ところが嫉妬の権能をいざ使ってみると、大惨事が発生。「みなかったことにしよう」と現実逃避するアスモデウスの思いも空しく、彼を中心にして魔界は混乱の渦に巻き込まれて行くのだった……。
「七つの大罪」物で嫉妬の扱いが良い作品を読んだこと無かったので、自分で作ってみました。AI本文利用してます。
魔界の朝は血のように赤い。
窓の外では三つ首の鳥が鳴き、庭園では首無の庭師が薔薇に水をやっている。
そんな魔界の伯爵家グリムヴァルト家の嫡男、アスモデウス・グリムヴァルトはベッドの上で頭を抱えていた。
「……思い出した」
前世の記憶を。
自分が日本という国で暮らしていたどこにでもいる一般人だったことを。
そして、今の自分が異世界の貴族に転生していることを。
「よし。異世界転生だ。魔界の貴族。伯爵家の嫡男。これは勝ち組では?」
アスモデウスは拳を握った。
魔界の貴族といえば、強大な魔力。優雅な生活。従者。権力。場合によっては世界征服。
素晴らしい。
では、自分にはどんな力があるのだろう。
彼は鏡の前に立ち、胸に手を当てた。
「我が身に宿りし権能よ、目覚めよ!」
漆黒の魔法陣が床に広がった。
壁が震え、窓が割れ、天井から謎の粘液が滴り落ちる。
そして、脳裏に《大いなる力》の荘厳な声が響いた。
『汝に授けられし大罪の権能――嫉妬』
「……は?」
沈黙。
もう一度、声が響く。
『嫉妬』
「いや、聞こえてる。聞こえてるけど」
アスモデウスは鏡を見つめた。
「嫉妬?」
『嫉妬』
「七つの大罪の?」
『然り』
「傲慢とか憤怒とか暴食とか、そういうのがある中で?」
『然り』
「……ハズレじゃねえか!」
アスモデウスは粘液塗れの枕を壁に投げつけた。
嫉妬。
傲慢なら相手を見下して強くなりそうだ。
憤怒なら怒りで全能力が上昇しそうだ。
暴食なら敵を武器や魔法ごと食って無効化できそうだ。
色欲なら魅了とか洗脳とかいかにも魔王軍幹部っぽいイヤラしい能力が手に入りそうだ。
強欲なら相手の能力を奪い、怠惰なら何もしなくても勝てるかもしれない。
……では嫉妬は?
隣の家の魔族が豪邸を建てたらねたましい。
同級生が学校の成績で1位を取ったらねたましい。
友人に恋人ができたらねたましい。
「ただの性格の悪い奴じゃねえか!」
アスモデウスは床に膝をついた。
前世で見てきた数々のフィクションが脳裏をよぎる。
嫉妬の怪物。嫉妬に狂う悪役。愛憎に溺れる魔女。
強力な能力を与えられている例も、もちろんある。
だが、生憎と「七つの大罪」系の能力が登場する作品で強力な『嫉妬』の権能を使うキャラは思い浮かばなかった。
大して強くないのにエグいことやらかして、主人公に制裁を食らうキャラばかりが思い浮かぶ。下手すると「嫉妬=心の弱さ」みたいな描き方までされたりするのだ。
旧アニメ版鋼の錬金術師のエンヴィーは強かったけど、アイツの強さって言うほど嫉妬由来でも無かったような。
転スラのルミナスも悪くないけど、強くなったのは更に能力が覚醒してからだ。
そして、頭に浮かんだのはもっと単純な問題だった。
「なんかこう……もっと派手なやつがいいんだよォッ! 地味だろうがあぁっ!」
叫び、天井を仰いだ。
そのとき侍女が部屋の扉をノックした。
「アスモデウス様。朝食のお時間です」
「いらん! 嫉妬で腹がいっぱいだ!」
「さようでございますか。では、料理長には嫉妬のあまり食事を拒否されたと伝えておきます」
「俺が料理人志望みたいになってるぞ!」
侍女は一礼し、扉を閉めた。
アスモデウスは深呼吸した。
落ち着け。
まだ能力を試していない。何事も実際に使ってみなければわからない。
アスモデウスは窓の外を見た。
庭園の向こうには、隣接する公爵家の屋敷がある。
伯爵家よりも3倍は大きく塔は7本。噴水からは金貨が湧き出し、門の前には純金製のグリフォン像が鎮座していた。
冷静に見ると成金趣味っぽくはあったが、気を取り直して嫉妬の念を高めた。
「……嫉妬」
呟いた。
「羨ましい」
その瞬間。
ズドォォォォン!
