2周目ネフェルピトーの軌道修正は間に合わない〜護衛軍と王がボクの忠告を鼻で笑う件〜 作:2周目NFLPT
原作:HUNTER×HUNTER
タグ:残酷な描写 転生 ネフェルピトー 王直属護衛軍 ギャグ キャラ崩壊
ゴンに倒されたが、どういう訳か記憶を持ったまま時間を逆行し、再び王直属護衛軍として生を受けたネフェルピトー。2周目こそは人間を刺激し過ぎず、王を生存させようと躍起になるピトーであったが、女王の栄養不足のせいで再会した王や他の護衛軍の知能はまさかのデバフ状態!
必死の忠告を鼻で笑うちょっとアレな王と仲間たちに振り回され尽くす、ピトーのバチクソ悲劇的な短い2周目人生が幕を開ける!
※キメラアント編ラストのバチクソネタバレ含みます
※キャラが著しく崩壊しておりますから注意して閲覧お願いします
※登場キメラアント全員知能デバフ有り
「……化け物、か」
プロハンター、カイトが尋常ではない冷や汗を流し、同行していたゴンが声をかけようとしたその瞬間、彼は叫んだ。
「逃げろ! 今すぐ俺から離れて走れッ!」
直後にボク、ネフェルピトーは地面に突き刺さる様に、土煙を上げながら着地した。
(ふぅぅ……やっぱり、間違いないニャ! 今は、まだボクが産まれたばかりの時間!!)
前のボクならここで、彼、プロハンター、カイトの腕の1本でも戯れに刈り取っていただろう。
だが、今のボクは違う。
ボクの脳裏には、黒い怪物の絶望的な恐怖が焼き付いていた。
(……よかった。君はまだ、怪物と化す兆候は一切なさそうだニャ)
カイトの背後にいる少年、ゴンを盗み見る。
ヤツは、ヤバい。
将来的にボクはおろか、王さえボコボコにしかねないポテンシャルを秘めているのだ。
そして、彼がそうなってしまったのも…ボクが、ここでカイトを殺してしまったからだ。
(ヤバいヤツらを覚醒させない、そして人間を過剰に刺激しない…ボクのテーマはそれだニャ!!)
背中に冷や汗を流しながらも、ボクは表面上、無邪気な笑みを張り付かせた。
「キミたち、ここから先はキメラアントの領土ニャ。これ以上進むならバラバラにしちゃうよ? でも、今すぐ帰るなら、見逃してやってもいいニャ? どうする?」
指をパキポキ鳴らし、あえての提示。
これを聞き入れて逃げてくれれば、ひとまずの脅威は避けられるニャ。
カイトは葛藤の表情を浮かべ、背後の少年たちをチラリと見ていた。
その二人は、この時点ではまだ未熟。
ボクの放ったオーラに完全に呑まれている。
必要以上にオーラを垂れ流して威嚇しまくってるし、プロらしく一刻も早く引き下がってほしい。
(ここでゴンが覚醒したりしない、よね? 大丈夫だよね?)
と、絶対と言い切れないのがまた、恐ろしい。
触らぬ神に祟りなし、という言葉もあるくらいだ。この場合の神はボクでありゴンだ。
「カイト…ここは…」
白髪の少年、キルアが、震える声で絞り出した。
(おぉ、彼はボクを格上と認識して撤退を進言しようとしているに違いない…見どこある少年だニャ!)
「うっ、く……っ」
ピクリ、とボクの猫耳が過剰に反応した。
ゴンの喉から、不穏すぎる微かな声が漏れたのだ。
(え…?)
「う、うおおおおおおお!!」
刹那、ゴンの身体からオーラが爆発的に立ち昇る。
(な、何でゴンは戦う気満々なのニャ!? ボクはまだカイトを千切ってないし、煽ってもいないニャ!)
いっそ…
いっそここでゴンを仕留めるべきか!?
いや、プロハンターを犠牲にすれば、人間側の本気を引き出してしまい詰む!
