八幡戸塚の雑談です。

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八幡と戸塚の雑談

(予鈴が鳴り、テニスコートから慌ただしく教室へと戻ってきた昼下がり。自分の席にどっかりと腰を下ろした八幡は、ふと斜め前(あるいは近くの席)にいる戸塚の方へと体を向けた)

八幡:「なぁ、戸塚……」

戸塚:「ん? どうしたの、比企谷くん。さっきのテニスの話?」

小首をかしげる戸塚に、八幡は腕を組み、何やら真剣な(しかしどこか脱力した)トーンで語りかける。

八幡:「いや、さっきコートでさ、あのお山の大将やら葉山やらと色々絡んでてふと思ったんだけどさ。……冷静になって客観的に考えてみたんだ。俺たちのクラスって、こう……可愛いというか、何と言うか、美人なやつが多くないか?」

戸塚:「えっ……?」

予想の斜め上を行く八幡の真面目な考察に、戸塚は少し驚いたように目をパチクリさせ、それからふんわりと柔らかく微笑んだ。

戸塚:「うーん、そうだね……。みんな個性豊かだし、綺麗な人や可愛い子は多いかもしれないね」

どこまでも素直に、眩しい笑顔でうなずく戸塚。

そのあまりのピュアさに、八幡は(心のなかで『天使かよ……』とツッコミを入れつつ)さらに深く腕を組むのだった。

八幡:「だろ? 普通、もっとこう……なんていうか、地味なモブキャラで固められてるもんだろ、クラス替えってさ。なのに、片や校内トップクラスの女王様が鎮座し、片や誰がどう見ても天使な男子がしれっと生息しているという、このハードルの高さよ……。俺の平穏なスクールライフは一体どこへ向かっているのかと小一時間問い詰めたい」

戸塚:「あはは、比企谷くん、相変わらず独自の視点ですごいね……。でも、賑やかで楽しいクラスだと思うけどな」

苦笑しながらも楽しそうに返す戸塚。

その横顔を眺めながら、八幡は「まあ、お前がそう言うなら否定はできんが……」と、小さく息をつくのであった。

 

 

(八幡はさらに眉間にしわを寄せ、納得がいかないといった様子で机に片肘をつく)

八幡:「いや、それにしてもなんかおかしくないか? まるで学年のトップオブトップの主要キャラを無理やり一つのクラスに詰め込みました、みたいな偏り方だろ、これ。普通、クラスのマドンナ的な存在なんて1人、良くて2人くらいが相場じゃないのか? なんなんだよこの高密度な美男美女の渋滞は」

理不尽なまでのクラスの華やかさに不満を垂れる八幡。

その真剣な(しかしどうでもいい)疑問に、戸塚はくすくすと上品に笑いながら、首をかしげて考え込む。

戸塚:「うーん、言われてみれば確かに……? 三浦さんも目立つし、由比ヶ浜さんも、それに葉山くんも同じクラスだもんね」

八幡:「だろ!? なんだよその隙のなさすぎる布陣は。俺みたいな一般通過モブが生き残るにはハードモードすぎるだろ、このクラス……。なあ、戸塚はどう思う? お前もその、クラスの可愛い(あるいは美しい)枠にしっかり片足――いや、両足どっぷり浸かってる自覚はあるのか?」

八幡がジト目で問い詰めると、戸塚は「えっ、僕?」と自分の胸に手を当て、少し困ったように頬を染めた。

戸塚:「ぼ、僕そんな目立つ方じゃないと思うけど……。でも、みんなそれぞれ自分の場所で一生懸命だし、仲良くなってみると案外普通に楽しいクラスなんじゃないかな?」

八幡:「……っ!」

眩しすぎる全肯定の笑顔と無自覚な破壊力の前に、八幡は致命傷を負ったかのようにガクッと机に突っ伏すのだった。

八幡:「……そうだな。お前がそういうなら、この地獄のような(あるいは天国のような)クラスメイトたちと、もう少しだけ平和に共存できるように努力するさ……」

 

 

(八幡の止まらないクラス分析に、戸塚は目を丸くして相槌を打つ)

