ISの授業が始まる前。一夏は広いロッカールームでISスーツへと着替えを終えていた。体に馴染む黒のスーツ。動きを阻害しないよう設計されたそれは、いつもながらに着心地がいい。一夏はロッカールームの壁際へと移動すると、白鴉・熾天のコンソールを呼び出した。空中に浮かび上がる半透明のウィンドウ。そこに並ぶのは、各種システムの状態表示だ。シールドエネルギー残量、ジェネレーター出力推進器の稼働状況、武装群の接続状態。一夏はそれらを一つ一つ、手慣れた様子でチェックしていく。
(今日は特に異常なしか。UNACのリンク状態も良好。VOBの冷却系統も問題ない)
一夏は、そう思いながら最後の項目に目を通した。
(——誰か来るぞ)
頭の奥で、声がした。低くどこかノイズが混じったような声。最近はこの声が、妙に鮮明に聞こえる。一夏ははっと顔を上げた。だが——
遅かった。目の前が、真っ暗になった。温かい手が後ろから一夏の目を覆っている。一夏は、慌てた。
「え、ちょ、誰——」
「だ~れだ?」
後ろから、女性の声が響いた。楽しげでどこか悪戯っぽい声。一夏は、その声に聞き覚えがあった。というより、この学園でこんなことをする人間は一人しかいない。
「楯無先輩?」
「せ~か~い♪」
楯無が、そう言って手を放した。一夏は、振り向いた。そこには予想通り、楯無が立っていた。悪戯好きな笑みを浮かべて、そしてどこか楽しそうに一夏を見ている。
「何の用ですか、先輩」
「ちょっとしたスキンシップ?」
「いや、意味が分からないんですけど」
「細かいことは気にしないの。先輩とのスキンシップは後輩の務めでしょ?」
「そんな務め聞いたことないです」
一夏が、そう言ってため息をつく。楯無は、そんな一夏の反応を楽しむように、くすくすと笑った。そしてふと何かを思い出したように、言った。
「それよりも、授業遅れるわよ?」
「え?」
一夏は、慌てて時計を見た。すでに授業開始から三分が経過していた。
「うわ、まずい!」
「あらあら。頑張ってね~」
楯無は、そう言ってひらひらと手を振りながら、ロッカールームから出て行った。その背中を一夏は恨めしげに見送りながら、慌ててロッカールームを飛び出した。廊下を走り、グラウンドへと向かう。途中すれ違う生徒たちが、一夏の慌てた様子を不思議そうに見ていた。だが、そんなことを気にしている余裕はない。一夏は、全速力でグラウンドへと向かった。
―――
グラウンドに着いた一夏はすでに整列しているクラスメイトたちの前へと駆け込んだ。息は上がり、額には汗が滲んでいる。千冬が、腕を組んだまま一夏を見据えていた。その視線は、いつものように冷徹だ。
「遅刻した言い訳はあるか?」
「ありません」
一夏は、背筋を伸ばしてそう答えた。言い訳などできるはずもない。楯無に目を塞がれていたなどと言える空気ではなかった。千冬は、しばらく一夏をじっと見つめていた。そして、静かに言った。
「罰として、お前にはこれからシャルロットの高速切り替えの実演の相手をしてもらう」
「え……」
「シャルロット、出てこい」
「はい!」
シャルロットが、列から一歩前に出た。その表情には、どこか申し訳なさそうな色がある。だが、同時にどこか楽しみでもあるような、そんな複雑な色も混じっていた。
「一夏、ごめんね」
「気にするな。俺が遅刻したのが悪いんだ」
「それじゃあ、始めるわよ」
千冬の号令で実演が始まった。シャルロットが、専用機であるラファール・リヴァイヴ・カスタムIIを纏う。オレンジ色の機体が、陽の光を受けて輝いた。その姿は、まさに『飛翔する武器庫』の名にふさわしい。背部の拡張領域には、無数の武装が搭載されている。シャルロットは、静かに息を吐いた。そして——
「行くよ、一夏!」
シャルロットが一瞬で間合いを詰めてきた。速い。だが、一夏も負けてはいない。白鴉・熾天を展開し、その斬撃を受け止める。金属と金属がぶつかり合う、激しい音がグラウンドに響いた。
(——右だ)
頭の声が、警告を発する。一夏はその声に従って右へと身をかわした。直後、シャルロットのアサルトカノン「ガルム」が火を噴く。放たれた弾丸が、一夏のいた場所を通過していった。
