私が菊月(偽)だ。   作:ディム

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リハビリアンドリハビリです。
少しずつ勘を取り戻さねばなりません。せめて月一投稿くらいは……。


波間の血戦、その二

 鎮守府、食堂。昼時とはいえ戦場へ出ている艦娘の多い時分――残っているのは周辺警戒組か、あるいは菊月()達と同じように一戦を終えて帰投した者か。席のうち三分の一ほどが埋まっているような、そんな混み具合の食堂にて。

 

「――だからっ、お姉ちゃんは無茶をし過ぎますっ!!」

 

 菊月()は、三日月に説教されていた。

 

「……しかし、そうは言うがな。私しかやれぬ、などと自惚れる気はないが、私がやれるのならばやるしかあるまい」

「だとしてもやりすぎですっ。さっきの戦闘でも、こんな怪我をして!」

「……こんなもの、大した傷では――」

「頭にっ! 包帯っ! 手にも足にもっ! 傷が多すぎて普通に入渠しただけじゃ治らなくなりかけててっ! 何をっ!! 言いますかっ!!」

 

 べし、べし、べし、と三日月のチョップが菊月()の頭に突き刺さる。

 

「痛い、三日月、痛い」

「痛いんなら、少しはっ! 大人しくしててくださいっ!!」

「っ、ちょっ……三日月、ストップ、ストップだ」

 

 三日月の加速するチョップを、包帯の巻かれた手で押さえる。刀を握っていた頃は気付かなかったが、帰投して見てみれば爆風による火傷と弾けた砲弾の破片がめり込んでいたことで急遽処置となった手。じくじくと鈍く痛むそれを見ながら三日月が、

 

「本当に。無茶しすぎです」

「菊月ちゃん。あなたが強いことはみんな知ってるわ。けれど、もう少し穏やかに出来ないかしら。心配なのよ、私も三日月ちゃんも、長月ちゃんも卯月ちゃんもみんな、ね」

「如月……むう」

 

 如月の紫色の瞳が菊月()の目を覗き込む。その中には深い心配の色がある。三日月も、今はまだ周辺哨戒に出ている卯月や長月も、そこは同じなのだろう――それは、理解できる。理解できるし、彼女らを悲しませたくないというのもまた、『俺』と『菊月』の共通の意思だ。

 ――しかし、それが事実であるのと同時に、菊月が戦いたいと望んでいることもまた、事実だ。

 

 ――そうだ。やはり菊月()は、菊月は、戦わねばならない。否、戦いたいと感じている。かつて出来なかったこと……仲間のために戦うということ。あの島で錆びつき朽ちゆく運命となり、最も悔やんだことを。

 寂しさも感じた。心細さも感じた。一人は嫌だ、とも感じた。けれも一番嫌だったことは、仲間のために戦えなかったことだと。姉妹のために戦えなかったことだと、菊月(かのじょ)の魂が言っている。

 仲間のために、姉妹のために。その為だけに、と彼女が言うならば、俺は菊月の想いを消してしまわぬようにするだけだ。だから、

 

「……分かった。心配してくれているのは、菊月()も有難いと思っている。けれど、仲間のために戦いたい、と言うのも否定できない。……分かるだろう三日月、如月?」

「それは――そうですけれど」

「だから、無茶をしないと確約はできない。できないが……善処はしよう。どちらにせよ、私の出撃が要請されるような戦場はもうしばらく無いだろうがな」

 

 内心の『菊月』の促す感情のままに微笑んでみせる。二人とも少し憮然な顔をしてはいるものの納得してくれたようで、三日月のチョップも止まる。どこか安堵したような菊月の感情に菊月()も笑みを浮かべ、

 

「……ふぅ。さて、先程も言ったが今日は私はもう、何もないはずだ。海戦で疲れもした、シャワーを浴びてくるが……三日月達はどうする?」

「私は、まだいいわ。三日月ちゃんは?」

「そう、ですね。では、私も。良いですか、お姉ちゃん?」

「ああ、勿論だ」

 

 トレイと食器を食堂へ返し、三人で連れ立って駆逐艦寮へ。着替えを手にし、如月と別れ、二人で大浴場へ。偶々誰も使っていないのか、がらんとした浴室へ三日月を先に行かせて、菊月()は一人鏡の前へ立った。

 俺の目の前には、白い下着だけを身につけた菊月の姿。いつ如何なる時に見ても天使としか思えないその姿であるが――

 

「……むう。やはり……」

 

 全身に巻かれた包帯をしゅるしゅるとほどく。現れたのは、傷だらけの全身。手も足も細かい切り傷が浮かんでおり、そのうちのいくつか……否、いくつもが、未だに赤く血の滲んでいるもの。きちんと時間をかけて入渠すれば治る、消える傷。しかし、それが綺麗に消えることはない。戦うからだ。

 

「……痛みはどうにでもなる、のが不幸中の幸いだな……」

 

 頭の包帯を外す。髪の付け根、額から目の上までざっくりと入った深い傷。流石にこのレベルの傷ともなれば消えるまで治療は施されるだろうが、逆に言えばそれ以外の傷の処置は推して知るべし、と言ったところだろう。時間もなければ、資源もないのだから。言ってしまえば、前線に出ている艦娘はみな、大なり小なりこのようなものだ。

 

「……尤も、私のそれが度を越えているというも否定できないがな」

 

 独りごち、下着を脱ぎ捨てて自分用の脱衣カゴへ。タオルを手に取り、髪を一つにまとめ、ドアを開く。ちょうど髪を洗っていた三日月の二つ隣に腰掛け、シャワーの蛇口をひねる。薄めた高速修復剤混じりの湯が全身を濡らしてゆく感覚にほう、と息を吐きながら、菊月()は三日月へ声をかけた。

 

「……三日月」

「なんですか、お姉ちゃん」

「髪を、頼む……」

 

 うずうずとこちらの様子を伺っているのは、俺にも『菊月』にも筒抜けで。仕方がない妹だ、などと二人して笑いつつ、菊月()は飛びついてきた三日月に身体を預け、全身から力を抜くのであった。




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