ド派手な衝撃に世界が揺らぐ。
公爵家の屋敷が、地面から生えた巨大な黒い手に掴まれた。
塔が折れた。
噴水が逆流した。
グリフォン像が空の彼方へ飛んでいった。
「…………」
アスモデウスは窓を閉めた。
「見なかったことにしよう」
しかし魔界の噂は早い。
その日の昼には、隣家を一瞬で破壊した謎の魔族として彼の名は魔界中に広まっていた。
夕方には、魔王城から使者が来た。
「アスモデウス・グリムヴァルト殿! 魔王陛下がお呼びです!」
「いや、あれは事故で――」
「大罪の権能をもって公爵家を滅ぼした実力、陛下は大変興味を持たれております!」
「堪忍やーー!! 仕方なかったんやーーーっ!!」
結局、アスモデウスは魔王城へ連行された。
玉座の間には、残りの大罪持ちが待ち構えていた。
傲慢の護衛騎士は、王座の横で腕を組んでいる。
憤怒の将軍は、立っているだけで床を焦がしている。
暴食の大司祭は、なぜか玉座の間の柱を食べていた。
強欲の宰相は、他人の装飾品を値踏みしている。
怠惰の賢者は、空中に浮かぶベッドの上で寝ていた。
色欲の女侯爵は、周囲の魔族を片っ端から魅了している。
そして最後に、嫉妬の伯爵家嫡男アスモデウスが入室した。
全員が彼を見た。
アスモデウスは思った。
――うわ、全員強そう。
――羨ましい
その瞬間、玉座の間の床が軋んだ。
「待て待て待て! 今のは違う! 純粋に能力が羨ましいと思っただけで――」
傲慢の護衛騎士が目を見開いた。
「な、なんだ……! 私の魔力が吸われている!?」
憤怒の将軍が膝をついた。
「馬鹿な! 我が怒りの炎が消えていく!」
暴食の大司祭が悲鳴を上げた。
「柱が……柱が美味しくなくなった!」
「それは知らん!」
アスモデウスは慌てて両手を上げた。
「待ってくれ! 俺はただ、嫉妬しただけなんだ!」
その言葉を聞いた魔王は玉座からゆっくりと立ち上がった。
「なるほど……」
「いや、何もなるほどじゃないです」
「貴様の権能は、他の大罪の力に嫉妬することでそれらを侵食するのか」
「
「嫉妬とは他者が持つものを欲する感情。ならば、貴様の力は大罪そのものにさえ及ぶということか」
「いや、ちょっと話を聞いてください!」
魔王は笑った。
「面白い。実に面白いぞ、嫉妬の伯爵よ」
アスモデウスは頭を抱えた。
違う。
こんなはずではなかった。
自分はただ、異世界転生らしくチート無双したかっただけなのだ。
それなのにどうしてこんなことになっているのか。
いつの間にか俺が嫡男から伯爵になってるぞ、いつ代替わりしたんだよ。
混乱のただ中、現実逃避にも似た思考の渦の中で。
アスモデウスはふと、あることを思い出した。
旧約聖書。
そこに記された神は、自らを『妬む神』と称していたはずだ。
つまり、前提が違うのではないか?
嫉妬とは本当に心の弱さなのか?
