オデュッセイアを訪れた先生は、海面で涼やかな磯笛を響かせる少女を見つけるものの、声をかける間もなく逃げられてしまう。その生徒について先生に質問されたミナトとアミは、要注意部活であるダイビング部の生徒だろうと回答する。

D.U.に帰港している間は、ダイビングショップ「Grand Blue」によく現れるとのことだが、このダイビングショップも何やら問題があるようで──

─────

ブルーアーカイブに来たイベント「Dive into OCEAN」を読んだら思いついてしまったので、書いてしまったもの。
メインストーリーのオデュッセイア編はまだ読めておらず、設定等に間違いがあったらすみません。

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先生「ジャンケンしてたらただ自然と脱げていた」

「さて……オデュッセイアに滞在されてしばらく経ちますが──。ご不便はありませんか?」

 

"みんなのおかげで楽しく過ごせているよ。まだわからないことばっかだけど……。"

 

私はオデュッセイア海洋高等学校「アイランド」の士官室で、その艦長である海路(うみじ)ミナトと面会していた。

このオデュッセイア海洋高等学校は数多の船舶が遠洋航海を常とする学園であり、一度海に出ると一年以上帰港しないこともざらなのだとか。そんな艦隊が前回の航海からわずか半年でD.U.に戻ってきたと聞いて、その生徒会である「アイランド」が拠点を構える旗艦「オリュンポス号」に仕事で訪れていた。

 

オデュッセイアの航海記録や自慢の料理、海上での食事の苦労などを語るミナトの表情は楽しげで、この学園を愛しているのであろうことがよくわかる。

しかし、その楽しい時間(面会とは名ばかりの雑談)もアイランド副部長の灯下(ともした)アミがミナトを呼びに来たことで終わりの時間となるのだった。

 

「オデュッセイアで何かあれば、我々アイランドやトライデントにご連絡ください。あちらは風紀を担ってくれていますので。」

 

"気にかけてくれてありがとうね。……早速だけど、気になる生徒がいるんだ。"

 

「ぴえーん」と鳴いているミナトの横でこちらに向き直り、困ったことがあれば頼ってくださいと言うアミに、私は夜の海で聞いた鳥のさえずりのような、イルカの鳴き声のような不思議な音と、その時に見かけた生徒について尋ねた。

 

「ああ、その口笛なら……。おそらくはダイビング部の生徒ですね。」

 

"ダイビング部?"

 

「水中活動を担当している部活です。先生がお聞きになったのは『磯笛』かと。独特の呼吸法なので、熟練ダイバーでないと難しいと聞きます。それほどのフリーダイビングができる生徒となれば、このオデュッセイアでも数えるほどしかいません。」

 

「浅く短時間の潜水なら私達にもできますが、ダイビング部はレベルが違うんですよ。」

 

"すごいスキルだね……。ダイビング部は普段何をしているの?重要な仕事を任されているのかな?"

 

「それが……その……。確かに優秀ではあるのですが──。隠し事が多いというか、協調性に欠けるというか……。」

 

言い淀んだミナトの言葉を引き継いで、アミが答えてくれる。

 

「単刀直入に言えば、要注意部活なのですよ。人見知りが激しいというのは置いておくとして……。お金の流れに怪しい点がいくつもあるんです。」

 

"怪しい点って……。こっそりほかの活動に使ってるとか?"

 

「いえ、怪しいのは支出ではなく収入です。」

 

「ダイビング部が用いる機材は入手困難で高価なものばかり。ですが、それを賄えるだけの収入源がありません。漁業もしておらず、特別なスポンサーがいるわけでもない。……それでも、存続できている。何か後ろ暗い収入を得ているのでは、という疑惑があるんです。」

 

"具体的には……?"

 

「水中で手に入るものには、ブラックマーケットで高額な取引をされている物も多くあります。もしも彼女たちが『潮水(ちょうすい)の蛟龍(こうりゅう)』のような問題ある生徒と結託していたら──」

 

「はいはい、暗い話はここまで。そんな話を突然されて、先生も困っているでしょう?」

 

「あ……失礼しました。」

 

"えっと、つまり……。ダイビング部の生徒が心配なんだよね?よければ私も話をしてみるよ。"

 

「……よろしいのですか?問題が表面化しているわけではないので本格的な調査も難しく……これまで手を付けられずにいたんです。先生がお力を貸してくださるなら、とても助かりますが……。」

 

「いけません!先生はお忙しいんですから……!どうか艦長の話はお気になさらないでください。これはオデュッセイアの問題なので──」

 

