色違いタイプ統一縛りニキのポケ界転生日記   作:霜月ルイ

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chapter:21 問題児、マスター道場に帰還する。

 どうも、元世界一位のポケモン対戦廃人こと、リンです。

 

 突然ですが、皆様。

 修行という言葉を聞いて、何を思い浮かべるだろうか。

 

 厳しい特訓?

 強敵とのバトル?

 限界を超えた先にある、新たな力?

 

 ……うむ。実に素晴らしい。

 俺もそういうの、大好きです。

 

 しかし、今回の修行は少々事情が違う。

 

 なぜなら。

 

「……フェリヤ」

 

「…………」

 

「そろそろ、ヨロイ島につくよ」

 

「…………」

 

 隣に立つ色違いフェローチェは、今日も安定の無反応。

 美しい顔をこちらへ向けることもなく、船の窓から海を眺めていた。

 

 ……はい。

 今回の修行相手、この子です。

 

 前回はムーちゃんと一緒に強くなるため。

 今回は、フェリヤと仲良くなるため。

 

 つまり。

 戦闘力ではなく、コミュニケーション能力を鍛える修行なのである。

 

 ……俺、そんなにコミュ障だったっけ?

 いや、相手がフェリヤだから仕方ない。

 

 そもそも会話のキャッチボールが成立していない。

 ボールを投げる以前に、グラウンドへ入れてもらえていないのだ。

 

 ……先は長そうである。

 

 ♦

 

「うおおお! ヨロイ島だぁぁ!!」

 

 船を降りた瞬間、俺は思わず叫んだ。

 

 懐かしい潮風。

 青々とした草原。

 遠くに見える森と山々。

 そして、島の中央に建つマスター道場。

 

 ……ああ。

 帰ってきた。

 

 約四年ぶりのヨロイ島である。

 

「グソォッ!」

 

 ムーちゃんも嬉しそうに鳴いた。

 この島には、俺たちにとって大切な思い出が山ほどある。

 

 一緒に走った道。

 何度も転んだ修行場。

 師匠にボコボコにされたバトルコート。

 

 ……あと、大量のぼんぐりを拾った森。

 

 いや。

 最後の思い出、ちょっとおかしくない?

 

「シズッ!」

 

「アブリッ!」

 

 しずくとルージュも、初めて訪れる島に興味津々だ。

 しずくはムーちゃんの前脚から周囲を見回し、ルージュは楽しそうに花の間を飛び回っている。

 

 そして、フェリヤは。

 

「…………」

 

 少し離れた場所で、周囲を警戒していた。

 

 ……うん、相変わらずだな。

 ただ、カンムリ雪原のときほど怯えてはいないように見える。

 

 少なくとも、寒さに震える必要はない。

 それだけでも、ここへ来た意味はあるのかもしれない。

 

「さて、リン」

 

 隣にいたパパンが、俺の肩を叩いた。

 

「マスタードさんのところまで送ったら、父さんは戻るからな」

 

「うん!」

 

「困ったことがあったら、ちゃんと連絡するんだぞ?」

 

「わかってる!」

 

「……それから」

 

 パパンが、少しだけ真剣な顔になる。

 

「フェリヤに無理はさせるなよ」

 

 ………俺は、ゆっくり頷いた。

 

「……うん。ぜったいに」

 

 ♦

 

「ほっほっほ! 久しぶりじゃのう、リンちゃん!」

 

「師匠ぉぉぉ!!」

 

 マスター道場に到着すると、懐かしい声が響いた。

 

 道場の前に立っていたのは、我が師匠。

 

 マスタードである。

 

 相変わらずの笑顔。

 相変わらずの格好。

 そして、相変わらずの謎の余裕。

 

 ……いやぁ。

 変わらんなぁ、この人。

 

「ほっほっほ! 大きくなったのう!」

 

「この前、九歳になった!」

 

「おお! もうそんなになるんじゃな!」

 

 師匠が嬉しそうに笑う。

 

「それで、ちみ。また修行に来たんじゃって?」

 

「うん!」

 

「今度は何をやらかしたんかのう?」

 

 …………。

 

 ……あの。

 師匠?

