僕は特殊能力、『強奪』に目覚めた。
前兆があった訳でもなく、神や天使の類いからのアナウンスも無く、ある朝目覚めたらそんな特殊能力が自分には備わっていると自覚した。
では『強奪』とは何が出来るのか。なんとなくは分かっている、他人に対して強奪と唱える、もしくは心の中で念じればその人の持つ能力を奪える。所謂チート能力で三指くらいには入る程度にはお馴染みのあれだ。
僕は試しに同級生のサッカー少年に強奪を使ってみることにした。なぜその少年を能力の実験台に使うかといえば他意は無い。他意は無いのだが僕が密かに好意を寄せている女子が彼の事を中々良いんじゃないかと評価していたこともちょっとは関係しているかもしれない。
(『強奪』……………これで良いのだろうか)
何かが自分に入り込んだ感じはした。おそらくサッカー少年は自分から何かが抜けていく感覚を覚えたのではないだろうか。
しかし…すんなりすぎるな。手応えがまるで無い。
だが奪えたっぽい。奪えてしまった。
放課後、体育館裏に来た僕はその辺にあったサッカーボールを拝借してリフティングしてみることにした。
運動神経が仕事してくれていない僕なら…そうだな、3回以上も続かないだろうが果たして。
「よし…1、2、3、4…4回!?」
4回出来た。というか4回よりも続けられたが、3回以上出来たという驚きでボールを落としてしまった。
もう一度ボールを蹴り始める。2回、3回、4回、5回、6回…変な感覚だ。足が自分の思考よりも前に動き出す。まるで足にもう1つの脳みそでも埋まってるみたいな。
「102、103、104……あ、失敗した。」
104回。凄い記録だ。リフティングには詳しくないがあのサッカー少年はこんなに凄いことが出来たのか。……
「本物…本物だよこれ。強奪マジなのか。え………は…?」
つい驚きを声に出してしまうが仕方ないことだろう。特殊能力が実在して尚且つそれが僕に宿っているということが証明されたのだから。まぐれで4回リフティングは出来ても流石に運動音痴でサッカー経験は体育の授業くらいでしかない僕に104回なんて有り得ない。本物…本物…!?
(でも強奪ってことは…あのサッカー少年からサッカーの才能とか努力を奪ったってことになるのか?……悪いことをしたな。)
強奪ということは相手からしてみれば能力を奪われたということ。能力がどの程度奪っているかはまだ分からないが、取り敢えずリフティング100回分くらいの能力は彼から削ってしまったのは確か。
願わくば…リフティング100回ってのは彼にとって木っ端な能力であってくれって事だけだ。
さて、いくら人の能力を傷付けるとはいえ、使えば使う程僕は強くなれるのだ。随分利己的だが、思春期真っ只中の少年にそんな能力があったとして歯止めがきかないのは仕方ないことだろう。
僕は目につく人間の能力を手当り次第に『強奪』してみた。
クラスで最も頭の良いやつの学力、クラスで最も絵が上手いやつの画力、僕が応援していない方の野球チームのトップ選手の運動能力、チャリティーコンサートを開いていたバイオリニストの演奏力、近所に住む囲碁が強いお爺さんの棋力、その辺にいたサラリーマンの交渉力、選挙応援に来ていた元首相の演説力…エトセトラエトセトラ。
能力を奪った人間はもう50に達していた。最初に能力を奪ってから僅か1ヶ月の出来事だ。
正直いつ使うんだろうという能力も奪った気がするが、使えるか使えないかなんて既にどうでも良くなっていた。能力を奪うことその物に僕は底知れない優越感を感じていたのだから。
そして数を重ねると分かってくることがあった。
・1度の強奪で得られる能力はその人が持つ能力の『約半分』であるということ。
・1度奪った人間からはもう強奪できないということ。
・強奪によって僕自身の所謂知能指数が増減することはなということ。
・奪った能力は削除が可能であるということ。(元の所有者に還元はされないらしい。)
分かったのはだいたいこの4つ。それ以外にもちらほら強奪の仕様は見えてきたが、あまり考えすぎてもドツボにハマってしまうだろうから考えないようにしている。
さて、今日は夏休み前の期末テストの結果発表の日だ。最初の方に奪った学力を確認する時が来たのだ。
検証のために勉強はしていない。決して強奪行為に夢中で勉強を忘れていたという理由では無いのだ。
強奪で僕の思考、知能指数が増えないのは分かっているのでちょっと不安だが…まぁ、手応えはそれなりにあったから赤点ってことは無いだろう。
僕の学校はちょっと古い考えらしく、廊下にずらっと総合点数と順位が発表される。昭和かっての。
さてさて結果はいずれか…「おい、中谷。」…?
