「……というわけで、本日は園崎家地下祭具殿に鷹野三四さんをお迎えしております」
「なにがというわけなのかわからないけど、この拷問器具はとっても興味深いわぁ☆」
取り囲まれて磔状態にされても余裕の笑みを見せる鷹野さんがちょっと怖い。
「鷹野に訊きたいのは、簡潔に言うとこういうことなのです。『東京上層部の派閥争いが原因で入江機関と山狗が暴走して、女王感染者であるボクを殺そうとする計画が進行中ってマジなのですか?』……きりきり答えて欲しいのです、みぃ」
梨花ちゃんが鷹野さんの指を釘打ち台の金具に通しながら、にぱ~☆と笑顔で尋ねる。
「あらあら、どうしてそれを知ってるのかしら……オヤシロさまのお告げ?」
「まあそんなところなのです……って、あっさり認めちゃうんだっ!?」
鷹野さんは困ったような笑いを浮かべながら、事のあらましを俺達に語ってくれた。
「派閥争いに巻き込まれて資金難に陥った入江機関に監査の手が伸び、メイド服収集の資金調達のための予算着服という弱みがある監督が、隣国の息のかかった別派閥の誘いに乗って、雛見沢全村民の暴発による責任追及を目論んでいる、か……なるほどね」
魅音がいま訊いた話をまとめた。レナは首を傾げて、
「でもでも、鷹野さんの話だけで判断しちゃっていいのかな。……かな?」
「何を言ってますのレナさん、鷹野さんはその作戦を知って心を痛めてくださっていた、優しい方ですのよ! 疑うなんてとんでもありませんわ!」
鷹野さんと仲のいい沙都子が擁護する。話している間も心を痛めているという様子は微塵もなかったような気がするけど、健康診断でここにいる部活メンバー全員の柔肌を目撃し接触し妄想を膨らませたに違いないメイド好きの変態医師と、趣味嗜好はギリギリだけど妖艶美人でダイナマイトナースな鷹野さんのどちらを信用したいかといったら、断然後者に軍配があがってしまう俺は、最近嫁の羽入と平気で一緒に風呂に入るようになりつつもまだまだ煩悩に忠実な中二男子、前原圭一。
「そうだぜレナ。ここまで正直に話してくれたんだ、鷹野さんはもう俺たちの仲間だ!」
レナの肩に両手を置き、まっすぐに目を見る。
「俺たちは信じ合おう、二度と仲間を疑わない。互いに信頼し合おう。そして悩みを打ち明けあって、互いに助け合っていこう!」
「あれれ、なんだろ。なんだろ。レナ、どうしてだか信じたくなってきちゃったよ?」
ぐるぐる目を回して、まるで洗脳されたかのように虚ろに語るレナだった。
「あぅあぅ、圭一。それ、固有結界で実際に洗脳してるのです。接触距離での洗脳は強烈なのですよ……もともとレナは圭一萌えですし、こうかはばつぐんだ、なのです!」
羽入が解説してくれたが、レナも幸せそうだしとりあえず問題ないだろう(たぶん)。
「鷹野さん、俺達といっしょに監督の野望に立ち向かおう!」
俺が、沙都子が、レナが、魅音が、梨花ちゃんが手を重ね、鷹野さんへと差し伸べる。
「みんな……」
鷹野さんは差し出された5つの手をじっと見つめると、長い睫毛を震わせて言った。
「……できれば、拘束をはずしてからにしてほしいのだけど」
当然の要求だった!
……ともかく、こうして俺たちの立ち向かうべき敵ははっきりした。
梨花ちゃんを殺しこの雛見沢を恐怖のどん底にたたき落とそうとしている世紀の大悪人、その名は監督こと入江診療所所長、入江京介!
許せない……、健康診断で部活メンバー全員の柔肌を目撃し接触し妄想を膨らませたに違いないメイド好きの変態医師め、俺は絶対に許さない!
