癒しの国、ライフ。
世界中から治療を求める人々が訪れる、自然豊かな国だ。
その中心には、国の象徴ともいえる巨大な樹木がそびえ立っている。
療樹マザーウッド。
別名、食の宿屋とも呼ばれるその樹木には、数多くの再生屋が拠点を構えていた。
俺もその一人だ。
「……やっぱり、ここに帰ってくると落ち着くな」
グルメシップを降りた俺は、大きく背伸びをした。
目の前には、どこまでも続く緑の景色が広がっている。
風が吹くたびに木々の葉が揺れ、遠くからは鳥の鳴き声が聞こえてきた。空にはバタフライセラピーがゆったりと舞い、地面には色とりどりの花が咲いている。
千年前から変わらない、ライフの景色だった。
もちろん、まったく同じというわけではない。
そもそもマザーウッドの大きさからして、俺の記憶とは大きく異なっている。
「……それにしても、大きくなったもんだ」
見上げた先には、空を覆い尽くすほど巨大な枝葉が広がっていた。
千年前のマザーウッドも十分に巨大だったが、今ではその十倍以上の規模に成長している。
根元の太さなど、もはや一つの山と見間違えるほどだ。
ライフの国自体も大きくなり、昔は森だった場所に新たな施設が建てられていた。
それでも、不思議と雰囲気は変わっていなかった。
千年後の世界では、ほとんどの都市が大きく様変わりしている。
空中を移動する乗り物。
街中を行き交う自律型ロボット。
人間の代わりに働くAI搭載の機械たち。
以前なら何人もの職人が必要だった作業を、今では一台の機械がこなしてしまう。
便利な時代になったとは思う。
だが、正直なところ、俺はまだあの光景に慣れていない。
何しろ、俺がかつて生きていた時代には、人間が自分の足で歩き、手を動かすのが当たり前だったのだ。
それが今では、道端に立っているだけで機械が声をかけてくる。
初めて買い物をしたときなど、店員が一人もいないことに驚いたものだ。
商品の代金を支払おうとしたら、目の前に現れた機械が勝手に会計を済ませてしまった。
あれには随分と戸惑った。
もっとも、現世で生まれ育っているのだから、今では普通に利用している。
ただ、昔を知っている身としては、どうにも落ち着かないのだ。
その点、ライフは違う。
ここでは今も、自然の力を利用した治療が中心となっていた。
針を使って体の巡りを整えるサボテンドクター。
傷ついた体を癒やす特殊な温泉。
病気や怪我の治療に役立つ、数多くの動植物。
いずれも千年前から存在していたものだ。
もちろん、裏側では現代の分析技術や管理設備も使われている。
だが、患者の体を癒やすのは、あくまでも自然の力。
天然の自然物を用いて治療を行う、世界でも唯一のナチュラル医療機関という伝統は、今も守られている。
「……こういう場所が残っていてくれて、よかったよ」
俺はそう呟き、歩き始めた。
道の両脇には植物が生い茂り、木々の間を縫うように小道が続いている。
その先に見えるのは、巨大なマザーウッドの根元だった。
今回の仕事を報告するため、まずは再生屋協会へ向かわなければならない。
それにしても。
「……少し疲れたな」
思わず苦笑する。
ゴブリンプラントの再生は成功した。
だが、あれで終わりというわけではなかった。
何しろ、再生した途端に周囲の植物から養分を吸い取り、猛烈な勢いで成長を始めたのだ。
そのまま放置すれば、周辺の生態系に被害が出てしまう。
結局、俺はしばらく逃げ回ったあと、毫鍼によるノッキングで成長を一時的に抑制し、管理用の容器へ移すことになった。
その後、現地の管理機関へ連絡し、安全な保護区画へ運んでもらったのだ。
再生したばかりの食材を傷つけずに移送するのは、思っていた以上に骨が折れた。
おかげで、あれだけ時間をかけて再生したにもかかわらず、帰る頃にはさらに疲れていた。
「……まあ、元気なのはいいことだけどな」
自分を襲ってきた植物を思い出し、思わず笑ってしまう。
あの生命力なら、適切な環境さえ整えてやれば、十分に繁殖できるだろう。
少なくとも、絶滅した食材を再び世界に戻すという目的は、一歩前進したはずだ。
あとは、再生した個体が安定して育つかどうかを観察する必要がある。
もちろん、これも再生屋の仕事だった。
・・・
・・
・
マザーウッドの内部は、相変わらず賑やかだった。