"生徒の悩みを聞いてあげるのが先生の役目だから。"

 

「そこまで仰るなら……お言葉に甘えて……。」

 

「ふふっ。シャーレの先生……やはり噂通りですね。では話を戻しますと──」

 

「ダイビング部は第3ターミナル東側の埠頭にあるダイビングショップで機材の整備をしているはずです。まあ、そのダイビングショップにも別の問題があるのですが……。とにかく、今すぐ出発されれば間に合うかと。」

 

「ちょ、ちょっと待って。今すぐ?まだいいじゃないですか。ほ、ほら。ちょうどここにある『お茶漬け』を召し上がってからでも──」

 

「それは『早く帰れ』というサインです。おしゃべりはもう十分に楽しんだでしょう?そろそろ業務に戻らないと泣きを見ますよ?」

 

「うぅ……。」

 

「では先生、よろしくお願いいたします。……ああ、それと1つアドバイスを。イルカ科の海洋生物は好奇心旺盛ですが、同じくらいに警戒心も強いです。近づく際にはご注意ください。」

 


 

"ここがダイビングショップ『Grand Blue(グラン・ブルー)』──"

 

私はダイビング部の手がかりとして教えられた、オデュッセイアの商業地区に居を構えるダイビングショップを訪れていた。

 

"ごめんくだ──"

 

「アウトォ!!セーフッ!!よよいのッ!!──」

 

私は開けた扉の先に広がった光景を理解できず、今開いた扉をパタンと閉じてしまった。

 

"(疲れがたまってるのかな……。今度リンちゃんに話して少し休みをもらったほうがいいかもしれない)"

 

そんな考えが頭をよぎるが、そのためにも今は困っている生徒の問題を解決してあげないと、と気合を入れて再度ダイビングショップの扉を開く。

 

「よよいのッ!!よいッ!!!」

 

"やっぱり!絶対におかしい!!"

 

「お?ようこそ、俺の自慢の店へ。どうかしたか?」

 

"店主さんですか!なんで平然としてるんですか!?絶対におかしいでしょう!?"

 

「うん?ああ、よく言われるんだよ。俺にこのエプロンは似合ってないって」

 

"私が言いたいのはそういうことじゃない!"

 

「なんだ?服装のことじゃないのか?」

 

"服装です!服装ですけど似合う似合わないの次元じゃないんです!"

 

「チィッ、負けたかじゃあ一枚だな」

 

"ギャーッ!!"

 

「いつもの光景だが?」

 

"いつも!?いつもこうなんですか!?"

 

「店長、どうしました?お客さんですか?」

 

「叫び声が聞こえましたけど」

 

奥から現れた店員たちも当然のように一糸まとわぬ姿だった。

私は深呼吸をひとつ挟み、目の前の眩しすぎる光景から意識して視線を逸らしながら尋ねた。

 

"それで、全裸だった理由は何ですか?"

 

「実はだな、タンク準備のジャンケンをやっていた」

 

"タンク準備?"

 

「ダイビングに使う空気(エア)の準備だ。外に置いてあっただろう?」

 

"ああ、小型のガスボンベみたいなやつ……"

 

「それをお客さんが使う場所まで運ぶ係をじゃんけんで決めていたわけだ」

 

"はあ……、それで?"

 

「それでとは?」

 

"いや、タンク準備は分かりましたけど、それが全裸とどんな関係が?"

 

「何を言っている。野球拳をしたら全裸になるのが常識だろう?」

 

"あなた方は野球拳以外のジャンケンを知らないんですか!?"

 

「いや、誤解しないでほしい。俺は服を脱ぐつもりはなかったんだ。た(・)だ(・)自(・)然(・)と(・)脱(・)げ(・)て(・)い(・)た(・)。俺の言っていること、わかるよな?」

 

"いいえ、微塵も"

 

ため息を吐きながら額を押さえる。ツッコミを入れるだけでシャーレの業務半日分くらいのカロリーを消費してしまった気がする。

だが、これ以上この男たちの服装に囚われていては本筋が進まない。私は気を取り直して、本来の目的を切り出すことにした。

 

"……はぁ、もういいです。服装へのツッコミは一旦置いておきます(本当は全然置きたくないけど……)。実は、こちらにオデュッセイアの『ダイビング部』の子たちがいると聞いてきたのですが"

 

「ダイビング部ぅ?」

 

店主は眉をひそめ、怪しむように私を上から下まで眺め回した。

背後の店員たちも、太い腕を組んで警戒の目を向けてくる。

 

「あんた、あの子らの何なんだい? 顧客の情報は簡単には漏らせねえよ」

 