下駄箱から歩いて教室の前へ向かう途中、担任に呼び止められた。あと『中谷』は僕の苗字だ。
「おはようございます、なんですか?」
「あーおはよう。いや、お前今回随分頑張ったんだな。平均点数が低かったのにあれは見事だ…」
「…期末テストの点数ですか?」
「あぁ。まぁあれだ、自分で確認してみろ。驚くぞ。」
担任に促されるままに僕は廊下を急ぎ気味に歩いた。あんなこと担任に言われたことない。余程異常事態だったのだろうか。普段僕は優等生で通ってるので別に疑われているとかでは無いようだが…
ちょっとした人だかりを押し退け、結果が書かれた紙を確認する。……なっ
「満点…9教科オール100点………」
これはやってると思われても仕方ない。満点なんてそうある事じゃない。僕の下の2位の人は865点なのでかなりの大差をつけて1位になったということになる。
しかし…何故?僕は元々学年150人中20位前後だった。いくらいつも1位を取っていたやつの半分の学力を奪ったにしてもおかしい。それに…今回は勉強をしていない。有り得ない有り得ない。
僕は途端にひとつの推論が脳裏によぎった。まさか…
テスト結果の紙を確認する。自分じゃなくて僕が強奪を使った相手だ。同級生には10人ほど居た。
まずは普段学年1位の学力を奪ったやつ。………45位。…半分奪うってのはそういうことだよな。その人が持ってるべき物を奪うってのは。罪悪感が凄い。そりゃ今までだって罪悪感はあったが、数字として出されるとより来るものがある。
だが、僕が見たいのはそこじゃない。まずはサッカー少年。彼に関しては僕は前回の順位を覚えていた。40位くらいだった筈。僕の方が学力では圧倒的に上だぞ…なんて心の中で馬鹿にしていたし。
30位無い、40位無い、50位無い、60位無い、70位無い、80位無い、90位無い、100位無い、110位無い、120位無い、130位無い、140……あった。142位。150人中の142位…
あぁ…僕はやってしまったのかもしれない。そんなピンポイントで狙った能力を奪えるだなんてのは、甘い話だった。
見れば、138位から147位には俺が強奪した9人が綺麗に並んでいた。148位から下は記載が無いからそもそもテストを受けていないのだろう。つまり事実上のワースト。
僕は呼吸が苦しくなった気がして、保健室に駆け込んだ。
「君…1位だったからってそんな過呼吸起こすほど驚くとはな…驚きじゃなくて興奮か?どっちも気の動転って意味では同じか。ま、1時間くらい寝てれば大丈夫だろ。しばらくベッドで安静にしてなさい。」
「はい。………」
つまりだ、僕の『強奪』は相手の知能指数や思考、あとは健康面やデメリット、それら以外の全ての能力を奪うということか。
思考とか知能指数は分かっていたが健康面とデメリットは今把握した。なんせ…50人から健康さを奪っていたのならこんな程度で過呼吸起こしたりしないだろう。多分。
そしてデメリット。僕にとって不都合な物を『強奪』は奪わない。或いは…思考や知能指数、健康も僕という自我、存在を維持する為には奪うべきではないという事なのかも。強奪は案外僕思いの優しいやつだったってことか。
…問題は強奪は他者に優しくないということ。50人の学力を僕は半分奪った訳だ。まだ勉学が人生に必要な人だって半分以上は居た筈だ。
半分というのは馬鹿にならない数だ。1位のやつが40位に、中間層が底辺に落ちる。少なくともそれは証明された。
あぁこの1ヶ月で僕は何人の人生を壊した?半分だからと甘えて…どれだけの人の尊厳を奪った?それは…50人全員だ。
元首相の演説力なんか、要らないなと思って破棄したぞ。その後の演説中継なんか見ても演説力は戻ってなかった。奪って享受するどころか、元首相の学力も運動能力も交渉力も…多くを奪って、ドブに捨てた。
こんなやつ…赦されるのか?