ボクが額から滝のような冷や汗を流したその時、素早く動いたのはキルアだった。
ゴンの首筋へ、容赦ない手刀が叩き込まれる。
白目を剥き、ゴンは崩れ落ちた。
(おおっ!! よくやったニャ白髪の少年! ファインプレーだニャ!!)
「よし! キルア、ゴンを連れて走れ! 早くッ!」
カイトの叫びと共に、脱兎の如く逃亡するキルア。
だが、カイトは再びボクへと向き直った。
「お前の相手はオレだ」
「えと……キミは、逃げないの?」
「どうもお前はゴンに興味があるらしいんでな……アイツらを追わせる訳にはいかない」
(え゛!? ボクそんなにゴンをガン見してたニャ!?)
するとボクの前で、カイトの指が引き絞られる。
「
(――っと、それはさせないニャ!)
念能力を使わせてはダメだ!
ハンターが武器を手にすれば、逃げる事を考えなくなる。
直後ドン、と大気が爆ぜた。
ボクは本気のステップをぶちかまし、音を置き去りにする程の速度でカイトの懐へと潜り込んだ。
そして、カイトの肩をポン、と軽く叩く。
「ッ!?」
それだけで、具現化しかけたオーラが霧散した。
「言ったでしょ? ボクがその気なら、キミたちはとっくにミンチだニャ。だから…」
そのままカイトの身体を、ゴンたちの逃げた方向へとトン、と軽く押し出す。
「ボクの気が変わらないうちに、早く帰るニャ」
ハチャメチャな格の違いを叩き込まれたカイトは、これ以上の交戦は無駄と悟ったのか、踵を返して跳躍した。
彼の気配が、完全に遠ざかっていく。
(よし、よぉぉぉし! これで一つ脅威が消えたニャ!!)
静まり返った森の中、ボクは小さくガッツポーズを決めていた。
ボクには前世……というか、前回のとでも言うのか、記憶がある。
それによると、キメラアント護衛軍、ネフェルピトーは、王を守護していた所に人間の強襲にあい、激闘の末に化物となったゴンにしこたま殴られてしめやかに絶命した。
更に王や、他の護衛軍は本気を出した人間の、恐るべき兵器の毒で死に至ってしまった。
ボクの命は終わった、と思ったら何故かまた、キメラアント女王よりネフェルピトーとして、産まれて来たのだ。
記憶を持ったまま。
最初は良く分からないノイズとしか思っていなかったけど、記憶と現実が余りにも一致していることから…ボク自身は2度目の人生をやり直している…2周目だと気付いた。
つまり、ボクのやるべき事は、ヤバいヤツらを呼び寄せず、人間に喧嘩を売り過ぎ無い様に調整する、というものだ。
(さて、あとはあいつをどうするかだニャ)
カイトたちを追い返したボクは、拠点に作らせた自分専用の個室に戻っていた。
念のために『円』を最大出力で展開。
それこそノミの脈拍すら感知できるほどのガッチガチのやつを張り巡らせる。
個室の隅には、ロープでぐるぐる巻きに拘束された人間……ええっと、下級蟻に用意させた【ハンター名鑑(最新版)】によると、彼は新人プロハンター、ポックルという名前らしい。
ボクは彼の猿ぐつわをスポンッと外すと、目の前にしゃがみ込んで顔を覗き込んだ。
「ねぇ、いい加減、教えてくれてもいいんじゃない?」
確か前回の…1周目のボクは、この人の脳味噌を直接コネ繰り回して情報を洗いざらいを吐き出させたんだっけ?
