随分前にひぐらし公式の小説大賞に応募して……落選した作品の蔵出し。その2

ほぼ一発ネタ

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随分前にひぐらし公式の小説大賞に応募して……落選した作品の蔵出し。その2

ほぼ一発ネタ



ひぐらしのなく頃に 賽廻し編(さいまわしへん)

 

 またダメだった。

 6月の惨劇を超えられなかった。

 さあ、今度はどこからやり直すのか?

 ―――何処でも良い、ただ、6の目が多い事を祈ろう。

 

「痛ぅ・・・・・・」

 全身に痛みが走る。視界が揺らぎ思考が定まらない。

 目を見開き、耳を澄まし状況を探る。

 

 何年何月何日なのか?

 羽入は?

 そして、今の状況は?

 

 意識が回復する。だが、見開いた目に飛び込んできたのは羽入ではなく、

 絶望的な現実だった。

 

「え?」

 

 作業着姿の男が、黒い鉄の塊をこちらに向けていた。

 それはまぎれもなく山狗。そして、明快な殺意と共に私の前に立ち、まっすぐに銃口を向けている。

 ここは、どこかの建物の中の通路。後ろをシャッターで塞がれ、逃げ場も無い

 

「ここまでだ! 死にな!!」

「嘘っ!?」

 

 パカン! やたら乾いた銃声が響く

 状況を把握する間もなく、私は再び死ぬのだろうか?

 どうしてこんなことに?

 

 ―――――生きている?

 長い沈黙の後、恐る恐る目を開けると、そこに懐かしい人の背中が見えた

 これは奇跡? これは100年待ち望んだ光景・・・・・・・・・・・・が

 

「・・・・・・間に合った」

「みぃー!! 赤・・・・・・坂?」

 

 赤坂・・・のはず。声はそうだ、雰囲気もそうだ。

 でも、なんでそんな格好をしているのか?

 

「なんだと?! くっ、どこまでじゃましやがる!!」

「給料いくらだ?」

 

 紫を基準とした色合いの、ゆったりとしたバスローブを羽織り、ヘルメット・・・と言うより仮装の仮面に近いもので顔を隠している

 

 何これ?

 

「この死に損ないが!!!」

「私のこの手が光って唸る! あなたを倒せと轟き叫ぶ!!

必殺!! 鉄ぇぇぇぇ甲ぉぉぉぉ弾ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」

「ぐはぁぁぁぁぁ!!!」

 

 腰溜めに落とした拳が唸りを上げて山狗に向かって炸裂する

―――比喩ではなく、実際に唸り、眩い閃光と共に山狗をなぎ倒す

 

 何これ?

 

「大丈夫かい? 梨花ちゃん?」

「赤・・・坂なのですか?」

「――彼は死んだ。赤坂衛は殉職したんだよ」

「みぃ?!」

「む? 下がって!」

「え?」

 

 カラン。足元に何かがカラカラと転がる。同時に赤坂に突き飛ばされる

 その数瞬後、爆発が起こった

 

「―――ちっ、やっぱ手榴弾程度じゃ死なねーか」

「お前が指揮官か?」

「ああ、俺は小此木ってんだ、覚えときな、損はしねーぜ?」

 

 爆煙の中に平然と佇む赤坂。爆発の瞬間、手榴弾を踏みつけて威力を最小限に押さえたのだ

 通常なら、そんなことしても足が吹っ飛ぶだけで意味はない

 だが、彼は平然としていた

 破けたバスローブから見える金属製の足は、傷一つ無かったからだ

 

 何これ?

 

「――――んん? おまえ、その目だ、見覚えがある」

「ええ、あなたには借りがある」

「――ああ、思い出した、思い出した!

さらったガキを助けに来て、返り討ちにあった若僧か!

――確かに殺したと思ったんだが・・・生きてやがったとはな」

「借りを返させて貰う!」

「出来るかな?」

 

 激しい戦いが始まる。小此木の手に握られたライフルが火を吹き、それを軽々と赤坂は捌き、。赤坂の拳が唸り小此木を捉える。

が、ギィンと金属音だけ響かせ、あっさりと止められる

 小此木の左腕につけられたプロテクターが、赤坂の鉄拳を止めたのだ。

 鉄拳。これも比喩ではない。その拳は銀色に輝いていた。

 

 

「へへ、楽しいね~ やっぱ実践に勝る娯楽はねーな、おい!」

「うぉぉぉぉ! 給料いくらだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 何これ?

 何これ?

 何これ?

 

 羽入!!!! これは夢? これは現実? ありえない ありえない ありえない

 答えてよ! 羽入!!

 

「あぅあぅ・・・・・・」

「羽入?」

「あぅあぅ・・・・・・梨花。落ち着いて聞くのですよ?」

「よかった。説明して! これは何なの? ここは何処なの? いったい何が起こってるの?」

「落ち着くのです、今回は、とてもとても珍しい事例なのです。

長くなりますけど聞きますか?」

「いいから説明して! じゃないと頭がどうにかなりそうよ!」

「あぅあぅ・・・じゃ、説明するのです」

 

  昭和50年

 謎の組織”東京”による雛見沢への侵略が始まる

 

  昭和53年

 ”東京”による建設省大臣の孫誘拐事件発生。公安所属”赤坂衛”殉職

 

  昭和54年

 雛見沢ダム第1工区・現場監督。L5発症、鬼となり暴れまわり甚大な被害をもたらす

 所轄の刑事”大石蔵人”殉職

 

  昭和55年

 ”東京”に対抗するため”鬼ヶ淵死守同盟”結成

 その直後、リーダー格の北条夫妻が事故死

 事故死のショックで北条兄妹、L5に覚醒

 協議の末”北条悟史”鬼ヶ淵死守同盟のリーダーに即位

 

  昭和56年

 雛見沢各地で、東京による事件発生

 鬼ヶ淵死守同盟に新メンバー”竜宮レナ”参戦

 

  昭和57年

 ”北条悟史”叔母を殺した、薬物強化された怪人と共に谷底に落ち、生死不明となる

 それに合わせて、国家から圧力がかかり、やもなく鬼ヶ淵死守同盟解散

 その後、悟史の遺志を継いだ園埼姉妹によって秘密組織”オヤシロン”結成

 

  昭和58年

 オヤシロン改め”部活メンバー”と東京の争いが激化

 新メンバー”前原圭一”入部

 ”間宮リナ”東京の改造手術を受け竜宮家を襲撃するも、L5に覚醒した”竜宮レナ”によって撃破される

 ”北条鉄平”東京の改造手術を受け”てっぺい☆”となり、古手神社に侵入

 激しい戦いの末に、L5に覚醒した”前原圭一”によって撃破される

 

 6月。綿流しにむけて”東京”の最終兵器”滅菌作戦”が始動

 そして、現在に至る

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 「えーと、ようするに、この世界では”東京”は”敵”な訳ね?」

 「あぅあぅ」

 「ツッコミどころが多すぎね」

 「あぅあぅ・・・・・・でも、事実なのですよ?」

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 「――それで、この状況は何なの?」

 「あぅあぅ、それはですね――――」

 

 羽入の話をまとめるとこうだ――

 

 東京は改造手術や投薬によってL5発症させ、凶悪な怪人を生み出し、それを雛見沢に放ち惨劇を起こしている

 だが、警察は動かない。マスコミも動かない。理由は色々あるが、ようは圧力に負けたらしい

 国家権力に頼れないなら、自衛するしかない。だが、怪人の力は強力で、一般人では太刀打ちできない

 

