Fate/Zero ゼロに向かう物語   作:俊海

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漆黒の意志は銀の弾丸となりて。

「お前と再会ができるだなんて、夢にも思わなかったよ」

 

 

 ジョニィは、今まさに河岸にたどり着こうとする怪物と対峙しながらも、その脅威に目を奪われず、自らの愛馬を愛おしそうな眼差しを込めて撫でる。

 その馬の名は『スローダンサー』。

 年を取った性格のいじけた暴れ馬、しかし経験の積み重ねにより、体力だけの若い馬のように危険な土地に勢いで突っ込んだりしない、確かな走りを実現させてくれた、『あの長い旅路』における、ジョニィにとって大切な、もう一人の相棒とも言える馬だ。

 

 

「……いや、結構無茶な走り方を強要させたっけか?」

 

 

 そのバーサーカーの独り言を肯定するかのように、スローダンサーが鼻を鳴らした。

 思えば、険しい渓谷にてワイヤーの上を走らせるなど、非常識すぎるルートを走らせた覚えがある。

 ……それでも、難なく走りぬいてくれたのだから、経験は確かなものだということだろう。

 

 

「ま、今回も頼むよ。なに、今度はドジったりしないよ、安心してくれ」

 

 

 そう言えば、スローダンサーに乗っての回転で、一度だけとんでもないミスを犯したことがあった。

 この聖杯戦争において、その弱点を知っている人物はいないし、その対策をされる心配も今はないけれど、少しだけ苦い思いをかみしめる。

 もう二度と、そんなへまなど犯さない。

 

 

「じゃあ見せてやろうぜ。僕の……いや僕達(・・)の『完全なる黄金の回転エネルギー』の力を」

 

 

 『僕達』と言うところに、ジョニィは自分の中に渦巻くありったけの感情をこめて、ゆっくりと馬を走らせる。

 馬自身が良いと思うように、この地面を自然体で走って喜ぶように――

 

 

「馬自身が……この大地と空の下に生まれてきたことを感謝するように……!」

 

 

 それこそが、『黄金長方形』を作る時だ。

 バーサーカーの旅路は、常にこの『黄金長方形』と共にあった。

 物語の始まりも、戦い続けてこられたのも、そして、再び立ち上がれるようになったのも、全てはこの『回転』によるもの。

 ジョニィがもしも『彼』に出会わなければ、このようなことにはなっていなかったはずだ。

 もっと、惨めで、醜悪で、世の中全てを恨みながら死んでいったであろう自分に、希望を見せてくれた、唯一無二の親友。

 その彼に、再会するためにも今は……。

 

 

「形が……出来てきた……」

 

 

 今目の前に立ちはだかるのは、生前でも見かけたことのない化け物。

 それがその気になれば、一瞬で自分の霊核など粉砕されてしまうだろう。

 

 だだ、ジョニィにとって、その程度の恐怖は飲み込むのに容易いものだ。

 間違いなく自分たちは、その脅威に向かってはいるが、それでも心の奥底から『勇気』が湧いてくる。

 

 『黄金長方形』の中に、自分とスローダンサーがいることを感覚で理解し、自らの意志を『(タスク)』に乗せる。

 失敗は許されない。『馬の力』を利用した、『黄金長方形』。

 『鐙』を両足で踏ん張って、この一発に全てを込めて――!

 

 

「……『ありがとう、ジャイロ』。……今度こそ……今度こそ、直接、この言葉を君に伝えるよ……」

 

 

 だから、そのためにも、力を貸してくれ。

 そんな願いを込めた、ジョニィの感謝の言葉と共に放たれた『黄金の回転/スタンド(エネルギー)』は――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キャスターは狂喜乱舞していた。

 かの聖女を貶めた神自身が、己の下へと向かってきたのだから。

 海魔は自分には操れない。だが、向こうから近づいてくるのであれば、この巨体をもってあっけなく踏みつぶせる。

 そのような予想図が建てられて、ジル・ド・レェはまさにその時を待ち焦がれた。

 

 ……が、様子がおかしい。

 その神は、間違いなく自分たちに向かってきているのだが、なぜか今までその姿さえ見せなかった老いた馬に乗っている。

 見たところ、その馬には戦闘能力はなさそうであるし、ペガサスのように宙を飛ぶこともできないだろう、ただの馬。

 なぜ、今際の時にそんな駄馬に乗っているのか。

 

 が、そんなことさほど問題ではない。

 いかな力を秘めていようと、この質量差ではどうしようもないのは自明の理。

 策略や戦術、作戦などがあろうと、そのまま押しつぶすのみ。

 それだけで、邪悪なる神を滅ぼせる。そのはずだ。

 

 

 

 ――そのはず、だが。一体あれは何なのだ?