 再会して三十秒で、その質問?

 

 俺のこと、どういう認識なんですかね。

 

「……やらかしてないよ?」

 

「ほう?」

 

「……ちょっと、いろいろあって」

 

「ほっほっほ! やっぱり何かあったんじゃのう!」

 

 くっ。

 この人には勝てない。

 対戦の腕前だけじゃなく、会話でも完封されている。

 

「まあまあ、立ち話もなんじゃ。入りなされ!」

 

「はーい!」

 

 ♦

 

「リン君! 久しぶりね!」

 

「ミツバさん!」

 

 道場へ入ると、ミツバさんが出迎えてくれた。

 

 優しい笑顔。

 懐かしい声。

 そして、どことなく逆らえない雰囲気。

 

 ……うむ。

 こちらも健在である。

 

「まあ、すっかり大きくなって!」

 

「えへへ!」

 

「ムーちゃんも元気そうね!」

 

「グソッ!」

 

 ミツバさんがムーちゃんの装甲を撫でる。

 ムーちゃんも、嬉しそうに身体を寄せた。

 

「それに、新しい子たちもいるのね」

 

「うん! しずくとルージュ!」

 

「シズッ!」

 

「アブリッ!」

 

「まあ、可愛い!」

 

 ミツバさんが微笑む。

 そして、少し離れた場所に立つフェリヤへ視線を向けた。

 

「……あの子が、フェリヤちゃんね」

 

「……うん」

 

 事情は、パパンから事前に伝えてある。

 ミツバさんはフェリヤへ近づかず、穏やかに声をかけた。

 

「ゆっくりしていってね」

 

「…………」

 

 返事はない。

 しかし、ミツバさんはそれ以上何も言わなかった。

 

 ……こういうところ、本当にすごいと思う。

 俺だったら、ついもう一言くらい話しかけてしまうから。

 

「リンーー!!」

 

 そのときだった。

 道場の奥から、聞き覚えのある声が響いた。

 

「ハイド!!」

 

 振り向くと、以前より少し背が伸びた少年が駆け寄ってきた。

 

 我が親友。

 そして、オシャボ製造の共犯者、ハイドである。

 

「久しぶり! 元気だった!?」

 

「めっちゃ元気!」

 

「そうだ! ウッウロボなんだけど!」

 

 ぴくっ。

 

 俺の耳が反応した。

 

「……ウッウロボ?」

 

「うん! 実は新しい機能を開発してて!」

 

「マジ!? 新レシピできた!?」

 

「それがね、材料の組み合わせを記録する機能を――」

 

「天才か!? それ欲しかったやつ!!」

 

「しかも、投入順序による出力の違いも――」

 

「うおおお! 研究しようぜ!!」

 

「うん! すぐ見せるよ!」

 

 俺たちは顔を見合わせた。

 

 これだ。これこそ、ヨロイ島。

 青春。友情。そして、ウッウロボ。

 

 ……最高か?

 

「……二人とも?」

 

 ……ん?

 

 背後から、妙に優しい声がした。

 

 振り返ると、ミツバさんがにっこり笑っていた。

 

「今回は、何をしに来たのかしら?」

 

「「……修行です」」

 

 完全一致。

 

 ハイドと俺の声が、見事に重なった。

 

「そうよね?」

 

「「はい」」

 

「研究は、そのあとね?」

 

「「はい!!」」

 

 ミツバさん、統率力がカンストしている。

 

 この人がガラルリーグに出場したら、ダンデさんでも勝てないのでは?

 

 ……いや。

 やめておこう。

 

 考えるだけで怖い。

 

 ♦

 

 荷物を片づけ、パパンを見送ったあと。

 俺は師匠と一緒に、道場の庭へ出ていた。

 

「さてさて」

 

 師匠が、いつもの調子で言う。

 

「フェリヤちゃんを紹介してもらおうかのう」

 

「うん!」

 

 俺は、少し離れた場所にいるフェリヤへ視線を向けた。

 

「フェリヤ! こっちがマスタード師匠!」

 

「…………」

 

 フェリヤは、師匠をじっと見つめた。

 

 師匠も、静かに見つめ返す。

 

 ……おや?

