修学旅行を直前に控えた放課後。部室に持ち込まれたのは、青春の甘酸っぱさのかけらもない、ただただ厄介な男子どもの悩みだった。
「……で、海老名さんに告白しようと思うんだ」
戸部が赤面しながらそう切り出した瞬間、八幡の脳裏をよぎったのは、京都の宿から抜け出してこってりスープを啜る自分の姿――ではなく、純粋な疑問だった。
「なんで修学旅行なの?」
八幡は手元の文庫本から視線を外し、呆れたように言い放つ。
「前か後じゃいかんのか? 旅行楽しめよ」
その一言に、部室の空気がピタリと止まった。
戸部は「えっ」と間抜けな声を漏らし、葉山も少し目を丸くする。しかし、その直後。
「…………」
窓際で紅茶を淹れていた雪乃が、ふっとカップをソーサーに置いた。その涼やかな瞳には、妙に納得したような、それでいて呆れを含んだ光が宿っている。
「……まったく。珍しく、あなたにしてはまともな意見ね、比企谷くん」
雪乃は静かに続ける。
「旅行という非日常の開放感に流されて、その場の勢いで告白を済ませようなんて、いささか無責任だわ。もし仮にうまくいかなかった場合、残りの日程や帰りの新幹線はどうするつもりなのかしら。周囲の空気まで白けさせる気?」
さらに、結衣も大きくうなずいた。
「そうだよ、トベっち! せっかくみんなで京都と奈良に行くんだし、修学旅行は修学旅行で純粋に楽しもうよ! その……告白とかは、ちゃんと落ち着いてからの方が、姫菜も心の準備ができると思うし……!」
雪乃と結衣の「もっともだ」と言わばかりの同調に、戸部はタジタジになりながら「いや、でも、雰囲気的に……」と言い訳を重ねる。葉山も苦笑いを浮かべつつ、八幡の指摘の的確さにどこか感心した様子だ。
周囲の女子二人から完璧な正論で畳み掛けられ、完全にタジタジになる戸部。
しかし、この正論の先鋒を切った本人の脳内といえば――。
(頼むから、修学旅行のスケジュールをこれ以上イベントで埋めないでくれ……。自由行動の時間が削られたら、俺の『天下一品』計画が完全につぶれるんだよ……!)
そんな不純すぎる動機が露ほどもバレていない八幡は、冷めた目をしながら「まあ、せいぜい旅行を満喫してこいよ」と、内心の焦りを隠すのであった。
「というかさ、修学旅行中に仕事(重大案件)持ってくんなよ」
部室の空気が戸部の告白話で少し真面目になりかけた矢先、八幡はだらしなく椅子に体を預けたまま、げんなりした顔で毒づく。
「は? 仕事って……俺の恋路だぜ?」と戸部が面食らうが、八幡の脳内では完全に『イベント管理の効率化』が最優先されている。
「だいたい、来月は12月だろ。世間が勝手に浮かれるクリスマスっていう絶好のイベントがあるじゃねえか。そこで告白しろよ。うまくいけば最高の冬休み、失敗してもすぐ冬休みに突入すんだから、気まずい学校の廊下で顔合わせなくて済むしダメージ最小限で済むだろ。なんでわざわざ、逃げ場のない新幹線や旅館という密室で自爆特攻しかけるんだよ」
そのあまりにも現実的すぎる、恋愛を完全に『リスク管理』の観点だけで片付けるゲスい持論に、部室の空気が再びピタリと止まる。
戸部は「いや、クリスマスって……なんか重くね!?」とドン引きし、葉山も「比企谷くん、それはロマンがないというか……なんというか……」と苦笑い。
しかし、当の女子二人――雪乃と結衣の反応はというと。
「…………」
雪乃はわずかに眉をひそめながらも、「……否定はしないけれど、言い方が底意地悪いわね」とあきれ顔。結衣も「うーん、クリスマスかぁ……でも確かに、気まずくなったら冬休みまで会わないで済むのは、心の準備期間としてはアリ……なのかなぁ?」となぜか妙に納得しかけている。
周囲が呆れ半分、納得半分で固まる中、八幡の頭の中では依然としてカウントダウンが始まっていた。
(頼むから俺をこの「リア充の面倒な人間関係の調整役」に巻き込まないでくれ……。俺が気にするべきなのは、京都の寒さの中でいかに効率よく熱々の『こってり』を胃に流し込むか、それだけなんだよ……!)