「さすが、一夏くん。よく避けたね」
「危なかった……」
一夏は、そう呟きながら体勢を立て直す。シャルロットは、そんな一夏に追撃をかける。連装ショットガン「レイン・オブ・サタデイ」を呼び出し、至近距離から放つ。だが一夏はそれを読んでいた。白鴉・熾天のブレードで弾丸を打ち落とす。
「えっ」
「甘い!」
一夏は、そのままシャルロットへと迫る。だが、シャルロットの反応も速い。近接ブレード「ブレッド・スライサー」を呼び出し、一夏の斬撃を受け止めた。激しい火花が散る。二人は、至近距離でにらみ合った。
「一夏、やっぱり強いね」
「シャルロットこそ。高速切り替え、速くなってるな」
「ありがとう。でも、まだまだだよ」
シャルロットが、そう言って一旦距離を取る。そして、重機関銃「デザート・フォックス」を呼び出した。その銃口が、一夏へと向けられる。だが一夏も動いていた。
(——左へ。そして、カウンターだ)
声に従い、一夏は左へと跳んだ。シャルロットの銃撃が、一夏のいた場所を通過していく。その瞬間、一夏はシャルロットの懐へと飛び込んだ。白鴉・熾天のブレードが、シャルロットの機体を捉えようとする。だが、その瞬間——
「させないよ!」
シャルロットが、シールドの裏に装備されたパイルバンカー「灰色の鱗殻」を展開した。その名の通り、盾を貫くための兵器。リボルバー機構によって、連続打撃が可能な切り札。一夏は、その動きを読んでいた。
(——来るぞ。避けろ)
一夏は、ギリギリのところでそれをかわした。パイルバンカーの炸薬が爆発し、衝撃がグラウンドに響く。だが、一夏はすでにシャルロットの背後へと回り込んでいた。
「もらった!」
「くっ……!」
一夏のブレードがシャルロットの機体を捉えた。判定が、シャルロットの機体に表示される。シャルロットは、少しだけ悔しそうな顔をした。だが、すぐに笑みを浮かべた。
「参った。一夏の勝ちだね」
「いや、俺も危なかった。シャルロットの高速切り替え、本当に速かった」
「ありがとう。でも、まだまだ修行が足りないね」
シャルロットはそう言って、ISを解除した。一夏も白鴉・熾天を解除する。千冬が、二人の前へと歩み寄ってきた。
「まあ、及第点だな」
「ありがとうございます」
「一夏。お前、UNACを出さなかったな」
「はい。シャルロットの実演の相手だったので。それに、自分の実力も試したかったので」
「ふん。まあいい。遅刻の罰はこれで済んだ。次からは気をつけろ」
「はい」
一夏は、そう答えて頭を下げた。シャルロットも、一夏の隣で頭を下げる。千冬は、そんな二人を見て小さく息を吐いた。そして、クラスメイトたちの方へと向き直った。
「さて、授業を再開する。今日は高速切り替えの実演を見たわけだが、各自、自分の機体での応用を考えておくように」
千冬の声が、グラウンドに響く。一夏はシャルロットと顔を見合わせて、小さく笑った。
―――
授業が終わって放課後。セシリアは自室の窓際に立ち、携帯電話を耳に当てていた。窓の外には、夕暮れに染まりつつある学園の景色が広がっている。だが、セシリアの視線はそこには向いていなかった。国際回線の向こうから聞こえてくるのは、聞き慣れた担当者の声だった。
「——ですので、現在開発部では白鴉・熾天の戦闘記録を分析し、対抗可能な新装備の設計開発を進めております」
「進捗はどうなっていますの?」
「正直に申し上げますと、難航しております」
担当者の声にはどこか疲れのようなものが滲んでいた。セシリアは、小さく息を吐いた。そうだろうな、と思った。あの白鴉・熾天は既存のISの枠組みを根本から覆す機体だ。シールドエネルギーによる絶対防御ではなく、物理装甲による耐久。拡張空間への武器格納ではなく、固定武装の最適配置。その設計思想は、イギリスのIS開発部門が長年培ってきたものとは、根本的に異なっている。
「白鴉・熾天の背部のレーザーキャノン。あれは単発・照射・拡散・バーストと、四つのモードを使い分けられます。特に照射モードと拡散モードは、複数目標への同時対処を可能とするもので、従来のISの戦術概念を覆すものです」
