色違いタイプ統一縛りニキのポケ界転生日記   作:霜月ルイ

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chapter:20 うちのフェローチェ、言うこと聞かないんですが。

 八歳になった俺には、最近ちょっとした悩みがある。

 それは、我が色違いむし統一パーティーの育成についてだ。

 

 ムーちゃんは順調。

 しずくも、まだシズクモのままだが、少しずつ技を覚えている。

 

 新入りのルージュに至っては、毎日元気いっぱい。

 元気すぎて、昨日は俺の枕を花粉まみれにしてくれた。

 

 ……あいつ、絶対わざとだろ。

 まあ、それはいい。

 

 問題は最後の一匹。

 フェローチェのフェリヤである。

 

「フェリヤ! きょう、ちょっとれんしゅうしてみない?」

 

「…………」

 

「ムーちゃんといっしょに、かるく!」

 

「…………」

 

 すっ。

 

 フェリヤは立ち上がり、そのまま部屋を出ていった。

 

 交渉終了。

 

 早すぎない?

 せめて検討くらいしてくれません?

 

 カンムリ雪原で保護してから二年。

 今では同じ部屋で過ごせるようになったし、俺が用意した食事も普通に食べてくれる。

 

 名前を呼べば、たまに振り向く。

 つまり、少しずつ距離は縮まっている。

 

 ……はずなのだが。

 バトルの話をすると、決まってこの反応。

 

 完全拒否。

 

 素早さ種族値151を誇るウルトラビーストが、本気で話し合いから逃げている。

 これはもう、対戦環境以前の問題である。

 

「……なぁ、ムーちゃん」

 

「グソ?」

 

「おれ、どうしたらいいとおもう?」

 

 ムーちゃんは少し考えたあと、俺の頭を優しく撫でてくれた。

 

 ……ありがとう。

 

 でも、慰めじゃなくて解決策が欲しいんだ。

 

 ♦

 

 その日、俺はパパンと一緒に、ワイルドエリアの外れへ出かけた。

 

 目的は、ポケモンたちとの軽い実戦練習。

 ムーちゃんとルージュは、すっかりやる気満々だ。

 

 しずくも、小さな脚を動かしてついてくる。

 

 そして、珍しいことに。

 

「……フェリヤ?」

 

「…………」

 

 フェリヤまで、外へ出てきた。

 

 ……え?マジ?

 

 いつもなら留守番を選ぶのに?

 

「フェリヤも、いく?」

 

 返事はない。

 ただ、少し離れた場所に立ったまま、こちらを見ている。

 

「……リン」

 

 パパンが小声で言った。

 

「ついてくるのと、練習に参加するのは別だからな?」

 

「わかってる!」

 

 ……もちろん。

 無理に戦わせるつもりはない。

 

 ママンとの約束だし、それ以前に本人が嫌がっている。

 ただ、少しでもバトルに興味を持ってくれたら嬉しい。

 

 そう思ってしまうのは、トレーナーとして仕方ないだろう。

 

 ♦

 

 今日の練習相手は、野生のヤンチャムだった。

 

「ヤンチャ!」

 

「グソッ!」

 

 ムーちゃんと向かい合い、元気よく拳を構える。

 もちろん、相手が勝負を受けてくれたうえでの練習だ。

 

 パパンも近くで見守ってくれている。

 

「ムーちゃん! あいてのうごきをよくみて!」

 

「グソッ!」

 

 ヤンチャムが飛び込む。

 

 ムーちゃんは身体を捻り、その拳を受け流した。

 

 ……うん。いい感じ。

 

 相変わらずムーちゃんは怖がりだけど、慌てず相手の動きを見られるようになった。

 ヨロイ島での修行は、ちゃんと身になっている。

 

「いいよ、ムーちゃん!」

 

「グソッ!」

 

 その様子を、しずくとルージュが見守っている。

 ルージュは楽しそうに飛び回り、しずくはムーちゃんを応援するように水泡を揺らしていた。

 

 そして、フェリヤは。

 

「…………」

 

 少し離れた岩の上に立っていた。

 

 興味があるのか、それとも単に周囲を警戒しているだけなのか。

 相変わらず、表情からは読み取れない。

 

 ……でも。

 今日は最後まで見てくれている。

 

 それが、少し嬉しかった。

 

 ♦

 

 事故が起きたのは、練習を終えようとしたときだった。

 

「ヤンチャ!」

 

 ヤンチャムが最後の一撃を繰り出す。

 

 ムーちゃんはそれを受け止め、ゆっくりと押し返した。

 

 ……よし。

 

 ここで終了だな。

 

「ムーちゃん! ありがと!」

 

「グソッ!」

 

 俺が一歩前へ出た、その瞬間。

 

 足元の石に、靴が引っかかった。

 

「……うわっ!?」

 

 身体が傾く。

 

 同時に、勢い余ったヤンチャムがこちらへ踏み出した。

 

 ……まずい。ぶつかる!