 

 バーサーカーの指先から放たれた『何か』が、海魔に近づいてくる。

 それは、首をすくめた人間のような姿をしていた。

 鎖帷子のようなものが胴体全体からぶら下がっていて、中身はよく見えない。

 

 おかしい。今までのバーサーカーの攻撃は、他人にはその実態を認めることが不可能であったはずではないのか?

 いや、これは見えていない。英霊(サーヴァント)にも、魔術師(マスター)にも、この姿が目に映っていない。

 誰も、この言い様もない恐怖をあおる人型の『何か』の方に、視線を向けることができていない(・・・・・・・・・・・・・・・)のだから。

 ということはつまり、この化け物は、キャスターにしか見えていない(・・・・・・・・・・・・・・)ということで。

 

 

 ジル・ド・レェの脳内は疑問符で埋め尽くされていた。

 何故自分のみに見えているのか、何故こんなものを差し向けてきたのか、何故、

 

 

 ――このおぞましい怪物が、海魔の巨体に張り付いているのか。

 

 

 背筋に冷や汗が垂れる。『螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)』を持つ手が震える。歯の根が合わず、ガタガタと耳障りな音を鳴らす。

 それでもキャスターの疑問は尽きない――いや、尽きさせることを本能が拒む。

 そうしなければ、キャスターは、自分でも理由が説明できない恐怖に襲われると、理解してしまっていた。

 

 そしてジル・ド・レェの脳内は、徐々に疑問文ではなく己を安心させる言葉の羅列にへと変換されていった。

 大丈夫だ。これだけの装甲があれば問題ない。その前に叩き潰せばいい。あれもきっと張り付いているだけ。何もできやしない。聖女にも、この牙城を崩すことができなかったのだか、

 

 

『オラ――』

 

 

 一発。

 その怪物の拳が、たった一発撃ち込まれただけで、キャスターは気づかされてしまった。

 まだ、直接的にキャスターに被害をもたらされていないというのに、骨の髄から理解できてしまった。

 『もう逃げ場など存在しないのだ』と。

 

 

『オラオラ――』

 

 

 二発三発。

 化け物が海魔の中へと侵入してくる。

 その海魔の身体というキャスターへの障害物を、まるで障子を破るかの如く容易く突き破りながら。

 

 

『オラオラオラオラ――』

 

 

 四発五発六発七発。

 止まない。掛け声とともに繰り出される拳のラッシュが止まらない。

 少しずつ、だが確実に、その化け物はキャスターの許へと近づいてきている。

 その恐ろしい容貌を見せつけながら、一歩、また一歩と。

 

 

『オラオラオラオラオラオラオラオラ――』

 

 

 八、九、十、十一、十二、十三、十四、十五。

 どうかその歩みが遅れてくれるようにと、祈ることしかできないキャスター。

 その祈りは、かつて自分が捨ててしまった神へのものか、それとも聖処女へのものなのか、本人ですら判然としていないのだろう。

 しかし、そんなキャスターの淡い希望など鼻で笑うかのように、その怪物の勢いは増していく。

 もはや、キャスターにその手が届くのも時間の問題だった。

 

 

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ――』

 

 

 十六、十七、十八、十九、二十、二十一、二十二、二十三、二十四、二十五、二十六、二十七、二十八、二十九、三十、三十一。

 遂に、その悪魔の手が、キャスターの首にかかった。

 何とかその手から逃れようと半狂乱して暴れるも、その怪物は意にも介さず、無機質な瞳でもって容赦なくジル・ド・レェを睨みつける。

 逃げ出したい。なのに、それを許してもらえない。そんな無力感がキャスターの体を包み、

 そして、

 

 

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ――』

 

 

