一応俺はヤクザだけど、してる事がヤクザじゃないってか...ふざけんなよ! 作:夢小説ボンプ
俺の名前はカイル、赤牙組の現若頭だ。
「さっさとかかってこんかい、早く死にてぇのか?」
普段では出さない地を這うような声色、そんな声を出す弟分のロゴスを前にした俺は、動く事は出来なかった。
ロゴスの声に背を押された舎弟たちは俺の背後から前へと突き進み、ロゴス目掛けて襲い掛かる。
―――...なんて情けないいんだ、俺は。
無駄に歳を喰ってきた俺よりも、若ぇ奴らの方が度胸がある。
いや...蛮勇なのかも知れないが、ヤクザ者としての行動ならば間違ってはいない。
―――俺も...何処で道を踏み外しちまったんだ。
なあ...ロゴス、今のお前を見てると...ミゲルの親父を思い浮かべるんだ...お前と重ねちまう。昔の親父、俺の...憧れの人を。
◇
...若い頃からだ、ミゲルの親父に憧れたんだ。
あの人の為に、あの人の為なら、なんでもしてあげてぇって...平然と思えた、それが...それこそが、俺の普通だったんだ。
俺と親父は同じ歳でも、俺と違って腕っぷしは強くて、度胸もあって、義理人情にさえ熱かった。
そんな親父を誰しも、慕っていた。
カンバス通りにあるスラムでの生き方を教えてくれて、時には身体を張って守ってくれた。そんな親父の背中を見ていれば、そんな親父についていきてぇって思うヤツは幾らでもいた。
気づけば互助組織のような形が形成され、カンバス通りの住民達との関係は良好。
互いに足りないモノがあるならば分け与え、生きる上での必需品を公平に分配し、互いに足りない部分を支え合うような日々だった。
それこそが...赤牙組の誕生秘話だ。
今とは比べ物にもならない理由、犯罪組織ではなく、互いが支え合って生きる為に生まれたモノだった。
だが、組織がデカくなるにつれ、一部の構成員は貪欲になりつつあった。満たされているのに足りない、何かが足りないと、人間は満たされれば満たされれる程、欲は溢れた。
人間の欲は深い、自身が思い浮かべるレベルを優に超え、いずれ貪欲へと陥る。
―――そして、赤牙組が外道へと陥る引き金が、突如として引かれてしまう。
エリー都を丸ごと呑み込むことホロウが発生、赤牙組は治安官の指示よりも早く、カンバス通りの住民の避難誘導を始めた。
しかし、想像よりもホロウ早く進行して行く。
悲鳴、怒号、助けを求める声、泣きじゃくる子供、まるで地獄へと堕ちたようにさえ思えた。そんな声もホロウに呑み込まれ、ホロウの膜へと収められた。
それほどに、ホロウの進行は早かった。
過去に類と見ない活性率、ホロウは爆発的に我々が住むエリー都を、カンバス通りの全てを覆っていった。
助かったも者は多くいた、治安官を待たず逃げ出したのは結果的には良かったのだ。だが...足りない、足りないのだ。
―――生きる上で必要な金も、必需品さえも。
組は全ての構成員を抱えれなくなってしまった。
食う飯も、住む場所も、何もかもがない。
いつしか組に所属していた構成員は減っていった、長く共に過ごしてきた者でさえ、自身が生きる為に抜けていった。
親父はいつもこう言っていた。
『組に金がないばっかりに...すまねぇ、すまねぇ...』
『...親父』
親父は悔しさにひたすら苦しめられた、何も出来ない自身に。金のない組織に、無力感に押し潰されていた。
そんなミゲルの親父に追い討ちを掛けるように、新たな悲劇が起こってしまった。
―――飢えてしまった、飢餓状態へと陥り、痩せ細って遺体になった元組員が見つかってしまった。
親父は一晩中、元組員の遺体に謝っていた。
その姿を見たものは皆、居た堪れないと言うしかなかった。
それが、
親父が外道へと堕ちてしまったのは...人としての道を踏み外しちまったのは、昔のような人ではなくなったのは...全て、この出来事が始まりだった。
親父は今まで超えて来なかった一線を、遂に越えてしまった。呪いのようなモノだった、まるで呪詛のような言葉を、親父は自身に向けて唱え続けていた。