「そうだぞ。あいつらはうちの大事なお得意さんで、可愛い妹分みたいなもんだ。どこの誰とも知らねえ奴に教えられるかよ」

 

"あ、失礼しました。自己紹介がまだでしたね。私は連邦捜査部『シャーレ』の担当教官──『先生』です"

 

胸ポケットからシャーレの身分証を取り出して提示すると、店主と店員たちが一斉に顔を見合わせた。

 

「シャーレの先生……? ああ、アイランドの連中がD.U.から招いたっていう、あの噂の……」

 

「おい店長、アイランドの差し金か? あいつら、またダイビング部に難癖つけに来たのか?」

 

"難癖だなんてとんでもない。生徒会から彼女たちの活動や資金繰りを心配する声があったので、力になれることはないかと直接会って話をしに来たんです。彼女たちに何か後ろめたいことがないなら、なおさら私が間に入って誤解を解きたいと思っています"

 

「なるほどな……。生徒思いのいい先生ってわけだ」

 

店主は納得したように頷いた。

アミが懸念していたような闇取引ではなく、単にこの店で機材の手入れやアルバイトをしていただけだったのだと分かり、私も心底ほっと胸を撫で下ろす。

 

"それで、そのダイビング部の子たち、今はどこにいるか教えてもらえませんか?"

 

「居場所か。教えてやりたいのは山々だが……」

 

店主は顎に手を当てると、急に獰猛な笑みを浮かべた。

背後に控えていた筋骨隆々の店員たちも、ギラギラとした目をこちらに向けて一歩踏み出してくる。

 

「いくらシャーレの先生だからって、大事な顧客の個人情報をハイそうですかと教えるわけにはいかねえな」

 

「そうだそうだ! 口先だけの軟弱者に、あいつらの居場所を渡せるかよ!」

 

"そ、そんな……! そこをなんとかお願いできませんか?"

 

「居場所を知りたきゃ、証明してみせろ。お前が生徒を守れるだけの根性と覚悟を持った、信用に足る男かどうかってことをな!」

 

"証明……? お金(情報料)ですか?(シャーレの活動費で領収書を切れば……)"

 

「金じゃねえ! 男なら……勝負だ!!」

 

店主が筋骨隆々の両腕を組み、力強く胸筋をピクつかせた。

 

"勝負……?"

 

「海に潜るダイバーに必要なものは何だと思う? 知識か? 機材か? 違う! 度胸と運だ! 俺たちとのジャンケン勝負に勝ったら教えてやる!」

 

"ジャンケン……? それだけでいいんですか?"

 

腕力や銃撃戦で勝負と言われたらお手上げだが、ジャンケンなら勝率は五分五分だ。至って平和的である。

 

「ああ、ジャンケンだ。男と男の真剣勝負……いくぞォ!!」

 

「「「うおおおおおッ!!」」」

 

店員たちが野太い雄叫びを上げ、壁やカウンターをバンバンと叩く。

 

"(……なんだろう。この背筋を冷たいものが走る感覚は……)"

 

一抹の不安を覚える私をよそに、店主が右手を高々と振り上げた。

 

「最初はグーッ!!」

 

「「アウトォ!! セーフッ!! よよいのッ!!」」

 

"えっ!? ちょっ、それって──"

 

「よいッ!!」

 

私:チョキ

店主:グー

 

「俺の勝ちだな! はい、一枚脱げ!」

 

"ギャーーーーッ!! やっぱり野球拳じゃないですかーーーッ!?"

 

頭を抱えて叫ぶ私に、店主と店員たちは怪訝そうな顔を向けた。

 

「何を言っている、男がジャンケンと言えば野球拳に決まってるだろうが!」

 

"だからそんな常識ないって言ったばかりでしょうが! 私は脱ぎませんよ!?"

 

「おいおい、大人なのに負けて勝負から逃げるのか?」

 

「情けねえな、生徒のために遠路はるばるやってきたっていうシャーレの覚悟はその程度かよ?」

 

"うっ……! そ、それを言われると……!"

 

脳裏に、困惑しながら相談してきたミナトとアミの顔が浮かぶ。ここで尻尾を巻いて逃げ帰れば、生徒の力になってあげられない。

大人として、先生として、生徒の信頼を裏切るわけにはいかないのだ。

 

"……わ、わかりましたよ! 上着! 上着一枚だけですからね!?"

 

私は観念して、スーツのジャケットを脱ぎ捨ててカウンターに置いた。

 

「よし、男を見せたな! だが居場所のヒントは3つある! 全部知りたければ3連勝だァッ!!」

 

"聞いてない! 後出しジャンケンにも程があるでしょ!?"

