君もゴッデスだ、ピナ 作:ピナの強化素材になりたい
ゴッデス部隊リーダー代行であるドロシーは現在、深刻に悩んでいる。
書斎に相当する部屋のデスクにて頭を抱えて、だ。
もとより最近は悩むことでいっぱいだった。が、今回は更に悩んでいる。
頼み込んだ末にスノーホワイトが物資の確保を手伝ってくれると言ってくれたのに、また一つ悩みが増えたのだ。
悩みの内容は今日、臨時監視所へ訪れたどこをどう見ても敵対しそうな変形ロボットについて。
現在進行型で侵攻するラプチャーと共にそれが変なことをやらかさないか定期的に見張っている。色々情報も吐かせた。
本人?曰く
名前なし
所属不明
生産拠点不明
気付いたら地面に寝ていた
変形後の車両形態は別の全壊した拠点からコピーしてきた
その拠点から物資を持ってきた
動力はエネルゴンかもしれないけどそれが、エネルゴンが何かよくわかっていない
めちゃくちゃな経緯と情報に頭痛がしそうだった。
「実は正体はラプチャーです。」と白状してくれた方が安易に始末できる分楽なのに、どこかの工場の生産物かもしれないのでそうはいかない。
今までの悩みは物資の不足、部隊の存続や損失。つまり今起きてる問題である。しかしあのロボットはアーク封鎖後、戦後の後処理にまで困る悩みを持って来やがったのだ。
それとは反対に浮かぶ感想もある。
無駄に便利だと。
謎の変形ロボットは基本的に勤勉で友好的
ロボット故か他の電子機器へ電力供給ができる
まだ同行させてないがスノーホワイトと資材調達するとき、純粋に移動の足として車両形態、人型形態の切り替えは優秀
見た目は廃車寸前だがマシントラブルがなく妙に頑丈
音楽を出力するジュークボックス代わりになるから多少のリラックスができなくもない
飲み食いしないので物資の消耗がほぼない
……音楽関連はこの施設だと、どこかの誰かさんが遺したカントリーミュージックのテープとディスクが大半を占めるが。
あとは戦力としてどのぐらい戦えるかを知りたいと思ったらなんかホログラムで戦闘ログとか見せてくる始末。
本当に無駄に便利である。
指標として量産型のニケと同じくらいの能力があればまず文句なし。普通の人間の軍人くらいあればギリギリ許す。
なんて考えていたら監視所に到着するまでの記録では、単騎で複数のラプチャーを相手に三戦三勝。
記録を信じるならデビュー戦で五十体程度を撃破し、どこか様子がおかしい。
最も強いニケだった
(……いいでしょう。最優先事項はあのふざけたロボットではありませんので。)
最先の目的はあの新参者じゃない。
まずは届いた物資の確認。次に紅蓮、ラプンツェルを立ち上がらせることが今の目標なので、裏切らない程度に半分放任状態にするのがいい塩梅である。そう自身に言い聞かせて、ドロシーはデスクに突っ伏していた顔を起こす。
─臨時監視所内─
そこはアークを守る要たる施設。しかし度重なるラプチャーの襲撃を長期に渡り押し返した戦果に比例するように内装は荒んでいる。
余裕がないため整理整頓もクソもないからだ。
物資の周辺だけは辛うじて整理整頓ができてるのは死活問題になりかねないから。
ニケとなった者達もなんとかしたいと思うものの、そんな余裕も気力も尽きかけている。
「ドロシー様…。」
ピナが監視所の資材置き部屋に辿り着くとドロシーがいた。ピナは彼女に質問する。
「あの、スノーホワイト様がいないのですが…何かあったんじゃないですよね?」
「スノーホワイトは周辺で使えそうなものを探しに行っています。」
新しく届いた弾薬の一つ一つを目で不備がないか検品しながら答える。もともと弾薬は何種か混ざって渡されたがこれをついでに手際よく仕分けてもいた。
「では警備は誰が?新しく入ったロボットさんとかですか?」
ピナも弾薬の検品と仕分けを何も言わずに手伝う。
「いえ交代で当たるつもりです。」
「なるほど。せっかく人手が増えましたからね。」
「…ピナ、あなたの言うとおりですね。」
途中で
ピナの手が止まる。真横を振り向くとドロシーも区切りのよいところで弾薬の整理を止めていた。
「……え?」
「私たちは人類の希望であり、勝利の女神。その象徴ともいえるゴッデス部隊です。弱いところを見せるわけにはいきません。_つまづく者がいれば、無理矢理にでも立たせます。」