 そこで覚醒者の出番となる

 覚醒者とは、L5状態であるにも関わらず、理性を失なわない人間のことである

 本来ならありえない現象であり、極めて希な事例であるはずだが”ここ”では、普通に発生している

 彼らはオヤシロさまの使いと呼ばれ、対東京の主戦力として活躍している

 

 ”東京”の目的は不明。被害も一向に治まらず、解決法が見えないまま時間だけが経ち、雛見沢は焦燥感に包まれていた。

 そんな時、事体を一変させる出来事が起こる

 

 祭神である”古手羽入”が東京に拉致されたのだ

 敵の手に落ちた羽入を助けるため、単身飛び出した古手梨花

 無作為に敵陣に飛び込んだため、東京の戦闘員”山狗”に囲まれる

 そして、羽入譲りのオヤシロパワーを持って対抗するも、多勢に無勢で力尽き絶体絶命

 そこに、颯爽と現れたのは、死んだはずの赤坂衛であった

 

 「――――ってこと?」

 「あぅあぅ、だいたいそんな感じなのです」

 「じゃ、あんた捕まってるの? だから、姿を見せず、声だけなの?」

 「あぅあぅ、それは違うのです。捕まってるのは”そっちの世界のボク”なのです」

 「はぁ?」

 「ボクは今、その世界にはいないのです。一つの世界に二人は存在出来ないのですよ」

 「―――それで、どうすれば元の世界に戻れるの?」

 「あぅあぅ、ボクには何も出来ないのです」

 「ちょっと! それじゃどうしょうもないじゃない! こんな訳の分からない世界に一人で居ろっていうの? じょうだんじゃないわ!!」

 「あぅあぅ・・・・・・出来ないもの出来ないのです。でも、ボクには無理でも”そっちの世界のボク”なら出きるかもしれないのです」

 「どういうこと?」

 「そっちの世界は”そっちのボク”の世界なのです。だから、そっちの世界のボクに頼むしかないのです」

 「――――それはつまり、この超人大戦争に参戦して、こっちの羽入を助けに行けってこと?」

 「そうなのです」

 「無茶言わないで! 100年の魔女と言っても、私は子供なのよ! あんな戦いについていけるわけないじゃない!!」

 

 中空から視線を逸らし、赤坂と小此木の戦いに目を向ける

 

 唸る拳と閃くナイフ

 火花を散らす銃撃と拳撃

 

 「無理無理無理! ぜーったい無理!!」

 「あぅあぅ・・・・・・諦めちゃだめなのですよ」

 

 一際激しくぶつかり合い、火花を散らすとはじけるように離れ、お互いに間合いを取る

 

 「やるじゃないか・・・・・・何処で改造されたか知らんが良い技術だ」

 「そちらこそ、生身でよく渡り合えるものです。

――――強化人間ですね」

 「ご名答。機械化する改造人間と違い、生身のまま強化する新技術さ。

 脳内にビスを射ち込みニューロンを鋭敏化させ、脳のクロックを上げてある。

 それだけじゃないぜ? ステロイドをベースに改良した筋肉強化剤も投与してある。

 さらに、足りない強度を補うための樹脂製プロテクターも、ほれこの通りだ!」

 「なら、手加減は必要ないですね」

 「おもしれーこといいやがるな・・・・・・上等だ! 全力できやがれ!!」

 「私のこの手が真っ赤に燃えるッ! 未来を掴めと激しく叫ぶッ!! つらぬけぇぇ!! 鉄ぇぇぇぇぇ甲ぉぉぉぉぉぉぉ弾ぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!!!」

 

 半身を逸らし後ろ手に引いた腕の肘先から爆炎が巻き起こる

 その爆炎を推進力として拳を突き出し、身体ごと小此木に激突する

 ぶつかり合った衝撃で、砂煙が舞い上がり視界が塞がれる

 大音響の後、訪れた静寂の中、ゆっくりと煙が晴れていく、

 赤坂は勝利を確信していたが、現実は違っていた

 小此木は、両腕を十字に交差させ、真っ向から受け止め、受けきったのだ

 

 「なっ!? 止められた!?」

 「・・・・・・だ」

 「え?」

 「一千万だ。

聞いたのはお前だろ? 給料いくらだ?ってな!」

 「そ、そんな、私と年収が同じだなんて・・・・・・」

 「はぁ? クククッ・・・何を勘違いしている? 月給だよ、月給!」

 「ば、馬鹿な・・・・・・!?」

 「ま、オレの給与は報酬なんで、月給に直したらの話だがな・・・・・・って、もう聞こえてないか」

 

 膝から崩れ落ち、地面に横たわる赤坂から返事は無い。

 公安エリートとしてのプライドが砕かれたのか、完全に戦意を喪失したようだ。

 

 「みー! 赤坂ぁ!!!」

 「ダメなのです! 心が負けたのです! 心の折れた者は戦えないのです・・・・・・」

 「どうすれば良いの! このままじゃ私も赤坂も殺されちゃうわ!?」

 「梨花が戦うのです」

 「え? む、無理よ! 私に何が出来るって言うの!!」

 「梨花。あなたがここに居るのは、地力でここまで辿り付いたからなのです。

そして、赤坂のお陰で”力”も少しは回復したはずなのです」

 「――――どうあっても戦うしかないのね」

 「そうなのです」

 「いいわ、やってやろうじゃない!!」

 「そうです、そのいきなのですよ、あぅあぅ! 早く変身するのです!!」

 「わかったわ!――――――――――って、ええー?!」

 

 ――ところ変わって、その頃。

 残された部活メンバーは、飛び出して行った梨花を追って情報を集め、入江診療所の前に集結していた。

 

 「魅音。その情報は確かなんだろうな?」

 「隣組の情報だよ? 間違いないってっば!」

 「羽入ちゃん無事かな? かな?」

 「まー羽入さんは、とぼけた人ですけど、あれでなかなか侮れません。きっと無事ですよ。

―――それより飛び出してった梨花ちゃまの方が心配です」

 「そうだね・・・・・・。梨花ちゃん、しっかりしてるように見えるけど、結構ドジだからね」

 「羽入が捕まったのは自分のせいだと、思い込んでたからな・・・・・・ちきしょう!」

 「仲が悪いように見えて、実は物凄く仲よしなんだよね。あの二人・・・・・・・・・魅ぃちゃんと詩ぃちゃんと同じだね」

 「それは違います。私とお姉をいっしょにしないでください!」

 「それはおじさんのセリフだね~詩音なんかといっしょにしないで欲しいな~!」

 「ちょっとお二人方、言い争って場合じゃありませんことよ! あれをみてくださいまし!!」

 

 静まり返った診療所の中に足を踏み入れる。

 不自然なほどに誰も居ない。

 だが、モノは散乱し、血飛沫が飛び、壁や床のあちこちに傷が入っている。

 これは激しい戦闘があった証拠であり、山狗と梨花が、ここで戦ったことを示している

 ―――戦いの跡は診療所の奥に続いている。

 

 「こりゃすごい・・・・・・ってことはやっぱりここが――」

 「――東京の秘密基地・・・・・・かな? かな?」

 「入江機関の名を小耳に挟んだ時、まさか・・・とは思ったけど本当だったとはねぇ・・・・・・おじさん一本取られたよ! あははははっ・・・・・・」

 「お姉・・・・・・」

 「―――監督も敵なのですね・・・・・・?」

 「まだ決まった訳じゃない・・・・・・けど、覚悟はしといた方がいいよ」

 「監督。沙都子ちゃんや梨花ちゃんに・・・・・・ううん、皆にあんなに優しかったのに・・・・・・全部嘘だったのかな? かな?」

 「なあに、決まった訳じゃないさ。俺は監督を信じるぜ?