 三十二、三十三、三十四、三十五、三十六、三十七、三十八、三十九、四十、四十一、四十二、四十三、四十四、四十五、四十六、四十七、四十八、四十九、五十、五十一、五十二、五十三、五十四、五十五、五十六、五十七、五十八、五十九、六十、六十一、六十二、六十三。

 夥しい数のラッシュを浴びせられた。

 一つ一つが、魂ごと身体を消滅させてしまいそうなほどの威力。

 

 ああ、しかし、これこそが奴が、バーサーカーが神であることの何よりの証拠。

 こんな力『この世界に有ってはいけない力』だ。

 それを行使するバーサーカーこそ、邪悪なる――

 

 

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラアッ!!!!!!!』

 

 

 だが、そんなキャスターの決めつけなど、知ったことかとばかりに、化け物――『(タスク)ACT(アクト)4(フォー)』は、キャスターを魂すらも完全に消滅させる(・・・・・・・・・・・・)と、ジョニィの意志を全うするため、海魔の残骸を粉々の塵に変えたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――『(タスク)ACT(アクト)4(フォー)』だ。『生贄』になるのは……ジル・ド・レェ、そっちだったみたいだな」

 

 

 

 ジョニィは、キャスターが存在していた――最早痕跡も無くなったが――場所を見つめ、ポツリと呟いた。

 スローダンサーの頭を軽くなでて、一人ごちる。

 

 キャスターを倒せたはいいけれど、その代償が令呪二画。

 全くもって割に合っていない。

 討伐報酬と、ギルガメッシュからの褒美はあるけれど、それでもかなりの痛い出費である。

 

 何はともあれ、これで自分を執拗に狙ってくるキャスターはいなくなったのだ。

 一日ぐらいはゆっくりしたい気分になる。

 

 

「これで後は、セイバー、ランサー、アーチャー、……で、何だかよく分からないサーヴァント一騎か」

 

 

 だが、別にあれを倒す必要はない気がする。

 バーサーカーは『直感』でだが、そう認識していた。

 あれはまさしくイレギュラーな存在であって、自分達の聖杯戦争とは関係ない――いや、一度介入はしてきたが――のだから、放っておいていい案件だ。

 しかも、なぜか自分の味方になってくれた訳だし、闇雲に襲撃をかける様なサーヴァントではないのだろう。

 

 

「これについては、またカリヤ達と相談するとして……」

 

 

 もう、いい加減無視をするのも限界が来ていた。

 先ほどから自分の後頭部に突き刺さる多くの視線。

 それらから逃れるためにも現実逃避していたのだが。

 

 

「……あんたら、何か僕に用でもあるのか? もうキャスターは消滅したんだし、解散って流れには……ならないよなァ」

 

 

 そこには、自分に何か聞きたそうな顔をしている面々が。

 その気持ちは分かる。大いに分かる。

 自分も同じ状況に置かれたら、全く同じ反応をしていただろうことが予想できるから。

 

 

「今のは一体何だったのですか? 貴方が馬に乗りながら攻撃した途端、急にあの海魔が収縮するかのように消え失せてしまったのですが……」

 

「そんなことを聞かれて、僕が正直に答えるとでも思ってるのかい? 僕の切り札なんだ、そう易々とその仕組みを教えるわけにはいかないな」

 

 

 何があっても、この『(タスク)ACT(アクト)4(フォー)』について語るつもりは、ジョニィにはさらさらない。

 むしろ今まで、ライダーほどではないにしても、どれだけ自分の手の内を明かしてきたことか。

 そこに、この切り札まで把握されては、非常にまずい。

 『切り札』というものは、その正体を突き止められた瞬間、その効力を失ってしまうものだ。

 これはあくまで見せ札。存在だけをチラつかせて、それに警戒してくれるように促さなければいけない。

 

 

「それは、確かに……。では、その馬は? 貴方は宝具を持っていないはずでは?」

 

「……なんか、いつの間にか出てきた」

 

「バーサーカー、いくら何でも、雑にごまかし過ぎではないか? いくら俺でも、そのような言い方をされては見逃すわけにはいかんぞ」

 

「それがさァ、嘘偽りなしに、本当にいつの間にか出てきてたんだよなァ……」

 

 

