光り輝く太陽に導かれ   作:光り輝くダンディー

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第29話 同じ光でも閃光は癒し

 

 

地下階層でのレベリングを終えたレイは、地上へ戻っていた。

 

そして、いつもの待ち合わせ場所へと向かう。

 

◇

 

第二十二層

 

アスナと定期的に会うようになってから、すっかり馴染みの場所になっていた。

 

レイは近くのベンチに腰を下ろし、空を見上げる。

 

アスナが来るまで、まだ少し時間がある。

 

普段なら、今日の戦闘を振り返ったり、今後のレベリングについて考えたりするところだ。

 

しかし、今日のレイの思考を占めていたのは、別の問題だった。

 

(……ダンディー)

 

思い浮かべるだけで、頭が痛くなる。

 

強い。

 

まず、強い。

 

反射する光線は厄介で、一瞬の油断が大きなダメージにつながる。

 

動きも速い。

 

空中を自在に飛び回り、こちらの攻撃を巧みにかわしてくる。

 

そして――

 

(……うるさい)

 

これが最も深刻な問題だった。

 

『ダンディー! ダンディー! 今日もダンディーだぜ~!』

 

あの声が、頭から離れない。

 

戦闘中はもちろん、戦闘が終わった後も延々と聞かされる。

 

しかも、倒しても復活する。

 

普通のモンスターなら、一度倒せばそれで終わりだ。

 

だが、あいつは違う。

 

倒しても、時間が経てば再び現れる。

 

そして、レイを見つけると大喜びで襲いかかってくるのだ。

 

(……何がそんなに嬉しいんだ)

 

レイは小さく息を吐いた。

 

さらに、厄介な別の問題も発生していた。

 

ダンディーが、少しずつ大きくなっているのだ。

 

最初はバスケットボールほどの大きさだった。

 

それが、以前よりも明らかに大きくなっている。

 

気のせいではない。

 

何度も戦っているレイだからこそ分かる変化だった。

 

(……成長しているのか?)

 

もしそうなら、笑えない話だ。

 

強くなるだけでも厄介なのに、身体まで大きくなっている。

 

しかも、あのふざけた言動は相変わらずだ。

 

「……くだらない」

 

レイは額に手を当てた。

 

だが、問題はそれだけではなかった。

 

ごく稀に、ダンディーを倒すと分裂する。

 

一体が二体になる。

 

そして、二体になったダンディーとの連戦が始まるのだ。

 

昨日の戦闘も、まさにそれだった。

 

一体を倒したと思ったら、妙な歓声とともに二体に増えた。

 

しかも、分裂した二体は、どちらも相変わらずのダンディーだった。

 

光線の数は増え、攻撃の軌道はさらに複雑になる。

 

戦闘時間も長引く。

 

当然、疲労も増す。

 

(……一体で十分だろ)

 

心の底からそう思う。

 

ただし、奇妙なことに、分裂したダンディーが必ずしも連携するわけではなかった。

 

むしろ、互いに張り合い、相手より自分のほうが美しいと主張することさえある。

 

その結果、ごく稀に、互いの光線がぶつかり合い、そのまま同士討ちを始めることがあった。

 

『ぬおおおっ! 我が肉体に何をする!』

 

『そちらこそ、我が美しき肉体を傷つけるとは!』

 

『我が攻撃は美しいぃぃぃぃぃー!』

 

『ならば、受けてみよ! ダンディー・レイ!』

 

そして、互いの光線が反射し合い――。

 

『『ゴバーーーッ!?』』

 

二体そろって大ダメージを受け、消滅する。

 

その光景を見たとき、レイは何とも言えない気分になった。

 

戦わずに済んだのだから、ありがたいといえばありがたい。

 

だが、自分はいったい何を見せられているのだろう。

 

(……本当に疲れる)

 

レイは背もたれに身体を預けた。

 

強敵との戦闘そのものなら、慣れている。

 

命懸けの攻略を続けてきたのだから、当然だ。

 

それなのに、ダンディーとの戦闘は妙に疲れる。

 

肉体的な疲労だけではない。

 

精神的にも、じわじわと削られていく。

 