 

 そう思ったときだった。

 

 ――ヒュッ!

 

 視界から、何かが消えた。

 

「……え?」

 

 次の瞬間。

 

 ――ドンッ!!

 

「ヤンチャッ!?」

 

 鈍い衝撃音。

 

 ヤンチャムの身体が、地面を転がった。

 

 ……は?

 何が起きた?

 

 俺が顔を上げると、そこには。

 

「……フェロッ!!」

 

 フェリヤが立っていた。

 細長い脚を構え、ヤンチャムを睨みつけている。

 

 ……え、フェリヤ?

 

「……フェリヤ!?」

 

 返事はない。

 フェリヤはヤンチャムから目を離さなかった。

 

 ヤンチャムは起き上がろうとしたが、すぐに動きを止めた。

 明らかに怯えている。

 もう戦うつもりはなさそうだった。

 

 しかし。

 

「フェロッ!!」

 

 フェリヤが、再び踏み込もうとした。

 

「まって!!」

 

 俺は思わず叫んだ。

 

「フェリヤ! もうおわり!」

 

 ……聞こえているはずだ。

 なのにフェリヤは止まらない。

 

 近づこうとしたルージュにまで鋭い声を上げ、牽制した。

 

「アブリッ!?」

 

 ルージュが慌てて後退する。

 

 ……おい。

 

 嘘だろ……フェリヤ。

 味方まで敵だと思ってるのか?

 

 ♦

 

「リン、下がれ!」

 

 パパンの声が響いた。

 次の瞬間、ゴーリキーが飛び出した。

 

「ゴーリキー!」

 

 フェリヤとヤンチャムの間に入り、両腕を広げる。

 だが、フェリヤはそれすら脅威と受け取ったらしい。

 

「フェロッ!」

 

 身体を低く構えた。

 ……まずい。このままじゃ、本当に誰かが怪我をする。

 

「ムーちゃん!」

 

「グソッ!」

 

「ヤンチャムをまもって!」

 

 ムーちゃんが大きな身体を動かし、怯えるヤンチャムの前へ回り込んだ。

 ゴーリキーはフェリヤの進路を塞ぐ。

 

 二匹とも攻撃はしない。

 ただ、これ以上近づけないようにしている。

 

 フェリヤが一歩動く。

 ゴーリキーも動く。

 ムーちゃんはヤンチャムを庇いながら、距離を取った。

 

 心臓が、うるさい。

 

 なんだよ、これ。

 いつもの練習だったはずなのに。

 誰も本気で戦っていなかったのに。

 

 どうして、こんなことに。

 

「……フェリヤ」

 

 俺は、できるだけ静かに声をかけた。

 

「……もう、だいじょうぶだよ」

 

 フェリヤの触角が揺れる。

 

「だれも、こうげきしないから」

 

 返事はない。

 でも、今度は動かなかった。

 

 パパンが、俺を後ろへ下がらせる。

 ゴーリキーとムーちゃんも、少しずつ距離を広げた。

 

 やがて。

 

「……フェロ」

 

 フェリヤが、構えていた脚を下ろした。

 騒動が収まったのは、それからしばらくしてのことだった。

 

 ♦

 

 幸い、大きな怪我人は出なかった。

 

 ヤンチャムには打撲があったものの、パパンが応急処置を行い、その後ポケモンセンターで診てもらった。

 命に関わるような状態ではないと聞いて、ようやく息ができた気がした。

 

 ……でも。

 だからって、何も問題がなかったわけじゃない。

 

「……フェリヤ」

 

 俺は、少し離れた場所に立つ彼女を見た。

 

「……なんで、あんなことしたの?」

 

「…………」

 

「ヤンチャム、もうたたかってなかったよ?」

 

 フェリヤは答えない。

 

 ……いや、答えられないのかもしれない。

 

 だけど。

 

「……ちゃんと、とまってよ」

 

 思わず、声が強くなった。

 

「おれ、やめてっていったじゃん!」

 

 フェリヤの身体が、びくりと震えた。

 

 その瞬間。

 俺は、ようやく気づいた。

 

 フェリヤの脚が、僅かに震えている。

 長い触角は強張り、視線は周囲を忙しなく動いていた。

 

 パパンが少し動くだけで、身体が跳ねる。

 

 この子。まだ、怖がってる。

 怒っているんじゃない。

 

 少なくとも、それだけじゃない。

 

 あのとき。

 俺が転びそうになって、ヤンチャムが近づいた。

 

 フェリヤには、それが危険に見えたのかもしれない。

 だから、飛び出した。

 

 でも、一度警戒し始めたら止まれなくなった。

 知らない相手が近づくたびに、身を守ろうとした。

 

 ……俺は、何をしているんだ。

 

 そんな相手に。

 声を荒らげて。

 さらに怖がらせてどうする。

 

