「えーと、それじゃあ、まずは冒険者履歴書を提出してくれる?」
閑古鳥が鳴く、古びたギルドの中。
あなたは面接官であるギルドマスターである中年男性に、履歴書を提出した。
【履歴書】
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【氏名・住所】
氏名:アラン・レトルト
性別:男性
年齢:25歳(フラメル暦:1919年現在)
住所:王都下町 ヘルメス通り 3丁目 12番地 『賢者のるつぼ』下宿
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【学歴】
学歴:王立学院 錬金術学部 金錬成学修士課程 卒業
専門:貴金属錬成、賢者の石研究
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【職歴】
前職:ギルド『黄金の夜明け団』(1916~1919年)
『黄金の夜明け団』では主にギルド冒険者への支給ポーションの調合と記録作成を担当
1919年にギルド都合で退職
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【資格・免許】
高度錬金術実験安全管理資格
第一類金属錬成資格
特定ポーション類調合実務免許
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【主な実績】
修士論文:『賢者の石以外での貴金属錬成の可能性と実験』(特別賞受賞)
1919年に卑金属を金に変換する実験に成功(非公式記録)
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【志望動機】
私が貴ギルド『宝くじ』を志望する理由は、伝統や規律よりも自由を重んじる社風に、私のあくなき探求心が合っていると感じたからです。これまで王立学院と『黄金の夜明け団』で金属錬成やポーション調合の基礎から実践までを学んでまいりました。
しかし、伝統や規律を重んじる『黄金の夜明け団』では、自由な発想というものが許され難く、常に自由な行動を求める追放の憂き目に遭ってしまいました。その点、貴ギルドは来るもの拒まずの精神で、多種多様な冒険者が揃っており、全員が自由を謳歌していると聞き及んでおります。
貴ギルドであれば、私の強みである自由な発想を、誰にも縛られることなく行え、これまで以上の成果が出せると考えております。
どうぞよろしくお願いいたします。
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「うん、履歴書は確かに受け取ったよ、えーと、それじゃあ、まずは自己紹介からしようか。おじさんは、ギルド『宝くじ』のマスターのダルメカス・マーダオ」
「はい。私はアラン・レトルトと申します。前職はギルド『黄金の夜明け団』で錬金術師として、支給ポーションの調合と記録作成などをしておりました」
冴えないおっさんに頭を下げるのは、黒髪黒目の好青年といった風貌の男。
ピシリと整えられた服装が、ボロボロのギルド内で逆に浮いてしまうほどだ。
「それじゃあ、いくつか質問をさせてもらうんだけど……」
「はい」
「『黄金の夜明け団』って……あの業界ナンバーワンのギルドだよね?」
「はい。その『黄金の夜明け団』で合っています。就労証明書も履歴書と一緒に入っているはずです」
「ああ、いや、うん……なんで、そんな超エリートが家なんて底辺ギルドに来るのかなって」
ダルメカスは困惑した表情を隠さずに、もう一度履歴書とアランを見比べる。
自身の滲み出る顔。明らかに上流っぽい身なり。
業界最底辺の『宝くじ』に居るという事実以外は、『黄金の夜明け団』所属と言われても驚かない。
「志望動機は、履歴書にも書かせて頂いたように、自由な社風に惹かれたからです」
「自由ねぇ……確かに、おじさんはギルドメンバーに規則とかは設けてないけど、それは秩序が無いってことだよ? それにほら、このギルドをよく見てよ」
そう言って、ダルメカスがアランに辺りを見るように指差す。
分厚い埃の被った客用のカウンター。
素人修理した窓。訳もなくきしむ床。
