君もゴッデスだ、ピナ 作:ピナの強化素材になりたい
広い荒野を走る装甲車。
その車は砂煙を巻き上げ、砂地に轍を浅く残してどこかへ向かって突き進む。
ただ2つ、不自然な点がある。まず無人なのだ。空っぽの運転席を車が無視するかのように駆け抜ける。
2つ目は傷やへこみが車体のだいたいの部分にあること。どんな事故を起こしたのか気になるほどだ。
当事者はこう思っていた。
クソがっ!!!
何だよ走ってるだけでバカスカ撃って来るとかどうかしてる。
ラプチャーは、あいつらは生かしちゃおけない!
見てよこれ!後ろの地面とか穴ボコまみれじゃん。
トランスフォームした車体がボロボロ!
推定サイバトロン星人じゃなかったら廃車だぞ!
しかし幸い、足はそんなに早くないようだから数時間で学習した素人ドライバーテクニックでも翻弄はできる。加速、減速の駆け引きとかすぐに引っかかるし。
ん、崖からラプチャーが!?どわっ!!
あの、……轢いちゃった。
でも止まれない。
一瞬物体が潰れる感触を味わいながらも減速なんて、怖くて出来ない。
車体に血みたいなもの…オイル?がついたし汚い。最悪なことに
前方にも何体か確認してしまった。
前にもラプチャー、後ろにもラプチャー。群れと群れの境目みたいなところに入ったようだ。
何でこんなことになるんだよ!
わかってる、自分のせいだ!助けに行くとか変なことを考えなければこうはなっていない!
前の奴らも撃ってくる。既に1体轢いたし警戒される。
本来持ってるかもしれない武器とか分からないしどうするかも知らないけどやるしかない。
エンカウンター!!そして__
『_トランスフォーム!!』
車両形態から腕部を展開し、地面を殴りつける。反動で一瞬で車体が浮いて前面がロボット形態の胸部へ変わり、ものの1秒弱で完全に変形。
ラプチャー達には人間やニケが移動に用いる機器が突然、黒くて二足歩行をする未確認存在へと姿を変えたように観測される。
姿の変わった『それ』は走行した分の勢いを殺さず更に踏み込む。
初めて遭遇した現象を処理するために、ラプチャーは群体で織り成していた弾幕に途切れを作ってしまった。
前方に展開していたその地上型ラプチャーの光学センサーは、接近する脅威を「人間側の移動用中型車両」と分類し、低脅威の判定を下した直後にその情報を上書きされている。
【WARNING: TARGET STRUCTURE ALTERATION DETECTED】
(警告:目標物の構造変化を検知)
【UNKNOWN MECHANISM OPERATING. CLASSIFICATION RE-EVALUATION FAILED】
(未知の機構が作動中。分類の再評価に失敗)
車体が跳ね上がり、1秒程度の時間で未知の二足歩行型の機械体へと再構築される。
その様子が記録データに反映され、処理に困惑するエラーログが展開される。
【ERROR: NO NIKKE BIOMETRIC/HERETICAL FRAME SIGNATURE FOUND】
(エラー:ニケの生体反応およびヘレティックのフレーム特徴を検出できず)
【PREDICTIVE ANALYSIS: METALLIC ALLOY COMPOSITION MATCHES NON-HUMAN MILITARY MATERIAL... 0.04%】
(予測分析:金属合金組成が非人類軍事物質と適合率……0.04%)
【HYPOTHESIS GENERATION: IS TARGET A FRIENDLY UNIT? (FRIENDLY FIRE PREVENTION PROTOCOL: OVERRIDDEN)】
(仮説生成:目標は味方ユニットか?[味方誤射防止プロトコル:強制上書き])
ニケでもなければ、人類の既存兵器でもない。
そして何より、その全身から放出されているエネルギー波形はラプチャー側の固有周波数とも異なるが、機械構造そのものは自らに近い「完全な無機物」であった。
『これは我々の派生個体なのか?』という論理回路による無用な再演算。それが群体全体の射撃シーケンスにコンマ数秒の遅延を生じさせた。
しかし、その逡巡の代償は致命的だった。
【WARNING: HIGH-MASS OBJECT APPROACHING AT EXTREME VELOCITY】
(警告:高質量物体が超高速度で接近中)
次の瞬間、ラプチャーの光学カメラ一面を、黒く重圧な金属の巨躯が覆い尽くした。
死角から伸びてきた無骨で巨大な機械の「手」__マニピュレーターが、空気を引き裂く音とともに頭部装甲へ直接叩きつけられる。