巨大な幹の中にはいくつもの通路が張り巡らされ、再生屋や患者たちが行き交っている。
壁や床の大部分は木そのもので構成されており、ところどころに自然の光を取り込むための空間が設けられていた。
その隙間から差し込む陽光が、内部を柔らかく照らしている。
俺は案内表示に従い、再生屋協会の依頼受付へ向かった。
再生屋協会。
再生屋への依頼を管理し、各地へ人材を派遣する組織だ。
協会には毎日、さまざまな依頼が舞い込んでくる。
飼育しているペットの怪我を治してほしいという小さなものから、IGOによる大規模な環境再生の依頼まで、その内容は幅広い。
食材の再生はもちろん、生態系を荒らす猛獣の捕獲や、違法な食材採取を行う人間の身柄確保なども、場合によっては再生屋の仕事になる。
特に近年は、環境再生に関する依頼が増えている。
宇宙との交流が進み、新たな食材が次々と持ち込まれるようになった結果、各地で生態系の維持や調整が必要になっているためだ。
当然、それに伴って再生屋の需要も高まっていた。
ただし、依頼には人気の差がある。
報酬が高く、実績として評価されやすい猛獣討伐や環境再生は、比較的早く受注される。
一方、古い食材の再生依頼は、なかなか引き受け手が見つからないことも多かった。
何しろ、再生に成功する保証はない。
わずかな痕跡を探し出すだけで何日もかかることがあり、発見したところで、そこから再生できるとは限らない。
技術も根気も必要なわりに、報酬は決して高くないのだ。
そのため、食材再生の依頼は後回しにされがちだった。
……俺が再生屋協会に所属するまでは。
「おお、カルス! 帰ってきたのか!」
受付へ向かう途中、顔馴染みの再生屋に声をかけられた。
がっしりとした体格の中年男性で、環境再生を専門としている人物だ。
「ただいま。そっちも仕事帰り?」
「ああ、ちょうど今戻ったところだ。それにしても、お前がいてくれて本当に助かってるよ」
「何かあった?」
「何かって、食材再生の依頼だよ! たまに出てくるあの手の依頼を、お前がほとんど全部引き受けてくれるからな!」
男は楽しそうに笑った。
「昔は何か月も残っていた依頼が、今じゃすぐに消えていく。おかげで協会の連中も喜んでるぞ」
「それはよかった」
「まったく、お前みたいな物好きは珍しいよ。俺なんか、絶滅した植物を一株探すより、荒れた土地をまとめて再生するほうが性に合ってる」
「そっちも立派な仕事だと思うけどね」
「まあな。お互い得意なことをやってるってわけだ」
そう言って、男は手を振りながら去っていった。
俺も軽く手を振り返し、受付へ向かう。
確かに、彼の言うことも分かる。
環境再生は目に見えて成果が分かりやすい。
荒廃した土地に緑が戻れば、そこに住む人々は喜ぶし、新たな食材を育てることもできる。
それに対して、古い食材を一種類復活させたところで、必ずしも大きな利益につながるわけではない。
むしろ、再生した食材を維持するために、さらに費用がかかる場合もある。
それでも、俺は食材の再生が好きだった。
理由は単純だ。
もう二度と見ることができないと思われていた食材が、再び目の前で芽吹く。
その瞬間を見られる仕事なんて、そう多くはないだろう。
「カルス、お帰り!」
受付へ到着すると、聞き慣れた声が響いた。
声をかけてきたのは、受付を担当しているエルナだった。
肩まで伸びた茶色の髪を後ろでまとめた、落ち着いた雰囲気の女性だ。
普段から依頼の受付や達成報告を担当しており、俺が協会に所属してから、何かと世話になっている。
「ただいま、エルナ」
「今回はゴブリンプラントだったわよね。どうだった?」
「無事に再生できたよ。移送も終わってる」
「えっ、本当に?」
エルナが驚いたように目を見開いた。
「依頼書では、かなり難しいって書かれていたはずだけど……」
「運がよかったんだ。現地で残存組織が見つかったからね」
「それでもすごいわよ。あれ、確か絶滅認定されていた食材でしょう?」
「そうだね。もっとも、再生したのは一個体だけだから、ここから安定して増やせるかどうかが大事だけど」
「それもそうね。じゃあ、報告をお願いできる?」
「ああ。それと、ついでにBBコーンの調査もしてきたから、その資料も送っておくよ」
