その個性を、ぶち壊す! 〜レベル0と無個性 二人の英雄(ヒーロー)〜 作:まだら模様
続くかは知りません。
にわか知識なのであしからず。
何故かここまで続きました…
筆記試験の終了を告げるチャイムが、鳴り響いた。
出久は、答案を見直し終えて、長く息を吐いた。
別の会場では、上条がシャープペンを置き、白紙の欄がないことを何度も確かめていた。
夕方の砂浜で何度も繰り返した問題が、そのまま出ていたのだ。
海風にめくれたノートの角まで、頭の中で答えに繋がっていた。
「……あとで、緑谷に礼を言わなきゃな」
上条は、小さく呟いた。
筆記のあとは、実技試験である。
緑谷出久の試験
試験会場に入った出久は、説明を聞きながら拳を握りしめた。
実技試験は、仮想敵ロボットを破壊し、ポイントを獲得する形式だった。
ロボットの種類によって、獲得できるポイントが違う。
制限時間内に、どれだけ効率よく敵を倒せるかが問われる。
出久は、頭の中で何度も作戦を組み立てた。
ワン・フォー・オールの力は、まだ完全には制御できない。
強引に使えば、自分の身体が壊れてしまう。
だから、今は無理をしない。
自分にできる範囲で、確実にポイントを重ねていく。
「……よし」
試験開始の合図が響いた。
受験生たちが、一斉に動き出す。
出久も走り出した。
最初に現れたのは、小型の仮想敵ロボットだった。
出久は、ロボットの動きを観察した。
攻撃の直前に、重心が偏る。
その瞬間に足元へ入り、関節部分を狙う。
上条から教わった動きが、頭の中で繋がっていく。
力だけに頼らない。
相手の動きを見て、考え、行動する。
その積み重ねが、少しずつ結果に繋がっていた。
だが、出久には焦りもあった。
他の受験生たちは、次々とロボットを破壊している。
自分もポイントを稼がなければならない。
それでも、身体を壊すわけにはいかなかった。
ワン・フォー・オールを制御すること。
それが、今の自分にとって最大の課題だった。
やがて、試験会場に大きな振動が響いた。
巨大な仮想敵ロボットが、姿を現したのだ。
受験生たちが、次々とその場から離れていく。
出久は、巨大ロボットを見上げた。
あれを倒せば、大きなポイントを得られるかもしれない。
だが、今の自分に倒せるのか。
そのとき、視界の端に、瓦礫の下敷きになった少女が見えた。
「……っ!」
麗日お茶子だった。
彼女は、足を挟まれて動けなくなっていた。
巨大ロボットが、ゆっくりと近づいてくる。
逃げなければ、危険だ。
出久は、一瞬だけ足を止めた。
どうする。
今の力で、何ができる。
自分が動けば、身体が壊れるかもしれない。
試験に落ちるかもしれない。
それでも。
目の前で誰かが困っている。
助けを求める人間がいる。
だったら、身体が動いてしまう。
「……助けなきゃ!」
出久は、地面を蹴った。
ワン・フォー・オールの力を、全身に巡らせる。
十か月の鍛錬で、以前よりは制御できるようになった。
だが、まだ完全ではない。
それでも、ここで動かなければ間に合わない。
「うおおおおおっ!」
出久は跳び上がった。
巨大ロボットの頭部へ向けて、拳を振り抜く。
その一撃が、機体を大きく揺らした。
金属が軋み、巨大な身体が傾く。
だが、出久の腕にも強烈な負荷がかかった。
「ぐああっ!」
痛みが走る。
それでも、巨大ロボットは崩れ落ちていった。
轟音が響き、地面が揺れる。
出久は、落下しながら意識を保とうとした。
そのとき、身体がふわりと浮いた。
「大丈夫!?」
お茶子が、出久の身体に触れていた。
彼女の個性によって、出久の身体が一時的に無重力状態になっていたのだ。
「……ありがとう」
出久は、息を切らしながら笑った。
「君が無事で、よかった……」
お茶子は、目を見開いた。
自分を助けてくれた少年が、今度は自分のために危険を冒してくれた。
「……あなた、すごいね」
出久は、照れくさそうに笑った。
「そんなことないよ」
出久は、自分の傷ついた腕を見下ろした。
痛みはある。
身体は限界に近い。
それでも、後悔はなかった。
助けられてよかった。
それが、今の彼のすべてだった。
上条当麻の試験
一方、別の試験会場。
上条もまた、実技試験の真っ最中だった。
試験開始の直前、上条は、朝に結び直した靴紐を、もう一度きつく結んでいた。
最初に現れたのは、小型の仮想敵ロボットだった。
ロボットが腕を振り上げる。