 バーサーカー自身、どうしてスローダンサーが現れたのか把握できていない。

 雁夜に令呪を切られたと思ったら、途端に傍に現れたのだから。

 おそらくは自分の正体不明な宝具によるものだとは予測はできているものの、それでどうして自分の愛馬を召喚できたのかは説明しようがない。

 

 

「……嘘では、なさそうですね。いや、その、こちらから貴方の秘密を探るのは失礼に値するとは分かってはいるのですが、いくら何でも常識を超えた光景を目の当たりにしたせいで……」

 

「いや、気にしてないからいいよ。探り探られなんて、僕の生前でもよくあったことだ。むしろこれくらい、生温くて笑っちゃうくらいだしね」

 

 

 そんなバーサーカーの言葉を聞いた一同は、バーサーカーが元は一般人であったことに対する懐疑心が強まっていく。

 実はそれは出まかせで、マフィアか何かに属していた裏世界の住人だったのでは、とさえも思えてしまう。

 

 

「うむ、まさか狂戦士(バーサーカー)に、騎手(ライダー)のお株をとられてしまうとは思いもよらなんだわ。そして、その馬だ。そ奴、一見みすぼらしいが、なかなかどうして優秀な走りを見せるではないか!」

 

 

 どこか空気が淀み始めた瞬間、ライダーの快活な声が響き渡る。

 やっぱりこいつはいつでも平常運転だなと、ジョニィは呆れもまじりで苦笑した。

 

 

「そりゃあ、ライダーのブケファラスと比べたら、大概の馬は見劣りするだろうよ。むしろ、それに匹敵する馬なんているのかって話だ」

 

「む、それは聞き捨てならないなバーサーカー。確かに大きさでは分が悪いですが、私のラムレイやドゥン・スタリオンも負けてはいませんよ」

 

「……セイバー。なんでそこで対抗意識を燃やしてるんだよ」

 

 

 しかも名前だけ聞いても、全くどんな馬なのかという情報が出てこない。

 言いぶりからして、生前の愛馬だとは推察できるが、別段アーサー王の馬についての逸話など、バーサーカーは聞いたことも無いので、さほど重要な情報ではないのだろうとジョニィは判断した。

 

 

「まさか、今から勝負するとか言い出さないよな? 自分で言うのもなんだけど、僕はキャスターを討伐した功労者だぞ? 騎士道的にはそれもありなわけ?」

 

「い、いえ! そんなまさか! 我々は貴方に敬意を表しているほどなのですよ? そのような人物に、弱り切ったところで戦いを挑むなどありえません」

 

「我々を見くびらないで貰おうかバーサーカー。そのような非道な真似、このディルムッド・オディナの名に懸けて決して行わないと誓おう」

 

「…………」

 

 

 バーサーカーは内心、僕だったら迷わず行ってたけど、こいつら本当に人が出来てるな。と感心していた。

 ライダーがいる手前、それを実行に移すことはできないけれど、敵が弱っているなら、そこに棒で叩いてとどめを刺すくらい、バーサーカーにはどうってことはない。

 しかも、バーサーカーはライダーと手を組んでいるのだから、その戦力を削っておきたいと思うのは当然である。

 

 

「……ねえ、バーサーカー、私から、一つ聞いてもいいかしら?」

 

「あんたは……えーっと、確かセイバーの……」

 

「アイリスフィール。アイリスフィール・フォン・アインツベルンよ」

 

 

 ああ、確かそんな名前だったな。今の今までさほど興味も無かった相手だったから忘れてた。

 そんな無礼極まることを頭の中だけでつぶやいて、バーサーカーはアイリスフィールの方へと向きなおす。

 だが、そうやって暢気そうにしているジョニィとは対照的に、アイリスフィールの顔はどこまでも険しい。

 ……まさか、今考えてたことを読み取られたとかじゃないよな? と、とりとめもないことを考え始めた時。

 

 

「貴方、どうやってキャスターを倒したの?」

 

 