戸塚:「え、相模さんも、川崎さんも、海老名さんも……? うん、確かにみんなそれぞれ可愛いし、綺麗だし、おしゃれだよね」

八幡:「だろ!? 三浦や雪ノ下、由比ヶ浜あたりが特異点なのはまだ百歩譲って許すとしてだ、相模だってビジュアルだけなら十分クラスの上位層だし、川崎のあのギャル風の威圧感と美形のハイブリッド、さらに海老名の――いや、あいつは別の意味で特異点だが、とにかくビジュアルの平均値が高すぎるんだよ!」

熱っぽくまくし立てる八幡に、戸塚はくすくすと楽しそうに笑う。

戸塚:「ふふっ、比企谷くん、なんだかすごく熱心にクラスの女子のこと観察してるんだね……」

八幡:「っ! いや、観察してんじゃなくて、目に入ってくるんだよ! 意図せずとも網膜に焼き付いてくる強制イベントみたいなもんだろ、これ。……一体どういうアルゴリズムでこのクラス分けが行われたのか、校長を小一時間問い詰めたくならないか?」

真剣な顔で理不尽を訴える八幡の隣で、戸塚は「うーん、でも……」と少し考え込むように顎に手を当てる。

戸塚:「もしかしたら、校長先生とかが『このクラスは華やかにしよう!』って特別な意図を持って組んだ……わけないか。でも、それだけみんな個性的で素敵な人たちってことなんじゃないかな?」

八幡:「……お前のそのピュアな回答を聞いてると、俺がいかに心がすり減った現代社会のダークサイドを生き抜いているかが身にしみてよく分かるよ……」

遠い目をしながら天井を見上げる八幡だった。

 

 

(八幡の投げやりな問いかけに、戸塚はくすっと肩を揺らして微笑む)

戸塚:「あはは、まあ、人が決めている以上、多少の偏りとかはやっぱり出ちゃうものなんじゃないかな? でも、そんなに心配しなくても、ちゃんと平和にやっていけるよ」

八幡:「平和か……。この高密度カースト地獄のどこが平和なんだか。文化祭の時なんかすでに一波乱も二波乱もあったし、これ以上イベントが起きようもんなら俺の平穏なライフはゼロよ」

頭を抱えて机に突っ伏す八幡を、戸塚は「大丈夫だよ、いざとなったら僕が守ってあげるから!」と頼もしく(しかしどこかピュアに)笑う。

八幡:「……お前が守ってくれるっていうその絵面自体が、色んな意味で周りの男子からのヘイトを稼ぎそうで恐ろしいんだが……」

やれやれとため息をつきつつも、八幡はふと窓の外へと視線をやる。

美男美女の渋滞を起こしたこのクラスで、果たして彼らの平穏な(あるいは嵐のような)高校生活はどこへ向かうのか――。

予鈴のチャイムが鳴り響く中、八幡はぼんやりとそんなことを考えるのだった。

 

(チャイムが鳴り響く教室。八幡がやれやれと窓の外に目をやったその瞬間、周辺の空気がわずかにピクリと揺らいだ――)

実は、さっきから八幡たちが小声で話していた内容は、周囲の女子たちの鋭い(あるいは敏感な)レーダーにしっかりキャッチされていた。

少し離れた席から聞き耳を立てていたのは――

腕を組んでジトッとこちらを睨む三浦優美子。

不機嫌そうに頬杖をつきながらも、どこか耳をそばだてていた川崎沙希。

「ふーん……?」と意味深な笑みを浮かべる相模南。

そして、眼鏡の奥を不敵に光らせる海老名姫菜(※二回登場するほどの強烈なオーラ)。

彼女たちの脳裏に響いたのは、あのひねくれた八幡が珍しくまじめに(?)語っていたクラスのビジュアル評価、そして自分たちの名前や「美人・可愛い」というフレーズだった。

  教室のあちこちで走る視線

三浦:(……っ! なによ急に。あーしのこと美人だとか、今さら気付いたわけ? ……べ、別に嬉しくなんかないんだからね!)

川崎:(……っ、バカじゃないの、あいつ……。急にあんな真面目な顔して何言ってんだか……)

相模:(え、待って。私のことも一応そこに入ってたよね? ……ふーん、比企谷くんって、案外ちゃんと周り見てるんだ……)

海老名:(ふふっ、これはなかなか美味しい栄養素……! ひっそりとクラスの女子をランク付けしつつ、全員を高評価してやがるぜ……!)

