いっけぇーっ俺の相棒っ!! 作:4645 (ケモ系大量生産クリーチャー)
…なんだか、長い夢を見ていたような気がする。
くぁ…っと抑え気味に欠伸をし、柔らかな布団の質感を体表いっぱいに感じるように伸びをする。
猫の手のように前足をぐーぱーと閉じ開き、そして後ろ足と尻尾が端から飛び出すほど背を反らした。
やや短めの睡眠を数日続けて取った後の金曜日に理由もなく早めに床に就き、たっぷり9時間は寝てから自然に目を覚まして、いつもより早い頃合の土曜日の朝の陽射しに気がついてみた時のような。
ともかく、そういう目覚めだった。
…あれ、オレ昨日いつ寝たんだっけ。
まあそういう忘れても構わないことは忘れるにかぎる。
「………ぁん?」
しかし、そんな気持ちのよい朝はすぐにどこかへ四散してしまう。
というより、楽しむ余裕が自分の中から奪い去られてしまう。
伸びをするといつも後ろ足が真横で眠るカケルの脇腹にぺたりと触れてしまい、つめてぇからやめろぉ…と言われるのがモーニングルーティンだったのだが、今日はそのイベントが起きなかった。
不審に思い、オレはモゾモゾと煎餅布団から起き上がる。
すると、真横にあるテレビ台のコンセントのあたりに、衝撃の光景が広がっていた。
…全裸のカケルが見知らぬ雌型機械龍のカード精霊に抱かれて眠っていたのだ。
それも、有線で給電と通信まで行っているような有様でだ。
「へぇ………?」
意外なことに、第一印象では大きく感情が動くことはなかった。
…まあ、けっきょくオレって男だし。カケルだって本物の方が良かったんだろ。
まだ寝ぼけの残った冷たい頭でぼんやりとその雌型龍のカラダを眺めてみると、なんだかクネクネしていて、おっぱいもあって、どう見ても俺よりえっちだった。
…まあ、当たり前だよな。オレ、男だし。
オレにはこういうおっぱいもなければそういう部位もない。オレはただ多少線が細いだけで別に女じゃない。
まあ、そもそもカード精霊に性的嗜好とかの話はナンセンスだけど、とにかくオレは普通に男のただの四足のドラゴンで、自分で言うのもなんだけど特にそそるようなところもない。
でも、目の前のコイツ。
コイツはなんならオレから見てもちょっとエロいと思える見た目だ。なんか同族に似てる気がするし。
…そうだった、オレだって別にホモじゃなかったのだ。ただカケルの超大親友ってだけで、別に恋人じゃない。
だから、カケルが自分の力でもっといい相手を見つけられたのなら、オレはその事を全力で喜んでやるべきなのだと思う。
だってオレで我慢しなくて良くなったのだから。
だからこれはいいことなのだ。どう考えてもそうだ。
正直なところ、オレ的には願わくばふつうの同族の人間の女の子と付き合って欲しかったけれど、でも、明確に事態が前進したであろうことには間違いない。
「そっ、か」
…しかし、オレが真っ先に感じてしまったのは心の痛みだった。
オレの中じゃあ今でもカケルが絶対1番だけど、でもカケルの中じゃオレは1番じゃなくなったってことだもんな。
ずきり。
カードに埋め込まれたコアチップが物理的に痛んだような気がする。
なんだか全部の手足の末端が急速に冷えてゆき、自分というものが地底用のエレベーターに乗せられて、どこかの地の底へ急速に下っていってしまっているようにさえ感じられた。
約6m先の網戸に張り付いた蝉の鳴き声が少し遠のき、夏が色褪せてゆく。
「…」
オレは2人を起こさぬよう無言でその足の先を跨いで通り、キッチンのオレ専用の踏み台につかまり立ちするように乗っかって、いつも通りの朝食の準備に取り掛かる。
…もちろん3人分で。
まず、鴨居のハンガーにひっかけてあるエプロンの紐に首を突っ込み、いい感じに身を捩ることでエプロンを無理くり装着する。
そして、いつも冷蔵庫に入っているおばさんが買ってきてくれた期限切れの卵と賞味期限がひと月先のスライスベーコンを全然洗ってないまま使い回しているフライパンに何とか割入れる。