青春のイベントをいかに面倒くさがるかという点において、この男のブレなさはもはや清々しいレベルである。
もし実際にクリスマスまで持ち越していたら、あのグループの空気は一体どうなっていたことやら――。
葉山と戸部が「クリスマスまで待つとかマジかよ……」と言いつつも、どこか妙な納得感を残して部室を去っていく。
重苦しい男子どもの影が消え、部室に静けさが戻った――のも束の間。
わずか数分後、静かにスライドしたドアの向こうに立っていたのは、他でもない海老名姫菜だった。
彼女の顔には、いつもの腐女子スマイルではなく、どこか切羽詰まった、しかし冷徹なまでの「現状維持」への執着が貼りついている。
「ねえ、比企谷くん……さっき、トベっちたちになんて言ったの?」
核心を突くような、探るような視線。グループの均衡を壊したくない、あの修学旅行の裏ボスたる彼女の気配に、普通の人間なら冷や汗をかく場面だ。
だが、このときの比企谷八幡のCPUは、先ほどからの継続で100%「京都のラーメン」に支配されていた。海老名が何を相談しに来たのか、その「わけのわからん乙女の事情(現状維持の防衛戦)」など、今の彼の脳内メモリには1バイトたりとも空きがない。
海老名が何か言いかけるより早く、八幡はだらしなく組んでいた足を組み替え、窓の外の夕日を遠い目で見つめながら、低い声でこう呟いた。
「……悪いが、海老名。お前のその遠回りな相談の意図なんて、俺の知ったこっちゃない」
「え……?」と海老名がわずかに目を丸くする。
その隙に、八幡はなぜか無駄に低いバリトンボイスと、無駄にキリッとした斜め45度の角度で、こう続けやがった。
「俺の頭にあるのは……ただ一つ、『天下一品 総本店』のカウンター席で、あのドロリと濃密なこってりスープを啜ることだけだ。……他の余計なノイズを拾ってる暇はねえよ」
語っている内容はただのラーメン狂の現実逃避なのだが、なぜか表情だけはハードボイルド映画の主人公ばりに決まっている。
そのあまりの真剣さと、テーマの絶望的なまでのズレっぷりに、海老名は数秒間フリーズし――次の瞬間、ふっと肩の力を抜いて、いつもの怪しい笑みを浮かべた。
「……なんだ、そっか。比企谷くんは相変わらず、自分の『好き』にまっすぐなんだねぇ」
「いや、違う、そうじゃないんだが……」と内心で激しくツッコミを入れる八幡をよそに、海老名はどこかスッキリした顔で部室を去っていくのだった。
残された部室で、八幡は深々とため息をつく。
(頼むから、俺をこれ以上京都の抗争に巻き込まないでくれ……。俺の目的地は銀閣寺でも清水寺でもない、北白川なんだよ……!)