「……ええ」
セシリアは、静かに相槌を打った。頭の中では、一夏の戦いぶりが思い出されていた。あの日、実戦訓練で見せた一夏の動き。UNACとの連携。そして、白鴉・熾天の多彩な武装。あれを相手に、正面から戦って勝てる機体は現状では存在しないだろう。セシリアは、そう確信していた。だが担当者の話はまだ続いていた。
「そこで、一つお願いがございます」
「何かしら?」
「開発部から、セシリア様にご相談がございまして」
担当者の声が、少しだけ躊躇いを含んだものに変わった。セシリアは、嫌な予感がした。
「白鴉・熾天に搭載されている改良型レーザーキャノン。そして、U4に搭載されているレーザードローンとレーザータレット。これらのデータを、入手していただけないでしょうか」
「……何ですって?」
「勿論、無理強いはいたしません。ですが、もし可能であれば——」
セシリアは、思わず眉をひそめた。まさかそんなことを頼まれるとは思っていなかった。白鴉・熾天の装備データを盗め、と。それは友人である一夏の機体の機密を暴くということだ。セシリアは、しばらく黙り込んだ。電話の向こうから、担当者の慌てた声が聞こえてくる。
「勿論、セシリア様の立場も存じております。織斑一夏様とは、友人関係にあると伺っております。ですので、これはあくまで——」
「分かっておりますわ」
セシリアは、静かにそう言った。そして小さく息を吐いた。流石に無理でしょう、と思った。一夏の機体のデータを盗むなど、できるはずがない。たとえできたとしても、そんなことはしたくない。だが、イギリス本国の開発部がそれほどまでに追い詰められているということも、セシリアには理解できた。白鴉・熾天の存在は、それほどまでに脅威なのだ。
「……出来る限りのことは、いたしますわ」
「本当でございますか!」
「ただし、約束してください。この件はあくまで私の判断で行うこと。本国からの命令として扱わないでください。それと、一夏さんに悟られないようにするのは、難しいかもしれませんわよ?」
「勿論でございます。セシリア様のお立場を尊重いたします」
「それと、データが入手できたとしてもそれをそのまま使えるとは限りませんわ。白鴉・熾天の技術は、既存のISとは根本的に異なりますもの」
「重々承知しております。ですが、何かしらの手がかりが欲しいのです」
「……分かりましたわ」
セシリアは、そう言って電話を切った。窓の外は、すっかり夕暮れになっていた。オレンジ色の光が、セシリアの横顔を照らしている。セシリアは、しばらくの間窓の外をぼんやりと眺めていた。そして、小さく呟いた。
「一夏さん……ごめんなさいね」
その声は、誰にも聞こえないほど小さかった。
―――
同時刻。鈴音は自室の机に座り、携帯電話を耳に当てていた。部屋の明かりはつけておらず、窓から差し込む夕暮れの光だけが室内を照らしている。国際回線の向こうから聞こえてくるのは、中国本国のIS整備部門担当者の声だった。
「——ですので、現在開発部では白鴉・熾天に対抗可能な装備の設計を進めておりますが」
「進捗は芳しくない、と」
「はい。正直に申し上げまして、難航しております」
担当者の声には疲労の色が濃く滲んでいた。鈴音は、机に頬杖をつきながら静かに相槌を打った。でしょうね、と思った。あの白鴉・熾天を相手に、既存の装備で対抗するのは難しい。それは、実戦訓練で身をもって体験したことだ。あの機体の装甲は、他のISとは根本的に異なる。シールドエネルギーによる防御層に加えて、物理装甲としての厚みが確保されている。リニアライフルの徹甲弾を受け止め、レーザーキャノンの照射に耐える。そんな機体は、他に存在しない。
「白鴉・熾天の装甲の硬さは、我が国が開発した装備では効果が薄いのです」
「でしょうね」
「ええ。我々の装備は、シールドエネルギーの突破を前提として設計されています。ですが、白鴉・熾天は物理装甲による耐久を前提としている。その思想の違いが、我々の装備の効果を著しく低下させているのです」
「分かってるわ」