役目を忘れたかのように、さび付いた呼び鈴。
客など来ないと一目で分かる。
「錬金術様の……窯? とにかく、そういった設備もおんぼろで使い物にならないよ。だから、君みたいなエリートは、他の良い所に転職した方が良いと思うなぁ」
皮肉ではなく、善意100%の忠告。
このギルドは、他に行き場のない訳アリの連中が集まる場所。
転職とは言え、まだ若い上に才能がある若者が来て良い場所ではない。
「ふむ……ダルメカスさんは、少し私のことを勘違いしておられるようですね」
「勘違い?」
「履歴書をもう一度見て頂きたい。私は転職しようとして、出て来たのではなく追放の憂き目に遭ったのです」
「追放!? え? 何をやらかしたの?」
ダルメカスがよくよく見て見ると、確かにアランはギルド都合での退職となっている。
志望動機にも堂々と追放と記されていた。
「金の錬成に成功したからです」
簡潔に。そして、堂々とアランが告げる。
金の錬成。錬金術師のその名の通りに。
「えーと、ごめん。おじさん、錬金術は専門外だから、何がいけないのか教えてくれない?」
「錬金術はその名の通り、鉛などの卑金属を金などの貴金属に変えることを目指して、作られた学問です。ですが、実際に自由に金を生み出すことが出来た場合、現在の金の価値はどうなるでしょうか?」
「それはまあ……暴落するよね?」
「はい、その通りです。『黄金の夜明け団』はそのことを恐れて、私を追放したのです」
錬金術師なのに、実際に金を生み出すとなると経済の混乱から、追い出される。
これだけ聞けば、確かにアランは悲劇の主人公だろう。
しかし、ダルメカスにはどうしても引っかかる部分があった。
「一つ失礼なことを聞いても良いかな?」
「どうぞ」
「それだけ危険視しているのに、なんで『黄金の夜明け団』は追放で済ませているのかな? 正直、裏で始末されてもおかしくないでしょ、それ」
そう。下手をすると、経済を一人で破壊しかねない人間を野放しにしている点だ。
だが、アランは涼しい顔で答えて見せる。
「簡単な話ですよ。私の錬金術は未完成。一枚の金貨を作るのに、金貨百枚分の資金が必要なのです。しかも、作った金は現段階だとすぐに消えてしまうのです」
コスパが最悪であるのだと。
「ええー……それって意味ないんじゃ」
「学術的にはとんでもない発見なのですがね。まあ、詳しくない方にはそう思われても仕方ありません」
肩をすくめて笑うアランに、ダルメカスが同情する。
技術的には凄まじい発展。しかし、実用的には使えない。
だからこそ、リスクを考えて早めに追放という形で、縁切りしたのだろうと思った。
「それは気の毒に……何も悪いことはしてないのに」
「ええ、本当に。実験のためにギルドの金を使っただけだというのに、血も涙もない」
「……ん?」
ここで風向きが変わる。
「え……今、なんて?」
「研究費用をギルドから使わせてもらっただけです。ギルドが雇っている錬金術師の研究費を保証するのは、そんなにおかしいことですか?」
「いや、その、おかしくはないと思うけど……確か、金を作るのに、その金の百倍のお金がかかるんだよね?」
「はい。そして、金は残りません」
ダルメカスは思わず天を仰ぐ。
しかも、成果は残らない。
そして何より。
「あの……その研究費用って、ちゃんと申請した…?」
「……錬金術の発展に犠牲はつきものです」
「いや、そりゃ追放されるよ! むしろ、よく追放だけで済ませてもらえたね!?」
「日頃の行いの結果というやつですね」
「おじさんには、むしろ日頃の行いのせいで、追い出されたように聞こえるんだけど?」
横領。
少しなら、お目溢しもあり得たかもしれないが、百倍の金額が使用されたのだ。
残当である。
「というか、おじさん不思議なんだけど……どうしてそこまでして金を作りたいの? 純粋な研究心?」
「私が金を作る理由ですか? 簡単な理由ですよ……作った金で──」
アランは真剣な瞳で大きく息を吸う。
そして。
「──借金を返すためです」
「アランくん、本末転倒って言葉は知ってる?」
ダルメカスから冷ややかなツッコミを受けるのだった。
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