『金がなきゃ生きる事すら出来ねぇんだよ、任侠?仁義?そんなもんで飯食えんのかよ。それで組員守れんのか、腹いっぱい...食わせれるのかよ...』
それは自身へ向けた呪いだったのかも知れない、守れなかった者へと向けた償い方だったのかも知れない。
そんな親父に我慢出来なくなったロゴス、お前は何度も親父に向かって説得してたな。
俺も...そうだったさ、お前と同じで、同じことばっかり考えていた。今でも思う、昔のように戻りてぇよ...って。
お前はこう言っていたな。
...昔のような互助組織へと戻るべきだ、地域の住民と共に支え合って生きるべきだ、はみ出し物でしかない我々は生きれないって。
ロゴス、お前はハッキリと断言した。
俺だってお前と同じ考えだ、だって―――
―――その先には決して、未来がないから」』
そんな子の声を、説得に対して親父が返した答えは左遷、お前が言われたのはその一言だけだったな。
素直に受け入れたお前は...失望したのかもな。
...今の親父に。
けどな、俺は今までの親父を見てきたんだ。
この人の苦労を、後悔を、絶望を、救いのない毎日を。親父はたった一人で立ち向かっていた。
―――頼って欲しかった。
守られてばっかりの俺らじゃないって、あんたの役に立ちてぇって、あんたに付いてきたのは自分の為ばかりの人間じゃねえって、今までしてくれた恩義に、あんたに報いる為に、俺らは居るんだって。
―――気づいて欲しかったのに。
ミゲルの親父、あんたはなんで...金なんかで仲間を作っちまった。
なんでだよ、親父。
俺らは...
なんであんたは...俺らを置いていっちまうんだ?
「それでカイルの兄貴、いや...カイルのカシラ。あんたはどうするんだ?」
気づけば俺以外、地面へと伏していた。
軽く全体を見渡す。
構成員には大きな怪我もねぇ、血さえも一滴も垂れてない。全員がただ...気絶しているだけだ。
数は昔と比べれば少なくなったと言えど、鉄火場に出てる奴さえもここには居たというのに、この有り様。
ますます...昔の親父とそっくりだ。
―――旧都スラムの伝説、シルバーヘッドと同じ。
怪我しねぇようにと、気遣ってたんだあいつは...手加減していた。
得物を、刃物を出されたと言うのに、平然としている。息切れすらしてねぇ、素手だけで全員制圧しちまった。
―――ハハッ、バケモンかよ。
「お前ってヤツは、いつからそんなにもバケモンみたいになっちまったんだ...ロゴス」
「必要なら、バケモンにでも何にでもなってやるつもりだ。俺にも...大切なモンはある、いや...沢山出来ちまった」
「そうか、俺にも譲れねモノはある。親父が築き上げてきた物を無くす訳にはいかねぇんだ、例えこんな...掃き溜めのゴミだろうと、な」
俺は別に、喧嘩が強い訳じゃねぇ。
組でのポジションだってそうだ、下の様子を見て報告、意見などの頭脳面でしか強みはなかった。学のない集まりでしかなかったからこそ、俺は必要とされていた。
ただ...今は頭だとか、そんなモンはいらねぇ。
何もしなず...流れに身を任すのはダメだ。今がチャンスだろ...昔の俺から新しい俺になれる、今のお前と
負けてもいい、それはそれで...清々しいんだよ。
こんなにも精神的も身体的も全て、成長した弟分が目の前にいるんだぜ。こんなにも嬉しい日はねぇよ、親父だって...きっと。
「ロゴス、昔みたいに胸を貸してやる。手ぇ...抜くんじゃねぇぞ?」
「心得た、カイル兄さん」
ロゴス:組の全員が腐っている訳ではないのを理解、ひとまず安心したが...猫又の事が心配ですぐにでも駆け付けたい状態。
初登場キャラ:赤牙組現若頭のカイル
カイル:今は亡きミゲルの親父を少なくともロゴスお重ねている、それはそれとして今までのケジメをちゃんとつけるつもりでいる。
猫又:邪兎屋の振る舞いや言動を通して、自分が復讐心を向けるような相手ではないと、...気づいてしまった。それは筋違いだと、だから...責任を取る覚悟をした。