青春の人間模様などラーメンのスープのコクの前には霞むとばかりに、八幡は今日も今日とて、一人だけの聖地巡礼に思いを馳せるのだった。
海老名が去り、部室に再び静けさが戻る。
ドアが閉まる音を聞き届けると、それまで窓際で紅茶を飲んでいた雪乃が小さく息をつき、ソファの結衣は「ふう……」と大きく肩の力を抜いた。
その横で、八幡は椅子に深々と寄りかかりながら、先ほどの戸部の必死な顔をぼんやりと思い返していた。
(……それにしてもだ)
八幡はチラリと視線を結衣に向け、ぶっきらぼうに切り出す。
「なぁ、由比ヶ浜。……で、実際のところ、戸部にワンチャンあるのか?」
その問いに、結衣は「えっ?」と目を丸くし、それから少し困ったような、気まずそうな表情を浮かべた。
「えっとねー……。可能性は無くはないような、あると言えないこともないような……かな?」
「なんだその政治家の答弁みたいな歯切れの悪い回答は。あるのかないのか、どっちなんだよ」
八幡がうんざりしたように眉をひそめると、結衣は頬をポリポリと掻きながら苦笑する。
「だって、トベっちのことは嫌いじゃないと思うし、一緒にいて楽しいのは本当だとおもうよ? でも、姫菜がああやって今の関係をすごく大事にしてるのも分かるし……うーん、難しいんだよ、女の子の気持ちって!」
「……めんどくせぇ」
八幡は盛大にため息をつく。
だが、そのやり取りをそばで聞いていた雪乃が、ふっと冷ややかな、しかしどこか面白がるような笑みを浮かべた。
「……ちょっと待って、比企谷くん」
「んだよ」
「あなた、さっき『海老名の相談の意図なんて知ったこっちゃない』『天下一品しか頭にない』と大口を叩いていなかったかしら? なのに、しっかり戸部君の可能性について気にかけているのね」
「……っ」
図星を突かれた八幡の動きが、わずかにピタリと止まる。
「一応聞いていたのね。人の話を」と、雪乃が小言を言うように呆れた目を向け、結衣も「あはは、ヒッキーのくせにけっこうトベっちのこと気にしてるよねー!」と楽しそうに茶化す。
八幡は気まずそうに視線をそらし、心の中で舌打ちした。
(ちっ……。ラーメンのことしか考えてないハードボイルドを気取ったはいいが、結局こういう泥臭い人間関係の尻拭いをさせられる羽目になるのが俺の運命(さだめ)ってか……)
外の空はすっかり暮れかけ、修学旅行という名の嵐の予感が、じわじわと奉仕部のドアを叩き始めていた。
部室の窓から差し込む夕日が、すっかりオレンジ色から藍色へと変わりつつある。
戸部と海老名、それぞれの思惑が交錯した余韻が残る中、結衣が机の上に突っ伏して、ふうと大きく息を吐き出した。
「はあ……なんか、トベっちも必死だよねえ。空回りしてるっていうか、空気が全然見えてないっていうか……」
その言葉に、八幡は無言のまま机の上のペンをくるくると回す。
「……まあ、あいつの辞書に『空気を読む』って文字はそもそも存在しねえよ。あるのは『ノリと勢い』の二文字だけだ」
「呆れたものだわ」
雪乃は紅茶のカップをソーサーに静かに戻し、すまし顔で続ける。
「あんな調子では、肝心の修学旅行の本番でも墓穴を掘るのが目に見えているわね。もう少しスマートに立ち回れないものかしら」
口々に戸部の空回りっぷりを指摘しつつも、どこか憎めなさを含んだ空気が部室を包む。
ふと、結衣が体を起こし、じっと八幡の顔を覗き込んだ。
「ねえ、ヒッキー。そうは言いつつもさ、トベっちたちのこと、なんだかんだで見守ってるよね?」
「は? なにを言ってやがる」
八幡はギョッとしたように眉をひそめ、あからさまに視線をそらす。