 アイリスフィールは、先ほどから疑問に思っていたことをバーサーカーに問いかけた。

 彼女は、何もバーサーカーの切り札を探ろうという意図はない。ないのだが、どうしても聞かずにはいられなかったのだ。

 アイリスフィールの体内には、聖杯が内蔵されている。

 そのためサーヴァントが消滅し、聖杯の中にサーヴァントが取り込まれるたびに、アイリスフィールは、それを検知することができるはずなのだ。

 しかし、たった今キャスターが消滅したというのに、聖杯に取り込まれた様子がない(・・・・・・・・・・・・・・)

 キャスターが雲隠れしたとは思えない。ならばバーサーカーの手によるものだと断定したアイリスフィールは、何が何でも聞きださなければと使命感に駆られていた。

 なにせ、聖杯としての機能が確実に遂行されるという保証が、たった今無くなったのだから。

 

 

「……それに答える義務はない。勝手に想像してくれ」

 

「いいえ、そうもいかないわ。貴方がどうやって倒したのかを白状するまで、ここから離れることは許しません」

 

 

 だが、そんな事情を知らないジョニィからすれば、そんな質問は答えるに値しない。

 ならば、と、アイリスフィールは、根競べ勝負に持ち込もうとした。

 バーサーカーは狂戦士であるにもかかわらず、その精神性は一般人と変わらない。

 その上、単純な戦力で言えばセイバーの方が格上である。

 何が何でも粘って、向こうから口を開かせるように仕向けようとして――

 

 

「アイリスフィール!」

 

 

 あまりにも頑ななにバーサーカーに詰め寄るアイリスフィールを、セイバーが制止する。

 それは、アイリスフィールの態度が、バーサーカーに対してあまりにも失礼だったからというのもあったが、それ以上にセイバーの身体を動かしたのは、バーサーカーの瞳だった。

 先ほどまで気だるげだったバーサーカーの目つきが、アイリスフィールに詰問され始めた途端、あまりにも底冷えするような剣呑なものに変わったのだ。

 まるで、自分に纏わりついてくる蠅を鬱陶しいからという理由で叩き潰すような、あまりにも自然すぎる『殺意』を、バーサーカーが発し始めたため、それを守る形でセイバーは両者の間に割って入った。

 

 

「…………あんた、僕を争いごとを好まない平和主義者か何かと勘違いしてるんじゃあないだろうな? いくら僕が喚ばれた七騎の中で最弱だとは言え、これでも英霊なんだぞ? あんた程度殺すくらいならわけないってことを、その身をもって味あわせてやろうか?」

 

「…………っ!」

 

 

 出来れば殺したくないというのは間違いなくバーサーカーの本音ではある。

 だが、邪魔になるのなら何の感慨もなく殺せてしまうのも、バーサーカーだ。

 普段のバーサーカーの行動、言動、態度。それらがあまりにも『普通』すぎるため気づきにくいが、『殺意』という尺度で言えば、この聖杯戦争の中でもトップクラスに高いとも言える。

 

 この純粋な殺意を初めて受けたアイリスフィールは、自分が目の前の男のことを、どこか軽く見ていたことに気づかされた。

 『セイバーを敵に回したくないと言っていたのだから、その主である自分に易々と手荒な真似はしないはず』そう思い込んでいた。

 

 だが、今思うと、そんなことはありえないのだ。

 バーサーカーが一度その相手を明確な自分への敵であると判断したならば、あらゆる条件を無視して躊躇なく始末にかかる人間なのは、誰の目に見ても明らかだった。

 

 何故なら、バーサーカーがキャスターの討伐戦に遅れてやってきたのは、あのアーチャーと戦っていた(・・・・・・・・・・・・・)からなのだから。

 

 

「…………ごめんなさい。少し興奮して貴方に無礼を働いてしまっていたようです。さっきの質問はなかったことにしてもらえるかしら?」

 

「………………ならいいよ。じゃ、もう僕は帰る。色々疲れたし」

 

 

 そう言い捨てると、バーサーカーは踵を返してライダーの下に歩み寄っていく。

 そのままバーサーカーがライダーの戦車に乗り込むと、三人ともが空の彼方へ消えていった。

 

 

「…………アインツベルン嬢よ。もう少し、相手が英霊であるということを念頭に入れてから、会話というものを試みた方が良いのではないかね?」

 

「…………返す言葉もありません」

 

 

 敵であるはずのケイネスの忠告が、アイリスフィールの心に突き刺さった。

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