おまけに、最近では口調までうつっている。

 

「……悪夢だぜ~」

 

口にした瞬間、レイはぴたりと動きを止めた。

 

「…………」

 

ゆっくりと目を閉じる。

 

(……またか)

 

自分では普通に考えているつもりなのに、気づけばダンディーの口調が混じっている。

 

昨日など、戦闘が終わったあと、無意識に「……またな」と口にしてしまった。

 

まるで、ダンディーとの別れを惜しんでいるかのように。

 

(……誰が惜しむか)

 

思い出すだけで、余計に疲れた。

 

もはや笑い事ではない。

 

(……対策を考えないとな)

 

そう思うものの、具体的な方法は思いつかない。

 

そもそも、どうすればモンスターの口調がうつらなくなるのか。

 

そんなことを真剣に考えた経験など、当然なかった。

 

レイは深く息を吐いた。

 

そして、ふと時計を確認する。

 

そろそろ、アスナが来る頃だった。

 

(……早く来ないかな)

 

そう思った自分に、レイは少しだけ目を瞬かせた。

 

以前なら、誰かを待ち遠しく思うことなど、ほとんどなかった。

 

他人と必要以上に関わるつもりもなかった。

 

だが、アスナと会うようになってからは違う。

 

彼女と話す時間は、不思議と心が落ち着く。

 

特別なことをするわけではない。

 

ただ街を歩き、食事をし、他愛のない話をする。

 

それだけなのに、気がつけば次に会う時間を楽しみにしている自分がいた。

 

(……まあ、悪くない)

 

レイは視線を街の入口へ向けた。

 

そのとき。

 

「レイ君!」

 

聞き慣れた声が響いた。

 

振り向くと、そこにはアスナがいた。

 

栗色の髪を揺らしながら、小走りでこちらへやってくる。

 

その表情には、自然な笑顔が浮かんでいた。

 

「待たせちゃった?」

 

「いや。今来たところだ」

 

「よかった。今日はお仕事が少し早く終わったの」

 

アスナはほっとしたように微笑み、レイの隣に腰を下ろした。

 

「レイ君は、今日は何をしていたの?」

 

「レベリングだ」

 

「そっか。今日も頑張っていたんだね」

 

「ああ」

 

短い返事。

 

けれど、アスナは気にする様子もなく、楽しそうに話を続けた。

 

血盟騎士団での出来事。

 

最近、街で見かけた店のこと。

 

次に二人で行ってみたい飲食店のこと。

 

レイは相槌を打ちながら、静かに話を聞いていた。

 

時折、短い言葉を返す。

 

アスナも、それに合わせて自然に会話を続ける。

 

無理に話題を探す必要はなかった。

 

沈黙が訪れても、気まずくならない。

 

それが、レイには心地よかった。

 

「そういえば、レイ君」

 

「何だ?」

 

「最近、ちゃんと休めてる?」

 

不意に尋ねられ、レイはアスナへ視線を向けた。

 

「……どうしてだ?」

 

「少し疲れているように見えたから。無理をしていないかなって」

 

レイは一瞬だけ考えた。

 

疲れている。

 

確かに、疲れていた。

 

だが、原因はレベリングでも、攻略でもない。

 

頭の中に浮かんだ黄金色の珍獣を思い出し、レイは小さく息を吐いた。

 

「……少し厄介な相手がいてな」

 

「厄介な相手?」

 

「ああ」

 

アスナは心配そうに眉を寄せた。

 

「強いモンスターなの?」

 

「強い。速い。それに、うるさい」

 

「……うるさい?」

 

「ああ。倒しても復活する」

 

「えっ?」

 

アスナは目を丸くした。

 

「倒しても復活するの? そんなモンスターがいるんだ……」

 

「……しかも、どんどん大きくなっている」

 

「大きく?」

 

「ああ。たまに分裂もする」

 

「分裂!?」

 

アスナの声が少し大きくなった。

 

「ちょ、ちょっと待って。倒しても復活して、大きくなって、さらに分裂するの?」

 

「そうだ」

 

「何それ……」

 

アスナは困惑した表情を浮かべた。

 