―――そんなことより急ごう! ぐずぐずしてたら手遅れになっちまう!」

 

 診療所の奥に向かい駆け出す

 道中、それを遮る者はいない

 

 「――ーねぇ 気づいてるかな? かな?」

 「ああ、争った形跡はあるのに、誰も倒れてないってことは・・・・・・」

 「誰かが片付けた・・・・・・もしくは・・・・・・」

 

 診療所は村人の憩いの場でもある

 だが、そんな村人が立ち入った事の無いエリアがある

 それがここ、関係者以外立ち入り禁止の札が貼られた扉の奥である

 その扉はすでに破壊されているため、通行の邪魔にはならない

 だが、扉の替わりに立ち塞がる者たちがいた

 

 「・・・・・・・・・ガキどもが! 調子に乗るなよ!!」

 「意識を回復。増援と合流し再戦の準備をしている・・・・・・で、ございますわね」

 「けっ! わらわらと芸の無いヤツラだな! 一旦倒されたんなら、おとなしくしてろってんだ!!」

 

 扉を塞ぐように、山狗が立ちはだかる

 その数は約20人

 だが、それに合わせて四方八方から増援が現れる

 

 「おいおい・・・いったい何人いやがるんだ?」

 「―――、一二三と、ざっと100人ってとこだね」

 「100対5か、ひとり25人ってとこか?」

 「おっーほほほほほほっ! 楽勝でございますわね!」

 「――でも、かなり足止めされるよぉ・・・・・・」

 「こっちは急いでるってーのに・・・・・・しょうがねー! 蹴散らすぞ!!」

 「―――まって、ここはおじさんに任せて先に行って」

 「お姉?」

 「相手は山狗。怪人じゃない。だったら、おじさん一人でもなんとかできる!」

 「おいおい、無茶言うなよ! それにおまえは・・・・・・」

 「圭一君!」

 「・・・っと、すまねえ。

―――と、とにかく無謀な事は止めろよ!」

 「ありがと、心配してくれて・・・・・・

 でも、今は一刻も早く梨花ちゃんと合流して羽入ちゃんを助けなきゃいけない

 だから、皆は先に行って―――――――これは、リーダーとしての命令だよ」

 「・・・・・・」

 「魅ぃちゃん・・・・・・」

 「わかりました。お姉、ここはまかせましたよ!」

 「お、おい!」

 「本気のようでございましてね」

 「わかった。じゃ、ここは任せたぜ! 魅音!!

―――だが、無理はすんじゃねーぞ!」

 「さ、突破口を開くよ! みんな突っ込んで!!」

 

 魅音が先陣を切り、扉の前の集団に飛び込む

 ナイフで切りかかってきた相手の腕を掴み、地面に叩き伏せる

 そのまま横から掴みかかってきた相手の足を、足で払い

 反対から掴みかかって相手の手を紙一重で避け、背後回り後頭部に肘鉄を入れる

 流れるような一連の動作で3人の敵を平伏させる

 

 「な、なんだと!? キサマは発症してないはずじゃ・・・」

 「あははははははははははは! 下種が!! 園崎家頭首代行、園埼魅音を侮るんじゃないよ!!!」

 

 魅音の鷹の如き眼光と威勢の良い啖呵に気圧され、山狗の気勢が傾く

 その機を逃がさず、全員で正面突破をかける

 100人居ても、扉の前に居るのは20人弱、それも一角はすでに崩されている

 部活メンバーの突破を食い止める力は無い

 彼らは扉を通り奥に進む

 そして、魅音だけがその場に留まる

 

 「おーっと! 追撃はさせないよ~? ここを通りたいなら、おじさんを倒してからにしてね~☆」

 「このガキがー!!」

 「捻り潰してやる!!」

 「大人を舐めたこと、後悔しやがれ!!」

 「園崎魅音の100人組手! お代は見てのお楽しみだよ!! さあ、始めようか!!!!」

 

 眼光と動作で威圧をかける

 気圧された一人が、それに堪えかね奇声を上げる

 それに後押しされたように一人が雄叫びをあげ、魅音に向かう

 だが魅音は、微動だにせず、それを最小限の動作で捌き、投げ飛ばす

 

 ――これは美しい光景であった

 定められた演舞のごとく、規則正しく魅音に襲いかかると、そのまま綺麗な孤を描き、宙を舞って床に叩きつけられる

 その一連の動作には一分の隙もなく、迷いもない

 まるで吸い込まれるように山狗は、次々と魅音に向かって行き、次々と投げ飛ばされていく

 戦いは数だけでは無い。勝敗は”機”で決まる。

 初手で、指揮官を失い、魅音の啖呵に呑まれた山狗は、心理を掌握され”勝機”を逸したのだ

 

 そう、最初に倒された3人の中に指揮官がいた。

 初手で倒せる位置に指揮官がいたのは偶然だが、初手で倒した中に指揮官が居たのは偶然ではない。

 頭首代行として様々な人々と交流してきた魅音は、集団の制し方を熟知していたのだ。

 

 「――すげぇ・・・・・・すげぇよ! 魅音!!」

 「圭ちゃん、何やってるんですか、先行きますよ!!」

 「おっと、すまねぇ・・・つい、見入ちまった」

 「分かれ道ですわ! どっちに行けばいいんですのー?!」

 「こっちだと思う。ほら、少しだけど足跡が残って―――」

 「レナ!? 危ない!!」

 「きゃあ!?」

 

 ガシャン!

 レナが右の通路に一歩足を踏み入れたとき、頭上からシャッターが降りてくる

 それに気づいた圭一がレナを突き飛ばしたために、シャッターの下敷きにはならなかった

 だが――

 

 「レナさん! 圭一さん! 大丈夫ですの?!」

 「ああ、なんとかなギリギリだったぜ・・・」

 「圭一くん・・・ありがと・・・でも、この格好はちょっと恥ずかしい・・・かな かな・・・?」

 「おおっと?! す、すまねー!」

 「はぅ・・・」

 「ふぅ・・・、お二人とも無事みたいですね。じゃ、私と沙都子はこっちの通路を行きます。

この広さですし、どこかで合流できるでしょ」

 「偶然なら良いのですけど・・・・・・意図的に分断されたのなら危険でございますわね・・・・・・」

 「大丈夫です。この私がいますから! 沙都子が心配することはありません」

 「ねーねー・・・」

 「じゃ、そっちは任せたぜ!」

 「そっちこそ、ドジ踏まないでくださいよ?」

 「ああ、任せとけ! 俺とレナ、赤と青のゴールデンコンビだ! どんな奴が相手でも負ける気がしないぜ!!」

 「頼もしいこと言っちゃってくれますねー。

――こっちも任せてください。沙都子と私の姉妹の絆は誰にも断ち切れません」

 「・・・・・・沙都子ちゃん。無理しちゃだめだからね?」

 「――レナさんこそお気をつけあそばせ、今レナさんは、野獣と二人っきりなんですのよー?」

 「おいおい! 野獣って俺のことかー?」

 「ほかにいまして?」

 「おまえなー! あーくそっ! シャッターがなけりゃコメカミをグリグリしてやるのに!!」

 「おーほっほほほっ! 無様ですわね~!」

 「うがー!!」

 「はいはい! おふざけもそこまでです」

 「いこ、圭一くん!」

 「お、おう!」

 「梨花ー! 何処にいますのー!」

 「ち、ちょっと沙都子!? 私より先に行っちゃだめですよ!」

 