「八幡などに興味はない。興味はないが、褒められて悪い気がしない」――そんな乙女心(とプライド)が入り混じった複雑な心境で、彼女たちはそれぞれテキストやノートに目を落とすふりをしながらも、視線の端でひそかに八幡の背中を捉え始める。

  何も知らない八幡、急激に高まるプレッシャー

そんな女子たちの熱視線(あるいは物騒な視線)を浴びていることなど露知らず、八幡はのほほんとあくびを噛み殺していた。

八幡:「ふぁあ……なんか急に背中がゾクッとしたな。冷房の風が強すぎんのか?」

戸塚:「え? そうかな、ちょうどいいくらいだと思うけど……。風邪引いちゃった?」

八幡:「いや、風邪というか……なんというか、野良犬に囲まれたウサギのような、得体の知れないプレッシャーを感じるんだが……」

ブルッと身震いする八幡の背中を、教室のあちこちから注がれる「ちょっと見直したかも視線」がじっと追いかけている。

美男美女の渋滞を起こしたこのクラスで、比企谷八幡の「モブとしての平穏」は、この瞬間から音を立てて崩れ去り始めていたのだった――。

 

(女子たちの視線に気づかぬまま、背中の寒気をやり過ごしていた八幡に、戸塚がふと首をかしげて問いかける)

戸塚:「ねえ、比企谷くん。女子のことはいろいろ分析してたけどさ……逆に、男子の方ってどういうふうに見えてるの?」

八幡:「男子?」

八幡は腕を組んでうーん、と少しだけ考える。クラスの男子の顔ぶれを脳内でざっとスキャンしていくと、自然とあの完璧なスクールカーストの頂点が思い浮かぶ。

八幡:「まあ、男子は基本的に『生存競争に敗北したモブ』と『人生の勝者』の二極化が激しすぎて参考にならんが……」

窓際に座る、いつも爽やかな笑顔を振りまいている男子をちらりと視線の端で捉えながら、八幡はため息混じりに呟いた。

八幡:「……例えば、あそこの葉山みたいな見た目とスペックに生まれてたら、そりゃあ人生楽しそうだなとは思うよ。朝起きて鏡見た瞬間に『今日も世界に愛されてるな俺』って思えるだろ、絶対。生まれ変わるなら間違いなくあっち側の人生がいいね」

自虐交じりにそう吐き捨てる八幡に、戸塚はくすっと柔らかく笑う。

戸塚:「あはは、葉山くんは確かにすごいけどさ……でも、比企谷くんは比企谷くんなりの良さがあると思うけどな」

八幡:「いや、その『良さ』を金に換算してもローソンでからあげクンすら買えねぇよ……」

遠い目をしながら天井を仰ぐ八幡だったが、そんな二人をまたしても教室のあちこちから、今度は別の意味で冷ややかな、あるいは呆れたような視線が遠巻きに見つめているのであった。

 

 

 

(窓際、あるいは少し離れた席で教科書をめくっていた葉山隼人もまた、実はバッチリと聞き耳を立てていた)

「……朝起きて鏡見た瞬間に『今日も世界に愛されてるな俺』って思えるだろ」

その八幡のひねくれた、けれどどこか的を射た(?)表現に、葉山は思わず苦笑を漏らしそうになるのを必死でこらえた。

(――はあ。まったく、比企谷らしい歪んだ見方だな……)

内心でそうツッコミを入れつつ、葉山はふと自分のこれまでの日常を振り返る。

周囲からの期待、常に誰かの中心にいなければならないプレッシャー、爽やかな「葉山隼人」を演じ続けなければならない窮屈さ。本人にしか分からない苦労や面倒事だって、数え切れないほど抱えている。

決して、八幡が思うような「万事順風満帆で楽な人生」などではない――はずだ。

だが、心のどこかで。

(……でも、そんな風に真っ直ぐ「楽しそうだな」って言われるのは、悪くない……か)

決して悪い気はしない。むしろ、いつも斜に構えて周囲を切り捨てているような比企谷が、自分のビジュアルやスペックを隠さず(皮肉交じりとはいえ)認めてくれたことに対して、葉山は少しだけくすぐったいような、奇妙な居心地の良さを覚えていた。