鈴音は、短くそう答えた。中国が開発してきた装備は、シールドエネルギーの突破に重点を置いている。だが、白鴉・熾天の物理装甲はその前提を覆す。シールドエネルギーを突破したところで、その先の物理装甲に阻まれてしまうのだ。鈴音は、実戦訓練でのことを思い出していた。双天牙を振るっても、白鴉・熾天の装甲には傷一つつかなかった。あの時の感触は、今でも手に残っている。まるで、分厚い壁を斬っているような感覚。悔しかった。悔しくて、悔しくて仕方がなかった。
「開発部では、『せめて実物があれば……』と申しておりました」
「実物?」
「はい。白鴉・熾天の実物を分析できれば、何かしらの手がかりが得られるのではないかと。勿論、そのようなことは不可能だと分かっております。ですが、開発部の連中は必死なのです」
担当者の声が少しだけ苦しそうに歪んだ。鈴音は、しばらく黙っていた。実物を分析する。つまり、白鴉・熾天のデータを入手しろということだ。それは、一夏の機体の機密を暴くということ。友人である一夏を、裏切ることになる。鈴音は小さく息を吐いた。窓の外では、夕暮れが静かに更けていこうとしていた。
「……その話、開発部が言っていたの?」
「はい。あくまで、開発部の独り言のようなものですが」
「そう」
鈴音は、そう言って電話を切った。机の上に携帯電話を置き、しばらくの間天井を見上げていた。一夏の顔が、頭の中に浮かんでくる。あのどこか間の抜けた笑顔。だが、その奥にはいつもどこか別の顔が潛んでいる。戦場を知る者の顔。鈴音は、その顔が少しだけ怖かった。そして、同時にそんな一夏を支えたいとも思っていた。だが、本国からの要請はそんな鈴音の想いとは相反するものだった。
「……どうすりゃいいのよ」
鈴音は、そう呟いた。その声は誰にも聞こえないほど小さかった。
―――
更に同時刻。シャルロットは自室のベッドに腰掛け、携帯電話を耳に当てていた。部屋の明かりはつけておらず、カーテンの隙間から差し込む夕暮れの光だけが室内を淡く照らしている。国際回線の向こうから聞こえてくるのは、フランス本国のIS整備部門担当者の声だった。
「ですので、現在開発部では白鴉・熾天に対抗可能な装備の設計を進めておりますが」
「うん。で、進捗は?」
「正直に申し上げますと、開発部は頭を抱えております」
担当者の声にはどこか疲れきったような響きがあった。シャルロットは、小さく息を吐いた。そうだろうね、と思った。あの白鴉・熾天を相手に、既存の装備で対抗するのは難しい。それは、実戦訓練で身をもって体験したことだ。
「それに、白鴉・熾天とUNACが持つ実弾兵装は、我が国の装備よりも強力です」
「そうだね」
「ええ。特にリニアライフルは、火薬式を凌ぐ初速と貫通力を実現しています。我が国の実弾兵装では、あの威力には及びません。加えてUNACに搭載されている包囲型ハンドミサイルやプラズマ機雷投射器。あれらは、我が国の技術では再現が難しい代物です」
「うん。僕もそう思う」
シャルロットは静かにそう答えた。フランスが開発してきた実弾兵装は、確かに優れている。だが白鴉・熾天のリニアライフルはその比ではない。あの徹甲弾の威力は、実戦訓練で目の当たりにした。UNACの包囲型ハンドミサイルも、プラズマ機雷投射器も既存の技術の枠を超えている。シャルロットは、実戦訓練でのことを思い出していた。UNACの連携に翻弄され、白鴉・熾天の武装に圧倒された。あの時の感覚は、今でも鮮明に残っている。悔しかった。だが、同時にどこかワクワクしていた。あんな機体と戦えるなんて、と。そんな自分が少しだけおかしかった。
「開発部では、『どうすればいいんだよぉ!』と怒っておりました」
「あはは。気持ちは分かるなぁ」
「笑い事ではございません。開発部の連中は、本気で悩んでおります」
「ごめんごめん。でもね、そうやって悩むのも悪くないと思うよ」
「と、申しますと?」
「だって、今までにない機体と向き合ってるんだよ。悩むのも当然でしょ? その悩みが、きっと新しい何かを生むんだと思うんだ」
「……シャルロット様は、前向きでいらっしゃるのですね」