【CRITICAL ERROR: HEAD FRAME STRUC T UR E INFRI NG E...】
(致命的エラー:頭部フレーム構造が破壊……)
【..EXECUTION: CLOSE-QUARTERS COUNTER-ATTACK PROTOCOL】
(…実行:近接カウンターアタック・プロトコル)
背部に搭載された連装式の機関砲ユニットを荒々しく前方に展開し、至近距離からセンチネルの胸部装甲へ向けて全弾零距離射撃を叩き込んだ。
ダダダダダダッ!! と金属を打ち砕く轟音と高熱の弾痕がセンチネルの装甲を抉り、火花と歪んだ鉄片が飛び散る。
未知の存在に対して確かなダメージを与えていることは、反撃したラプチャーの内部ログにも明確に記録された。
だが敵対している存在は人を容易く葬る至近距離射撃によるダメージを耐え抜き、その攻撃速度を緩めることすらない。
反撃の手段を失い、完全に無力化した個体のメインカメラが、冷徹に迫る黒いマニピュレーターを捉えた。
【WARNING: TARGET IGNORES DAMAGE. STRUCTURAL TEARING INITIATED】
(警告:目標はダメージを無視。構造的分断を開始)
未知の存在は短い咆哮とともに、巨大な両腕が出力を上げる。
背部の砲塔と、反撃に使われた武装そのものを容赦のない握力と腕力で根本からむりやり掴み取った。
バコッ、グシャッ! と金属が裂ける悲鳴を上げ、内蔵パイプがいくつも千切れて紫色の作動油が霧状に飛び散る。
容赦なく引きちぎられた背部の武装が火花を散らしながら剥ぎ取られていく。掴まれたラプチャーにとって主兵装だったパーツ、それがわずか数秒で無残なスクラップへと変わった。
未確認存在は半壊したラプチャーの本体をそのまま片手で掴み上げると、自らを守る巨大な肉盾として前方へと突き出して駆け出す。
【WARNING: ALLIES' FIRE EN ROUTE. FRIENDLY FIRE IMMINENT】
(警告:味方機からの射撃接近中。フレンドリーファイア不可避)
背後から追随していた他の同族たちが放った質量弾の弾幕とレーザーが、盾にされたラプチャーの背中へと容赦なく降り注ぐ。
味方の放った銃撃が、肉盾の残骸を蜂の巣にしていく。
悲鳴を上げる暇もなくかつての同胞たちの猛爆に晒され、機体は文字通り鉄屑と化す。
『__ふん、ガラクタめが。』
片手で小型のラプチャーを掴めるあの腕は既に別のラプチャーを掴み、力づくで武装を剥いでいた。
五分程でその場にいた十体程のラプチャーは全滅。彼らの末路はありふれたものだ。
ただ一点、未知の存在によって破壊されたこと以外は何も珍しくない。
人やニケを攻撃することに特化し過ぎてしまった結果、末端のラプチャーでは束になっても非武装の『未知』から一方的にやられてしまったのだ。
『……勝っちゃ…った。けど、本気で死ぬかと思った。……あと何回コイツらと遭遇したらゴッデスの所へ着ける?』
その言葉は独り言であり、誰にも伝わりはしない。
『未知』は引き裂いた最後のラプチャーを放り捨てて、また車両形態へと変形して走り去っていく。
一晩ほど時間を置いてドロシーはもう一度監視所の高台に戻ってきた。スノーホワイトに会うためだ。
昨日、戦死したリリーバイスの墓の前で誰に漏らすわけでもなかった愚痴を偶然ピナに聞かれ、その時ピナが一つ提案してくれたからだ。
彼女曰く、仲間をより前向きに立ち直らせる『画期的な方法』とのこと。
“_じゃあ私が教えてあげます。たった一言でいいんです。「手伝ってください。」って、それだけです。”
提案されたドロシーにはわからなかった。だいたいのことは自分でやればより早く確実に済むのだから。
他者に頼むのは自分でやるより不確実であるとわかっていたから。
高台には白いコートと狙撃用のライフルが特徴的なニケがいる。スノーホワイトだ。
一夜明けてあいも変わらず不眠不休で監視所の見張り役に徹している。
スノーホワイトは近づくドロシーに気づいた。
「…ドロシーか。」
「はい。」
「こちらは特に問題ない。」
それはそうだ。何かあれば連絡の一つでもしてくれるのだから。何も不満がないことがむしろ見ている側には不安である。
「よかったです。」
「何か命令でもあるのか?」
二言目にはこれである。会話する気があるのかわからない。思考転換の影響のせいとしてもずっとこれでは話しかける身として辛い。でもYES NOの質問なら彼女はしっかり答えてくれる。
「スノーホワイト。」
「なんだ?」