上条は横へ飛び退き、攻撃をかわした。
そのまま、ロボットの足元へ滑り込む。
「どっせい!」
全体重を乗せた蹴りを、関節部分へ叩き込む。
しかし、ロボットは倒れなかった。
「うおっ、硬え!」
反撃の腕が迫る。
上条は地面を転がって避け、近くの壁を蹴って距離を取った。
幻想殺しがあれば、何でも解決するわけではない。
目の前のロボットは、個性によって動いているわけではない。
普通の機械だ。
右手で触れたところで、動力が消えるわけでも、装甲が崩れるわけでもない。
つまり、真正面から戦うしかない。
いや、真正面から戦う必要すらない。
上条は、ロボットの動きを観察した。
攻撃のたびに、片足へ重心が寄る。
関節の動きにも、わずかな遅れがある。
ならば、そこを狙う。
上条は、ロボットが再び腕を振り上げた瞬間、脇へ回り込んだ。
そして、足元の段差にロボットの脚部を引っかける。
体勢が崩れたところへ、全力の蹴りを叩き込んだ。
金属音が響き、ロボットが倒れ込む。
「よしっ!」
上条は、すぐに次の敵を探した。
その背後で、金属音が重なった。
振り返ると、三体のロボットが、一直線に上条へ向かってきていた。
周囲にいる他の受験生には、目もくれない。
「なんで俺ばっかり狙うんだよ! 不幸だー!」
上条は、全力で走り出した。
走りながら、視界の端に別の受験生を捉える。
足が地面に貼りついたまま、動けなくなっている少年だった。
粘着質の個性が暴走し、自分の足を地面に固定してしまったらしい。
「く、来るな……! 動けないんだ!」
ロボットたちの進路は、その少年にも重なっていた。
上条は、少年の足元へ滑り込んだ。
「動くなよ!」
右手を、地面に貼りついた粘着物へ叩きつける。
その瞬間、粘着質の個性が、霧が晴れるように消えた。
「……あ、足が!」
「走れ! あっちの建物の間だ!」
少年が駆け出す。
上条も、その後ろを追った。
二人は、建物の間の狭い通路へ飛び込んだ。
追ってきたロボットたちは、巨体が邪魔になって、通路の入り口で身動きが取りにくくなる。
上条は、その隙に脚部へ回り込み、関節を蹴りつけた。
ロボットが体勢を崩す。
助けた少年が、その隙に攻撃を加えた。
「助かった!」
「礼はいいから、先に進め!」
上条は、次の敵へ向かって走った。
自分のポイントを稼ぐことも大事だ。
だが、目の前で誰かが困っているなら、放っておけない。
結局、自分はそういう人間なのだ。
その後も、上条はロボットの攻撃を避け、地形を利用し、関節や姿勢の崩れを狙ってポイントを重ねていった。
幻想殺しが役に立った場面は、ほんの数回だけだった。
それでも、十か月の鍛錬で身につけた身体能力と判断力は、確実に上条を支えていた。
そして、試験終了の合図が響いた。
「試験終了!」
上条は、息を切らしながら立ち止まった。
身体のあちこちが痛い。
制服も、砂埃や油で汚れている。
それでも、倒したロボットの数を思い返せば、まったく成果がなかったわけではない。
「……何とか、なったか」
上条は、空を見上げた。
緑谷は、どうだっただろう。
同じ会場にいない以上、試験中の様子は分からない。
今はただ、あいつも無事に終えていることを願うしかなかった。
試験終了後。
出久は、係員の指示に従って会場から出ていた。
腕は痛む。
身体も疲れ切っていた。
それでも、試験の最中に助けた少女が無事だったことを思い出すと、少しだけ笑顔になれた。
自分の結果がどうなるかは分からない。
ポイントが足りているのかも、合格できるのかも、まだ何も分からない。
それでも、後悔はなかった。
別の会場で試験を受けていた上条も、会場の出口へ向かっていた。
彼は、自分の身体を軽く動かして状態を確かめた。
痛みはあるが、歩けないほどではない。
「……緑谷も、無事だといいけどな」
上条は、小さく呟いた。
二人が再会したのは、試験会場の外に設けられた待ち合わせ場所だった。
先に到着していた上条が、出久の姿を見つける。
「おっ、緑谷!」
「上条君!」
二人は、互いの顔を見て、ほっとしたように笑った。
「どうだった?」
上条が尋ねる。
「うーん……何とか、最後まで頑張れたと思う」
出久は、傷ついた腕をかばいながら答えた。
「最後に、女の子を助けることができたんだ」
「そっか。よかったな」
「上条君は?」
「俺も、何とか。ロボット相手に幻想殺しが役に立つわけじゃないから、結局は普通に戦うしかなかったけどな」