ぶっちゃけ、そこはあんまり記憶にない。
まあでもボクは2周目だし、念やらの知識はあるから脳味噌をいじる必要性はゼロ。
なら、生かしたままスパイとかで利用できないかな、なんて思っていたのだけれど。
「うるさい! 俺は何も話す気はないぞ!!」
必死の形相で睨みつけてくるポックル。
これだ。
ボクはあの時と違って、めちゃくちゃ優しく声をかけてるつもりなんだけどさ。
頑なな態度を崩さない彼に、ボクは軌道修正を試みた。
「キミ、何か勘違いをしているようだけど…」
そうだ、話の通じる理性的で紳士的な知識層としてアプローチしよう。
「ボクは賢いニャ。キミを玩具みたいになぶって楽しむような、下品な趣味は無いよ。もっとお互いにとって建設的な話をしたいんだ」
ボクの言葉に、ポックルは「……何?」と戸惑い、必死に頭を働かせ始めたようだ。
(ふぅ、これで話を…あ!?)
そこでボクは、気付いてしまった。
女王は今、最高の王を産むために必死に『レアモノ』、即ち強い人間の栄養を求めている。
目の前にいるポックルは、どう考えても超上質レアモノ肉団子になるだろう。
(もしボクがコイツを生かしたままにしたら本来、女王の栄養になるはずだったポックル成分が丸々カットされる。つまり、これから生まれてくるメルエム様や、まだ卵に居なかった護衛軍にデバフが掛かっちゃうんじゃない?)
特に王にデバフが掛かる可能性を察知してしまい、ボクは悩んだ。
(それは絶対にダメだニャ!! 王がちょっと悲しい感じで産まれてきたらボクのせいだし! や、やっぱりコイツは今すぐ肉団子にして女王に捧げなきゃダメかもしれないニャ!?)
ポックルにしてみれば「現実的な話をしよう」と唐突に言い出した化け物が、次の瞬間には頭を抱えて混乱しだしたのだから訳がわからない。
結局、ボクは結論を保留にするしかなかった。
特上肉団子にすべきか、それとも人間側の情報源もしくはスパイとして生かすべきか。
いっそボクの念人形で操るとか…
(いや、そもそもカイトを操ったせいでゴンが覚醒したんだし、人間を必要以上に刺激はやっぱマズいニャ…)
脳裏には、あの最悪の光景。
人間の兵器『ミニチュアローズ』の炎によって、王が滅ぼされた未来。
しかしボクがこうして悩んでいる間にも、兵隊蟻たちはバカスカ人間を狩りまくり、肉団子にして女王に捧げ続けている。
地獄に一直線の真っ最中だ。
だからといってボクが「人間を狩るのをやめろ」などと命令をしたら、あからさまな背信行為だしキメラアントとして不自然すぎる。
(考えろ、考えろ…人間をブチ切れさせず、だからといってキメラアントの本能にも逆らわない、めちゃくちゃ自然な行動って…?)
ボクは頭を抱え、尻尾を激しく左右に振り回しながら、部屋の中をグルグルと往復した。
ポックルから見れば、ただの化け物の奇行であろう。
「ああ〜もう! キミ! 肉団子になるのとボクたちのスパイ、どっちがいいニャ!?」
オーバーヒートしたボクはヤケクソ気味に怒鳴っていた。
考えても最適解なんて分かるわけがない。なら、勢いとスピードで勝負ニャ!
「ど、どっちも嫌に決まってるだろ!」
「じゃあキミはどうしたいんだニャァァ!」
焦りのあまりIQが著しく低下したボクは、あろうことか上質肉団子に打開策を丸投げしていた。
ボクが「人間と無駄に揉めたくない」方針を洗いざらいぶちまけると、上質肉団子は言った。
「だったら、俺を解放しろ。お前が人間と全面戦争する気はないって言うなら、そのメッセージは俺が責任を持って上に伝える。だから……」
「よし採用ニャ! ついでに、めちゃくちゃ強いビーム撃つ爺さんハンターとかに『用件があるなら数ヶ月後にそっちから行くから、それまでNGLに攻めてくるな』って言っといて!」
「え? え、おい、ちょっと待っ――」
話が決まれば行動は一瞬。
ボクは上質(略)を小脇に抱えると、本気の跳躍。
キメラアント拠点を飛び出し、そのままの勢いでかっ飛ばして、NGLの国境付近へ上質(略)をリリースした。
フラフラと国境を越えてゆく彼を見送りながら、ボクは満足げに胸を張る。
(ふぅ! ひとまずこれでよしニャ!)