「……ごめん」

 

 フェリヤは、こちらを見なかった。

 

 俺は、それ以上近づかなかった。

 

 ♦

 

 帰り道。

 パパンと俺は、ほとんど話さなかった。

 

 ムーちゃんも、いつもより静かだった。

 しずくはその前脚に乗り、ルージュも大人しくついてきている。

 

 フェリヤは、少し離れたところを歩いていた。

 

 ……二年間。

 もう二年間も、一緒に暮らしている。

 

 俺は、その間ずっと考えていた。

 

 どうすれば仲良くなれるのか。

 どうすればバトルに参加してくれるのか。

 どうすれば、俺の言うことを聞いてくれるのか。

 

 ……でも。

 

 肝心なことを、考えていなかった。

 

 フェリヤが、何を怖がっているのか。

 俺がバトルを教えたかったのは、フェリヤが強いと知っていたからだ。

 

 前世で何度も使った。

 種族値も、技も、戦い方も知っている。

 

 だから、一緒に戦えるはずだと思っていた。

 

 ……だけど。

 フェリヤは、まだ一度も自分から戦いたいと言っていない。

 

 俺たちの暮らす世界を、安心できる場所だと感じているのかさえわからない。

 

 ムーちゃんとは違う。

 あの子とは、小さなコソクムシだった頃から一緒に修行してきた。

 怖い思いをしたときも、そばにいられた。

 

 フェリヤには、その時間がなかった。

 知らない世界に放り出され、逃げ回って、ようやく保護された。

 

 ……それなのに。

 俺は、同じように接すればいいと思っていた。

 

「……フェリヤ」

 

 呼ぶと、彼女が足を止めた。

 俺は距離を保ったまま、口を開いた。

 

「……おれさ」

 

 …………。

 

「……おまえのこと、ぜんぜんわかってなかったんだな」

 

 フェリヤは、何も答えなかった。

 ただ、その場に立っていた。

 

 俺も、それ以上は言わなかった。

 

 ♦

 

 その夜。

 我が家では、久しぶりに真剣な家族会議が開かれた。

 

 パパンが今日の出来事を説明する間、ママンは黙って聞いていた。

 

 そして。

 

「……リン」

 

「……はい」

 

「今日は、怖かったでしょう?」

 

 ……え?

 

 怒られると思っていた。

 危険なことをしたと。

 ちゃんと見ていなかったと。

 

 でも、ママンが最初に聞いたのは、俺のことだった。

 

「……うん」

 

「そうよね」

 

 ママンが、俺の頭を撫でる。

 

「でも、フェリヤも怖かったんでしょうね」

 

 ……うん。

 

 きっと、そうだ。

 

「もうね、リンたちだけで何とかしようとするのは、難しいと思うの」

 

 パパンも頷いた。

 

「今回、ゴーリキーとムーちゃんが止めてくれたからよかった。でも、次も同じように収まるとは限らない」

 

 ……その通りだ。

 

 もしフェリヤの攻撃が、もっと強く当たっていたら。

 もし近くに、ほかの人がいたら。

 考えただけで、背筋が冷たくなる。

 

「……どうしたらいいの?」

 

 俺が尋ねると、パパンは少し考えてから言った。

 

「……マスタードさんに相談しよう」

 

 ……師匠?

 

「リン。もう一度、ヨロイ島へ行きなさい」

 

 ママンが静かに言った。

 

「あの方なら、きっと力になってくださるわ」

 

 ヨロイ島。

 マスター道場。

 そして、マスタード師匠。

 

 初めてムーちゃんを連れて行ったとき、俺はバトルの勝ち方ばかり考えていた。

 

 でも、師匠は教えてくれた。

 ポケモンには、それぞれの気持ちがあるのだと。

 

 ……そうか。

 俺、また同じところで躓いていたんだな。

 

「……うん」

 

 俺は頷いた。

 

「もういっかい、しゅぎょうする」

 

 ママンが、優しく笑った。

 

「ええ」

 

 俺は、廊下の向こうを見た。

 

 フェリヤは、自分の部屋で休んでいる。

 今夜も、きっと俺の呼びかけには答えないだろう。

 

 ……でも、それでいい。

 

 今度の修行は、フェリヤを強くするためじゃない。

 言うことを聞かせるためでもない。

 俺が、フェリヤのことを理解するための修行だ。

 

 ……師匠。

 

 どうやら俺は、まだまだ未熟だったみたいです。

 

 世界一位だったとか。

 対戦知識が豊富だとか。

 そんなもの、今は何の自慢にもならない。

 

 ……だって。大切なポケモンが怖がっている理由すら、わからなかったんだから。

 

 こうして、俺の二度目のヨロイ島修行が決まった。

 

 前回は、ムーちゃんと一緒に強くなるため。

 

 今度はフェリヤと、本当の意味で仲間になるために。

 

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