サラリと前髪を整えながら、葉山はチラリと八幡の方へ視線を送る。

その表情には、いつもの完璧な笑顔の裏に、ちょっぴり照れくさそうな、そしてどこか親愛を含んだ光が宿っていたのだった。

 

(八幡が葉山についてぼやいた後、さらにクラスの男子たちの生態へと話題が移っていく)

戸塚:「葉山くん以外だとさ、例えば……戸部くんとかはどうなの? クラスのムードメーカーだし、いつも明るいよね」

八幡:「戸部か。……戸部ねえ」

八幡は腕を組み、教室の別のグループで大声で笑っている戸部をジトッと眺める。

八幡:「あいつは、高校のうちはクラスのノリと勢いで何とか生きてるけど……間違いなく、大学生になったらそこそこモテそうだよな。なんか、チャラいサークルとかでいい感じに馴染んで、気づいたらそれなりに彼女作ってそうな謎の生命力がある」

戸塚:「あはは、確かに! 戸部くん、話しやすいし友達多そうだもんね」

――その瞬間。

少し離れた席で大声で話していたはずの戸部の耳に、ピンポイントで「大学生になったらモテそう」というフレーズが届いた。

戸部:「……っ! な、なんだって……!? ヒキタニ君、俺のことそんな風に……!」

急に背筋をピンと伸ばし、耳を真っ赤にしてガタッと立ち上がる戸部。周りの男子たちから「なんだよ戸部、急にどうした」「モテたいとか自分で言うなよ」と一斉に突っ込まれるが、戸部はその場に耐え切れなくなり、振り返って八幡に直接声を張り上げた。

戸部:「お、おいヒキタニくん! 大学生になったらモテそうって、お前、それ本気で言ってんのか!? ていうか、俺は――俺は今すぐモテたいんだよ!!! 大学生まで待てるかボケ!!」

盛大な公開告白(?)のような戸部の叫びに、教室全体が「「「……」」」と一瞬で静まり返る。

その直撃をモロに食らった八幡は、冷や汗をダラダラと流しながら、引きつった笑顔で戸部の方を振り返った。

八幡:「……おい、今の声、見事に全校生徒に届きそうな勢いだったけど……もしかして、しっかり聞こえてたか?」

戸部:「めちゃくちゃバッチリ聞こえたわ!! なんだよ、俺のモテ期は今すぐ来なきゃダメなんだよ、なぁ大和、大岡!」

大和:「いや、自業自得だろ戸部……」

頭を抱えて机に突っ伏す八幡と、顔を真っ赤にして騒ぐ戸部のせいで、相変わらずカオスな賑やかさを誇るクラスの日常は、今日も通常運転でフル回転していくのだった。

 

 

(戸部の一件でクラスがどっと沸いた後、八幡はさらに視線を教室の隅へと向け、深い溜息をつく)

戸塚:「ふふっ、戸部くん相変わらず元気だね……。じゃあさ、材木座くんとかはどうなの?」

八幡:「材木座か……。うーん……」

八幡:「あいつはな、こう……骨格とか、実はベースのガタイはしっかりしてるし、髪型とか服装を劇的に変えて、厨二病のセリフを一切封印して、あと体重をガッツリ落としてちゃんと痩せれば……実は普通に背高くてスタイル良くて、ワンチャン高スペックなイケメン枠に入れそうな気もするんだが……」

そこで八幡はぴたっと言葉を止め、自分で自分の頭を軽く叩いた。

八幡:「いや、待て。それじゃあ『もしも』の話がすぎだろ。『ちゃんと痩せれば』とか『設定を全剥ぎすれば』なんて言い出したら、世の中の人間全員イケメン・美女になっちまう。……ダメだな、結局はたらればの領域を出ないわ」

戸塚:「あはは、確かに。でも、材木座くんのその中身を全部変えちゃうと、それはもう材木座くんじゃなくなっちゃう気もするけどね」

苦笑しながらも優しくフォローする戸塚の横で、八幡は「まあ、そうだな……」と納得したように頷くのだった。

 