ーーあれから、3日。
驚いたことに、朝の時点で未だに他の護衛軍の卵が見当たらなかった。
ボクの記憶が正しければ、ボクのあとにすぐプフ、そしてユピーが産まれたはずだ。
まあ、人間からの連絡待ちだから、都合は良いんだけどさ。
もしかして、女王の栄養状態が悪いのかな?
そこにポックルを栄養にせず不法投棄したことで、女王の栄養バランスが崩れ、歴史がかなり変わりつつあるんじゃ…
(うーん…やっぱり肉団子不足による遅れが生じているのかな…王にデバフさえ入らなければ、プフたちの誕生が遅いのは、のびのびできていいんだけどニャ〜)
そんな呑気なことを考えながら廊下を歩いていると、師団長たちの陰口が耳に飛び込んできた。
「ピトーの野郎、いくら護衛軍だからって好き放題に動きすぎだろ」
「ああ、数日前も上質肉団子を嬉しそうに抱えながら、どこかへ走り去ってたらしいぜ?」
「マジかよ。女王様の餌を横取りして、自分だけでコッソリ食ってんじゃねーの?」
――は? いや、はぁぁぁ!?
何を言ってるのコイツらは。
誰が横取りなんてするかニャ!
ボクは王の、ひいてはキミたちの未来を守るために、高度な政治的判断であの上質(略)を五体満足で逃がしてあげたのニャ!
ボクの苦労も知らないで、勝手に横取り野郎扱いするなんて万死に値するニャ。
……狩るか?
「おやおや、なんとも酷い噂話ですね」
「全くニャ! 本当にアイツらは勝手なことばかり……って、キミは、プフ!?」
師団長らのクソ解釈に耳を奪われすぎて油断していた。
いつの間にか背後に忍び寄っていた者。
バイオリンを携え、タキシードを纏った蝶の羽を持つ優男は、間違いなく同じ護衛軍の同僚、シャウアプフ。
「おや。ネフェルピトー、私は名乗った覚えはありませんが……」
(あ、しまった! 何でボク、まだ会ってないのに普通に名前を呼んでしまってるのニャ!?)
「う、あ、いや、なんかそんな感じの名前かなって、ボクの勘が告げたんだニャ!」
「ふむ、大した直感ですね。しかし間違いですよ。私の名前はシャププププです」
「え?」
「シャププププです。惜しいところまで行ってはいましたが……まあ、良いでしょう」
(いや良くない! 何なのシャププププって、めちゃ言いにくいニャ!)
「それよりも、先ほどの彼らの話は看過できないものです……まさか、事実じゃないでしょうね、ピトー?」
プフ……いや、プププの目が細められる。
「そんなわけないニャ! 我の強い連中がテキトーな妄想を言ってるだけだね!」
「ですよねぇ。私たちが仕えるべきは女王、そしてこれから御生誕あそばされる王のみ。その栄養を横取りするなど、護衛軍にあるまじき大罪」
凌げたかに思えたが、プププの追及は終わらない。
彼の美しい顔に、冷徹な笑みが張り付く。
「ですが、彼らの言う『上質肉団子を嬉しそうに抱えてどこかへ走り去った』という目撃談。えらく具体的だと思いませんか?」
(うくっ、しつこいニャ……!)
もし上質(略)をリリースし、カイトを無傷で逃がしたことがバレでもしたら、この疑り深い男はボクを「背信分子」として処理しかねない。
このシャププププ――通称プププは、名前こそアレだが王のことになると異常に執着するあたり元のプフと大して変わらない……いや、名前はアレだけど。
(う、うーん…プフは王が第一なんだから、下手に嘘を重ねるより、人類の脅威を正直に伝えた方がいいかもしれないニャ!)