俺はデバイスを操作し、今回の調査結果を転送した。
ゴブリンプラントの残存組織。
細胞の活性化に使用した薬剤の種類と量。
再生に要した時間。
成長後の状態や、管理機関へ引き渡した際の記録。
さらに、BBコーンの細胞活性や成長速度に関するデータも添付しておいた。
エルナは目の前に表示された電子パネルを操作しながら、資料を確認していく。
「……すごい。ほとんど灰になっていた組織から再生したの?」
「グルメ細胞が少しだけ残っていたんだ。それを活性化させて、必要な栄養素を少しずつ補っていった」
「簡単に言うけど、相当大変だったんじゃない?」
「まあ、数十時間はかかったかな」
「……それを簡単に言えるのが、カルスのすごいところよね」
エルナは呆れたように笑った。
別に、簡単だったわけではない。
実際、何度か失敗しかけたし、細胞が崩壊しそうになったときは随分と焦った。
ただ、それも含めて再生屋の仕事だと思っている。
「それで、BBコーンのほうは?」
「成長速度が落ちていた。原因はまだ分からないけど、ゴブリンプラントの絶滅が関係している可能性もあると思う」
「……あの植物が?」
「まだ仮説だけどね。詳しく調べるなら、再生した個体の成長を観察しながら、周辺環境への影響を確認したほうがいい」
「分かったわ。担当の研究機関にも資料を回しておく」
「頼むよ」
エルナは手際よくデータを整理し、依頼の達成処理を進めていった。
しばらくすると、俺のデバイスに報酬の通知が届く。
金額は、決して大きなものではなかった。
数十時間の再生作業に加え、現地調査や移送にかかった手間を考えれば、効率のいい仕事とは言えないだろう。
だが、俺に不満はなかった。
再生に必要な薬剤や器具の費用も支給されているし、生活に困るほどではない。
何より、今回は十分な成果が得られた。
「ありがとう。これで依頼は完了ね!」
「お疲れさま。それで、ほかに食材再生の依頼はある?」
俺が尋ねると、エルナは嬉しそうに笑った。
「おかげさまで、今のところ一件もないわ!」
「……本当に?」
「ええ! カルスが来る数年前までは考えられなかった状況よ。食材再生の依頼が全部終わるなんて!」
エルナは画面を操作し、現在の依頼一覧を見せてくれた。
環境再生。
猛獣捕獲。
医療支援。
食材調査。
さまざまな依頼が並んでいる。
だが、食材そのものの再生を目的とした依頼は、確かに一つも見当たらなかった。
「……そうか。全部終わったのか」
少しだけ、不思議な気分だった。
再生屋として活動を始めた頃は、未処理の依頼が大量に残されていた。
数年前に出されたまま、誰にも引き受けられていないものも珍しくなかった。
俺はそれらを一つずつ受け、各地を回ってきた。
もちろん、すべての依頼で再生に成功したわけではない。
手掛かりがまったく見つからなかったものもあれば、残された組織が完全に死んでいて、再生を断念したものもある。
それでも、できる限りのことはしてきたつもりだった。
その結果、いつの間にか依頼がなくなっていたらしい。
「……ちょっと寂しいな」
「ふふっ。普通なら喜ぶところじゃない?」
「それはそうなんだけどね」
「まあ、またすぐに新しい依頼が来ると思うわ。カルスのおかげで、食材再生の依頼を出せばちゃんと対応してもらえるって認識も広まってきてるみたいだし」
「それなら嬉しいな」
俺は笑った。
仕事がなくなるのは困るが、それ以上に、食材の再生に興味を持つ人が増えるのなら歓迎したい。
今の時代、新しい食材を探すことに注目が集まっている。
それは決して悪いことではない。
だが、古い食材にも価値があるということを、少しでも多くの人に知ってもらいたかった。
「まあ、俺は好きでやってるからね。また依頼があったら連絡してくれ」
「もちろん! 真っ先に連絡するわ!」
「ありがとう。それじゃあ、今日は帰るよ」
「お疲れさま! ゆっくり休んでね!」
エルナに見送られ、俺は受付をあとにした。
・・・
・・
・
「……久しぶりにオフだな」
マザーウッドを出た俺は、しばらく行き先を考えた。
普段なら、次の依頼を確認してすぐに移動するところだ。
だが、今日は急ぎの仕事がない。
せっかくなので、以前から気になっていたことを調べることにした。
