「…は? ぁ"っ」
最初は後頭部を冷たい金属の鉤爪で掴まれたような気がした。
でも、違う。
俺の頭は鋼のアームの隙間からにゅるりと飛び出してしまったのだ。
なんでもない朝、顔を洗うついでにふと石鹸の泡を意味もなく握ってみたようなもんだった。
とにかく、俺は死んじまった。
「いいぞおーっトライデーモンっ!!その調子でみんなやっつけるんだ!」
かける、とか言ったか。
そんなような名前のこいつは、俺たち悪の組織の本社ビルに突然殴り込んできたかと思ったら、いきなり化け物の入ったデプロイカプセルをエントランスにぶん投げやがった。
…トライデーモン?
聞いたこともない名前のモンスターだ。
あのクソガキはアポイントメントカウンターの目の前にトライデーモンをデプロイしたはずなのに、展開完了の白煙だけが空調の風にたなびいていて、いやにおぞましい静寂だと思ったら案の定だ。
なんで展開した場所にいないんだ。
なんで現れた瞬間に俺らの後ろにいるんだ?
断じて早すぎて見えなかったとかのチャチなもんじゃない。始めから後ろにも前にも居た事になったんだ。そんな気がする。
「か、かけるくん…!だめっ、おえ"え…
そんなことしちゃ、お"えっ、だめでやんす…!」
白衣を着たぐるぐる瓶底眼鏡のハカセなメスガキがかけるの腰にすがりつく。
黄土色で人参の混じった吐瀉物が青い短パンを汚したのに、かけるは目もくれない。
ビー玉みたいなその目ん玉を、相対するトライデーモンの目ん玉に向け続けていやがる。
「…ぶれ、ブレイブ!返事をするでやんす!
ぶれいぶがかけるくんを守るって言ってたでやんすか!」
「※※※※※」
傷んだチューバのような、老いた雄牛のような。
ともかく腹の底に響く重低音の嘶きを張り上げたトライデーモンは、ハカセの声を完全に無視して上階に続く階段に降りたパニックシャッターに口内の散弾砲を発砲した。
…複合繊維と合金で作られているはずのそれは鼻を噛んだティッシュのようにバラバラに引き裂かれる。
明らかに様子がおかしい。
かけるとかいう変なガキの事は知らなかったが、ハカセの言うブレイブという名前がかねてより俺達の捕まえようとしていた「ブレイブレグルスドラン」のことを指しているのならば、トライデーモンはもともとそいつだったのかもしれねえ。
だが「小英雄-無限の可能性 ブレイブレグルスドラン」は、紅くてちっこくてちょっとかわいいオスのガキドラゴンだったはず。
資料映像でも連れに向かってオイラ、とか、〜だぜ!とか言っていたから、こんなバケモンじゃないのは確かだ。
…何があった?
死んでカード化した俺は電子幽霊としてハカセの横に立ち尽くし、ただ様子を伺う。
ハカセの濡れたような風合いを帯びた黒髪には、状況に似つかわしくない美しさの天使の輪が輝いていた。
思いつきゆえ短い
作者は褒められて伸びるタイプです