という訳で、ボクは1周目の自分が経験した人間の恐ろしさを、必死に熱弁する事にした。
「プププ、ボクは人間についてめちゃくちゃ勉強したんだよね。彼らを単なる餌として侮るべきじゃないニャ。国一つを簡単に消滅させたり、致死性の毒を撒き散らすような破壊兵器をたくさん持ってるんだ。そんな相手をマジギレさせたら、流石にボクたちでもヤバいと思うんだニャ」
「ハッ、戯言を。王が御生誕あそばされば、そんなオモチャなど苦にもしないでしょう!」
「いや、違くて。いくら王でも生身の個人だし、毒とか超高熱とか向けられたら普通に無理じゃない?」
「さっきから何なのですか貴女は! 我々キメラアントは人間の遥か上をゆく究極の生命体なのですよ!? あのような愚鈍極まるカスのごときダニに、何を怯えているのですか! それに、そんなものがあっても、まだ見ぬ王は【バチクソ無敵】だから絶対に大丈夫に決まっていますよ!! もしそれでも王が危険ならば、我々が盾になればいいだけの事!」
……ん?
ボクの猫耳に、強烈な違和感。
なんかこのプププ、前のシャウアプフに比べて、ちょっと…いや、かなり阿呆寄りになってない?
「バチクソ無敵」って何ニャ。
語彙力が完全に死んでるニャ。
「あぁ!? コラ、そこ、うるせぇぞコラ。あぁん!?」
その時、背後から大声が響いた。
この圧倒的な存在感のオーラは、間違いなく彼だ。
「あ、ユ……っッ!」
――ピー、と言いかけて、ボクは慌てて自分の口を両手で塞いだ。
危ない危ない。
また生まれたての同僚の名前を先回りして呼ぶところだったニャ!
名乗るまで待て、だよね!
「……ユ、何ですかピトー?」
拾うニャ!
そこをネチネチ拾うスピードだけは前世並みなの何でニャ!
「ゆ、ゆー……ゆ、有言実行しないと、だニャ!!」
「何をですか?」
「王の盾になることだニャ!!」
「フッ、無論ですよ。美しく完璧な盾にね」
ふ、ふー……何とか誤魔化せたニャ。
「と、ところでキミは誰ニャ?」
ボクはわざとらしく、隣に立っている筋肉モリモリマッチョマンの護衛軍へと話を振った。
「あ? 俺ァモンティ・トゥー・ユピーだコラ! オラァ!」
び、微妙に違う!!
しかもコラだのオラァだの、変な威嚇を連呼してる!
この時、ボクは確信した。
特上肉団子が欠けたせいで、新しく生まれた護衛軍の連中に、深刻な知能デバフが発生している。
このままでは、王が一番マズい……
嫌な予感がビンビンにしていた。
そしてそれが、対策を立てる間もなく唐突に訪れた。
『ぬ、ぬぅあああああああああああああああああああああああああ!!!』
女王がバチクソデカい悲鳴を念波で垂れ流しながら、同じくバチクソデカい自分の腹に引っ張られるようにして、身体をのけ反らせていた。
下級蟻は、クソデカ念波で失神している。
「遂に来られますよ……! 我らが、我らが至高の王がァァァァァ!!」
「オゥコラ! シャッコラァァァ!!」
感動のあまり涙を流して痙攣しているプププと、相変わらず妙な威嚇を続けるトゥピー。
『ふ、ふぬぅあああああああああああああああああああ、あ? あ……あ…あああああああああああああああああ!?』
このアホ護衛軍2匹を横目に、ボクの脳内警告音は鳴り響きっぱなしだった。
『あ、あばばばばばばばばばばぎぃあああああああああああああああ!!』
ビキィッ、と空間が裂けるような音がした。
『お、おぐあああああああああああああぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!』
遂に女王の腹を内側から強引にブチ破り、その姿を現したのは、我らがキメラアントの、王だった。
だがやっぱり、現れたのは、ボクの知る王…メルエム様ではなかった。
体躯は、ただでさえ規格外だったトゥピーをも遥かに凌駕する、圧倒的な筋肉の超重量塊。
鍛え抜かれた大胸筋と、丸太のような四肢に、綱を何本も束ねた様な極太尾。
そりゃこんな質量が腹に入っていれば、女王もバチクソデカ悲鳴をあげるというもの。
『あ、ああ……私の、子供、王……全てを握り潰すパワー……を意味する名前……貴方は、ゴリエム』
女王は絶命した。
ゴリエムって何ニャ。
最後の言葉がゴリエムでいいのかニャ。
だが、誕生したゴリエム様は、眼窩から一筋の涙を流していた。
(あれ? もしかして外見こそ凄いことになってるけど、その内面は慈愛や知性を秘めているんじゃ……)
ボクが淡い期待を抱いた、その刹那。
「者共ォォォ! 余は王であるッ! 早速、母上をこんな目に合わせた人間を一匹残らず皆殺しにして全員肉団子にしろオラァッッ!!」
圧倒的にダメな方向に進んでるニャァァァ!!