向かったのは、ライフにある図書館だった。
ここには現代の医学や再生技術に関する資料だけでなく、古い時代の文献も数多く保存されている。
千年前の情報を探すには、なかなか都合のいい場所だ。
もっとも、最近は足を運んでも、なかなか目当てのものが見つからないのだが。
図書館に入ると、静かな空間が広がっていた。
天井は高く、壁一面に書棚が並んでいる。
現代では書籍の電子化が進んでいるものの、この図書館では紙の本も多く保存されていた。
特に古い時代の資料は、原本を残すこと自体に価値があるのだという。
俺は受付で資料の閲覧手続きを済ませ、奥にある席へ向かった。
机の上に並べたのは、千年前のグルメ時代について記された数冊の書物だった。
当時の食文化。
食材の流通。
人々の生活。
そして、美食屋たちの活動に関する記録。
俺はその一冊を開き、ページをめくり始めた。
……しかし。
「……やっぱり、思い出せないな」
しばらく読み進めたあと、俺は小さく息を吐いた。
以前から、妙に気になっていることがある。
千年前の記憶についてだ。
俺は前世のことをかなり鮮明に覚えている。
再生屋として活動していた日々も、訪れた土地も、出会った食材も。
トリコの結婚式でGODを食べたことだって、今でもはっきりと思い出せる。
それなのに。
何か、重要なことを忘れている気がするのだ。
最初は、単なる記憶違いだと思っていた。
何しろ、前世から千年もの時間が経過している。
いくら記憶を引き継いでいるとはいえ、細かな出来事まで完璧に覚えているわけではない。
しかし、どうにも腑に落ちなかった。
例えば、昔の美食屋たち。
彼らは、ただ珍しい食材を探していたわけではなかった。
もちろん、美味しいものを食べることが目的の者もいたし、未知の食材を求めて冒険する者もいた。
だが、それとは別に、何かを集めていたような気がする。
そして、それを大切なものとして、誇りにしていたような……。
「……何だったかな」
俺は眉間にしわを寄せた。
もう少しで思い出せそうなのだが、肝心なところで記憶が曖昧になる。
何かを集める。
それは、単なる収集ではなかったはずだ。
……どうにも思い出せない。
俺は目の前の本へ視線を戻した。
だが、そこに答えは書かれていなかった。
千年前のグルメ時代について記された資料は、想像していた以上に少ない。
もちろん、まったく残されていないわけではない。
有名な食材の記録や、当時の美食屋たちの功績などは、今でも確認できる。
しかし、人々の生活や文化についての細かな記録となると、途端に情報が少なくなる。
特に、当時の美食屋たちが何を大切にし、どのような価値観を持って活動していたのか。
そうした資料は、なぜかほとんど見当たらなかった。
「……不思議だな」
千年前と現代では、食に対する価値観が大きく異なっている。
だからこそ、当時の人々が何を求めていたのかを知りたかった。
だが、こうして調べても、なかなか答えが見つからない。
俺は何度か別の資料を開いてみたものの、結果は同じだった。
歴史的な出来事は記されている。
有名な人物の名前も残されている。
だが、それらの人物がどのような思いで食材を追い求めていたのかについては、ほとんど触れられていなかった。
まるで、その部分だけが抜け落ちているようだった。
「……考えすぎかな」
俺はそっと本を閉じた。
実際、千年という時間を考えれば、記録が失われること自体は珍しくない。
戦争や災害によって失われた資料もあるだろうし、時代の変化とともに価値を失い、保存されなくなったものもあるだろう。
それに、自分の記憶が完璧だという保証もない。
ただ、何かが引っかかる。
それだけだった。
俺は椅子にもたれかかり、天井を見上げた。
……まあ、いいか。
思い出せないものは仕方がない。
今すぐ分からなくても、いつか何かの拍子に思い出すことがあるかもしれない。
それより、今の俺にはやりたいことがある。
千年前には存在していたのに、現代では絶滅してしまった食材。
それらを、もう一度この世界に蘇らせることだ。
幸い、食材に関する記憶はしっかりと残っている。
どこに、どんな食材が生息していたのか。
どんな環境を好み、何を食べて成長していたのか。