「そうでもないよ。ただ、僕は一夏と戦えて楽しいって思ってる。だから、開発部の人たちにももっと楽しんでほしいなって」
「……そのお言葉、開発部に伝えておきます」
「うん。よろしくね」
シャルロットはそう言って電話を切った。ベッドの上に携帯電話を置き、しばらくの間天井を見上げていた。一夏の顔が頭の中に浮かんでくる。あのどこか間の抜けた笑顔。だがその奥にはいつもどこか別の顔が潛んでいる。戦場を知る者の顔。シャルロットはその顔が少しだけ怖かった。そして同時に、そんな一夏をもっと知りたいとも思っていた。だが本国からの要請は、そんなシャルロットの想いとは相反するものだった。
「一夏……ごめんね」
シャルロットはそう呟いた。その声は誰にも聞こえないほど小さかった。
―――
更に更に同時刻。ラウラはIS学園の屋上にいた。夕暮れの風が制服の裾を揺らしている。フェンスにもたれかかるようにして、携帯電話を耳に当てていた。国際回線の向こうから聞こえてくるのは、ドイツ本国のIS整備部門担当者の声だった。
「ですので、現在開発部では白鴉・熾天に対抗可能な装備の設計を進めておりますが」
「進捗はどうだ」
「正直に申し上げますと、開発部は発狂しております」
担当者の声にはもはや諦めにも似た響きがあった。ラウラは、小さく鼻を鳴らした。だろうな、と思った。あの白鴉・熾天を相手に、既存の装備で対抗するのは難しい。それは、実戦訓練で身をもって体験したことだ。
「それに白鴉・熾天の特殊兵装とUNACの集団戦術は驚異的です」
「ああ」
「アサルトアーマー、パルスアーマー、パルスプロテクション。これらは我が国の防御兵装の概念を根本から覆すものです。特にパルスプロテクションは、味方の攻撃は通し敵の攻撃は阻むという、極めて戦術的な兵装。これに対抗するには、我々も新たな防御兵装を開発する必要があります」
「そうだな」
「加えてUNACの集団戦術。四機がそれぞれ異なる役割を持ち、有機的に連携する。あれはもはや一個の戦術単位です。我が国の無人機技術では、あそこまでの連携は実現できません」
「分かっている」
ラウラは、静かにそう答えた。ドイツが開発してきた無人機技術は確かに優れている。だがUNACの連携はその比ではない。あの四機の動きは、実戦訓練で目の当たりにした。U1が前線で敵を引きつけ、U2が援護射撃を行いU3が狙撃し、U4が上空から機雷をばら撒く。その連携は、まるで一人の人間が操っているかのようだった。ラウラは実戦訓練でのことを思い出していた。AICでUNACの動きを止めようとしても、四機同時の攻撃には対処しきれなかった。あの時の感覚は、今でも鮮明に残っている。悔しかった。だが、同時にどこか誇らしかった。あれは、一夏の機体だ。自分の認めた男の機体が、これほど強い。それが誇らしかった。
「開発部では『これに対抗するの無理じゃね?』と零しておりました」
「ふん。情けないな」
「ラウラ様……」
「だが、分からなくもない。あれに対抗するのは、確かに難しい。だが無理だと決めつけるのは早計だ」
「と、申しますと?」
「あの機体は、一夏が操っている。一夏が強くなれば、機体も強くなる。だがそれは我々も同じだ。我々も強くなればいい。機体も、そして操縦者も」
「……そのお言葉、開発部に伝えておきます」
「ああ。伝えておけ。それと」
「はい」
「開発部には無理だと決めつけるなと伝えろ。諦めた瞬間に我々の負けだ」
「承知いたしました」
ラウラはそう言って電話を切った。屋上のフェンスにもたれかかり、夕暮れの空を見上げる。オレンジ色の光が、ラウラの横顔を照らしていた。一夏の顔が頭の中に浮かんでくる。あのどこか間の抜けた笑顔。だがその奥には、いつもどこか別の顔が潛んでいる。戦場を知る者の顔。ラウラは、その顔を初めて見た時胸が高鳴った。そして同時に、そんな一夏と戦いたいとも思った。だが本国からの要請は、そんなラウラの想いとは相反するものだった。
「一夏。お前は、どこまで強くなるんだろうな」
ラウラはそう呟いた。その声は、夕暮れの風に溶けていった。