獣が最後の突進を仕掛けてきた。
地面が揺れ、落ち葉が舞い上がる。
ラウは逃げなかった。
ぎりぎりまで引きつける。
相手の右肩が動いた瞬間、身体を低く沈めた。
獣の巨体が頭上をかすめる。
ラウは進路の外側へ回り込み、踏み込んだ脚を軸に身体をひねった。
「そこだァッ!!」
全身の体重を拳へ集中させる。
【狼牙突(ろうがとつ)!】
拳が獣の肩口へ叩き込まれた。
ドンッ!!
鈍い衝撃が森に響く。
獣の巨体がよろめいた。
ラウは止まらない。
続けて腕の動きに関わる箇所へ精密な打撃を入れ、前脚の踏ん張りを崩す。
ノッキングを応用した連続攻撃。
獣は体勢を崩し、地面へ膝をついた。
それでも、完全には倒れない。
獣は唸りながらラウを見上げた。
ラウは息を切らしながら、拳を下ろした。
「……よし。もう十分だ」
獣はしばらくラウを睨んでいたが、やがて身体を起こし、森の奥へと姿を消した。
ラウは追わなかった。
食材として興味はある。だが、必要以上に傷つける理由はない。
「いやぁ……強ぇ奴だったな!」
ラウは肩をさすりながら笑った。
「次に会ったら、もう少しうまく戦えそうだぜ!」
そして、ふと地面へ目を向けた。
獣が掘り返していた場所に、いくつもの球根が転がっている。
ラウは一つ拾い、鼻を近づけた。
「……ん?」
香ばしい土の香り。
そこに、栗のような甘みを思わせる匂いが混じっている。
「お前、これを食ってたのか」
ラウの目が輝いた。
「まさか……こいつも食材なのか!?」
ラウは球根の状態を調べ、周囲に同じ植物がないか探し始めた。
地面から掘り出された球根は、表面が茶色く、ところどころに赤い筋が走っていた。割ると、内側は淡い黄色。包丁を入れた断面から、ほのかに甘い香りが立ち上る。
ラウは少量を加熱して確認した。
焚き火の上で球根が温まるにつれ、香りは一段と強くなった。
「おお……こりゃいいぞ!」
外側が少し焦げ、表面に焼き色がつく。
ラウは慎重に一口かじった。
ほくっ。
まず、ジャガイモのようなほっくりした食感が歯に伝わる。
その直後、栗を思わせる濃厚な甘みが広がった。
噛むほどに土の香りが抜け、最後には焼き芋のような香ばしさが口に残る。
ラウの目が見開かれた。
「……うめぇ」
一瞬の沈黙。
次の瞬間、彼は叫んだ。
「うめぇぇぇぇぇ!! なんだこいつ!!」
ラウは拳を握りしめた。
「外は香ばしくて、中はホクホク! 噛めば噛むほど甘みが増しやがる! 肉と一緒に焼いたら、絶対とんでもねぇことになるぞ!!」
彼は残りの球根を見つめた。
さっきまで戦っていた獣が、なぜこの植物を食べていたのか。
少しだけ分かった気がした。
強い身体を維持するための栄養が詰まっているのかもしれない。少なくとも、味は申し分ない。
「よし、こいつは持って帰ろう!」
ラウは球根を採取袋へ詰めた。
未知の食材は、必ずしも巨大な猛獣だけではない。
小さな植物にも、まだ知らない味が眠っている。
それを見つけることこそ、ラウの冒険だった。
夕暮れ。
ラウは小舟へ戻り、荷物を積み込んだ。
採取した球根。
奇妙な海藻。
そして、保管していた幻潮貝。
どれも、まだ知らない可能性を秘めている。
ラウは海を見つめ、満足そうに笑った。
「今日も大収穫だな!」
腹は満たされた。
身体には傷もできた。
それでも、次の島へ向かう気持ちは変わらない。
「世界には、まだまだ知らねぇ味がある。そいつを全部見つけるまで、俺の冒険は終わらねぇ!」
小舟は、夕陽に染まる海へ進んでいった。
一方、オレンジの町では、ルフィたちが道化の海賊バギーと対峙していた。
ルフィは海賊王への夢を掲げ、ゾロは剣士としての誇りを胸に戦う。
まだラウは、その戦いを知らない。
彼らが再会するのは、もう少し先のこと。
そしてその再会は、やがて一人の航海士を迎えに行く旅へとつながっていく。