気が付いたら私は赤木リツコになっていた 作:無茶振りされたあなたは最高に輝いている
・ストレイツォ師父、クソお世話になりました!
・赤木家の女は男運が悪いし、貧乏くじを引きがち。
・二年経つ間に『碇ユイの消失』が進行済み。
・冬月コウゾウに会いに行こう!
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「臆病者のほうが長生きできる。それも良かろう」
京都の一角にある、閑静な竹林。
鋭い空気を纏う老齢の紳士が先導する中で、ミニスカートの若い女性が付き従って歩いている。
つまり、師父の弟弟子たる冬月コウゾウ教授と、私こと赤木リツコだ。
ミニスカートなのは、その方が『赤木リツコ』っぽいから、ただそれだけ。
「機微な話をするには、かえってこういう外の方が良いものだ。それで赤木リツコ君」
「はい、冬月教授。……あるいは、師兄、と呼んでも?」
「もちろん。あのストレイツォ師兄の弟子となれば、私にとっても家族のようなものだ」
ざ、ざ、ざ、と枯れ落ちた竹の葉を踏んで進む。
目的地はない。
話が終わるまで、ここを歩き続けるだけ。
「ストレイツォ師兄からの手紙は受け取った。君のことも書いてあった。
2年程度の修行で波紋法の最奥に手をかけ、虚構と現実の壁を崩すに至った優秀な弟子だ、と。
それで」
「はい、冬月師兄」
「あの生体工学の権威──── 赤木ナオコ女史の娘である君が、わざわざ手紙を手渡すだけにここまで来るとも思えないが」
「あら、母をご存じなのですね」
「ああ、もちろんだとも。君の母は、優秀な研究者で、優秀な技術者だ。将来的には私の同僚、部下になる人間でもあるしな」
「冬月師兄もゲヒルンに?」
「今も半分はそうだ。クロス・アポイントは結んでいる。……
「………あの時。碇ユイ女史が、消失した際にも?」
世間的には、事故により研究員が死亡と報道されているが。
私は『消失』と表現した。
冬月師兄の雰囲気が、また一つ、硬質なものになる。
「君が聞きたいのは、その件と思ったのだが?」
「いいえ。私はただ、先達としての貴方に教えを請いたいと思って伺ったのです」
彼が振り返り、こちらに向き直る。
私は、何もない虚空から、掌から『棍』を創り出す。
手のひらに収まる、心地よい重さ。
手品ではない。
魔法のような、ホントの話。
この世の不可思議。
自らの認識に従って、虚構を現実へと侵蝕させる技術だ。
「ほう……なかなかの練度だ」
「冬月師兄こそ」
見れば冬月師兄もまた、棍を持っていた。
いつの間にそうしていたのか、まったく気づけなかった。
やはり達人、マスタークラス……。
「
「そういった深いお話を伺いたく、参上した次第です。化生退治の話や、南極で得られたもの……冬月研究室の鹵獲物、あるいは成果物について触れさせていただければ、と」
「それも知っているのか。論文にはしていなかったと思うがな」
「この世に真に不可思議なことなど何もございますまい」
私と彼は、お互いの手の内にある『棍』を見た。
虚空から生み出されたもの。
常識外れの、不可思議なものだが──── 私たちにとっては既にこれは常識のうちだ。
「道理だな。
さて、後進に道を示すのも先達の役目、か。──── だが」
「それに値するか示せ、と」
「そうだ。まあ、我らの流儀としては、
戦意。
武人同士の意思疎通とは、結局のところ、
スタンスを前後に広く取り、前傾姿勢で身を沈め、棍を深く構える。
「言われずとも構えるのは高評価。身体バランスを観たところ、筋骨神経の中身も弄っているな?」
「生体工学の道にある学徒なれば、己の身に幻想を投影し、より強靭にアップデートする程度は。それにそれは冬月師兄もでしょう?」
「然り。まあ、この程度は前提だとも」
ぎちり。
棍を握り絞る音が微かにお互いの手元から鳴った。
竹の葉のさらさらという風鳴り。
遠くから、蝉の声。
明確な合図はない。
だが、『意』が、『
達人であれば、解る。
「
「
直後、交錯。
まるで交通事故でも起こったかのような轟音が響く。
が、両者は無事。
この程度では、波紋を極めた求道者はどうにもならない。
すれ違いざまに一撃を交換し、二人の立ち位置は数瞬前から入れ替わっただけ、のようにも見える。
だが、一撃の交換は、何時間もの対話よりもなお雄弁に、お互いの魂を理解し合わせた。
「………」
「………」
残心。
を、冬月師兄は、解かない。
「………リツコ君。君は、魂が二つあるのかな」
「………」
「もう一つの魂は、その、『月の匂い』は……この世界のモノではないな?」
月の匂い。
宇宙のイオンの薔薇のような匂いと、胎漿の血のような甘い匂い、それらが入り混じったような香り、だろうか。
この世ならざる匂い。
それが、私の魂からする、というのか。
「………」
「仮称:
「………どうぞ、ご存分に。どうであれ、私は、赤木リツコ、ですので」
「そうか。では見極めさせてもらおう」
生まれた時から共にある魂は、もはや癒合して不可分であろう。
私が、あるいは『私たち』であったのだとしても、私は/私たちが、赤木リツコであることに相違ない。
そこは、そこだけは揺るぎない。
「続けましょう、相互理解を」
「ああ、そうしよう」
次の瞬間、彼と私は同時に地を蹴って互いに突撃した。
なお決まり手は、冬月師兄の形而上生物学パンチ(キック)であったことを申し添えよう。
最終的に私の存在は許されたが、吐血するまで痛めつけられたことも、ね……。
トンファーキック! 的なアレ + 吐血ノルマ達成!
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■次回予告
思いがけず指摘された、魂の二重性。
赤木リツコは、自らの内側へと呼びかける。
「あなたはそこにいますか?」
そこにいるなら助けてくれよホントによお!
一人では無理でも、二人なら立ち向かえる、はず!
頼む、応えてくれ!!
彼女の悲痛な嘆願の行方は……。
次回、『内なる対話! よりよい未来のために!』
それでは次回も、サービスサービスゥ!