「でも、上条君なら、きっと上手くやれたと思う」
「どうだかな。こっちはこっちで、結構大変だったんだぜ。なぜか俺だけロボットに追い回されるし」
上条は肩をすくめた。
出久は、思わず笑った。
二人は、試験中に何があったのか、互いに話し始めた。
出久は、巨大ロボットに立ち向かったことを話した。
上条は、地形を利用してロボットを倒したことや、他の受験生を助けたことを話した。
試験会場は別々だった。
互いの行動を直接見ることはできなかった。
それでも、二人はそれぞれの場所で、自分にできることをやり遂げたのだ。
「……なあ、緑谷」
「何?」
「お前、本当に無茶するよな」
「うっ……」
「まあ、俺も人のことは言えないけどさ」
上条は、苦笑した。
「でも、無事でよかった」
出久は、少し驚いたあと、嬉しそうに笑った。
「……うん。上条君も、無事でよかった」
二人は、並んで帰路についた。
一方、雄英高校の監視室では、試験の記録が確認されていた。
オールマイトは、緑谷出久の試験映像を見つめていた。
画面の中で、出久は巨大ロボットへ向かって跳び上がっていた。
自分の身体が壊れる可能性を理解していながら、少女を助けるために力を振るった。
オールマイトは、静かに目を細めた。
「……やはり、君はそういう少年なのだな」
隣では、相澤消太が別の映像を確認していた。
上条当麻の試験記録だった。
「こちらの少年は、個性を無効化する能力を持っていると聞いていたが……」
相澤は、画面を見つめる。
上条は、ロボットを右手で触れて停止させているわけではなかった。
攻撃を避け、関節を狙い、地形を利用して倒している。
「機械相手には、能力に頼らず戦っている。状況判断も悪くない」
「そうだな」
オールマイトは頷いた。
「彼の右手は、何でも消せるわけではない。だが、それを理解したうえで、自分にできる方法を探している」
「個性に頼りきらない姿勢は評価できる。もっとも、実際の戦闘では判断を誤れば危険も大きいだろうが」
「それは、これから学んでいけばいい」
相澤は、別の映像に目を移した。
「暴走した個性で動けなくなった受験生を、右手で解放している。そのうえで、他の受験生を危険から遠ざけた。敵ポイントとは別に、そこは評価対象だ」
「ああ。私も、そう思う」
オールマイトは、二人の記録を交互に見て、小さく笑った。
「……おせっかいな少年たちだ」
相澤は、怪訝そうに彼を見た。
「何か言いましたか?」
「いや、何でもない」
夕焼けに染まる帰り道。
出久と上条は、並んで歩いていた。
「……受かってるといいね、雄英」
出久が呟いた。
「そうだな」
上条は、空を見上げた。
「まあ、やれることはやったんだ。あとは結果を待つしかないだろ」
「うん……!」
出久は、拳を握りしめた。
「上条君」
「ん?」
「今日は、本当にありがとう」
「……何回目だよ、それ」
「何度でも言いたいんだ」
出久は、まっすぐに上条を見つめた。
「僕は、上条君と一緒に頑張れてよかった」
上条は、少しだけ目を逸らした。
「……俺もだよ」
それは、嘘ではなかった。
「なあ、緑谷」
「何?」
「雄英に入ったら、また色々教えてくれよ」
「……え?」
「お前の分析、結構役に立つからな。……あと、勉強もな」
出久の顔が、ぱっと明るくなった。
「もちろん! 僕でよければ、いくらでも! 勉強は、入ってからも必須だしね!」
「そこは否定してくれよ……」
二人は笑い合った。
夕焼けの向こうに、雄英高校のある街並みが広がっている。
並んで歩く二人の前で、上条の靴紐が、ぷつりと切れた。
「……不幸だー」
出久は、思わず吹き出した。
笑い声が、夕焼けの空に溶けていった。
二人は、雄英に入学できることを信じて帰路についた。
その先で待ち受ける学校生活が、二人の想像を超えるものになるとは、まだ知る由もなかった。
この作品の本質(タイトル)を示す形で今回は作られました。
一つの区切りになります。
評判が良ければこちらも続くかも…?
ここまで読んでくださってありがとうございます。
楽しんでいただけたら、今の時点での率直な評価をいただけると嬉しいです。続きを書く大きな励みになります。
「もう一作品、『緑谷出久は未来を予習しているだけなのに、全員に策士だと思われている』も投稿しています。
是非そちらも読んでいただけたら嬉しいです。