 何だろう。

 

 いつもの師匠なら、もっと陽気に話しかけそうなのに。

 

 今は、何も言わない。

 ただ、その場に立っている。

 やがてフェリヤは、視線を逸らして庭の端へ移動した。

 

 ……うん。

 平常運転。

 

「……師匠」

 

「なんじゃ?」

 

「フェリヤ、あんなかんじなんだ」

 

「ほうほう」

 

「俺が話しかけても、あんまり返事してくれなくて」

 

「ふむ」

 

「バトルも嫌がるし……」

 

 俺は、少し俯いた。

 

「この前、野生ポケモンをかなり激しめに攻撃しちゃって……」

 

 師匠は黙って聞いていた。

 

 俺は、あの日の出来事を説明した。

 

 練習中に転びかけたこと。

 フェリヤが突然飛び出したこと。

 止めようとしても、警戒を解かなかったこと。

 そして、俺が声を荒らげてしまったこと。

 

 話し終えると、師匠はゆっくり頷いた。

 

「……なるほどのう」

 

「……どうしたらいいかな」

 

 師匠は、すぐには答えなかった。

 代わりに、一つ質問をしてきた。

 

「リンちゃんは、あの子に何をしてほしいんじゃ?」

 

「……え?」

 

「フェリヤちゃんと、どうなりたいんじゃ?」

 

 …………そんなの、決まってる。

 

「……なかよくなりたい」

 

「うむ」

 

「それで、いつかいっしょにバトルしたい」

 

 師匠が、穏やかに笑った。

 

「よい夢じゃのう」

 

 ……褒められた?

 

 しかし、次の言葉で俺は固まった。

 

「じゃあ、あの子はリンちゃんに何をしてほしいんじゃろうな?」

 

 ……え?

 フェリヤが、俺に?

 

 何をしてほしいのか。

 

 ……わからない。

 

 食事?

 掃除?

 安心できる場所?

 

 それとも。

 そもそも、俺に何もしてほしくない?

 

「……わかんない」

 

 俺は、正直に答えた。

 

 師匠は頷いた。

 

「そうじゃろうなぁ」

 

 そこ、否定してくれないの?

 

「でも、師匠ならわかるでしょ?」

 

「ほっほっほ! ワシちゃんだって、初対面のポケモンの気持ちを全部読めるわけじゃないぞい」

 

「じゃあ、どうするの?」

 

「知っていけばよいんじゃよ」

 

「……知る?」

 

「そう。あの子が何を嫌がり、何を好み、どんなときに安心するのか」

 

 師匠は、庭の端に立つフェリヤへ視線を向けた。

 

「リンちゃん。ちみは、あの子に戦ってほしいんじゃな?」

 

「……うん」

 

「じゃが、あの子は今、それを望んどらん」

 

 …………。

 

「だったら、まずはその気持ちを大事にしてあげんとのう」

 

 俺は、何も言えなかった。

 

 ……また俺は、自分の望みばかり考えていたのかもしれない。

 

 ♦

 

「というわけで!」

 

 師匠が、ぱんっと手を叩いた。

 

「リンちゃんに、最初の課題じゃ!」

 

「……おっ!」

 

 来た、修行!

 いよいよ本番!

 

 さて、何をする?

 特訓?実戦?

 それとも、特殊なトレーニング?

 

「しばらく、フェリヤちゃんにはバトルの指示を出さんこと!」

 

「……それだけ?」

 

「それだけじゃ!」

 

「……修行は?」

 

「今言ったじゃろ?」

 

 どういうこと?

 

「フェリヤちゃんと、ただ一緒に過ごしなさい」

 

「……一緒に?」

 

「そうじゃ。無理に触らず、無理に話しかけず、無理に何かをさせようとしない」

 

 それ、今までとあまり変わらなくない?

 

「師匠、それ修行になる?」

 

「なるとも!」

 

「……経験値、入る?」

 

「ほっほっほ!」

 

 師匠が、楽しそうに笑った。

 

「まずはリンちゃんの経験値を増やすんじゃよ!」

 

 俺のほう!?

