いっけぇーっ俺の相棒っ!! 作:4645 (ケモ系大量生産クリーチャー)
「おっ、なんか大技がきききききききききききk
のんきに怪獣の大暴れを観戦中だったはずの矢場さんの死亡済ホログラフィックが突然乱れ、その発音が狂う。
その姿は煙を手で払ったようにかき乱れ、そして出現し、上半身と下半身が交互に映し出されてはまた消える。
隣にいる東さんと俺に至っては安物の機材のせいで映写が完全に消し飛ばされてしまったようで、投影とボイスが完全に無くなってしまった。
何が起きたのかと辺りを見回せば、唐突にトライデーモンの頭部からEMPのようなエネルギーバーストが放たれたようである。
…完全にノーモーションだった。
矢場さんは無駄にいい目のお陰で起動エネルギーを視認できたのだろう。防護まではできなかったようだが。
完全に巻き込まれた形の監視カメラ達は力なく首を折り、水を打ったように静かになった野次馬の群衆は大半が棒立ちのまま顔面の全部の穴から血と煙と火を吐いている。
よかった〜福利厚生にリスポーン保険があって。
我が社様々である。
さすが上場企業だ…
「げっほえっ、ゲホッ…」
生身が多いから軽症で済んだのか、まあよく分からないが、至近距離で直撃したはずのハカセはなぜか白い煙を吐くだけで一応済んでいた。
…中身がどうなっているかはわからないが。
逆に、指示したであろうかけるに至ってはなんと完全に無傷である。
あいつ、先天性の適性ひとつにおんぶにだっこで調子に乗っているただのクソガキかと思ったら、どうやらあのナリで重サイボーグだったらしい。
…何かしらの防御機構により逃がされた熱で人間としての体裁を保つスキンがどろどろに溶解し、人体を完全に置換するように増設された皮下の機械構造が露出している。
その背中をじろじろと眺め回してみれば、後頭部からケツに向かってモールド埋め込み式の液体管と板ケーブルが伸びているので、後頭葉から脳幹を通り脊髄にかけて融合治療式のデッキが埋め込まれていることがわかる。
ついでにカード召喚システムも人体埋め込み型のガチなやつが乗っているようだ。
どうりでガキ共がよく持っている腕に付けるオモチャを携帯していないのか。
…なお、矢場さんと東さんと俺は既に死んでいるうえに脳などの大事なものは事前に会社に預け入れているのでそこまで影響を受けていない。
ここで死んだり幽霊になって遊んだりしているものは言わば子機であり、親機は今も水槽の中でビーチパラソルの下にでもいるだろう。
実質辞められないのと同じというデメリットも多少あるとはいえ、流石に大企業だけあってマジに圧倒的な福利厚生である。
ちなみに95歳の定年以外で辞めた場合は設備使用権が即時に剥奪されるので、保管装置から湯豆腐のようにお鍋に掬った脳みそが本社の正面玄関にポンと出されてしまうが、辞めなければいいだけの話なので実質リスクゼロだ。
「かっ、かけるくん…?」
…銃声も喧騒も、交差点も雑踏も、全部の音がこの世から消え去ったかのように拭いさられ、完全な静寂がこの場に満ちる。
ハカセは無言のかけるの背中に震えた声で語りかけた。
当たり前ながら、合金と人工血液が支配的な肉体は成長しない。
つまり、その姿はかけるが今後一生耐用年数が尽きるまで「かけるくん」のままであることを意味した。
…その間も、トライデーモンは自分の力不足を悟っているかのように、静かにその背後に佇んでいる。
今、この場は2人と1匹だけの世界となっていた。
「俺、俺さ…」
「俺…」
メカニカルな表情調整装置が微細に稼働し、もう存在しない顔面の動きを模倣しようとする。
樹脂製の顎が熱によって脱落して本性を表したその頭部は恐ろしげな鋼の昆虫のようで、まさしく安物の蟷螂型機械精霊の頭を多少改造した上で人の頭にまるっと流用したものであった。
人体の構造を守る必要がない重サイボーグにとって頭など飾りに等しい。
露出して垂れ下がったケーブル類と輸液装置の束が女の長い髪のように揺れる。
かけるくんのシルエットは今や金属製の虫型エイリアンのようである。
「俺…俺…奇形の未熟児で…
ママが身体を作ってくれて…」
「でも…でも…」
かけるはハカセに向かってよろよろと歩み寄りながらうわ言のように事情を説明しようとするが、うまくいかない。
ごとり、とも、がしゃり、ともつかないような、ともかく足というより脚部の足音が静寂をかき乱す。
しかし、それも長くは続かず。
それまでずっと無言だったトライデーモンが痛々しさに堪えきれなくなったかのようにかけるくんの背中を大事に抱き止めると、そのまま破ったばかりのシャッターの向こう側へ跳躍し、消えてゆく。
彼女は彼に指示されてエネルギー攻撃をしたのではなく、もしかしたら自発的に行動したのかもしれない。
かけるくんを、主を、周囲を取り巻くしがらみや狂騒から救い出そうとしたのだ。
…皮肉なことに、創造主の欲望から生まれたに等しい存在が主のことを一番大事に思っていたのだろう。
ご主人を丸裸にした上で大量虐殺を働いただけになってしまい、結果的にうまくいかなかったとしても、俺にはそう思えて仕方がなかった。
…遠くから新たな治安維持機構のサイレンが迫ってくる。
ともあれ、今日は長い一日になりそうである。
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