前回のミラーとの会話に一部手を加えました。
[お取り込み中のところ失礼します。アークより大型の飛行体が接近中、対処をお願いします]
オズより通信が入り、その場の勢いで行ってしまったセイレーンとのキスを名残惜しくも終了させ、アークとラプチャー陣営である我々がいるエリアの境界線まで、戦力を動員させた。
ちなみに境界線までの道中は、セイレーンも、流石の私もよそよそしかったと記憶している。
「…さて、予定より早くの接触となるが、空中空母一隻の突撃となれば、向こうの目的は対談だろうね。こちらはどっしりと構え、余裕を見せつけることが肝要だ…セイレーン?」
『あう!?お、王子さま…どうしたの?』
「セイレーンがどうやら上の空だったからね、少し心配になってしまった。しかしこれから敵との対談予定だ、私と共に居るなら毅然とした態度を見せ給え___"私の特別な人"だろう?」
『う…あう…』
「セイレーンに遅れを取ってしまいましたか…ですが私の神の体の一部を分け与えられたのは私が初めてです」
カーレンが胸の前で腕を噛み、ふんすと得意げに鼻を鳴らすが、すかさずナユタも真似をするように胸の前で腕を組んだ。
「カーレン、私の方が黎明卿のダークマターの量が多いんですよ?なにせ片腕分ですからねぇ」
ナユタはカーレンに見せびらかすように左腕の義手をわざとらしく掲げる。
「ヘンゼルはその話題ではカーレンはナユタに勝てないと思うわ、グレーテルは量が多くても関係ないと思っているわ」
「皆、敵との接触を意識したまえ___余裕を持ち、相手には手を抜いていると思わせることが前提の宣戦布告だ…悟らせる訳にはいかないよ」
カーレンとナユタとヘンゼルグレーテルの私語を咎めながら、遥か遠くから近づく"勝利の翼号"の船体を確認する。その船体は朝日に照らされ、まるでその勇姿を我々に見せつけるようだった。
◆◆◆
「会議を始めよう、議題は宣戦布告を宣言したピースメーカー陣営、『ハルモニア』についてだ」
会議室には錚々たるメンツが顔を見合わせていた。アークからはアンダーソンとバーニンガムとウンファ、エデンからはヨハンとドロシー。いずれも指揮の腕に覚えのある人物ばかりだった。
「まず初めに、ここに集まってくれている面々で、仮想敵に人間の指揮官が軍隊を率いている想定で指揮を行い、明確にピースメーカーを超えていると思える人は挙手してくれるか?」
錚々たるメンツがいる中で誰からも手が上がらなかった。それは伝説と謳われたゴッデスの指揮官にも同様だった。
「そう…つまるところ指揮官として、我々はラプチャーとの戦闘ばかりでいたが、ピースメーカーはその更に後、人類同士の戦争を視野に入れて今まで過ごしていたと言うことだ」
現状整理をする段階で、ウンファが挙手を行い、アンダーソンはその発言を首を縦に振り、無言で発言を許可した。
「敵を称賛することではないが、事実確認として受け止めてもらいたい。現状として…ピースメーカーが宣戦布告を宣言した時点で、私たちは既に後手であり___負けている前提で動く他ないと考えている」
続きを促すようにアンダーソンは首を縦に振り、眉間に皺がやりながらもウンファに発言させた。
「私の部隊アブソルートは、元ピースメーカー部隊と共に過去幾度となく同じ戦場で肩を並べ、その都度ピースメーカーの指揮能力の高さに舌を巻き、あまつさえ憧憬の念を抱いていた。頼りない話だが、ラプチャーとの戦闘指揮の精度でさえ、私はあのピースメーカーに勝てると自信を持って言えない…」
「ありがとう、ウンファ…。現状を見直すには、現場で体験した声が必要となる」
ウンファに続き、エデン側であるヨハンにも手が上がる。
「まずは奴の…ピースメーカーの指揮官としての根本を整理するべきだと判断し、発言せてもらう。ピースメーカーの指揮理論は、古代軍事書物、"孫子"より引用された基礎概念が元となっていると仮定される。アークでは既に逸書し、過去の遺物となっている書物を、ピースメーカーがどこでそのような軍事書物に触れられたか定かではないが、偶然にも原文のデータの一部をエデンは回収し復元に成功している」
「ほう…」
アンダーソンですら、個人で解決できる範疇を優に超えた事案であったところで、解決の糸口を見つけたヨハンに対し、素っ頓狂とも言える声を漏らす。
「現状で最も関連がある項目を引用し、ピースメーカーが一番大事にしている部分を抜粋するなら、『是の故に勝兵はまず勝ちて後に戦い、敗兵はまず戦いて後に勝ちを求む。』意味として、"戦争において有利な者は、戦争を仕掛ける前に勝つ準備が終わっている者である"…先の、ウンファの主張を補強するものでは無いが、この事柄を前提に作戦を考えるべきだと進言する…しかしピースメーカーの指揮能力には、このことから明確な穴があると断言できる。…完全とも見て取れるピースメーカーの指揮基盤は、孫子の例から察するに、対人指揮の知識は古く、ラプチャーとの戦闘知識は取り入れず、別物であると考えている」
「ッ!…つまり、ピースメーカーの思考は、人なら人の行動理念を持ち、ラプチャーならラプチャーとしての行動理念を持って、その前提で作戦を立て、大きく外れることを想定せず準備している…そう考えていると言うことか?」