神が妬む。
神ですら妬む。
ならば、嫉妬とは――
「……待てよ?」
彼は呟いた。
「神が妬むなら、嫉妬って神レベルの権能なんじゃないか?」
魔王が眉を上げた。
「何?」
「いや、そもそも神話の神ってやたら嫉妬深いじゃないか。信仰を奪われたら怒るし、別の神を崇めたら罰するし」
「……」
「つまり、嫉妬っていうのは、自分以外の存在が自分より上に立つことを許さない力なんじゃないか?」
アスモデウスの目が輝いた。
「嫉妬とは、比較する力だ。比較するということは相手を認識するということ。認識するということは相手の存在を自分の世界に取り込むということ……!」
彼は自分の手を見つめた。
「そうか。俺は、他者を羨むことでその存在を自分の権能の射程に収めていたんだ!」
「おお……!」
大罪持ちたちがざわめいた。
アスモデウスはさらに続けた。
「しかも、嫉妬は他人の持つものを欲する感情だ。ならば、俺が欲しいものに限界が無いのあれば俺の権能にも限界は無い!」
魔王が深く頷いた。
「恐るべき解釈だ……!」
「いや、待ってください。俺も今、思いつきで喋ってます。もはや嫉妬というより傲慢とか強欲っぽい気も」
「神すら妬む男……」
「聞いてます?」
「嫉妬の深淵を覗く者……!」
「だから聞いてくださいって!」
そのとき、アスモデウスの脳裏にもうひとつの記憶が浮かんだ。
漫画の神様、手塚治虫。
日本どころか世界の文化史に名を残す手塚治虫が、他の漫画家への嫉妬心を剝き出しにして創作に取り組んでいたことは有名だ。
前世において、彼は漫画チェイサー(コージィ城倉)を読んだことがあった。
「そうか……! 嫉妬は創造の原動力にもなる!」
アスモデウスは立ち上がった。
「すごい作品を見て悔しいと思う。自分もあれを超えたいと思う。その感情が努力を生み、新しいものを作り出す!」
彼は拳を握りしめた。
彼は前世でオタクだった。
「神が嫉妬で信仰を守るなら、漫画の神は嫉妬を創作の力に変えた! つまり嫉妬とは他者を否定する力ではない! 他者を見て、自分を革新する力なんだ!」
玉座の間が静まり返った。
誰もが息を呑んでいた。
アスモデウスは気づいていなかった。
自分の言葉が、魔界における大罪の定義を根底から覆しつつあることに。
そして何より、彼自身がただのオタク知識をそれらしく語っているだけだということに。
魔王は玉座から降り、アスモデウスの前に立った。
「嫉妬の伯爵よ。ひとつ問いたい」
「なんでしょう」
「貴様は、私の座を妬むか?」
アスモデウスの顔が引きつった。
魔王の座。
魔界の頂点。
世界を支配する権力。
欲しいか、と聞かれれば。
そりゃあ。
「……羨ましいですね」
魔王の冠が、音もなく浮き上がった。
玉座が軋んだ。
魔王の魔力が、アスモデウスへ流れ始めた。
「待って待って待って! 今のは一般論! 野心じゃない!」
「素晴らしい……!」
魔王は感動していた。
「我が王位を羨むことすら隠さぬとは! その傲岸不遜、まさに大罪の王にふさわしい!」
「いや、百歩譲っても嫉妬の王くらいです!」
「次代の魔王は、貴様だ!」
「辞退します!」
しかし、魔界の法は残酷だった。
大罪の権能が魔王の力に触れた以上、アスモデウスには次期魔王候補としての資格が与えられたのである。
こうして、魔界の歴史に新たな時代が幕を開けた。
嫉妬の伯爵。
神を妬み、天才を妬み、隣人の豪邸を妬み、ついには魔王の座まで妬んだ男。彼は後に、嫉妬の権能を極めた大罪の王として語り継がれることになる。
なお、本人はその後もずっと不満だった。
「でもさあ……」
魔王城の執務室。
山積みの書類を前に、アスモデウスは頬杖をついていた。
「結局、嫉妬って相手がいないと始まらないんだよな」
彼は魔力で天界を覗き見た。
天上の世界には魔王城よりも巨大な神殿がそびえている。その頂上には、全知全能を象徴する巨大な神像があった。
アスモデウスは、しばらく神殿内部で宴に耽る神々の姿を見つめた。
「……あの神、いい椅子に座ってんな」
次の瞬間。
天界が揺れた。
神々が悲鳴を上げた。
彼の嫉妬は、今日も世界を揺るがしている。
感想、評価など頂けると嬉しいです。