材木座:「ふはははっ……! 比企谷、我が友よ! 貴様、密かに我が潜在能力の高さを見抜いていたというのか……!!」

大袈裟に身を乗り出して叫ぶ材木座に、教室中の視線が冷たく突き刺さる。

八幡:「……おい、静かにしろ中ボス。なんでいるんだよ。お前のその『たられば』を現実に換算するには、まずその分厚い脂肪の鎧と厨二病の呪いをどうにかするのが先決なんだよ。席に座れ」

材木座:「ぐっ……! ま、まだ我が真の力は封印されているゆえにな……!」

赤面しながらも自分のクラスに戻る材木座を尻目に、八幡は「やれやれ……」と再び机に突っ伏し、カオスすぎるクラスメイトたちの観察日記を心の中でそっと閉じるのであった。

 

 

(材木座の一件で再び静まり返った教室の中、戸塚は楽しそうにクスッと笑いながら、さらに身を乗り出して尋ねる)

戸塚:「そっか、材木座くんは色々惜しいんだね。じゃあさ……雪ノ下さんは? 彼女はどう映ってるの?」

その名前が出た瞬間、八幡はそれまでの軽口が嘘のようにピタリと動きを止め、ふっと盛大な溜息をついた。

八幡:「雪ノ下か……。あいつに関しては、もう何も言うことないだろ。議論の余地すらない完全無欠のコンプリート体だ」

戸塚:「おっ、珍しくすごく素直に褒めるんだね」

八幡:「褒めてるっていうか、事実だろ。顔よし、スタイルよし、頭よし、家柄よし。あのレベルまで行くと、もう現実世界の人間っていうより、歩く美術品か何かだ。あれ以上なんて、もうアイドルとかテレビの向こう側の住人しかいないんじゃないか?」

呆れたように、しかしどこか納得したように続ける八幡。

八幡:「むしろ、あんな人間が同じ高校の、しかも同じ部活で、フツーに座ってこっちを冷ややかに見下ろしてる方が、よっぽどバグだろ。あいつはもう、現実の教室じゃなくて、最初から違う世界のドアの向こう側……お高く留まったお姫様のお城にでもいる方がよっぽど違和感ないわ」

  ドアの向こう側で、完全に固まる雪乃

――その瞬間。

まさに今、教室に足を踏み入れようとしていた雪ノ下雪乃の足が、入り口のドアの前でピタリと凍りついた。

手に持っていたプリントの束が、わなわなと震える指の中でかすかに音を立てる。

(……わ、私を……テレビの向こう側とか、お城のお姫様とか……! なによそれ、変に持ち上げておいて最後には『現実の教室にいる方がバグ』だなんて……!!)

いつもなら冷徹な論破の言葉を叩き込むところだが、なぜか今の雪乃は、耳の先から首筋までがカッと真っ赤に染まり、心臓がうるさいほどに跳ね上がっていた。

「歩く美術品」だの「議論の余地なし」だの、あのひねくれた比企谷の口から、あんな直球で、しかも一切の妥協のない最大級の称賛(と照れ隠し)が飛び出すなんて予想できるわけがない。

顔を真っ赤にしたまま、その場で完全に石像のように固まってしまう雪乃。

  何も知らない八幡、再びの危機

そんなドアの向こうの修羅場に全く気づかず、八幡は気だるげに肩をすくめている。

八幡:「まあ、本人に向かってこんなこと言ったら、もれなく氷点下の冷たい視線と共に『……は? 何を気色悪いことを言っているのかしら、この役立たずが』とか一刀両断されそうだけどな」

戸塚:「あはは、確かに雪ノ下さんなら言いそう……って、あれ? 比企谷くん、後ろ……」

戸塚が青い顔をして、八幡の背後を指さす。

凍りついた空気の中、ドアの向こうから、底冷えするような、しかしどこか震えている美しい声が響いた。

雪乃:「――へえ。私をそんなふうに評価していたのね、比企谷くん?」

八幡:「…………っ!?」

振り返った八幡の視界に飛び込んできたのは、顔を真っ赤に染め上げ、殺気と羞恥心をこれでもかと纏った雪ノ下雪乃の姿だった。

クラス全体が「あーあ……」と一斉に目を逸らす中、八幡の平穏な日常(?)は、今日も盛大に崩壊していくのだった――。


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