「肯定する…。しかし、この思考の穴は、ピースメーカーが自覚すればすぐに埋められてしまうほど柔く、薄氷とも言えるほど薄い論理の穴であると考えている…ピースメーカーという人物の思考パターンを前提条件に仮説を重ねてしまうが…少なくとも、ピースメーカー本人には、我々が開戦に手間取っていると、思わせる方が賢明だろう」
アンダーソンは、ヨハンの発言に光明が見えた中で、新たに挙手を行ったドロシーに首を縦に動かし、発言を促す。
「そう言えばですが…カウンターズの指揮官はどこにおいでですか?アンダーソン指揮官のことですから、この会議に呼んでいるのでしょう?」
「………確かに、集合時間から三十分は過ぎているな…。エニック、カウンターズの指揮官の現在地は掴めるか?」
アンダーソンが管理AIとして現在でも働くエニックを呼び出すと、その全身のホログラムが会議室の傍に映し出され、姿を現す。
『カウンターズの指揮官は、ほぼ独断で"勝利の翼号"を持ち出し、ピースメーカー陣営へと、既に先陣を切ったと推測されます。接触予定時刻はおよそ
「………マジか…」
『マジです』
会議室にいる面々は、ほぼ同時に頭を抱え、ため息を一つ漏らした。
◆◆◆
勝利の翼号は、ピースメーカーのいるハルモニア側とアーク側の境界を超えることなく艇中し、空中からワイヤーを伝い。対談に参加するメンバーが続々と姿を現した。
ピースメーカーは降りてくる人員と数を考えながら、独断専行であると仮定を立て、話を進めた。
「カウンターズに、シンデレラ、エイブ…オリジナルのナユタも居るようだね。随分と早い出陣ではないのかな?」
「ピースメーカー指揮官!!生きていたことに対しては嬉しいですが、何故このような暴挙を!」
「ふ、真意を話せば、君は私に協力してくれるのかな?共に人類の敵となる協力者として」
カウンターズの指揮官は苦虫を噛み潰したようにピースメーカーを睨む。
「王子様、少し下がって頭を冷やすべきよ。今の王子様はあまり美しいとは言えないわ」
カウンターズの指揮官の後ろから、シンデレラが指揮官を庇うようにして前に一歩を進み、手で静止させる。
「久しぶりだねシンデレラ…私とセイレーンを交えてお茶会の約束があっただろう。話し合うというなら、我々は応じるつもりでいる。世間話なら大歓迎だ」
「あら、魔法使いさんはやっぱり言葉が巧みね、聞かれたくない話題でも振られていたかしら?…でもセイレーンやヘンゼルとグレーテル___レッドシューズを戦争に参加させるのは納得できないわ」
『ごめんね…シンデレラ、でも…これは必要なことなの』
セイレーンは悲痛な表情をシンデレラに向け…。
「ヘンゼルとグレーテルは、お兄ちゃんに協力したいから協力しているわ」
「すみませんシンデレラ、これも最初から私の神の計画なのです。例え私の命がシンデレラに狙われているとしても、私は、私の神のお傍にいます」
ヘンゼルとグレーテル、そしてカーレンがセイレーンに続いた。
「彼女たちは自分の意志で私に協力してくれている。彼女たちの意志を否定することは、私でも不可能だよ」
ピースメーカーはわざとらしく肩をすくめた。
シンデレラの隣では、耐えきれなかったエイブがピースメーカーへと不器用にも質問を投げかける。
「何故だ救世主…私たちを救ってくれた貴様は戦争を一番嫌っていた。その戦争で傷つくニケたちにあれだけ心を痛めていたはずだ…」
エイブの悲痛な叫びを聞き、カウンターズの指揮官は、決定的な気づきを得る。
「………待てよ、そうか…そういうことなのか?」
「王子様?」
何かを察したカウンターズの指揮官の横では、ナユタが自分の分身に語りかけていた。
「ふむ…分身の私、これが"最善"なのですか?」
「ええ、オリジナルの私…これが"最善"なのです。時にオリジナルの私、友人はできましたか?」
「ラプンツェルと紅蓮とスノーホワイト…あと鹿をカウントしていいなら、たくさんいますねぇ」
「髪長達は戦友であって、友人と呼べるかは怪しいですねぇ…まともにカウントできるのが、鹿だけでは?…私ですか?私はたくさんできましたねぇ、黎明卿、セイレーン、ヘンゼル、グレーテル、カーレン、オズ、グリム、ゴーテル、レヴィ___」
「も、もういいです、分身の私…。私とのNIMPHの繋がりを完全に断ち切り一人出奔して、イレギュラー化したかと思いましたが…いやはや、ピースメーカーとの繋がりがここまで私の分身を変化させているとは、想像もつきませんでした」
順風満帆と言っても差し支えない自分の分身を、ほんの少しだけ羨ましいと思いながらも、横で手を顎に添え考えているカウンターズの指揮官の思考が纏まる事に期待した。
そして、考えのまとまったカウンターズの指揮官がゆっくりと口を開いた。
「ピースメーカー指揮官…貴方は、恒久平和の実現を目指しているのですか?」
ピースメーカーの口元は、大きく弧を描いていた。
お疲れ様でした。
ピースメーカー「なんであれだけの問答でわかるの?怖…」
ピースメーカーはいわゆる『ヒカルの碁』の佐為みたいな存在ですね。対人戦争の理論は古くて、最新にアップデートする前の状態。しかも人は人、ラプチャーはラプチャーと考えているから、人が想定外の行動をとった時、脆くなる…今回のちしかんの例がそうですね。セオリーを大事にしすぎている節があるので、そこが明確な穴となってます。
しかし、孫子を引用するヨハンは絵になるなぁ…