「2回言うななのです。あまり目に余ると、嫁として警告を発するのですよ圭一!」
心配しなくても大丈夫さ羽入、俺はあんな変態とは違う……お前と梨花ちゃんの柔肌さえあれば、不承不承ながらも満足してしまえそうな気がするんだ。
「それもじゅうぶんに欲張りだと思うのですが、僕も梨花と一緒にいたいのはやまやまなので、梨花を洗脳する際にはお手伝いしますのです、あぅ☆」
不穏なことを言い出す嫁はさておき、鷹野さんを味方につけた俺たちは監督の陰謀阻止に向けてその日から行動を開始した。具体的には、山狗の潜伏先である小此木造園の動向を探ったり、相手が予定より早く動いた場合に備えて裏山のトラップを充実させたり、いざというときのために武器になるものを村の各所に準備したり、園崎家で鷹野さんの仕入れてきた情報をもとに作戦立案をしたり、詩音や葛西さん、富竹さんといった戦力になってくれそうな仲間に接触をはかったり、部活で大盛り上がりしたり、ダム現場でレナと宝探しをしたり、鷹野さんと一緒に古手神社の祭具殿にお呼ばれしたり、梨花ちゃんとデートしてみたり、おもちゃ屋でゲーム大会をしたり、羽入とデートしてみたり、雛見沢ファイターズの練習試合に助っ人として出場したりと、とにかくまぁいろいろだ。
「なにげに後半はほとんど遊んでいるだけに見えるのですが、あぅあぅ」
だって一ヶ月って長いんだぜ。緊張感を持続させるには長すぎて、愛を育むには短すぎる……そんな微妙な長さだといっても過言ではないぜ。
「などと言いつつも梨花の好感度上げに熱心な圭一なのです」
そりゃ羽入が好感度高い方が洗脳しやすいってアドバイスしてくれたからだろ。そりゃ俺だってできることならレナの好感度や魅音の好感度や沙都子の好感度や詩音の好感度、あまつさえ鷹野さんの好感度を上げたくてしょうがないのはやまやまだが、羽入に背中からオヤシロビームを喰らうのは命が危ないからな。
「圭一、人生にはハーレムルートはないのだと知りなさい、なのです」
わかってるよ……奉納乱舞でも圭レナ話や圭魅話がないかなーとは思ってるんだけどさ。
「奉納乱舞というタイトルである以上、梨花か僕の話になるのは当然なのですよ」
ちぇっ、そりゃそうだけどさ……。
ともかく、俺たちは万全の準備を整え、ついに綿流しの夜を迎えたのだった。
鷹野さんの話によれば山狗の指揮権は監督がすでに掌握してしまっているらしく、前の世界でも惨劇の序章となった富竹さんの殺害計画を止めることは不可能。ならば、と俺たちが打った手は単純明快、犯行現場となる入江診療所への突入作戦だった。
「行くよ、みんな!」
鷹野さんと富竹さんを尾行し、彼らが裏口から診療所に入ったところで、俺たちはあえて正面から突入した。突入直後、まるでこちらの動きを知っていたかのように山狗たちが奇襲を仕掛けてくる。テイザーによる無力化攻撃、だがこれは鷹野さんの情報をもとに事前に準備していた沙都子の絶縁ネットが射出され、空中で絡め取る。
「ほほほ、情報を制する者は世界を制す、ですわ!」
直接攻撃に出るべく飛び出してきた山狗たちへと、魅音の2丁拳銃が火を噴いた。
「ぐわっ!?」
殺傷力のある改造エアガンとはいえ、相手もツナギの下に防弾チョッキを装備しているらしく怯ませるのが精一杯。だがそこで接近戦担当の俺とレナが飛び出し、鉈の峰打ちと金属バットが体勢を立て直す前の山狗たちをなぎ倒す。待合室に次々と転がる山狗たちを、詩音のスタンガンと梨花ちゃんの催涙スプレーが無力化していった。
「よし、行くよ!」
事務室や診察室に暴徒鎮圧用の催涙手榴弾を投げ込み、側面からの伏兵の可能性を絶ちながら俺たちは奥へと突き進んでいった。早く富竹さんと鷹野さんを救出しないと!
一番奥の会議室の扉が開き、数人の山狗が廊下へ飛び出してくる。
「チィ、何事だ!?」
そう言って構えをとるのは話に聞いていた山狗の隊長、監督の懐刀となった小此木という人だった。他の山狗と違って荒事に慣れた本物の兵隊だと鷹野さんから聞かされている。
常夜灯の下、診療所の廊下で行われる接近戦。
数は互角、向こうは素手なので装備のぶんだけこちらが有利という状況だったが、園崎家で戦闘訓練を受けた魅音と詩音、なぜか獅子奮迅の戦いぶりをみせるレナはともかく、体格で劣る沙都子や梨花ちゃん、平均的な中学生男子であるところの俺は大の男相手の格闘戦ではちょっと不利だ。
「あぅあぅ、オヤシロバリアー!」
俺の金属バットをかいくぐって放たれた山狗の拳が両手をかざした羽入の目前で止まる。
「なにィ! 接近パワー型のスタンドだと!?」
謎の発言をする山狗だが、俺はその隙にがら空きの首めがけて金属バットを叩きこむ。
「助かったぜ羽入!」
「あぅあぅ、内助の功なのです!」
俺は沙都子の救援は詩音にまかせ、梨花ちゃんの援護に向かったのだが、
「ごはぁッ!?」
吹き飛ぶ山狗を目の当たりにして目が点になる。梨花ちゃんは長い髪とスカートを翻してそれを追い、容赦のない跳び蹴りを決めて山狗を壁に叩きつけた。
「あぅあぅあぅ、梨花がいつになくバイオレンスなのです!?」
「ふっ、羽入。いつかどこかの世界で、あなたに教えられたような気がするのよ。奇跡を起こす方法をね……奇跡を起こすのに必要なのは、不屈の心と強い信頼、そして……」
ぐっと拳を握りしめ、叫ぶ。
「何はなくとも力業、なにはなくとも力業ッ!」
末恐ろしい幼女が力説していた。羽入がショックを隠せずに叫ぶ。
「そ、そんなこと教えた覚えがまったくありませんのですっ!?」
そして、白煙の煙る廊下の先から人影が現れたのに気づき俺たちは振り返る。
「なんてことをしてくれたんです、皆さん……。許しません、許しませんよ……!」
悪の首魁、すべての黒幕である監督が、そこに立っていた。