あとは、口を使ってダイヤルを回すことでガスコンロに火をつけ、適当に加熱するだけだ。
…しかし、今日は卵の欠片がいつもより多く入ってしまった。
でも、こういうちょっと失敗してしまった時でも、カケルはいつもジャリジャリでも良いと微笑みながら醤油を少しだけ追加した後に嬉しそうに食べてくれる。
けれど、そんな醤油ももうなくなってから久しく、それなりに時間が経ってしまっている。
カケルは今度学校帰りに買って帰ると言っていた。
でも、カケルは学校に行くことをやめてしまった。
「…」
がーりがーりと、焦げだらけでテフロンの剥がれたフライパンの表面をオレの咥えるフライ返しの先端が削り取る音がする。
油がないせいですぐ焦げ付くからずっと剥がし続けていないとダメなのだ。
しかも、今日はいつもより1人前多いから余計にだ。
…顎にフライパンの底から漏れたガス火の熱が伝わり、すこしあつい。
でも、オレの心はいまだに上の空で、あまり気にならなかった。
「もう、かぁ…」
思いのほか早かったなぁ…なんて思いながら、オレは止まったまま動かし方の分からない換気扇を見上げた。
オレはカケルのなんだったんだろう
オレ、今までカケルの相手ちゃんとできてたかなぁ
ぐるぐると思考が渦巻き、取り留めもなく散逸する。
カケルのやつ、オレの知らないやつにいきなり本当のサイボーグの姿をさらけ出して、有線接続までしてやがる。
…オレは機械型じゃないからオレの身体にコネクティングポートなんかのすごいものはない。
あの調子じゃあもしかしたら、カケルがいちばんオレに求めていたものは、はなからオレがカケルに絶対してあげられないものだったのかもしれない。
…たとえば本当のセックスとか、こういう機械の身体の共有とか。
オレはカケルのことを分かってるから、じゃあ明日からブレイブはもう俺の相手しなくていいよって言うようなやつじゃないことはじゅうぶん承知してる。
けど…
「カケル。朝飯できたぞ
…あと、しらない人の分も」
…人間なら起きるであろう音量を外部的に入力されたためか、2人の頭部側面のランプが有線ゆえに同時に青色から緑色に変化し、起床シーケンスの作動が明示された。
少し生焼けで少し焦げた失敗気味の目玉焼きベーコンを2枚の紙皿に盛り付けつつ、オレは自分の分をフライパンに残したまま咥えて食卓に持ってゆく。
…今後はもしかしたらオレがカケルと一緒に寝る頻度は週7から週6ぐらいに減るかもしれないし、一度減ったら減る一方になるかもしれない。
当たり前だけど雌型とセックスする方が当然楽しいだろうし、もしかしたらすることも少なくなるかもしれない。
すぐお役御免ってことはぜったいないけれど、もしかしたらオレは2番手に落ちて、もしかしたら、オレはカケルの1番じゃなくなっちゃうかもしれない。
ぐるぐるぐるぐる、思考がドツボにハマる。
信頼が不安に突き乱され、前足の指輪の締め付けが急に減ってゆく錯覚を覚える。
不安に駆られて友情リングを頻繁に確認してしまう悪癖がオレにはあった。
が、
…というか、今回ばかりはほんとにない。
なんか今見たら指輪がないのだ。
………指輪がない!?
「…がうっ!?」
あれっ、オレっ
まさか無くした?
嘘だ、そんなのありえない
「〜ッ!」
低いちゃぶ台にフライパンをほっぽりだし、急いで布団の方にかけ戻る。
もしかすれば寝ている間に抜けてしまったのかもしれない。
…しかし、まだ起動中の2人の中でもカケルじゃないほう。雌型龍の前足の人差し指の爪に、見慣れた銀色のリングが引っかかっていることにすぐに気がつく。
いつもことある事に見ているから、視界に一瞬写っただけでも見つけることができた。
困惑しているようなドラゴンの鳴き声が静まり返った住宅街の一室に沈殿する。
…2人の起床には、今しばらくかかりそうだった。
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書いて出しなので後で校正します