当然だろう。

 

普通に考えれば、そんなモンスターがいるとは思わない。

 

しかも、レイの話しぶりからすると、冗談を言っているわけでもなさそうだった。

 

「……そんな相手と、ずっと戦っているの?」

 

「ああ。遭遇したらな」

 

「それは大変だね……」

 

アスナは心配そうにレイを見つめた。

 

レイは、それ以上の説明をする気はなかった。

 

これ以上のダンディーのことも、地下階層のことも、明かすつもりはない。

 

ただ、今の話だけでも十分に異常さは伝わったらしい。

 

アスナはしばらく考え込んでいたが、やがて心配そうに口を開いた。

 

「レイ君、あまり無理しないでね」

 

「ああ」

 

「強いのは分かっているけど、どんな相手でも油断は禁物だから」

 

「分かっている」

 

「約束だよ?」

 

レイは少しだけ彼女を見つめた。

 

それから、小さく頷く。

 

「ああ。約束する」

 

アスナの表情が、ぱっと明るくなった。

 

「うん!」

 

その笑顔を見て、レイはふと思った。

 

(……癒やされる)

 

心の底から、そう感じた。

 

先ほどまで頭の中を埋め尽くしていた黄金色の珍獣。

 

やかましい叫び声。

 

反射する光線。

 

倒したと思ったら二体に増える悪夢。

 

それらが、少しずつ遠ざかっていく。

 

アスナと話しているだけで、妙に気持ちが落ち着くのだ。

 

(……やっぱり、こいつは厄介だな)

 

レイは心の中で呟いた。

 

もちろん、今度の「こいつ」はダンディーのことではない。

 

隣で楽しそうに話している、アスナのことだった。

 

ただし、その厄介さはダンディーとは正反対だ。

 

ダンディーは、レイの精神を容赦なく削ってくる。

 

アスナは、その疲れを自然と和らげてくれる。

 

どちらも、レイにとって予想外の存在だった。

 

そして、できることなら――。

 

(……しばらく、このままでいい)

 

レイは隣にいるアスナへ、ほんのわずかに顔を向けた。

 

アスナは気づかず、楽しそうに話している。

 

レイは、その声に静かに耳を傾けていた。

 

◇

 

しばらくして、二人は別れる時間になった。

 

「今日は楽しかった。ありがとう、レイ君」

 

「ああ。俺も楽しかった」

 

その言葉に、アスナは嬉しそうに微笑んだ。

 

「また会おうね」

 

「ああ。またな、アスナ」

 

「うん。またね!」

 

アスナは手を振り、街の中へと歩いていった。

 

レイはその後ろ姿を少しだけ見送ってから、自分の帰る場所へと向かった。

 

◇

 

帰宅したレイは、装備の確認を済ませると、ベッドに腰を下ろした。

 

今日もレベリングは無事に終わった。

 

アスナとも会えた。

 

気分転換としては、十分だった。

 

ただ、一つ気になることがある。

 

(……明日はどうするか)

 

いつもなら、地下階層でレベリングを続けるところだ。

 

しかし、今日の戦闘を思い出すと、少しばかり気が重い。

 

強敵との戦闘は問題ない。

 

だが、あの珍獣と延々と付き合わされるのは、さすがに疲れる。

 

(……たまには地上でレベリングするか)

 

地上の攻略も半分以上進んでいる。

 

狩場も十分にあるし、物足りなくはあるが、経験値を稼ぐ場所にも困らない。

 

何より、あの珍獣に遭遇する心配がない。

 

少なくとも、今のところ地上でダンディーを見たことはなかった。

 

レイは静かに頷いた。

 

「……そうするか」

 

明日は地上でレベリング。

 

それで決まりだ。

 

これで少しは平穏な一日を過ごせるだろう。

 

そう考えたレイは、ゆっくりと横になった。

 

ただし、彼はまだ知らない。

 

自分の口から漏れる奇妙な口癖が、すでにかなり深刻な状態にあることを。

 

「……ダンディー、ダンディー……」

 

静かな部屋に、小さな呟きが響いた。

 

レイ本人は、すでに眠りかけていた。





平和が一番

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