 圭一とレナは梨花が通ったであろう通路に、沙都子と詩音は反対の通路に、それぞれ向かうこととなる。

 圭一とレナのベストコンビに、沙都子と詩音のでこぼこコンビ

 そして単身の魅音。単身だった梨花と赤坂

 

―――彼らはまだ、自分たちの窮地に気づいていない。

 

 ――その頃、某所にて

 

 「うふふふ・・・・・・。思ったとおりね、誰もいないわぁ・・・さぁ、運び出すのよ!」

 

 古めかしい様々な異形の器具が納められた祭具殿

 その巫女である古手梨花以外は禁忌とされた場所に、土足で踏み込む一団がいた

 彼らは、こじ開けられた扉から、中に鎮座していた木製の像を運び出そうとしている

 

 神木から切り出されたそれは、荒縄で結ばれ、誰に止められることなく、

 数人がかりでトラックへと積み込まれた

 

 「本部を強襲されて大変な時に、こんなモノ、どうするんですかい?」

 「ふふ・・・・・・、あなたちは知らなくて良いの。

――ーそれに、すぐに分かるわ」

 「はあ・・・・・・?」

 「オヤシロサマ・・・・・・あなたの力、見せて貰うわよ・・・・・・クスクス」

 

 ―――さらに舞台変わって、診療所の圭一たちの居る場所からさらに奥

 そこで、梨花と小此木が対峙していた

 

 ゲシッ! ゲシッ!

 「踏まないでぇ・・・ 踏まないでぇ・・・ 赤坂を踏まないでぇ・・・!」

 「あぅあぅ、取り乱してないで、早く変身するのですよ!」

 「―――だ・か・ら! 変身ってなんのことよ!」

 「変身は変身なのですよ? そっちの梨花なら可能なのです!!」

 「私はこっちの梨花じゃないからわかんないわよ!」

 「あぅあぅ、でも身体はそっちの梨花なのです。だから力も使えるはずなのです!」

 「――――ふぅ・・・わかったわ、それで? どうすればいいの?」

 「頭で考える必要はないのです ”力”・・・オヤシロパワーは”思い”に反応するのです。

だから、強く願えばいいのです!」

 「考えるな! 感じろ!ってヤツね――ー

―――私は赤坂を・・・・・・ううん、皆を助けたい。絶対に助けたい。私の望む未来に、みんなの存在は不可欠なのよ!!!」

 

 心を澄まし、祈るように願う。これは私の本音。百年経っても変わらない真摯な思い。

 

 ―――――私はみんなといっしょに幸せになりたい

 

 その思いに、身体の何かが反応する。

 歩いたり走ったりするように、ごく当たり前のように身体が動く

 歌うように自然に言葉が紡がれる

 内側から力が膨らみ、外に溢れだす

 衣服が弾け、全身がまばゆい光を放つ

 光の収束に合わせ、弾けた衣服が姿を変え、身体を包み込む

 

 「オヤシロパワー! メークアップ!!

 ――――雛見沢の魔女、フレデリカ☆ベルンカステル!

 ――遊んであげるわ、おいで犬男・・・!!」

 

 羽入の巫女服に似た形状の服をまとい、祭具殿で見た大きな鎌を構え小此木と対峙する

 全身に力が満ち溢れ、さっきまで感じていた痛みが、嘘のように消えている

 

 「―――って、何これ!?」

 「戦闘もーどに変身したのです。

―――桜花も鬼狩柳桜を使うときは、この姿になってのですよ?」

 「ああ、もういいわ! とにかくこれで戦えるのね?

じゃ、いくわよ!!!」

 

 鎌を振り上げ、袈裟掛けに振り下ろす。

 小此木はそれを避けず、プロテクターで受け止める――――だが、そこに亀裂が入る

 最新技術で作られた強化樹脂製のプロテクターの強度を、鎌の刃は上回ったのだ

 

 身体も軽い。重いはずのか大ガマも難なく振りまわせる

 ―――いける。これなら戦える!

 

 「この目で見てなきゃ、信じねえ光景だな・・・・・・、

話にゃ聞いてたが、これがオヤシロパワーって奴か・・・・・・・・・こりゃ、お偉さん方が必死になるわけだ」

 「赤坂から離れなさい! 今度はわたしが相手よ!!」

 「物質の原子分解。そして再構築。無から有を生み出し、時空すら操る未知なるパワー・・・いいねぇ、久しぶりにワクワクしてきたぜ!!」

 「ふん! それ! はっ!」

 「甘い甘い!! どんなに鋭い刃も当たらなきゃ、どうってことないぜ!」

 「くっ!」

 「そーらっよっと!」

 「あっ!?」

 

 鎌が、手から外れ宙を舞い、小此木の手元に落ちる

 そして、大ガマの切っ先が、梨花に突きつけられる

 

 変身したことで、身体能力は、強化人間である小此木と拮抗するほど上昇している

 だが、戦う技術まで上昇してる訳ではない

 そのため、鎌が当たったのは最初だけで、以降、いくら振るっても空を切るばかりとなった

 そのうち焦りから攻撃が雑になり、その隙を突かれ、鎌を奪われたのだ

 

 「ハハッ! ここまでだな! 痛い目に遇いたくなけりゃ降参するんだな・・・・・・」

 「あーもう、羽入! 他に武器は無いの!」

 「あぅあぅ、武器はもう無いのです・・・・・・でも、攻撃方法はあるのです。

神威の力を持って敵を討ち滅ぼす、必殺オヤシロビームがあるのです」

 「―――色々言いたい事あるけど、このさい何でもいいわ。それで、どうやって使うの?」

 「掌と掌を重ねて・・・・・・・あぅあぅ、ほんとに使うのですか?」

 「何か問題でもあるの?」

 「当たった相手は、木っ端微塵になるのです」

 「―――それって、死ぬってこと?」

 「違うのです。因果を断ち切り、魂魄ごと完膚なきまでに粉砕して、この世からもあの世からも、完全消滅させるのです」

 「――――――――それってただ死ぬより酷いんじゃない?」

 「あぅあぅ、だから聞いているのですよ?」

 「そんなぶっそうな技、使えるわけないでしょ! ほかに無いの?」

 「ないのです」

 「あーもう、使えないわね!!」

 「あぅあぅ」

 「何をぶつぶつ言ってやがる! 降参しないなら・・・・・・ちょっと痛い目みて貰うぜ!!」

 「?!」

 「あぅあぅ?!」

 

 ダンッ! っと地面に叩きつけられ、そのまま組み伏せられる

 単純な力比べなら負けないのだが、関節を取られてしまってはどうしようもない

 抜け出そうともがくも、痛みが増すだけで抜け出せそううにない

 

 「痛っ!・・・ここまでなの?」

 「さ、おとなしくこいつを喰らいな!」

 

 組伏せたまま、懐から注射器を取り出し、器用に片手でキャップを外す

 ――――中身は分からないが、碌なことにならないことだけは分かる

 

 「みー! 赤坂!!」

 「は、無駄だ! いまさら・・・・・・なんだと?」

 「くくく・・・ははは・・・はーっはっはっはっはっは!!」

 

 戦意を無くし、生きる屍状態だった赤坂が笑いながら立ち上がる

 異様な殺気を纏わせ、人間味をまったく感じさせない冷酷な瞳で小此木を睨みつける

 

 「な、なんだ?」

 「・・・・・・一度死んだこの身に給料差なんて関係ないんだ。そうさ、僕は死んだ・・・殺されたんだ!!」

 「あぅあぅ! 梨花! L5発症してるのですよ!!」

 「ええー?、赤坂まで発症するの!?」

 「それだけショックが大きかったのですよ・・・あぅあぅ」

 「今のわたしは、住所不定無職・・・・・・住まう場所もなければ、帰るべき場所も無い!!