ドロシーは二つ側面でそれを理解した。
志半ばで散った量産型の彼女達が最後まで信じたゴッデス部隊は彼女たちが憧れ、信じるに値しなければならないこと。
そして弱音を吐いてしまえばあのロボットのようにこの戦いと無関係だったかもしれない者が命懸けで
「私たちは常に人類の前に、皆さんの前に、堂々と立たねばならないのですから。」
地獄への道は善意で舗装されている。ならせめてその地獄に価値がなくては居た堪れない。
「そのために私たちが踏ん張らなくては、…逃げてばかりいてはダメですよね。」
「……っ、では!」
「はい。あの2人を何がなんでも起こしにいきます。あなたもいきますか?」
「いいんですか?」
「もちろんです。私たちが崩れゆく姿を見て胸を痛めてくれたあなたに、立ち上がる姿もお見せしないと。私はずっとピナの、皆さんの憧れでいたいから。」
せめて、せめて今残ったピナだけにでもゴッデスの威光を見ていて欲しい。信じてくれたことに報いなければと。
「ドロシー様…。これを早く終わらせて私も行きます!」
再び弾薬の整理を再開する。この作業が終わるのにそう時間はかからなかった。
─ニケの埋葬地─
監視所の近くにゴッデス部隊や過去に彼女たちと一緒に戦ったニケたちが作った墓地がある。土地はあまり豊かではないのか雑草がまばらに生えている程度。それが墓を作るのにちょうどよかったのだろうか。
二人は力尽きた兵士が眠りに着く場所へ来た。
そんな墓地には一人のニケが墓地の前で屈んでいる。ラプンツェルだ。
「_苦しまず永遠に、安らかに過ごせますように。」
祈りを捧げる姿は清廉さすらあるが、ある種のまやかしであることをドロシーは見抜いていた。
「……」
「ラプンツェル、立ってください。」
死者の遺志を継ぐことはあれど死者は直接今の自分たちを助けてはくれない。生前遺したものが助けになることはあっても。
「ラプンツェル。」
「_私たちをお救いください。」
ドロシーは知っている。
ラプンツェルは人の言葉を無視できるような薄情な人物ではないと。何か自己暗示似たものに囚われているのだと判断した。
要は意識を起こせばいい。
「ラプンツェル。」
「_私たちを憐れみ、絶望に立ち向かえるように、どうか力を。」
「死んでいった方々は私たちを救ってはくれませんよ。」
「……」
黙っていても、後ろからでも、ラプンツェルの意識が向いたのがわかった。
「私たちを救えるのは私たちだけです。すでに旅立ってしまった方たちのことは私たちの胸の中にしまって、生きている人たちのために動かなければ。」
「……それでは無念にも亡くなっていった皆さんが…可哀想です。」
ラプンツェルの表情は見えない。
発した返事の声色はとても悲しげだった。
「その亡くなった方たちの誰が、誰が無念と言っていましたか?」
「……聞くまでもないです。聞かなくても分かります。」
返事にほんの少しの戸惑いがあった。それはきっと仲間たちが最後までゴッデスと歩み同じ戦場で戦い、絶望があれど名誉と誇りは確かにあったことを自身も決して忘れてないからだ。
「私が断言しましょう。無念だと思っている方はいません。みんな矜持を胸に、誇らしく旅立っていったのです。」
「…無念だと、悲しいと言ってます。」
「いえ、それだけはありえません。」
ピナが座り込むと同時に無念の言葉を否定する。
優しく、しかしきっぱりとした口調だった。
「同じ目線で見ていた私が誰よりもよくわかっています。誰もそんなことは思っていません。」
「ではここで聴こえる言葉は…無念だと、悲しいと語るこの声は?」
その一言でドロシーは理解した。
ラプンツェルが本当に死者の声が聞こえるなら、迷わず傷ついた者のために命を賭しても戦える人物だと知っているからこそ原因がわかる。
「ラプンツェル、あなたの心の内の声です。」
「……え?」
ラプンツェルの思考、想像が掻き立てて、肥え太らせてた暗い幻想が正体と。
「望みもしない戦いに連れてこられ、死に物狂いで戦ったのにアークからは何も返事はありません。それであなたが無念だと思っているのでしょう。」
「__食べ物も水もなく、電気も途絶え、仲間たちはひとり、またひとりと去っていく。昼夜を問わずラプチャーがいつ攻め入ってくるかも分からず、常に神経を尖らせなくてはならない。」