もちろん、すべてを知っているわけではない。
俺が実際に見たことのない食材も多いし、当時の記録だけでは分からないことも山ほどある。
だが、少なくとも、千年前の人間界にどのような食材が存在していたのかは、ある程度把握しているつもりだ。
現代の再生技術と、前世で得た知識。
その二つを組み合わせれば、まだまだ再生できる食材はあるだろう。
「……まずは人間界の食材からだな」
俺は机の上に置いたデバイスを操作し、個人的に作成していた一覧を開いた。
そこには、千年前に存在していた食材の名前がいくつも並んでいる。
現代でも生息が確認されているもの。
生息数が大きく減少しているもの。
そして、すでに絶滅したとされるもの。
それぞれを分類し、再生の可能性を調べているところだった。
中には、千年前でも希少だった食材が含まれている。
簡単に見つかるものばかりではないだろう。
だが、それでいい。
今度の人生は、まだまだ長い。
何も急ぐ必要はない。
一つずつ調べ、できることから始めればいいのだ。
それに、今回のゴブリンプラントのように、思いがけない場所から再生の手掛かりが見つかることもある。
少なくとも、最初から諦める理由にはならない。
「……よし」
俺は一覧を閉じ、軽く伸びをした。
まずは絶滅した人間界の食材を再生していく。
それが、俺の当面の目標だ。
千年前のすべてを取り戻すことはできないかもしれない。
だが、一つでも多くの食材を未来へ残せたなら、それで十分だと思う。
そんなことを考えていたときだった。
ピピピッ。
「……ん?」
デバイスから通知音が響いた。
画面を確認すると、エルナからの通信が届いていた。
「カルス! 今、大丈夫?」
「ああ。どうした?」
「新しい再生依頼が来たの! 今からでも受けられる?」
「……もう?」
思わず時計を確認する。
協会を出てから、まだ数時間しか経っていない。
エルナも同じことを考えていたのか、少し申し訳なさそうな声を出した。
「ごめんなさい。せっかく休みになったばかりなのに」
「いや、大丈夫だよ。ちょうど調べものも終わったところだから」
「本当? それなら助かるわ!」
「それで、どんな依頼?」
「詳しい資料が届いているから、受付で説明するわ。食材の再生に関する依頼よ」
「分かった。今から向かうよ」
「ありがとう! 待ってるわね!」
通信が切れた。
俺はデバイスを収納し、机の上に広げていた資料を片づけ始めた。
「……短いオフだったな」
久しぶりにゆっくりできると思っていたのだが、どうやらそう簡単にはいかないらしい。
もっとも、嫌な気分ではなかった。
再生の依頼が来たということは、どこかで誰かが、失われた食材を取り戻したいと考えているということだ。
そして、そのために再生屋を頼ってくれた。
それだけでも、嬉しいことだった。
俺は椅子から立ち上がり、図書館をあとにした。
外へ出ると、午後の柔らかな陽光が街を照らしていた。
風に揺れる木々。
空を舞うバタフライセラピー。
そして、その向こうにそびえ立つ巨大なマザーウッド。
千年前と変わらない、癒しの国ライフの景色だ。
「さて、今度はどんな食材だろうな」
俺は再びマザーウッドへ向かって歩き始めた。
再生屋の仕事は、決して派手なものばかりではない。
地面を這いつくばり、何時間も痕跡を探し続けることもある。
ようやく見つけた組織を再生するために、何日も細胞と向き合うことだってある。
失われた食材を取り戻す。
ただ、それだけのことかもしれない。
だが、その小さな積み重ねが、いつか誰かの食卓につながるのであれば。
再生屋として、これほど嬉しいことはないだろう。
俺は足取りを少し速めた。
いつも見ていただきありがとうございます!
カルスは人間界の調査が多めになると思います。
よろしくお願いします!
下記2作品も順次投稿中です。
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千年後のグルメ時代
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四層世界の最下層、魔物の森で生き残る
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