――――それも全て・・・・・・キサマのせいだ!!!!」

 「ちっ、逆ギレしやがった! これだから若僧は嫌いなんだ!!」

 

 赤坂が突進する

 懐からリーチ棒を取り出し、全力で投げつける

 唸りを挙げて飛来する礫を小此木は難なく避ける・・・・・・が、その動作が致命的な隙となる

 一足飛びに懐に飛び込み、そのまま強烈なボディブロウを叩きこむ

 小此木が苦悶の表情を浮かべ、くの字に折れる

 

 「ぐぼぉ! な、何だとぉ・・・?」

 「―――――哭いてわたしに詫びつづけろ! 小此木ー!!」

 「ちょ、嘘っ、やめっ・・・・・・」

 「その動き! 読んでいた!! ロンッ!! 国士ぃぃぃ無双ぉぉ!!!

それ! ドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラ

ドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラ! もひとつおまけにドラァ!!!!!!」

 

 レナぱんを上回る、怒涛のラッシュが小此木に炸裂、キリモミしながら吹っ飛び、壁に叩きつけられる

 壁を背に倒れこむ小此木は、どうみても再起不能だろう

 だが、赤坂はさらに攻撃を加えようと、ゆっくりと歩き始める

 

 「みー! 赤坂! それ以上やると死んでしまうのですよ!!」

 「あぅあぅ、だめなのです。聞こえてないのです!!」

 「どうやって止めれば良いの!」

 「その注射器を拾って使うのです!」

 「え? 私が打たれそうになった、これ?」

 「そうです。それはC120なのです」

 「――OK! わかったわ!」

 

 転がった注射器を拾い上げ、赤坂に背後から襲いかかる

 L5状態の赤坂に近づくのが危険なのは分かっている・・・・・・正直、怖いから嫌だ。

 でも、こんな赤坂を見続けるのはもっと嫌だ!

 

 「えい!」

 「うぐぅ・・・背後から卑怯な・・・?!」

 

 小此木に集中してたからか、私に殺気が無かったからか、予想外にも無防備に当たってくれた

 C120に即効性は無いが、数分で効果が出始めるはずだ

 あとは、それまでなんとかしのげばいい、そう思っていた・・・・・・だが、赤坂はそのまま崩れ落ち眠ってしまったのだ。

 

 「え? ど、どういうこと?」

 「C120の効果なのです。ボク達の世界と違って、L5を沈静化させるのでは無く、無力化もさせるのです」

 「名前が同じなだけってことね。それにしても、赤坂まで発症するなんて・・・なんて世界なの、ここは!」

 「赤坂の身体の半分は機械なのです。生身の体を機械に置き換えるのことは、傍から見て想像する以上に、ストレスになるのです。

―――だから、元々、赤坂の心は壊れる寸前だったのですよ」

 「だから色々とおかしかったのね・・・

―――あれ? 羽入、あんたなんでそんなこと分かるの? こっちの世界にいないんでしょ?」

 「あぅあぅ。だから分かるのですよ。

―――元の世界でのボクは、梨花たちと立場は違えど、世界に存在してました。そう、登場人物の一人だったのです。

登場人物であるが故に、見聞きしたこと以外は知覚できなかったのです。

でも、今のボクは正真正銘の”観察者”なのです

だから、世界を俯瞰して見る事ができるのです」

 「それってどういうこと?」

 「ようするに今のボクは、その世界で起こった事、そして起きている事の全てを、見通せると言うことなのです」

 「凄いじゃない! じゃ、これからどうなるか教えて!」

 「あぅあぅ、分かるのは過去と現在だけなのです。未来は”決定”されてないから分からないのです」

 「そう、残念ね・・・・・・じゃ、今の状況を教えて、それが分からないと何して良いかも分からないわ」

 「――――魅音は今、山狗たちと戦ってるのです。一人だけどかなり優勢で、ほっといても良さそうなのです」

 「圭一は?」

 「圭一とレナは、今こっちに向かってるのです。でも、その前に、入江と対峙しそうです」

 「入江は敵なの?」

 「まだわからないのです。本人もかなり迷ってるようなのです」

 「そう・・・じゃ沙都子は?」

 「沙都子と詩音はちょっとやばそうです。山狗の一人が私怨から暴走して、二人を罠に嵌めたようなのです」

 「・・・・・・大変じゃない! そこに行く道は分かる?」

 「分かりますです」

 「じゃ、後で教えて!」

――それと、赤坂はどうなるの?」

 「C120の効果で1時間は目覚めないのです・・・でも、起きたときどうなってるかは分からないのです」

 「赤坂を助けるには、入江の協力がいるようね・・・」

 「それは間違い無いのです。でも、入江が協力してくれるかは五分五分なのです」

 「入江を説得に行くか、沙都子を助けに行くかの二者択一って訳ね・・・・・・。

―――っと、忘れるとこだったわ。羽入、こっちの世界のあんたはどうなってるの?」

 「手術台に固定されて、頭に電極を刺され脳波を調べられてますけど、問題はないのです」

 「・・・問題あるような気がするけど・・・・・・後回しでいいのね?」

 「大丈夫だと思いますです」

 「ところで、なんであんたが捕まってるの? 触れもしない見えもしないあなたがどうやったら捕まるの?」

 「それはそっちのボクは、古手羽入として、古手家の一人として生きてるからなのです」

 「――どういうこと?」

 「そっちの梨花は、本来この世で産声を上げることが出来ない運命だったのです。

ですが、そっちのボクは、それを覆すために力を使ったのです

そのため、そっちのボクは姿を消せなくなったのです」

 「――疑問はいっぱいあるけど、まあいいわ。それで、なんで捕まったの? そして、どうしてこっちの私は一人で助けにようとしたの?」

 「そっちの梨花とボクは味覚とかの共有はしていないのです。でも、双子に近い存在なので、お互いに考えてる事や居場所なんかはなんとなく分かるのです。

だから、ボクの居場所を勘で探すために、そっちの梨花は飛び出したのです」

 「―――ねえ、羽入、なんか誤魔化そうとしてない?」

 「あぅあぅ」

 「いいから、正直に言いなさい!」

 「あぅあぅ、そっちの梨花とボクはちょっとしたことで喧嘩したのです」

 「その内容は?」

 「あぅあぅ・・・・・・梨花が、ボクのとっときのシュークリームを食べたのです。

そして、梨花と喧嘩して飛び出したボクは一人でシュークリーム買いに行ったのです。

興宮の店についたボクはそこで初めてお金を持ってないことに気づいたのです。

雛見沢なら、お供えとしてただで貰えるから、お金がいる事を忘れてたのです。

そこに鷹野が来て、言うこと聞いてくれたら、シュークリームを買ってくれると言ったのです」

 「―――――で、そのまま誘拐されたと?」

 「あぅあぅ」

 「―――――バカじゃないの?」

 「あぅあぅ、元はと言えば梨花が勝手にボクのシュークリームを食べたのがいけないんですよ!!」

 「それはこっちに梨花で、私じゃないから知らないわよ!」

 「・・・」

 「・・・」

 「不毛な争いは止めて、今すべき事を考えましょ・・・」

 「あぅあぅ」

 

