割が泣いていた。我が友達はセイレーンか何かだったのだろうか?
◉月◉日
今日は卑弥呼さんに呼ばれて、呪術を見せてもらった。
どうやら俺が以前から呪術に──卑弥呼さん曰くに鬼道──興味を持っていたことを知ったらしく、折角ならと、ご厚意に甘えて見させてもらった。
呪術……本当にすごかった。
彼女は神霊の言葉を聞けるらしい。神霊は何でも知っているから、俺しか知らない情報も筒抜けにされてしまった。
まぁ、今更宇宙人だと知られても痛くも痒くもないんだけどね。だって喋るウミウシいるし。卑弥呼さんもそんな感じだった。
だが、鬼道の真髄はそれだけではない。彼女が最も得意とした分野は占いだ。
これから起こるいいこと、悪いことを、鬼道を通して知り、国難を幾度も回避してきたらしい。的中率は驚異の100%。恐ろしいね。
ついでだし、俺の未来を占ってもらった。………答えてくれなかったけど。
そう易々と未来は教えられないのか、はたまた別の理由で教えられないのかは分からないが、とりあえず今日のところは納得して帰った。いつか聞けるといいな。
♀月√日
今日はかぐやとピクニックに出かけた。今日は天気が良かったし、久しぶりにどうだろうと誘った。
思えば、地球に来てから、こんなにまったりした日々を送ったことはなかったような気がする。
こうしてかぐやと一緒に昼寝できるのも、卑弥呼さんや弟さんのお陰だ。彼らには今度改めて感謝を告げよう。
△月仝日
金印!?金印金印金印金印金印金印!!!
スッゲー!本物!?初めて見た!
あの金印だ!ちゃんと『親魏倭王』彫られてる!やっべー!スッゲー!
かぐやは意味不明そうに「そんなにすごいの?」なんてのたまうモンだから、金印の凄さを語ってやった。
金印はな……金印はな……金で出来た印鑑なんだよ!カッコいいよな!?弟さんもうんうん頷いてるぞ!
………なんか女性陣お二人が引き気味だったのが気になったが、まぁいいだろう!
£月○日
卑弥呼さんが病に冒され床に臥した。
原因は、老化にともなう病気の併発。呪術を扱える彼女といえど、老いには勝てなかったのだ。
感染の危機があるため、個室に隔離され、側近以外誰も近づかなくなった。
俺たちは病気とかならないので普通に看病しに行ってるけどな。
顔を見せると嬉しそうに笑ってくれるので、此方としてもすごく嬉しい。
§月ー日
もう間も無く死期が近い。何となく、そんな気がする。
最期にやり残していることはないか。できるなら叶えてやりたい──そう尋ねるも、大抵何もないと返ってくるのでどうしようもなかったが。
だけど、今日に限っては違った。
彼女の願いとは──明日、俺だけで彼女のもとに来て欲しい、といったものだった。
……よく分からないが、それが卑弥呼さんの望みなら従うまでだ。
☆★
「失礼します」
「あぁ、来ましたか。すみません、お呼びだてしてしまい……本当ならかぐや殿の側にいたいでしょうに」
「そんな一日中一緒にいたがってるみたいな言い方やめてくれませんかね……」
「違うのですか?……まぁ、この際いいでしょう」
「さぁ此方へ」──そう手招きされて、彼女の意思のままに赴き、床に着く彼女のそばで鎮座する。
「………今回、来ていただいたのは他でもありません。数十年前、サク殿が見てほしいと依頼した占いのことです」
……あぁ、確かに以前見てもらったっけ。すっかり忘れてた。でも、結果は教えてくれなかったよな?
まさか、あの日の答えを言い損ねていたのが、唯一やり残していたことだったのか?
なんて律儀な人なんだ。一周回って恐ろしいぐらいだ。
「……本当なら、あの場で伝えておかねばならなかったのです。神託が、そうお告げになっていたので」
「神託が?」
「えぇ………ですが、あの日、あの時見た未来を、あなたにお伝えすべきかどうか、ずっと悩んできました。妾ですら解釈の難しい未来でした。ですが、もし妾の解釈通りであるならば……あんな未来、あまりにも───」
あまりにも───その先の言葉は紡がれなかった。
だけど、何かを必死に堪えるような、悲哀に沈んだ表情が、かえってその先に続く言葉を雄弁に物語っているように思えた。
「……ですが、それは妾が決めるものではなく、サク殿が決めること。どれだけ残酷な未来が待ち受けていようと、あなたなら……」
「だから」──そう言って、俺の額に人差し指を当て、小さく息を吐いた。
『彩葉!プロデューサーになって、一緒にヤチヨカップ優勝しよう!』
『決めた!自分でハッピーエンドにする!そんで、ハッピーエンドまで彩葉も連れてく!一緒に!』
「────これ、は……」
「……今、妾が見た未来を、サク殿の脳内に送りました。今はまだ断片的なものしか見れないでしょうが、いつか全てを見れるはずです。……口頭で伝えられれば良かったのですが、もうそんな時間は残されていません。だから……ゴホッ、ゴホッ」
「ッ、分かりました、ありがとうございます。だから今は安静に……」
走馬灯のように、刹那で流れ見た景色。
かぐやと、見知らぬ少女が和気藹々としている光景を見た。
これがかぐやが歩む──いや、
何か重要なことを見落としている──そんな気がしてならならなかった。
「……ひとつ、約束して下さい。何があっても、必ず側にいると。必ず、幸せにしてみせると」
風前の灯とは思えないほど力強い眼。見られるだけで臆してしまいそうな覇気。それらを一身に受けてなお、俺の答えは変わらない。
「──もちろん」
「…………………よかった。えぇ、本当に」
一拍を置いて、彼女は微笑んだ。
その時、彼女の表情には、心からの安堵が滲んでいた。
翌日、卑弥呼さんは息を引き取った。
まるで心の憂いを全て晴らしたかのように、その死顔は穏やかで、晴れやかだった。