英雄王と最強の呪術師を戦わせたくなったので勢いで書きました。整合性はとってないですのでご承知を。

1 / 1
英雄王と最強の戦場

 混沌の渦中。

 この世の全てを煮詰めたかのような魔力の沼の底。

 鮮烈な魔力の中に、これまたこの世のすべてを体現したかのような存在が輝いていた。

 

 誰がなぜこの事象を起こしたのか。何がこの原因となったのか。もはやそれは分からない。ただ、今この台風の渦中にいるものがその行方を疾うの昔に吹き飛ばしてしまったことだけが確かである。

 

 天を疾駆する雷の龍ですら忌避する。地面から吹き出す龍脈の怒りの奔流ですらそれを避けている。

 

 恐れているのは魔力の沼地だろうか。それともこの世すべてを体現した何かの発する呪いのような力だろうか。

 

 否。それはすべてそのただの一部に過ぎず、その本質では決してない。

 外から見るという浅はかな思考では、測るどころか直視することすら叶わない。

 

「──天地は分かれ、無は開闢を言祝ぎ────」

「──九網、偏光────」

 

 辛うじて百も折り重なる暴風の隙間から伺い知れるのは、この世の全てを創り出したものと、この世の全てを体現したものの祝詞(呪詞)。

 

 それを聞ける事すらが、最上の誉れと最高の強さの体現。

 

「──世界を裂くは我が乖離剣──」

「──烏と声明、表裏の間────」

 

 万物を切り拓くその臼は、キリキリと、嬉しそうな雄叫びをあげて廻りはじめる。

 

「星々を廻す臼、天上の地獄とは創世前夜の執着よ!!」

「────虚式」

 

 それは、後者が先だった。

 この世の全ての法則を嘲笑う術。生まれたその瞬間から体現していた、世界のすべてを無限の手中に収め、世界そのものの均衡すら破壊した。

 

 全てを、自らの中心に動かさんとする天災。

 

 その指が、穹へ向く。

 

「茈」

 

 恒星。

 質量の創造。

 この世に存在せず、而して万物を押し退け破砕する、最大の暴力。

 茈色の恒星が、天へと踊り舞う。

 

 相対する存在は、人生において幾度見せるであろうか、笑った。

 

「────死をもって静まるがいい!!

 

 ────『天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)』────!!」

 

 其れは、嘗てこの世の全てを掻き混ぜた概念であった。

 この世の全てがこの世の全てである更に前に、それをそれ足らしめた存在。

 この瞬間にだけ生み出される三つの空間断裂の魔剣が、あまねく全てを切裂き、そして、創世する。

 

 空間そのもの(・・・・・・)を断絶する剣。

 世界そのものに鍛造された、それは────

 

 創造された恒星を、掻き混ぜ、破壊した。

 

 一部の隙も油断もなく、天地開闢の剣は再び唸りを挙げる。

 

「さあどうする、呪いの男よ!」

 

 呪いの余波が吹き荒れる。吹き飛ばされた仮想の質量は創世の風に乗り、世界の一部と溶け込むかのように乱舞した。

 

 地面は最早見えず、どこへ吹き飛ばされたのか。

 

 最早ない地面の代わりに空間を踏みつけ、最強の称号を持つ男は笑っていた。

 

 彼はすべてを見通せた。魔力の嵐に飲まれるこの中で、唯一彼だけがすべてを仰ぎ見ていた。何もかもが薙ぎ倒されるこの中で彼だけが存在を許されているのは、彼の空間そのものを自らの手中に収める権能故だった。

 

 彼には全てが見える。天地開闢の剣すら、彼には見ることができた。

 

 空間断裂の──否、次元断裂の空気の刃。

 

 頭を過る。鮮烈なまでに残る、かつての楽しかった記憶(・・・・・・・)。

 

 勘などという、何の説明もつかないが、自らが一番信頼してきた感覚が告げる。

 

 今の自分では、これは────否。そんなものは関係ない。

 

 彼は一切合切を振り切った。最強が、戦いを楽しまないことなどあり得ない。最強が、負けることを頭に、戦うことなどあり得ない。

 