 「―――ー沙都子を助けに行くか、入江を説得に行くか・・・・・・あんたはどっちが良いと思う?」

 「過去の例からすると、沙都子と詩音はそこで死亡します。でも、直接行っても助けるのは無理だと思うのです」

 「私じゃ戦力ならないの?」

 「違います。圭一でも無理なのです。

―――入江じゃなきゃダメなのです」

 「じゃ、まずは入江の説得が先ね・・・・・・でも、なんで入江なの?」

 「それは、そこに―――」

 

――――場面は変わり診療所奥の地下通路入り口

 

 「ねーねー!」

 「くぅ・・・こ、こんなザコに・・・・・・」

 「ハッ、誰がザコだって? 

俺は山狗、雲雀13! キサマこそ引っ込んでろ! 俺が用があるのはそのガキだけだ!!」

 「わ、わたくしですか?! わたくしはあなたなんて知らないんですことよ!」

 「覚えてねーのかよ・・・・・・、どこまでもふざけやがって!!!

こっちはてめえの勝ち誇ったツラ――ー

―――罠に嵌まった俺を見下ろし嘲る姿――――

――それが目を瞑るたびに思い浮かび、屈辱で身体が奮えるってのによー!!」

 「ひっ!?」

 

 鬼気迫った目で睨みつける。まっすぐに殺気を向けられる

 気迫に負け竦みあがる沙都子

 雲雀13と沙都子の間で、額から血を流し片膝をついた詩音

 足元にはタライ無数に転がっている

 

 「どうだ、逆に罠に嵌まった気分は?

ここは俺のホームグランド・・・・・・トラップを使えるのが自分だけだと思うなよ!」

 「くぅ・・・ここが裏山でしたら、あんな奴けちょんけちょんにしてやりますのにー!」

 「沙都子・・・罠の配置は分かりますか?」

 「まだ無理ですわ・・・・・・情報が少なすぎますわ」

 「なら、引き続き、私が囮になります。

――――私が倒れる前に見破ってください」

 「ねーねー!? そんなの無茶ですわ!」

 「何をごちゃごちゃ言ってやがる!」

 「そぉれ!―――きゃ!!!」

 

 ガラガラッ! ドン! ガシャン!

 雲雀13に飛びかかろうと一歩踏み出した瞬間、

 タライの雨が降り注ぐ、続いてバケツを頭からかぶりフラフラになる

 

 「ハッ! 甘い甘い! オラ邪魔だ!」

 「うっ!」

 「ねーねー!?」

 

 ゲシッ!

 バケツをかぶり、前後不覚となった詩音を無造作に蹴り飛ばす

 

 「どうだ、俺のトラップは?

――――致命傷を与えることなく、屈辱と痛みだけを与える。

てめえの糞トラップを、そっくりそのまま反された気分はよぉ!」

 「ひっ!? こ、こないでくださいまし・・・・・・」

 

 指を鳴らしながらゆっくりと沙都子に近づく雲雀13

 退路を断たれ蹲る沙都子

 

 「ま、待ちなさい・・・さ、沙都子には手出しさせません!」

 「・・・・・・ハッ! てめえは引っ込んでろ!」

 

 パチン! ズドォォン!

 

 「きゃぁぁぁぁ!」

 「ねーねー!?」

 

 雲雀13が指を鳴らす。それに反応して詩音の足元が爆発する。

 仕掛けられた手榴弾が炸裂したのだ。

 巻き起こった爆発で吹っ飛んだ詩音は、血まみれとなり倒れ、動かなくなる。

 

 「いやぁぁぁぁあ! ねーねー! ねーねぇぇぇー!!」

 「はっ! L5の超人様でも”本物”を喰らえば、やっぱり死ぬか・・・・・・」

 「ど、どういうことですの?」

 「けっ! おまえ、これまで勝ち進んでこれたのは実力だと思ってないか?」

 「え?」

 「おまえらL5覚醒者はな、貴重なサンプルなんだよ。

―――そう、これまでずっと。俺らはてめえらを殺さないように、手加減してたんだよ!!」

 「な、なんですって? そ、そんなの嘘ですわ! 信じないですわー!!」

 「じゃ、確かめてみるか?」

 

 パカン!

 

 乾いた銃声が響く。

 放たれた銃弾は沙都子の腕に命中する

 全身にこれまでにない激痛が走る

 

 「ひーひー・・・に―・・・にー・・・うくっ・・・・・・!?」

 「どうだ”実弾”の味は?

おっと、まだ死ぬなよ? こっちは保護命令に逆らってんだぜ? 減給じゃすまなねーんだ・・・簡単に死なれちゃ、気がおさまらねぇんだよ!!」

 「―――――けっ・・・」

 「なんだ?!」

 「くけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけっ!!」

 「ね、ねーねー?」

 

 全身ボロボロになった詩音がゆらりと立ち上がる

 スタンガンを水平に構え、バチッ!と鳴らす

 

 「て、てめえ、死んで無かったのか?!」

 「―――ー手加減? 面白い事を言いますねぇー。

私達が退治して来た、怪人達・・・L5発症者も手加減してくれていたとは驚きです」

 「な、そ、それは・・・」

 「そう、怪人達を退治できたのは私達の実力。

――そして、手加減していたのはあなたたちだけだと、お思いですか?」

 「て、てめえ! まさか?!」

 「三下が! よくもよくも悟史くんに頼まれた、大事な大事な沙都子を傷モノに・・・!!

――てやる

―――五体バラバラに刻み殺してやる!!!」

 「ひ、ひぃ! ち、近寄るな! このバケモノ!!」

 「逃がすか!!」

 

 恐怖に駆られ逃げ出す雲雀13。それを追おうとする詩音の耳に沙都子の声が響く

 

 「ね、ねーねー・・・・・・無事でしたのね・・・」

 「―――ー沙都子! ひどい傷・・・・・・すぐ手当てします、ジッとしててください」

 「ねーねーこそ、ひどい傷ですわ・・・・・・」

 「こんなの――くっ・・・―――へっちゃらです」

 「ねーねー・・・わたくしを護ってくださるのは嬉しいのですけど・・・・・・

もっと自分のことも大切にしてくださいまし!

わたくしを助けるため、敵といっしょにガケに落ちたにーにーのように、ねーねーまで居なくなってしまったら・・・・・・わたくしわ・・・わたくしは・・・!」

 「沙都子・・・・・・」

 

 ガシャン! ぎぎぎぎぎぎぎぃー!

 扉が締まり、部屋の隅の壁が開き始める

 開いた壁の先の通路から、カツンカツンと足音と、シャーと何かを引きずる音が近付いてくる

 

 「毒を持って毒を制すってな! バケモノにはバケモノだ!」

 「ゲスはゲスか・・・沙都子立てますか?」

 「え、ええ、何とか・・・」

 「今の私一人で、怪人と戦うのははっきりいって無理です

――ですから、沙都子。協力してくれますね?」

 「ねーねー・・・・・・当然ですわ!!」

 「行きますよ!」

 「ええ!」

  

 二人とも傷は浅くない。だが、微塵の恐れも無い

 温度差からギグシャクしてた関係が、今ひとつとなったのだ

 今なら勝てる、たとえどんな強大な敵でも・・・・・・・・・だが、それが敵であり、敵で無かったら?