「だって、今回の件、正式な『依頼』としては一応断ったでしょ? 姫菜にも『知ったこっちゃない』って言ってたし」
「言ってはみたな。それがどうかしたか」
「でも、相談にはちゃっかり乗ってやったし、こうやって二人の行く末についても考察してるじゃない。結局のところ、放置できない性格なんだから」
結衣の茶化すような、でもどこか嬉しそうな笑顔に、雪乃も小さくクスクスと笑う。
「ふふ、そうね。相変わらず口の減らない男だけれど、面倒見がいいのかお人好しなのか……見てはいるのよね、結局は」
「……っ、うるせぇ」
八幡はこれ以上の追撃を防ぐように、持っていた文庫本をバサッと乱暴に閉じた。
(……チッ。別に、あいつらの恋路を応援してやろうとか、そんな大層な慈悲の心があるわけじゃねぇよ)
ただ――。
「別に依頼は断ったが、相談はされたからな……それだけの話だ」
照れ隠しのようにぶっきらぼうに吐き捨てつつも、八幡の脳裏には、やっぱり修学旅行先でのドタバタと、それに付随する自分への被害(主に天下一品への道のりへの障害)がちらついて、盛大にため息をつくのだった。
依頼を受けずとも、トラブルの気配を敏感に察知してしまい、結局はこうして傍観という名の監視を続けてしまう。
やれやれ、この奉仕部という名の吹き溜まりにいる限り、厄介ごとから逃れられる日は当分来そうにない。
修学旅行の出発を間近に控えたある日、あるいは旅程の最中のとある一コマ。
周囲の喧騒から少し離れた場所で、葉山隼人はついに耐えかねたように足を止め、八幡の前に立ちはだかった。
「……比企谷。少し、いいか」
珍しく余裕のない、苦渋に満ちた表情。葉山は周囲を気にするように視線を巡らせ、意を決したように声を絞り出す。
戸部が突っ走っている背景、海老名が頑なに守ろうとしているグループの均衡、そして自分たちが抱える歪なバランスのすべて。葉山はギリギリのところで、その「真相」を八幡に打ち明けた。
「……みんなが今の関係のまま、楽しく修学旅行を終えられたらいいって思ってる。でも、戸部は本気だし、海老名は困っている。僕も、どう立ち回ればいいのか……」
そこまで語り終えた葉山は、まるで全幅の信頼を置くかのように(あるいは、他に頼れる人間がいない絶望からか)、真っ直ぐに八幡を見つめた。
「……そうか」
八幡から返ってきたのは、たったそれだけの、あまりにもそっけない相槌だった。
葉山は眉をひそめ、「それだけかよ」と言いたげな顔をする。しかし、八幡のその態度に業を煮やしたのか、葉山は一歩踏み込み、頼み込むようにこう言った。
「頼む、比企谷。君なら……何か、うまいやり方を知っているはずだ。なんとかしてくれないか?」
その瞬間、八幡の中でプツリと何かが切れた。
いや、正確に言えば、彼の脳内CPUの大部分を占めていた『京都・北白川での天下一品こってりスープ完飲計画』という至高のプロジェクトを、この期に及んで邪魔立てするなという強い怒りと呆れだった。
「……は?」
八幡は冷め切った目を葉山に向け、鼻で笑うように吐き捨てる。
「お前、俺をなんだと思ってやがる。……いいか、よく聞け葉山。俺は魔法使いじゃねぇぞ」
「なっ……!」と葉山が絶句する。だが、当の八幡の頭の中といえば、目の前のイケメンの深刻な悩みなどスライム以下の雑魚モンスター扱いでしかなかった。
(やれやれ、何が「なんとかしてくれ」だ。こっちはな、自由行動のわずか数時間の隙を縫って、地下鉄の路線と徒歩ルートを完璧にシミュレーションしてんだよ! それなのに、お前らの恋愛事情の尻拭いなんてさせられたら、俺の『こってり』が冷めちまうだろうが……!)