神なんて信じてなかったが、こんな都合の良い能力を持ってるやつがいるなら、それを作った上位存在的な何かはそりゃ居るだろう。この現実が僕にかせられた試練だとでもいうのか。試練…罪悪感を乗り越えた暁にゃ待ってるのは人の人生を平気で壊し続ける悪魔のような存在だというのに。
…落ち着こう。落ち着け。冷静になれ。逆だ、僕は50人の人生の上に立つ資格を神から与えられたのだ。その先にあるものは悪魔ではなく究極の己である。どこまで行こうが精神は僕のままだ。
…落ち着けない。なんだか絶え間無く面倒なことを考えている自分がいる。耐えられないよな、こんなの。でも折り合いをつけないと奪った50人に申し訳が立たない。
なら納得できる条件はなんだ。僕が僕に顔向けできる条件……
───これ以上の『強奪』の禁止
…しっくり来た。50人の能力…適当に考えるならばその半分、25人分…僕自身も合わせて26人分の能力が僕には備わっている。そんな人間、他に存在しない。この時点でもう、僕は人類の頂点に立っているのだからこれ以上を求めてどうする。
犠牲を増やさない為にも強奪の禁止は確定事項だ。
また、過呼吸気味になっていた呼吸の調子が良くなってきた。
はぁ……………はぁ。ダメだ。1回寝よう。
寝れるかな。
……1時間くらい唸っていたが、気づいたら寝ていた。今は放課後だ。
1回眠ったらなんだか気持ちの整理が出来てきた。強奪の禁止は絶対だ。これだけは絶対厳守。禁忌だ。
だが…むずむずする。1ヶ月ずっと強奪を使い続けた反動とかでは無い。この事実を誰かに共有したい。話したい。
強奪の異常性と僕の悪辣さを…知ってもらいたい。
ダメな人間だ。強奪を隠すどころか僕の心は公にしたがっている。
だが…僕に友達は居ない、母は居ない、父も偶にしか帰ってこない。教師に話したくない、もっと親身になってくれる人に話したい。
近所の囲碁のお爺さんも考えたが、流石に強奪した相手に能力を暴露することは出来ない。逆上されて殺されても僕は文句も言えない。
恋人が欲しい。いや、もっというなら一蓮托生の妻が欲しい。
強奪を使えば裏切れなくだって出来る。他人の人生を僕はオカルトに証拠不十分で壊せる。強奪の真価はそこだ…実例さえ知らしめれば…最強の脅しの道具になる。
…脅しがどうとか…考えが悪に寄ってるな。でも、すぐにだって恋人が欲しい。この恐怖を理解して欲しい、共感してもらいたい。
女々しいなんて分かるが、こちとら50人の連続殺人鬼に等しいのだ。話さなければ、狂気に陥らずにはいられない。
のそのそと保健室のベッドから出て、僕は学校から誰にも見られずに抜け出した。これからの明るい人生を夢見て。
△ 中谷 (ナカタニ)…
中学3年生の少年。『強奪』という能力を使うことの出来る超能力者。運動神経が皆無に等しく、友達も作れない。勉強がそれなりに出来る事だけを自信にして生きていた。中二病が抜けきって無い。心の中がうるさい。
▲ 『強奪』…
他人の優れた能力の50%を奪い、宿主の物として与える能力。宿主と強奪能力に悪影響を与えるものは奪わない。