「ちゃんと寝てますか?」
「いや。」
「食事は?」
「とってない。」
「少し降りてきてくれませんか?」
「私は警備に当たらなくては_」
「手伝ってください。」
「…?」
「私を手伝ってください、スノーホワイト。」
ピナの言葉を信じると決めた。少し目を逸らしてスノーホワイト本人よりも下の、高台の柱に視線が行きながらも。
そして改めてスノーホワイトを見上げる……しかし彼女はドロシーを見ていなかった。
まるで地平線の先でも見ているかのようだ。
「すまない、不自然な砂煙が上がっている。…迷わずこちらに来ているようだ。」
なんとも間の悪い。これではスノーホワイトが協力してくれる以前の問題だ。
だが狙撃姿勢に入った彼女はこうも言った。
「
「……ありがとうございます。」
狙撃姿勢のままで射程距離に入るのを待つ。ドロシーはまだここでできることは限られる。だからスノーホワイトの判断や提案を待つ。仲間を集めるか単独で始末できるか、まだわからない。
「……数は1つ、依然接近中。……?乗用車?」
ドロシーはそれを聞いて少し安心した。ラプチャーでないなら、なんだろうと脅威ではないのだから。
開放中のアークに来たのだろう。選定された避難民か。それとも選ばれてないが何かが起こるかもしれないと縋りに来た人々かもしれない。
「見たことがある。少し前にアークを通過したのと同じ車種だ。」
さっきよりも安心できた。何もできず見殺しにせずに済む。
避難キャンプ場に行った時の有様はそう何度も見たくない。
「いや、様子がおかしい。なぜアークに行かない?なぜこっちに来る?」
スノーホワイトには廃車寸前の装甲車が目に映った。それだけならラプチャーに遭遇して生き残ったと理解できる。
だが運転席にも助手席にも、奥の座席にも誰もいない。
「どういうことです?」
疑問が安心に、安心が不審に変わる。
しかし引き金を引くことができない。万が一にでもアークに関わっているとしたら取り返しがつかないからだ。
「まずあの車両はアークに向かってない。そして誰も乗ってない。」
「……?はい?よく、分かりませんが私が出ます。スノーホワイトはそこで何かあれば援護をお願いします。」
「了解。」
臨時監視所入り口にてドロシーは立つ。
特に変わらず推定の標的は確かにまっすぐこちらへ走っている。
そんな相手にスピーカーを使いたいが電力が既に切れているので遠くで指示ができない。
だから監視所の入り口の少し前で対象を待つ。
「……」
装甲車を見つめる。あの運転席が無人の不審な車がもうすぐそこまで来る。しかしどうやら敵対しないのか?その車はドロシーに距離が近づくと減速していく。
やがて減速したそれは彼女の数メートル前で完全に止まった。
止まったら止まったで今度は妙な緊張感が漂う。ドロシーは仕方ないので対話を始める。人の乗っていない車に話しかけるのもおかしな話だが。
「……私たちはゴッデスです。あなたはどちら様でしょうか?」
『……』
車は返事をしない。エンジン音がなりやみ静けさが増す。
「話が通じるか分かりませんがアークへの道はこの先です。ここではありません。」
『……』
「あの…」
アーク行きの標識を指しても無反応。
そろそろ面倒臭くなってきた頃、後方のドアが開く。すると謎のボックスが二つ、ゆっくりと押し出されるように落ちてきた。
「?」
ボックスは知見により軍用の支給ボックスと判断できた。
だがわかったのはこのことのみ。
そしてドロシーはこれから信じられないものを目撃する。
不明な車は完全にエンジン音が鳴り止み沈黙していたが…
瞬間、変形を始めた。
「なっ!?」
ボンネット、ドア、フロント部が裂けて腕が出てくる。それは人間、ニケよりもずっと大きいくまた、鋭い。
車両全体でも細かいパーツの各々が露出して動き出す。
「…まだ大丈夫です!」
ドロシーは手を横に振り、待てのジェスチャーをしてスノーホワイトの狙撃を直感的に止める。
腕で体を支えて底部に足が出現。足が片膝立ちの姿勢をとる。
裂けたボンネットから肩、次に頭部が展開されていく。
片膝立ちの姿勢が胴体の変形により人型に寄ると両足で立ち上がる。
手足には機械で再現した鉤爪が整い、足がより地面にしっかりと捉えて直立。
パーツが組み上がり車から人型のロボットへ変形した。
露わになった頭部は目に該当するパーツが4つあり、赤く光る。
人よりも高い体高がそれの不気味さと怪しさをより主張している。
最終的には見上げる高さにまでなった。
ロボットは両手を上げて降伏のポーズをとる。
『こちらに貴部隊を攻撃する意図はない。』