皆、これまでいつもそうだった。
これからもしばらくは、あるいは死ぬまでそうなのかもしれない。
「つらいから諦めたい、けれど、こういう時に自分を奮い立たせてくれた一番大切だった、信じていた仲間はもういません。だからあなたが悲しいのでしょう。」
「……」
「私がリリスを恋しがるのと同じくらいラプンツェルもレッドフードを恋しがっているのです。でも、もういませんよね…彼女も去りました。」
「…えぇ、そうです。とても、とても頼もしい方たちでした。」
「声を聞きたくても聞けません。死んだのですから。会いたくても会えません。死んだのですから。死者には会えないし話すこともできません。」
ラプンツェルには残酷な答えとなっても彼女は、残った仲間は、まだ生きている。死者にうつつを抜かすなどやってはいけない。
「だから彼女たちの声が聞こえるというのは、嘘です。それはラプンツェルの願いに過ぎません。もしくは自らが生み出した幻でしょう。」
「……」
ドロシーからしてみれば今のラプンツェルは人格はできていても残った兵士たちのためにならない。むしろ部隊を助けてくれないので足を引っ張っている。
そしてゴッデス部隊が勝利の女神の部隊であるのなら死者の遺志を継いででも戦い、途中で力尽きても威厳と共に死ぬべきである。
「いま、ラプンツェルの隣に立って、助けを求める私の声に私の声を聞いてください。私は今ここに立ち、息をして、話をしています。そして手を差し出しています。ラプンツェルがこの手を握り再び立ち上がることを祈って。」
言葉通りに手を差し出す。
だからといって即座にラプンツェルがその手を握ってくれるわけでもないのだが。
「死者は…ラプンツェルを立ち上がらせることはできないし、ラプンツェルも彼女たちを呼び戻すことはできません。ただ心を引っ張られるだけです。」
「…ドロシー。」
「この手を掴んで立ち上がってください。生きている私の手を。」
ドロシーは差し出していた手を広げる。
その手は座り込むラプンツェルの手を取って、立ち上がらせるようでもあった。
「いいときも悪いときも、私が一緒にいます。私たちは人類の希望であり、勝利の女神、ゴッデスじゃないですか。」
「私は自分がそうだと思ったことが…あまりにも私には…。」
「いいえ。あなたはもうなっています。人類の希望に、女神になってしまったのです。」
主観的にラプンツェルは自分がそんな大それた存在じゃないと思ってようが、客観的に見れば評価も同じとは限らない。
「ラプンツェル様。ゴッデスの皆さんは私たちの希望であり絶対に汚れることのない憧れです。」
ピナを含めて戦場に立つ量産型のニケからしてみれば間違いなく希望の光だ。それは心の弱さが招いた死者に抱いた幻想とは違う、客観視な事実である。
「あなたの背中を追って命がけで着いて行った彼女たちを裏切らないでください、ラプンツェル。立ち上がってください!」
自分をどう評価していても、ゴッデスにいるのは勝利の女神。そういうものだ。そうでなくてはならない。
だからラプンツェルにとって呪縛と呪縛の板挟みである。
「…幾つもの死を通して理不尽な死を、そんなものを甘んじて受け入れるのは指揮官とリリスの望んでいたハッピーエンドではありませんよね。」
「……」
「ラプンツェル…」
死者の声など聞こえないと否定された以上、せめて死者が遥か空の上で安堵できるようにするには何をすべきか。
再び武器を手に取り、「ゴッデスは未だ健在だ」と空に聴こえる程に宣言する他ない。
「_少し待っていただけますか。」
ドロシーの手に触れ、小さくとも決意のある声でだった。
「お別れの挨拶をして…いきます。」
「…分かりました。」
ラプンツェルはもう一度墓石に祈りを捧げる。
ただ一言、かつて共に駆け抜けた戦友たちに伝えて。
「行ってきます。」
それが終わるとドロシーの手を握り、ゆっくりと立ち上がった。
「最後まで手を差し伸べてくれてありがとうございます。」
「私こそありがとうございます。ラプンツェル。」
まだ二人にとってピナや散った仲間たちにとって、憧れのゴッデスに戻るのはこれからである。
だがピナは再起する二人を優しく微笑み暖かく見守った。
あと一人、立ち上がらせる人物がいる。ゴッデスがゴッデス足りえるためには当然