―――――――それは、悲劇であった

 

 「・・・・・・むぅ」

 

―――ー入江診療所地下施設Aブロック

 

 そこには入江と圭一&レナのコンビ。そして、その中央に立つ富竹―――だったものが立っていた。

 

 「圭一くん!!」

 「クソッ! バスターホームランが利かねぇ!!」

 「ははは、どうですか? トミー・・・いえ、超☆トミーは!!」

 「ジホウハモウイヤダジホウハモウイヤダジホウハモウイヤダジホウハ・・・」

 「クッ! まだだ! まだ諦めないぞ!!」

 「うん! こんどはレナもいっしょに・・・」

 「ははは! 無駄ですよ なんどやっても彼は止まりません! そう、今の彼は機関車!

―――機関車がなぜ警笛を鳴らすか分かりますか?

――機関車が傷つくからではありませんよ?

―そう、相手が跳ね飛ばされるからです!!」

 「ウオォォォォォォ!」

 

 三たびトミーが疾走する

 はちきれんばかりに膨らんだ筋力を走力に転化させ真っ向から突っ込んでくる

 

 「レナァァァァァァ!!!!」

 「圭一くぅぅぅぅぅぅん!!」

 

 「二人の獲物が真っ赤に燃える! 未来を掴めと、轟き叫ぶ!!

爆熱RIF! 赤破! 羅武ゥ羅部ゥ! バスタァァァーホォォォームラン!!!!」

 

 「ウボァァァァァァ!」

 「なんですとー!? か、確保された・・・・・・?」

 「さあ、イリー! 覚悟はできてるだろうな?」

 「監督・・・どうしてレナたちを裏切ったのかな? かな?」

 「ははは! 裏切ったのではありません。最初から私はあなた方の敵だったんですよ!!

この雛見沢中心に、メイド帝国を建国すること・・・・・・それだけが私の望みです!!」

 「監督・・・・・・」

 「ふざけんな!!」

 「私は本気ですよ?

―――あなたたちL5患者の持つ、オヤシロパワーが何なのか分かっていますか?

物質の分解と再構築。空間の変異と斥力、時空にすら干渉する力・・・この源がなにか分かっていますか?

これはオカルトではありませんよ?」

 「あー? なにを言ってんだ?」

 「シー、圭一くん、静かにして!」

 「それは全て、発症者に寄生する虫と、それが支配するナノマシンの仕業です!」

 「は? 寄生虫? ナノマシン? おいおい・・・SF小説の話してんじゃないんだぜ?」

 「――マシンと言うのは正確ではありませんね。アレはバイオテックなものですから・・・・・・。

詳しいメカニズムはまだ研究段階ですから分かりませんが、大雑把に言ってしまえば、ここ、雛見沢は、ある種の寄生虫に支配されてるのですよ。

オヤシロサマ信仰、そして、それにまつわる数多の歴史。その全てが、これで説明がつくのです。

――愚かしいことだとは思いませんか? たかが虫に人の思考や行動が支配されるなんて?」

 「―――るの」

 「レナ?」

 「オヤシロサマは、いるの!!」

 「ええ、いますよ。寄生虫を統括する存在・・・・・・オヤシロサマと呼ばれる固体が・・・・・・そう、古手羽入! 彼女こそがオヤシロサマなのです!!」

 「おいおいおいおい! いきなり何言ってやがる!・・・・・・って、レナ?!」

 「・・・・・・」

 「メカニズムさえ解き明かしてしまえば、オヤシロサマになり代わって、この私がメイド王として雛見沢に君臨することが出きるのです!

――ーこれは妄想でも、でたらめでもありませんよ」

 「嘘だ! ウソダウソダウソダウソダッ!

―――オヤシロサマはレナを救ってくれた・・・・・・だったら、こんどはレナが助けなきゃ・・・・・・あっははははははははは!! 一撃で叩き割ってあげるよぉぉ!!!!」

 

 激昂したレナが鉈を振り上げ、入江に襲いかかる!

 大上段からまっすぐ、躊躇無く脳天目掛けて振り下ろす!

 だが、入江は目を瞑り、それを避けようともしない

 そして・・・

 

 ガキッ!

 

 「みー☆ ギリギリ間に合ったのですよ・・・・・・」

 「り、梨花ちゃん!?」

 

 入江とレナの間に割って入り、鉈を大ガマで受け止めたのは皆が探していた、梨花ちゃん当人であった。

 

 「どうして邪魔するのかな? かな?」

 「レ、レナ! 落ち着け!」

 「入江は敵じゃないのですよ? にぱー☆」

 

 ここに来るまでに、予め羽入から入江と鷹野について色々と聞いていた。

 それを一つ一つ話しながら、レナを諭し、入江を説得する。

 鷹野の部下として働いていたこと。

 研究のために数多の犠牲者を出してること。

 それでも助けれる人を助けたいと思ってること。

 富竹たちを怪人化させたのも、命を助けるための非常手段だったこと。

 そして、誰かが自分達を止めるのを望んでいたこと。

 

 「入江。僕はあなたを許します・・・・・・だから、生きていて良いのですよ?」

 「私は・・・・・・私は・・・!!」

 「はぅ・・・」

 「梨花ちゃんも無事だったんだ。気にすんな!

――――それより、早く沙都子とこに行かないと!!」

 「うん・・・・・・そうだね。監督・・・さ、行こう!」

 「いけない! 沙都子が!? 入江、急いで!! 手遅れになる!」

 「はい! 私も目が覚めました・・・・・・これはC120の改良版です。

これを使えば、あなた方を宇宙人の変装だと思い込ませている、H173の暗示を無効化できるはずです」

 「さ、コレを持って先に行ってください。私はここで、富竹さんの治療を行います」

 「わかった、トミーも大事な仲間だ・・・見捨てるわけに行かないからな!」

 「うん・・・・・・それに、鷹野さんを止められるのは、きっと富竹さんだけ。

――だから、欠けたらきっと笑えない。誰かが悲しむのはもう嫌だよ・・・・・・」

 「レナ・・・・・・って、梨花ちゃん!?」

 「え、あれ? いない?!」

 「先に行ったんだ! 早く追いつかないと!!」

 

―――ー舞台は移り変わり

 

 診療所奥の地下通路入り口に向かう隠し通路を、梨花は疾走していた。

 

 「羽入! 戦況は?」

 「あぅあぅ、詩音がやばいのです! 沙都子を庇って悟史にバットで滅多打ちにされてるのです!!」

 「間に合いそう?」

 「悟史は無意識に迷ってるのか、急所を外してます。だからたぶん・・・・・・あ、そこを左なのです!」

 

 通路を駆け抜け、扉の前で高笑いしてた雲雀13を壁に叩きつけ、開閉ボタンを押す。

 シャッターが開ききる前に部屋に雪崩れ込み、そのまま悟史へ注射器ごと体当たりする

 

 「えーい!」

 「むぅ!?」

 

  ドンッ! プスッ!