声だろう音声は低く、いかにも悪役みたいな響きでもう少し加工すればニュースに出てくる電話詐欺事件のモザイク音声になりそうな感じの声。
いかにも怪しさ満点な姿である。
「そうですか。でしたら目的はなんでしょうか?」
『偶然ながらそちらの通信を一件受信している。そしてゴッデス部隊の支援のために来た。』
謎の変形ロボットはそう答え、ある音声の再生を始めた。
“ _ゴッデス部隊からアークへ。現在の私達の状況は、絶望的です。”
「__それは!」
再生された音声はドロシーの記憶にも新しいものだ。なんなら自分自身の声だ。
「…そうですか。アークに通信が届いたのですね。」
『いいや、アークというものとは関係ない。持ち主のいなくなった物資をかき集めて来た。』
ロボットは放り投げたボックスを開けて中身を見せる。
一つ目の中身は長期戦はできないだろうもののそれなりの弾薬が入っていた。しかし敵の規模によっては1,2回で尽きる。
二つ目の中身はおよそ1週間分の食料、それと長く持って5日分ぐらいの水。これも足りないと言えば足りない。
ロボットは詳細不明。彼が持って来た未開封の兵士向けレーションとパック入りの水はまだ信用していいだろう。
「アークではない…わかりました。支援ありがとうございます。」
『それと私もここでラプチャーと戦うつもりだ。よろしくおねが…頼む。』
「……え?」
『_ついでに口調も直しときます。改めてよろしくお願いします。あと名乗るべきですけど…自分には名前は無いです、恐らく。』
「はい?」
* なそ゛の くるまロホ゛ット か゛ なかま に なった!
ト゛ロシー の めのまえ か゛まっくら に なった!
「……」
『……』
ドロシーは監視所の中へナーバスな表情で歩いている。その後ろを一台のほぼ廃車がゆっくりと着いて行く。さながら飼い主とペットみたいな構図。
そうしていると彼女のところへピナが走って来た。奥に紅蓮、ラプンツェルもいる。
「大丈夫でしたかドロシーさま!……車?」
ピナはドロシーの後ろにある車に疑問を覚える。
「…恐らく大丈夫ですよ。ええ、ちょっと驚いただけなので。」
それに感情の処理ができずひきつった笑顔を見せる。
「そうですか。いったいどんな人が乗ってるのでしょうか?アークへ避難される方だったり?ニケの方ですか?」
「それが……自律型の無人走行車のようです。私たちを支援してくれました。戦闘方面で協力してくれる、とも。」
嘘は言ってない。
「本当ですか!」
「はい。ちょっと傷が目立ちますが内装は綺麗ですしちゃんと走ります。」
ドロシーは笑顔で肯定する。ピナは分からなかったが、なぜか彼女の目は少しも笑ってない。
内心では
これなんて説明すればいい?
コイツはアークとの通信を傍受したと吐いた上で来てる。
こんなもんアークに報告できるのか?
むしろ私に今の状況を教えてくれ。
え、なにかあったら私が責任とるの?
と悩みの坩堝にある。
人手が足りず猫の手も借りたいからこそ今は黙っているだけだ。
あんな意味不明なロボットの手など普通なら絶対に借りない、とも。
「一応これから戦友になるのですから、ご挨拶してください。」
「「「?」」」
ピナ、紅蓮、ラプンツェルの3人は不思議に思った。車に向けてドロシーが挨拶を促したのがだ。特に紅蓮は自分の言動が原因でドロシーの頭がおかしくなったのかと心配している。
「わたしがそこまで君を精神的に追い詰めてたなんて…なんと言えばいいか…どう詫びれば…。」
後から来た紅蓮は説明を聞いてないため、アークからオンボロの車両を送ってきた程度にしか思ってない。
「いいえ、何を勘違いしているか分かりませんが私は至って正気です。くれぐれも撃ったり斬ったりしないでください。」
「「……」」」
ドロシー、あるいはその横の傷ついた装甲車を見つめる3人。
瞬間、車が不自然に動きだした。
「ひゃっ!」
「まぁ…」
「これはこれは…」
いくつものパーツが稼働して別の形へと変形していく。
数秒すれば人型を形作った高さ5メートルくらいの侵略してきそうなロボットがそこにいた。
『_ゴッデス部隊のニケの皆さん、はじめまして。アーク封鎖までの期間よろしくお願いします。…あの、武器は仕舞ってくれませんか?』
「…」
「…」
「…」
「みなさん、撃たないでくださいね。」
ドロシーの予想通り3人とも自分の武器を構えて戦闘態勢をとっている。
ただ事前の注意もあり、最悪の事態にはならなかったことはよいことだろう。
次に物資に余裕ができた今この時にできることをやってしまおうと決意した。
まずは心が沈んだ仲間たちを立ち直らせるべきなのだから。