「おう、嬢ちゃん。また来たのかい。」
花の女子高生が一人で堤防釣り、というのは物珍しいらしく、私は利用回数二回にして早々に先達の皆々様に覚えていただいたようです。
「ええ、色々と都合がいい場所ですので。」
「そうかい。ま、こんなおっさんだらけの場所でよければいくらでも来なよ。」
「ありがとうございます。」
軽い会話を交えつつ、空色というには少々くすんだ、今では
羽織るはまぶしい黄金色の救命具、洒落ているとはいいがたい青緑のキャップをかぶり、手には二mばかりの延べ竿。恋に恋する、箸が転がってもおかしい年頃、異性の目が非常に気になるはずの歳の好む格好では到底ない。
もし学校の友人がこんなものを見れば即座に引っぺがしに来るだろう。全力で抵抗するけど。海は怖いんだぞ。
そんな思考を頭の片隅に追いやったところでほぼ準備は整った。いざ尋常に勝負である。
───
私こと
まあ……所謂片思いというやつなのだろう。せっかくの休日に一人釣りに来る女だ。みなまで言われなくとも自身が多少普通とはずれていることぐらいは自覚している。そんなものだから自身の感情の正誤に自信を持つことは、できなかった。
───
釣りでは待つ、という表現が使われることが多いがことハゼ釣りにおいてはそうでもない。活餌を使えば一分もたたずにつれることが多い。食欲旺盛で針を丸のみにするため、下手をすれば針に餌を付けて糸を垂らしているだけで釣り上げることさえ可能ではある。まあ、そんなことをすればいくら小さなハゼとはいえ糸ごと持っていく程度の力はあるのでそのまま海にダイブする羽目になるだろうが。
「うーん大漁大漁」
携行用のバケツに大量にハゼを詰め、第一戦は私の勝利だ、といかにも満足した風につぶやく。さあ竿を切り替えて二回戦と、延べ竿を引き上げようとしたときにふと気づく。固定していた竿がとんでもなくしなっている。河口の近くでこんなことする奴は相場が決まっている。
「最後の最後にとんでもない大外れだ!」
気合いで竿を引き上げて、その先には予想通りの奴がいた。アカエイである。堤防や河口付近での外道といえばこいつではあるが勝利の余韻をだいなしにされてちょっと機嫌は悪くなった。
───
時はたち、自身の感情に困惑しつつも関係を保っていたころ、街中で彼が女性と連れ立って歩いでいるのを見かけた。……不思議と嫉妬のような感情がわくことはなく、むしろ安心したのだ。自身との関係が、向こうとしては図らずもという形であろうが、はっきりすることで皮肉にも自身の感情が間違いであると証明できた。
それで、いいはずなのだ。
───
偉大なる先達に外道の棘を切りおとしてもらい二回戦用のクーラーボックスに
「これでよし。今日は煮つけと唐揚げ!」
これがうまい。ご飯が進むのだ。体重なんぞ気にしてたらうまいもん食えん。
「お、帰るのか。またな嬢ちゃん」
「はい、ありがとうございました。」
先達の許可も得たのでまた来ることにしよう。今度こそ二回戦をやるのである。
───
寝るとき、ご飯を食べるとき、勉強している時、趣味の釣りでさえ彼への感情が頭をよぎる。自身の中で理屈をつけても感情はいうことを聞かない。ああ、恋煩いとはこういうことなのだろうか。そうだというのならなんてうっとうしいのだろう。自分以外の異性といるところを目撃して安心するなど、恋とは言えないだろう?なのになんでいうことを聞かないのだろうこの思いというのは。
このような
漁 美弦 (すなどり みつる)
ツリバナ 《片思い》
金緑石 《秘めた思い》