  

 「ねーねー、ねーねー! にーにー、にーにー!」

 「大丈夫・・・だから・・・さ・悟史くん・・・沙都子はわ・私が・・・・まも・・・」

 

 ドサッっと悟史が倒れる

 これで赤坂と同じく1時間は目を覚まさない。

―――そして、赤坂と違って、目を覚ました時は正気に戻ってるはずだ。

 

 「こ、このガキが後ろから・・・うぉ!」

 

 ドンッ! ぐしゃ! ぐしゃ!

 

 「沙都子ー! 無事か!!」

 「詩ぃちゃん!! 大丈夫!!」

 「ふぇ? 圭一さん・・・?」

 「ふふ・・・圭ちゃん。お、遅い・・・かったです・・・ね」

 「いいから、喋るな! レナ!」

 「うん! さぁ、詩ぃちゃん! 動かないで・・・・・・」

 「にーにー? にーにーはどうなりましたの?」

 「目が覚めたら元通りなのですよ? にぱー☆」

 「梨花・・・無事でしたのね? もう、ひとりで勝手なことばかりして! わたくしがどんなに心配したと思ってるんですの!」

 「みー・・・ごめんんさいなのですよ・・・・」

 「良しこれで大丈夫だ。よっと、じゃ、監督のところに行くぞ!」

 

 レナと二人で詩音を支え、圭一は今来た道を引き返そうとしている。

 沙都子は、悟史が目を覚ますまでここで待つつもりのようだ。

 私は・・・・・・。

 

 「みー☆ じゃあ、そっちとここはお任せするのです」

 「え? 何処いくの?」

 「赤坂があっちで倒れてるのです。これを赤坂にも使う必要があるのです」

 「だれだ? 赤坂って?」

 「僕を時々助けてくれた、温泉仮面なのです」

 「あー、あの人か・・・・・・分かった。でも、ひとりで大丈夫なのか?」

 「もう敵は一人しかいないのです。山狗、戦闘部隊は魅音が全て片付けたのです」

 「そうか・・・・・・って、じゃ、魅音は今何処にいるんだ・・・こっちに向かってるのか?」

 「みぃ・・・・・・魅音はその敵に捕まってるのです」

 「ええ! ど、どうしてなのかな? かな?」

 「山狗は100人きっちり倒したのですけど、その後、鷹野といっしょに帰って来た101人目の敵に捕まったのです」

 「魅ぃちゃん・・・」

 「鷹野は今、奥に・・・羽入のいる部屋に向かってます。魅音もそこにいるのです」

 「そ、そうか・・・じゃ、イリーと合流したらすぐに向かわないと!」

 「鷹野は、自分が踊らされてることに気づいてないのです。そのことを伝えて、富竹に説得させればきっと降伏するのです」

 「ああ、分かってる。鷹野さんもカワイソウにな・・・・・・爺さんへの純粋な想いを、まんまと利用されたってんだからな・・・・・・」

 「それじゃ、行ってくるのです!」

 

――――そして、約30分後

 

 「あれ? ここは?!」

 「みー☆ 目が覚めたのですか?」

 「梨花ちゃん? 私は・・・・・・いったい」

 「全部終わったのですよ。東京は雛見沢から手を引いたのです」

 「どういうことだい。皆頑張ったのですよ? にぱー☆」

 「・・・?」

 

 魅音を人質として、最後まで鷹野は抵抗したが、富竹の命がけの告白が功を成し説得できた

 そして、魅音と羽入も無事に解放され

 赤坂も入江の協力で、完全には無理だけど元の身体に戻れることになった

――そもそも、赤坂を改造したのも入江だったのだから、心配は無い。

 黒幕もその存在が露見したことで、逃亡を計り、雛見沢から・・・・・・入江機関から完全に手を引いた。

 そう、この世界でわたしは、ルールXYZを打ち破ったのだ。

 

 「これってもしかして、6月を超えれるってこと?」

 「・・・・・・」

 「いいわね、こっちの梨花は・・・・・・

――ーさあ、羽入! こっちのあんたに、私達の世界に戻る方法を聞かないとね」

 「・・・・・・」

 「羽入?」

 

 ぺたぺたと足跡が近づいてくる。

 この世界の羽入が泣きながら駆け寄ってくる。

 

 「あぅあぅ! 梨花ー! 無事だったのですね!!」

 「え。ええ、まあ。あんたも無事でよかったわ」

 「梨花の気配が消えたから物凄く心配したので・・・・・・・・・・・?!」

 「羽入?」

 

 羽入の気配が急激に変わる

 全身毛が逆立ち、その場にいる全ての人が竦みあがる

 

 「――――――梨花・・・・・・否、そこの小娘よ! 汝が成したることの罪・・・自覚せよ!!」

 「え? は、羽入?」

 「梨花の声と姿で、我の名呼ぶな! この下郎が!!」

 

 羽入から、殺気と呼ぶ事すら生温い気を込めた視線を向けられる

 身体が硬直して動かない

 何? 知らない・・・私をこんな目で観る羽入なんて、私は知らない!!

 

 「一つの世界に二人は存在出来ないのです。

――そして、梨花はその世界にいます

――――そういうことなのです」

 「そんな! なんで?」

 「不幸な”事故”だったのです・・・」

 

 「神である、我の半身に等しき者を滅ぼしたる罪 償うには万死ですら足りぬ!! 神威の力、受けよ!!」

 「梨花! オヤシロビームを使うのです!!」

 「え?」

 「早く! じゃないと梨花が! あなたが!! 早く打つのですー!!」

 

 目の前の羽入が掌を重ねる。重ねた掌に光が集まっていく。

 その目に躊躇は無く、感情の読めない覚めた表情で睨む羽入からは、恐怖しか感じられない。

 

 「八百万の神々に伺い申し立てる・・・我が前に居ます業敵を討つこと許したまえ! オヤシ―――」

 「オ、オヤシロビィィーム!」

 

 梨花の掌から放たれた一筋の光は羽入を飲み込む。

 光に包まれた羽入は、文字通り、音も無く、光と共に消え去る。

 恐怖に震えたまま、茫然と立ちすくむ。

 光と消えた羽入のことを認識すると、全身の力が抜けペタリと座りこむ

 

 「は、羽入?」

 「あぅあぅ! 呼んだのですか?」

 「え? えー!?」

 「あ、あんた? 消えたんじゃ・・・?」

 「だから、ボクはこっちにこれるようになったのです」

 「ねぇ羽入、これで良かったの?」

 「しかたなかったのです。こうしないと梨花、あなたも消滅してたのです」

 

  この羽入の羽入の目を思い出す。

  全身を悪寒が襲う。違う。この世界は違う。私の世界じゃない!

  

 「――――もう嫌!・・・元の世界に帰りたい!」

 「―――それで良いのですね?」

 「いいわ!」

 「分かったのです。じゃ、元の縁を手繰り元の世界を構築しますのですよ・・・・・・」

 

――――――そして、世界は暗転する。

 

 「なに? まだ文句あるの?

 しょうがないじゃない! イレギュラーが起こったんだから!

 反省が無いっですって?

 別にいいじゃない、そんな世界は”なかった”んだから!」

 

 「ええ、そうよ。観測手のいない世界は存在しないの、

 梨花も羽入もいなくなった世界の未来なんて考える必要ないの・・・それくらい分かるでしょ?

 分からない? クスクス・・・・・・まだまだね」

 

 「さあ、時間はたっぷりあるわ、こんどはカケラ混ぜたりしないから・・・ね?

 機嫌直して―――――ー、さあ、新いカケラ紡ぎを始めるわよ・・・!」

 


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