 

 いや、待って。

 普通、修行ってポケモンを鍛えるものじゃないの?

 

 トレーナー側の経験値?

 何その新システム。

 

 俺、今までそんな育成要素聞いたことないんですが!?

 

「ワシちゃんから見れば、リンちゃんが一番修行不足じゃのう」

 

 ……ぐはっ、師匠。それは効く。

 

 めちゃくちゃ効く。

 

 急所に当たったんですが?

 

 ♦

 

 その日の夕方。

 俺は道場の縁側に座っていた。

 

 庭ではムーちゃんとしずくが遊び、ルージュが花の間を飛び回っている。

 少し離れた場所には、フェリヤ。

 

 相変わらず、俺たちとは距離を取っている。

 

 師匠から言われたことを思い出す。

 

 無理に近づかない。

 何かをさせようとしない。

 ただ、相手を見る。

 

 簡単そうで難しい。

 

 つい、話しかけたくなる。

 一緒に遊ぼうと誘いたくなる。

 

 でも、今日は我慢だ。

 

「……グソ?」

 

 ムーちゃんが、俺の隣へやってきた。

 

「ん? どうしたの?」

 

「グソッ」

 

 その前脚には、しずくが乗っていた。

 

 ……ああ。

 いつもの二匹だ。

 

 俺は、そっとムーちゃんの装甲を撫でる。

 

「フェリヤとも、こうなれたらいいな」

 

「グソ……」

 

 ムーちゃんが、庭の端を見た。

 

 フェリヤは、一人で空を眺めている。

 

 ……そういえば。

 あの子、いつも高い場所や窓際を好むんだよな。

 

 周囲を見渡せるからだろうか。

 それとも、単に景色が好きなのか。

 

 ……まだわからない。

 でも、今度は勝手に答えを決めつけないようにしよう。

 

 そう思っていると。

 

「……フェロ」

 

 フェリヤが、静かに移動した。

 日陰になっている縁側の端。

 

 人通りが少なく、床が綺麗に掃除された場所。

 そこに腰を下ろす。

 

 ……あ。

 

 なるほど。

 さっきまで立っていたのは、休める場所を探していたからなのかな。

 

 ……いや。それも、まだわからないか。

 

 俺は何も言わず、ただその姿を見つめた。

 フェリヤも、こちらへ近づくことはない。

 

 それでも、同じ縁側で夕暮れを過ごしていた。

 

 不思議だな。

 何もしていないのに、いつもより少しだけ落ち着く。

 

「ほっほっほ」

 

 いつの間にか、師匠が隣に立っていた。

 

「どうじゃ、リンちゃん」

 

「……師匠」

 

「今日の修行は進んだかのう?」

 

 俺は、フェリヤを見た。

 

 相変わらずの距離。

 相変わらずの無表情。

 バトルもしていない。

 遊んでもいない。

 

 ……だけど。

 

「……ちょっとだけ」

 

「ほう?」

 

「フェリヤが、どこですわるのか、わかった」

 

 師匠は、嬉しそうに目を細めた。

 

「ほっほっほ。それで十分じゃよ」

 

 こんな小さなことでも、いいんだ。

 

 俺は、もう一度フェリヤを見る。

 あの子は、まだ俺を信用していない。

 

 それでも。

 これから少しずつ、知っていこう。

 

 好きな場所も。

 嫌いなものも。

 安心できる時間も。

 

 その先で、もし一緒に戦いたいと思ってくれたら。

 そのときは、全力で応えよう。

 

 ……うん。

 今度こそ、焦らない。

 

 そう決めた。

 

 なお。

 その日の夜、ハイドからウッウロボの改良資料が届いた。

 

 俺は、思わず飛び上がった。

 

「新機能キターーー!!」

 

 しかし、資料の一枚目には、ミツバさんの字で大きく書かれていた。

 

『修行が終わってからね』

 

 監視体制、万全すぎません!?

 

 どうやら今回のヨロイ島生活も、前途多難らしい。

 

 ……まあ、それでも。

 

 悪くないスタートだと思う。




今日もお読みいただき、ありがとうございます。
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