 

「いくぞォ! アウトォ!! セーフッ!! よよいのッ!!」

 

「よいッ!!」

 

私:パー

店主:チョキ

 

「はい次ィ!」

 

"ぎゃあああ! ネクタイがぁぁぁ!!"

 

「アウトォ!! セーフッ!! よよいのッ!!」

 

店主:パー

私:グー

 

「シャツいただき!」

 

"寒っ!! ちょっと待って、脱がすスピードがおかしい!!"

 

「「「よよいのよいッ!! よよいのよいッ!!」」」

 

店内にけたたましく鳴り響く狂乱の手拍子とコール。

ネクタイを奪われ、ワイシャツを剥ぎ取られ、ベルトを外された私は、肌寒さと理不尽な屈辱に打ち震えていた。

 

"(くっ……! このまま負け続けたら全部持っていかれる……! それに、大人として、シャーレの先生として……こんな筋肉ダルマたちに完敗して引き下がれるか……!?)"

 

パチン、と頭の中で理性のストッパーが弾け飛ぶ音がした。

勝負師の血か、それとも極限状態の防衛本能か。私の負けず嫌いスイッチが完全に暴走を始めていた。

 

"(次だ……! 次は何を出す……!? アイツの三角筋の収縮からして……グーか!? いや、裏をかいてパーか!?)"

 

"うおおおおおおッ!! 次だ!! 次で絶対に勝つッ!!"

 

「おっ、先生のツラ構えが変わったぞ!」

 

「へっ、いい目になりやがった! 来いよ先生ェッ!!」

 

「「アウトォ!! セーフッ!! よよいのッ!!」」

 

"よいッッッ!!!"

 

私:チョキ

店主:パー

 

"勝ったァァァァァァァッッッ!!"

 

歓喜のあまり、私は剥ぎ取られていたネクタイを拾い上げると頭にキュッと巻き、天に向かって拳を突き上げた。

 

「チィッ、やるじゃねえか! だが勝負はここからだ!」

 

"望むところだあああ! ぜんぶ脱がしてやるから覚悟しろおおおッ!!"

 

熱狂の渦に呑み込まれ、もはや何のためにジャンケンをしているのか、何のために脱いでいるのか、目的は完全に忘却の彼方へと吹き飛んでいた。

──しかし、ビギナーズラックは長くは続かなかった。

勢いづいて攻勢に出たはずが怒涛の返り討ちに遭い、気づけば泥沼の連敗街道を突き進んでいたのだ。

 

 


 

 

数分後──。

店内は、男たちの荒い息遣いと異様な熱気に包まれていた。

 

床一面に散乱するスーツ、シャツ、靴下。

仁王立ちする筋骨隆々の全裸の男たち。

そしてその中央で、ほぼパンツ一丁になり、肩で激しく息をしながら鋭い眼光で拳を構える私の姿があった。

 

"はぁ……はぁ……! さあ来い! ラストだ! これで私の完全勝利だァァァッ!!"

 

「へっ……見事なもんだぜ、先生よォ……!」

 

 

カランコロン──。

 

 

その瞬間、異様な空間に場違いなほど軽やかなドアベルの音が響き渡った。

 

「「「こんにちはー」」」

 

涼やかな声とともに、ダイビングショップの扉が開く。

そこに立っていたのは、見覚えのある制服とダイビングギアを抱えた4人の少女たちだった。

 

「店長さん、頼んでいたタンクとレギュレーターの点検終わって……ます……か……?」

 

「……? なんだか店の中が騒がしいですね」

 

「エアの受け取りに来たよー……って……」

 

「んー? イワシアイス溶けちゃう〜」

 

オデュッセイアの制服、抱えられたプロ仕様のダイビングギア、そして夜の海で磯笛を響かせていた、あの見覚えのある小柄な少女の姿──。間違いない。アミたちが心配していた、探していたオデュッセイアダイビング部の子たちだ!