青春のモラトリアムをこじらせた連中の人間関係など、濃厚な豚骨鶏ガラ醤油のスープの前には塵に等しい。
八幡は呆れ果てた溜息をつくと、葉山の肩をポンと軽く叩き、まるで相手にしていないという態度でその場を去ろうとするのだった。
「あいにくくだらねえ呪文は持ち合わせちゃいないんでね。……自分のケツは自分で拭けよ、パーフェクト君」
修学旅行の修羅場、そのクライマックス。
周囲の緊張感が最高潮に達し、戸部が意を決して海老名に歩み寄ろうとしたその瞬間――すべての空気を完全に無視して、比企谷八幡が勢いよく割って入った。
「待て」
「は……? ヒキタニくん?」
戸部が呆然とし、海老名も目を丸くする。しかし、八幡の目は完全に座っていた。いや、正確には「天下一品 総本店への執念」で狂っている。
「好きだ。どうしようもないほど。この気持ちは止められねえ。だからッ……!」
ガシッ、と。
八幡はなんと、海老名の両肩を力強く掴み、真っ直ぐにその目を見据えた。
あまりの急展開と、八幡とは思えない熱量(方向性は完全に狂っているが)に、海老名は「え、え……!?」とみるみる顔を真っ赤に染め上げ、言葉を失う。
そのシュールすぎる一幕に、周囲が「「「……は?」」」とフリーズした――そのコンマ数秒後。
「――行くわよ、総本店!」
雪乃がいつの間にか懐から謎のパンフレットを取り出し、なぜか凛とした美声を響かせて叫ぶ。
「もちろん!」
結衣も満面の笑みで拳を突き上げる。
「俺もだ!」
葉山までなぜか爽やかな笑顔で謎の同調を見せる。
もはや何が何だか分からないまま、海老名と、状況に全くついていけない戸部は、そのまま有無を言わさず全員に引きずり回されるように連れ出されていく。
そして――。
ドロリと濃厚なスープの香りが鼻腔をくすぐる、北白川の聖地。
暖簾をくぐり抜け、八幡は叫んだ。
「ついに来たぜ……! 天下一品、本店……ッ!!」
青春のドロドロした人間関係も、恋愛のいざこざも、すべてはこの一杯の「こってり(スープ多め)」の海に溶けて消えていくのだった。
数々の修羅場(と聖地巡礼)を乗り越えた修学旅行の翌日、あるいは帰りの新幹線の中。
心地よい疲労感と、胃のあたりにズッシリと居座る濃厚なスープの余韻に浸りながら、八幡は満足げに息をついた。
「いやぁ、昨日は最高だったな!」
八幡がそう言って伸びをすると、隣の席で雪乃がフンと優雅に鼻を鳴らす。
「まったく……付き合わされたこっちの身にもなってほしいけれど。まあ、悪くなかったわね、あのスープの深みは」
「ええーっ? あたしは美味しかったけど、なんかもう胃もたれしそう……」
結衣がお腹を押さえながら苦笑する。
しかし、あの狂気の総本店遠征を経て、なぜか奉仕部の面々(+葉山)はすっかり「天下一品」の虜になっていた。まさに味覚によって世界平和がもたらされた瞬間である。
そんな中、ふと八幡は前の座席に座っている戸部に目をやった。
戸部はまだ昨日の衝撃――海老名の両肩を掴んで「好きだ」と叫んだ八幡の雄姿(?)が脳裏から離れないらしく、どこか複雑そうな顔をしている。
しかし、戸部は気を取り直すようにバシッと自分の両頬を叩くと、ふっと不敵な笑みを浮かべて振り返った。
「おいヒキタニくん……! クリスマスまで、まだたっぷり時間あるぞ……!」
「お、おう……?」
「ヒキタニくんがあのとき、俺の代わりに熱い想いをぶつけてくれたおかげでさ……なんか、俺も火がついたわ!」
戸部のその言葉に、八幡は「は?」と間抜けな声を漏らす。
「いや、俺がやったのはただの聖地への渇望であってだな……」
「いや、あれはマジでカッコよかったぜ。なあ?」
戸部が同意を求めると、近くの席に座っていた海老名が、なぜか俯いたまま、耳まで真っ赤にして小さくうなずいた。
――あれ?
よく考えたら、クラスメイトの目の前で、他の男の想いを代弁するかのように女子の両肩を掴んで「好きだ」と絶叫した八幡の姿は、どう見ても「実は俺が海老名を狙っていたライバルでした」という壮大な公開告白にしか見えなかったのでは……?
「あれ、告白に見えたけど?」とニヤニヤする戸部。
「そうか?」と冷や汗をかき始める八幡。
そして、赤面したままモジモジしている海老名。
(……やべえ。なんか、意図せず余計なフラグが立っちまったぞ……!?)
青春の迷走は、ラーメンのスープのように濃厚なまま、終わらない物語の続きへと流れていくのだった。
――完――