気が付いたら私は赤木リツコになっていた   作:無茶振りされたあなたは最高に輝いている

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■前回までのあらすじ
 ・ストレイツォ師父、クソお世話になりました!
 ・赤木家の女は男運が悪いし、貧乏くじを引きがち。
 ・二年経つ間に『碇ユイの消失』が進行済み。
 ・冬月コウゾウに会いに行こう!

=====
 
「臆病者のほうが長生きできる。それも良かろう」
 


3 必殺! 形而上生物学パンチ!

 

 京都の一角にある、閑静な竹林。

 鋭い空気を纏う老齢の紳士が先導する中で、ミニスカートの若い女性が付き従って歩いている。

 

 つまり、師父の弟弟子たる冬月コウゾウ教授と、私こと赤木リツコだ。

 ミニスカートなのは、その方が『赤木リツコ』っぽいから、ただそれだけ。

 

「機微な話をするには、かえってこういう外の方が良いものだ。それで赤木リツコ君」

 

「はい、冬月教授。……あるいは、師兄、と呼んでも?」

 

「もちろん。あのストレイツォ師兄の弟子となれば、私にとっても家族のようなものだ」

 

 ざ、ざ、ざ、と枯れ落ちた竹の葉を踏んで進む。

 目的地はない。

 話が終わるまで、ここを歩き続けるだけ。

 

「ストレイツォ師兄からの手紙は受け取った。君のことも書いてあった。

 2年程度の修行で波紋法の最奥に手をかけ、虚構と現実の壁を崩すに至った優秀な弟子だ、と。

 それで」

 

「はい、冬月師兄」

 

「あの生体工学の権威──── 赤木ナオコ女史の娘である君が、わざわざ手紙を手渡すだけにここまで来るとも思えないが」

 

「あら、母をご存じなのですね」

 

「ああ、もちろんだとも。君の母は、優秀な研究者で、優秀な技術者だ。将来的には私の同僚、部下になる人間でもあるしな」

 

「冬月師兄もゲヒルンに?」

 

「今も半分はそうだ。クロス・アポイントは結んでいる。……あ(・)の(・)時(・)も、私はゲヒルンに居た」

 

「………あの時。碇ユイ女史が、消失した際にも?」

 

 世間的には、事故により研究員が死亡と報道されているが。

 私は『消失』と表現した。

 

 冬月師兄の雰囲気が、また一つ、硬質なものになる。

 

「君が聞きたいのは、その件と思ったのだが?」

 

「いいえ。私はただ、先達としての貴方に教えを請いたいと思って伺ったのです」

 

 彼が振り返り、こちらに向き直る。

 

 私は、何もない虚空から、掌から『棍』を創り出す。

 手のひらに収まる、心地よい重さ。

 

 手品ではない。

 

 魔法のような、ホントの話。

 この世の不可思議。

 

 自らの認識に従って、虚構を現実へと侵蝕させる技術だ。

 

「ほう……なかなかの練度だ」

 

「冬月師兄こそ」

 

 見れば冬月師兄もまた、棍を持っていた。

 

 いつの間にそうしていたのか、まったく気づけなかった。

 やはり達人、マスタークラス……。

 

「成所作智(じょうしょさち)の波紋疾走、タルパ・オーバードライブ。虚構投映法(イマジナリー・プロジェクション)、などとも碇は呼んでいたが」

 

「そういった深いお話を伺いたく、参上した次第です。化生退治の話や、南極で得られたもの……冬月研究室の鹵獲物、あるいは成果物について触れさせていただければ、と」

 

「それも知っているのか。論文にはしていなかったと思うがな」

 

「この世に真に不可思議なことなど何もございますまい」

 

 私と彼は、お互いの手の内にある『棍』を見た。

 虚空から生み出されたもの。

 常識外れの、不可思議なものだが──── 私たちにとっては既にこれは常識のうちだ。

 

「道理だな。

 さて、後進に道を示すのも先達の役目、か。──── だが」

 

「それに値するか示せ、と」

 

「そうだ。まあ、我らの流儀としては、こ(・)れ(・)が一番早いだろう」

 

 戦意。

 

 武人同士の意思疎通とは、結局のところ、コ(・)レ(・)だ。

 

 

 スタンスを前後に広く取り、前傾姿勢で身を沈め、棍を深く構える。

 

「言われずとも構えるのは高評価。身体バランスを観たところ、筋骨神経の中身も弄っているな?」

 

「生体工学の道にある学徒なれば、己の身に幻想を投影し、より強靭にアップデートする程度は。それにそれは冬月師兄もでしょう?」

 

「然り。まあ、この程度は前提だとも」

 

 ぎちり。

 棍を握り絞る音が微かにお互いの手元から鳴った。

 

 竹の葉のさらさらという風鳴り。

 遠くから、蝉の声。

 

 明確な合図はない。

 

 だが、『意』が、『機兆(きざし)』が。

 

 達人であれば、解る。

 

 

「疾(シィ)ッ!!」

 

「噴(フン)ッ!!」

 

 直後、交錯。

 

 まるで交通事故でも起こったかのような轟音が響く。

 

 が、両者は無事。

 この程度では、波紋を極めた求道者はどうにもならない。

 

 すれ違いざまに一撃を交換し、二人の立ち位置は数瞬前から入れ替わっただけ、のようにも見える。

 

 だが、一撃の交換は、何時間もの対話よりもなお雄弁に、お互いの魂を理解し合わせた。

 

「………」

 

「………」 

 

 残心。

 

 を、冬月師兄は、解かない。

 

「………リツコ君。君は、魂が二つあるのかな」

 

「………」

 

「もう一つの魂は、その、『月の匂い』は……この世界のモノではないな?」

 

 月の匂い。

 宇宙のイオンの薔薇のような匂いと、胎漿の血のような甘い匂い、それらが入り混じったような香り、だろうか。

 

 この世ならざる匂い。

 それが、私の魂からする、というのか。

 

「………」

 

「仮称:化け子(ばけご)。妖精の取り換え子。チェンジリング。──── 実証が必要だな……」

 

「………どうぞ、ご存分に。どうであれ、私は、赤木リツコ、ですので」

 

「そうか。では見極めさせてもらおう」

 

 生まれた時から共にある魂は、もはや癒合して不可分であろう。

 私が、あるいは『私たち』であったのだとしても、私は/私たちが、赤木リツコであることに相違ない。

 そこは、そこだけは揺るぎない。

 

「続けましょう、相互理解を」

 

「ああ、そうしよう」

 

 

 次の瞬間、彼と私は同時に地を蹴って互いに突撃した。

 

 

 

 

 

 なお決まり手は、冬月師兄の形而上生物学パンチ(キック)であったことを申し添えよう。

 

 最終的に私の存在は許されたが、吐血するまで痛めつけられたことも、ね……。

 




 
トンファーキック! 的なアレ + 吐血ノルマ達成!

=====

■次回予告

 思いがけず指摘された、魂の二重性。
 赤木リツコは、自らの内側へと呼びかける。

「あなたはそこにいますか?」

 そこにいるなら助けてくれよホントによお!
 一人では無理でも、二人なら立ち向かえる、はず!
 頼む、応えてくれ!!

 彼女の悲痛な嘆願の行方は……。

 次回、『内なる対話! よりよい未来のために!』
 それでは次回も、サービスサービスゥ!
 
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