 

 

時が、完全に静止した。

 

 

店内に満ちていた熱狂が一瞬で凍りつき、クーラーの微かな駆動音だけが響く。

パンツ一丁で拳を突き上げたポーズのまま、私は錆びついたブリキの人形のように、ギギギ……と首を扉の方へと向けた。

 

丸く見開かれた4つの視線が、寸分の狂いもなく私へと突き刺さっている。

 

"あ……"

 

「ひゃあああああああああああっっっ!?!?!?」

 

鼓膜が破れんばかりの悲鳴を上げたのは、先頭にいた──夜の海で磯笛を響かせていたあの小柄な少女だった。両手で顔を覆いながら、指の隙間からこちらを見て激しく取り乱している。

 

「だ、誰ですかこの人ぉぉぉっ!? な、なんで服を着てないんですかぁぁぁっ!? 風邪引いちゃいます! 低体温症になっちゃいますよぉぉぉっ! 早く何か着てください! 体温保持用のアルミシートなら予備が3枚ありますからぁぁっ!!」

 

「ちょ、店長!? 何この人!? 誰!?」

 

快活そうなショートヘアの少女が、顎が外れそうなほど口を開けて叫んだ。

 

「なんでこの店の暑苦しい裸族たちに混ざって脱いでんの!? 新手の変態!? 露出狂!?」

 

「……」

 

ぐるぐる眼鏡をかけた少女が、ツカツカと無音で歩み寄ってくる。

そして指先で眼鏡のブリッジをクイッと押し上げると、呆れ果てたようなジト目で店主たちを睨みつけた。

 

「……店長。またそうやって無関係なお客様を巻き込んで脱がせたのですか? そちらの方、大丈夫ですか? この人たちに無理やり脱がされたのでは……」

 

「あ、へんなひと〜」

 

そして、どこかのほほんとした雰囲気の少女だけが至ってマイペースに、生臭い匂いのするイワシアイスをペロリと舐めながら小首を傾げた。

 

「すずしそう〜。いっしょにアイス食べる〜?」

 

"…………っ!"

 

一気に血液が逆流し、全身から滝のような冷や汗が噴き出す。

あまりの羞恥と状況の絶望的な悪さに、私の脳内CPUは過熱して煙を上げそうだった。

 

"ち、違うんだみんな! 私は怪しい者じゃない! 私は連邦捜査部『シャーレ』の──『先生』なんだ!"

 

私が必死に叫ぶと、4人は一瞬ポカンと口を開け──次の瞬間、表情を一変させた。

 

「せ、先生……!?」

 

「はぁ!? 下着一枚でネクタイ頭に巻いた先生がいるかーーーーッ!!」

 

「……あの、シャーレの先生かどうかは別として、まずは落ち着いてください。」

 

"本物なんだ! 信じてくれ! 君たちの居場所を聞き出そうとしたら勝負を挑まれて……その、ジャンケンをしていただけで……!"

 

「ジャンケンでどうして服がなくなるんですかぁぁぁっ!?」

 

小柄な少女の悲痛なツッコミが胸に突き刺さる。

追いつめられ、逃げ場を失った私の脳裏に、先ほどの店主の言葉が電撃のように蘇った。

 

それしかない。

あの理不尽を、今こそそのまま返すしかない──!

 

私は震える呼吸を整え、先ほどの店主のポーズを必死に真似て、キリッとした真顔で言い放った。

 

"……いや、誤解しないでほしい。私は服を脱ぐつもりはなかったんだ。"

 

"ジ(・)ャ(・)ン(・)ケ(・)ン(・)し(・)て(・)た(・)ら(・)た(・)だ(・)自(・)然(・)と(・)脱(・)げ(・)て(・)い(・)た(・)。……私の言っていること、わかるよね!?"

 

一瞬の静寂。

ダイビング部の生徒たちが、信じられないものを見る目で息を呑む。

そして──。

 

「「「わかるわけないでしょうがーーーーッ!!!!」」」

 

3人の三段重低音ツッコミが、爆音となって店内に炸裂した。

 

「……ただ巻き込まれただけの方かと思いましたが、どうやら錯乱した変質者で間違いないようです」

 

眼鏡の少女は冷徹な眼差しでため息すら吐かずに、胸ポケットから端末を取り出して猛スピードでキーを叩き始めた。

 

「……ただちに『トライデント』に通報しましょう。件名は『自称シャーレの先生、第3ターミナル東埠頭にてストリーキングの疑い』といったところでしょうか」

 

"自称じゃない! 本物だよ! それに通報はやめてぇぇぇぇぇっ!! 社会的尊厳が死んじゃうからぁぁぁぁっ!!"

 

「あ、アイス落っこちた」

 

マイペースな少女の呑気な声とともに、ペトッと床に落ちたイワシアイス。

開け放たれた扉から常夏の海風が吹き抜けるダイビングショップ『Grand Blue』に、シャーレの先生の魂の絶叫がどこまでも響き渡るのだった。

 

 




新しいイベストはダイビング部か……
ダイビングといえば……

でふと思いついてしまっただけのものなので続きはありません

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