「位相。黄昏。智慧の瞳」

 

 空間掌握の権能が火花を散らす。

 蒼い恒星が空間へ創造され、暴食の王として君臨した。

 空間に存在するすべてを吸収するそれは、神代の英雄の体躯を重い力で引き寄せた。

 

 なんのつもりか、と英雄は心中で問う。しかし相対する存在が、自らを失望させることなどないと確信していた。

 

 だからこそ人類最初の英雄は奢らなかった。慢心などしなかった。ただ、応えるために昂ぶった。

 

 天地開闢の剣を振り上げ、もう一度臼を廻す。

 

 最強は、それと同時に動いていた。空間支配を掌握する両の手を、空へ振り上げる。

 その蒼き恒星は、英雄王へ。

 

 まるで星の如き重力を得た蒼い巨星は、英雄王ですら無策のままにいるのを困難にさせた。三つの臼はただ全力で廻った。

 

 二度目であった。天地を切り拓く三つの刃が巨星をきり裂いた。

 

 最強の技は今や二度も破られた。英雄王の内心に期待外れの文字が浮かびかけたその瞬間、代わりにその眼の前には、期待そのものが飛び出ていた。

 

 いつだ? 英雄王は逡巡した。

 

 蒼い球を壊した途端、眼の前に男の姿があった。

 

 その指は英雄王の額、ほんの数寸の場所にあり、既に祝詞は最高潮を迎えていた。

 

「────光の柱」

 

 英雄王の容姿を、赫き新星が無礼をものともせず、只飲み込んだ。

 

 黄金の鎧が弾け飛ぶ。英雄王の装飾が砕け散った。

 

「やるではないか」

 

 ただその尊顔そのものだけは、英雄王の発する威光。赫き新星が貫くことは、叶わなかった。

 英雄王はひそりと笑い、眼の前の者を褒め称える。

 

 その褒章を、受け取る者は居なかった。

 空間の権能をつかさどるものは、それを行使することに余念がない。

 

「九網、偏光、烏と声明、表裏の間」

 

 茈の恒星が、今にも飛び出そうとしている。

 

 英雄王はただ笑い、それを称賛した。

 

「呪いの頂点よ。我は貴様をここに、最強と認めよう」

 

 天地開闢の臼が、ぐるりと猛った。

 

「この英雄王ギルガメッシュを除いてな」

 

 臼の繰り出す空間断裂の秘奥。

 空間を司る権能そのものを嘲笑う異能。

 

 嘗ての経験。回避をせんとする。

 刃は三つ。その攻撃を、知っていたはずだった。だが、知らない。

 かつてのそれは、天地開闢の斬撃などではなかったから。それは、あまりにも重く。

 

 その一撃を、最強の呪術師は甘んじて受け入れざるを得なかった。

 

 かつての自らが見抜けなかったもの。そして、自らの命を差し出した技。

 それは、彼が仕留められたという、足掻けど抜け出せぬ神話の弱点。

 

 乖離剣の穂先が、彼の腹を貫いていた。

 

「クソっ。まーた負けか」

「我らは英霊よ。貴様の力をすべて見定めたとは言わぬ」

「あーあ。情かけんなよ恥ずかしい」

 

 英雄王は只微笑んだ。

 

「何か言い残すことはあるか?」

「ねーよ、そんなもん」

「いさぎがよいな、最強の男よ」

 

 臼が、ぐるりと廻る。それは最強の体を、少しずつ次元にて引き裂いていった。

 

「あーいや、やっぱ一つだけ」

 

 と、最後に彼はポツリとだけ言った。

 

「また、リベンジな」

「その返事は、次の我らの宴に持ち越させてもらうとしよう」

 

 乖離剣は駆動した。

 最強の肉体は破断する。

 まるで弔いのように。天地開闢の誉れ高き風に乗り、彼の体は光に乗り、世界へと霧散した。

 

 乖離剣を宝物庫へと納めた英雄王は、孤高の空に、只笑う。

 

 英雄王ギルガメッシュの勝利であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。