純度100%の脳筋だァァァ!!
「うォォォォォ!! さすが我が王ォォォォォォ!! 圧倒的パワーですゥゥゥゥゥゥ!!!」
「っしゃコラァァァァァ!! 全員ミンチだオラァァァァ!!」
黙れ阿呆護衛軍!!
ボクの涙ぐましい努力が、王の一言で消し飛んだニャァァァ!!
――そこからの進軍はバチクソ早かった。
そりゃあもうひたすら突き進み、人間を轢殺し続ける暴の民と化したキメラアント……いや『
「あ、あの…ゴリエム様」
「な、なんだピトー女子ッ! 貴様のことなど余は何とも思っておらんからな! 勘違いするなッ!」
「私のことはどう思われても良いのです。ですが、どうか、話を聞いて頂きたく」
「じ、女子が余に話だと…!?い、一応、訊いてやらんこともないぞっ!!」
「ピトー! ゴリエム様は今、人間の首を玩具のように引き抜いて弄ぶという高尚な遊びをなされているのですよ! 邪魔をするなど無礼極まりない!」
プププが横から口を挟むが、もはや相手にする気力もない。
傍らでは、モンティ・トゥー・ユピーが「人間は一体何ミリまで潰して伸ばせるのかチャレンジ」を開催中だった。
もう終わりだねこの軍団。
だけど、あれなら……
前の世界で王の心を大きく揺るがしたあれなら、ゴリエム様の軌道を修正出来るかもしれない!
「ゴリエム様、こちらをご存知ですか?」
ボクが取り出したのは、将棋やチェスを複雑にミックスした盤上競技――軍儀の遊戯盤だった。
かつての王は、この軍儀と出会い、コムギと出会って変わっていったのだ。
これはボクが仕掛ける、最後の賭け。
ゴリエム様は、ボクから軍儀盤を受け取ると――
喰った。
うん、バリボリと、景気よく喰った。
「ふむ! なかなか美味であったぞ、ピトー女子! 木の温もりが五臓六腑に染み渡るゥゥ!!」
もう本当に終わりだねこ(ry)
「っしゃ女子からの差し入れでさらにパワーがアップした余が、直々に人間どもを千切り殺してくれるわァァァ!!」
雄叫びを上げ、最前線へと出撃していくゴリエム様。
こうなっては、ボクら護衛軍はあとに続くしかない。
カイトも殺さず、ポックルも逃がし、歴史をどれだけ変えようと努力をしても、結局王が人間界を最短最速でマジギレさせてしまった。
無数の屍を築いた進軍の果て。
ボクたちの前に待っていたのは、無数に狂い咲く薔薇の炎だった。
(……もし3周目があるなら、女王の食事管理を徹底しよ)
眩い光に包まれながら、ネフェルピトーは二度目の死を、静かに受け入れるのだった。