『…いてっ、いてて』
小口径の弾頭がわたしの板金の表面を回転しながら抉り取り、がいん、とも、ごいん、とも取れない嫌な音が破片となって辺りに四散した。
続けて2発、3発、4発と、どんどん命中弾が増えてきてすぐに塗装がボロボロになってしまう。
ちょっと前に新車で工場出たばっかりなのに…
「ダメだ、ぜんぜん動けない。もっと撃ちまくれ!てかアイツら誰で何だよ!」
『わたし戦闘用じゃないし、わたしも何も知らないんだけど…』
ご主人はわたしの足元にしゃがみこみながらわたしの太ももをバンバンと叩く。
この人女の子を矢面に立たせてる自覚あるのかな。いちおう防弾だけどサ…
ぶつくさ言いながらも、とりあえず取ってつけたように手に持たされた人間用マシンガンのトリガーをぐっと押し込んでみる。
すると、どがががが…と景気の良い炸裂音がしたまではいいものの、頻繁に変形する設計のせいでわたし非力だし、非力だから腕に反動吸収機構なんてついてないし、肝心のターゲティングシステムも子供とのボール遊び用だしで、当たり前ながらてんで当たらない。
むしろ反動を抑えられず天井にケチャップを飛び散らせる時のばら撒き方になってしまう。
…だってしょうがないし。車のナビにス〇ブラやらせるようなものだし。わたし悪くないし。
あまりに壊滅的な射撃精度を見せてしまったせいか、ご主人様はおでこに手を当てて絶望中だ。
ひぃん……用途が違うよう………
『きゅーん……』
「だめだこりゃ…
クソう、なんで丸腰の時に…!!」
『まるごしじゃないよう…ステアリング引き抜いて2つに割れば二丁拳銃になるんだけどな…購入時オプションで17万9800円+工賃+装填済み専用弾左右合わせて28発…』
ご主人様の視界インプラントに泣き顔のemoji付きで行動提案文をスタレンしてみるけど、ご主人様は無駄に日常生活もおやすみモードに設定しているタイプらしく、全然既読がつかない。
そもそもなんで納車してすぐ仕様書を読まないの…あっ
『Bぴーーっ!?
!…びぴ…びぴぴ……』
…ぶおんと、ものすごい風切り音を立てながら顔の真横をぶっとい座薬みたいな形のデカい砲弾がすっ飛んでゆく。
思わず悲鳴を上げてその場にへなへなとへたりこんでしまうわたし。
こんなの、こんなのってないよ。
わたし都心の超綺麗な高速道路をSAでの昼ごはん込みで5時間だけ走ることしか想定されてない高級デザインだけ変形バイクなのに…
大きなまん丸単眼ヘッドライトのフチには銀色のしずくがころりと溜まる。
…これは表情表現オプションで12万3000円だけど、でもわたしの気持ちは本物なのだ。
「わあああ泣くな泣くなごめんごめんほんとにごめん帰れたらすぐ埋め合わせするから」
『しぬ、しんじゃう。このままだとぜったいしぬ…!そ、そうだ。電磁防楯!電磁防楯があった!!ご主人電磁防楯付いてるから出してぇっ!』
どこぞのRがツーでDがツーみたいなビープ音で泣き叫ぶわたし。
ご主人様のHUDにはわたしからの通知が78件表示されているはずなのだが、ご主人様はさっきも言った通り無駄に常日頃おやすみモードにしていて連絡が取りにくいタイプである。
もう人名救助のためという大義名分があるのだから眼をクラックしてやろうかとも思ったけど、ホントの意味での大人のおもちゃが持ってる程度の処理能力では普通に無理だった。
『なんか、あの、ワイパーとかヘッドライトとかの操作用のクルクル回すやつをぐっと押し込んでコナミコマンドすると出てくるよ…あとアプリからでもできるよぉ…!気付け〜通知出しまくってるからぁ〜!』
「…そんな焦っても何も変わらねえよ。落ち着けって、オレとおまえなら大丈夫だからさ…な?」
…ご主人はパチパチとヘッドライトを点滅させながら指で眼だの顔だのHUDだのをわちゃわちゃちょんちょん指しまくる私の頬をそっと撫でると、その灯りをすっとオフにしてしまう。
えェ〜〜〜ッ!?なんで赤と黄色の点滅と明らかに何かを伝えようとしているロボ娘ダンスを見てなんの確認もしないのぉ〜〜!?
そうこうしている間にもいつの間にか撃たれていたタンクから燃料が漏れ出しつつあり、足元にはわたしの血溜まりとも呼ぶべきそれが形作られ始めていた。
『…ちょ、あのっ本社!本社おねがいします!ご主人さまがアホすぎてわたししんじゃう!わたしだけでも助けて!!サポートチーム派遣!!!はやく』
商品の機械生命体専用回線を通じ、本社に救援要請を送ってみるわたし。
しかし現実は非常である。
『え、無理!?なんでムリなんですか
…遠すぎ?
それはしょうがないかも〜〜…』
『…で、でも!!わたししんだら損失!!!
固有の人格作るのに人間三体消費!!
データも回収できなくなっちゃう!
…お前ぐらいならまあいい!?どぼじでそんなこと言うの"』
…本社の人をいらいらさせることに特化した人工電話番にまくし立てるのも程々に、今度は私の股の間を安物のロケット弾が曲芸のようにすり抜けてゆく。
気が付けば目の前の壁替わりにしていたコンクリートはスッカスカである。
『ひいぃぃぃぃいんわたしの真横を爆発物が…あんなの当たったらわたし無くなっちゃう…!』
ご主人をくまさんのように抱き抱えながら、かろうじて三角座りで残った壁の端切れにおしりを押し込むわたし。
頭の上には常に跳弾がきんきん跳ね回っており、アスベストが気になるほどの量の破砕片がふりかけ並みに振ってくる。
…ぐしぐしと涙ちょちょぎれるヘッドライトをマニュピレータの甲で拭えば、あたりに舞い散る硬い塵のせいでガラスにドデカい擦れ傷が入ってしまった。
泣きっ面に蜂とはまさにこのことである。
『なにか、その、実はわたしにもスーパーロボットモードみたいなのがあるとか…1番安いモデルだから無い?…う"ううぅ〜……』
「…なあ、我がバイクよ。お前は意外と美しいバイクだったのだな」
…なんかもう、めちゃくちゃである。
テンションのおかしくなったご主人は私の頬、頬と言っても車体の一部にチューし始めるし、わたしはもうどうすることもできないし。
結局、この後さらに数十分ほど感動のクライマックスを楽しんだ後にご主人が二丁拳銃の存在を思い出し、なんかすごい無駄のなくて無駄の多い無駄なかっこいい動きで空中を飛び回りながら謎のグラサン達を撃ちまくることで、わたしは命拾いしたのだった。ちゃんちゃん。
『ちゃんちゃんじゃないよ。はあぁ…』
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