問題児たちが特異吸血鬼と共に箱庭に召喚されるそうですよ?―終焉なる真祖は月神の末裔!?― 作:問題児愛
今回の話は決戦前のお遊戯(おはなし)です!
「どういうつもりなの月夜!貴女と黒ウサギを賭けての決闘を受けるなんて!」
「結果がどうあれ決闘が出来るのだから問題ないであろう?それに最終判断は黒ウサギに委ねると言ったはずだが?」
「な………あ、貴女ねえ!万が一私達が負けたら貴女も、黒ウサギも、あの男の好きなようにされるのよ!?」
飛鳥が月夜に猛抗議する。幾ら目的の決闘が望めても、月夜と黒ウサギをチップに賭けたリスクのある決闘をしようとしているのだ。飛鳥はそれに不満と怒りがあったのだろう。
月夜は深い溜め息を吐いて、飛鳥を呆れたような眼で見つめた。
「………はあ。お主は何を弱気になっておる。万が一負けるなどとネガティブな発言は控えろ。それにギフトゲームとは互いにチップを賭け合って行うものであろう?ルイオスは我と黒ウサギをチップにすれば取引相手よりも我々〝ノーネーム〟を優先し、レティシアをチップに賭けてくれたのだ。寧ろありがたい話ではないか?」
「―――――ッ!?月夜!」
飛鳥は怒りの余り月夜の胸倉に掴み掛かる。それに黒ウサギが慌てて止めに入る。
「飛鳥さん!月夜さん!喧嘩はやめてください!言いたいことは分かりますがここは―――」
「もとはといえば貴女が外道の挑発に乗るからいけないのよ!」
「え?」
月夜を離した飛鳥はキッと黒ウサギを睨んで続ける。
「月夜が割って入らなかったらもっと最悪な結果になってたもの!交換ってふざけるのも大概になさい!」
「な!?ふ、ふざけているわけではないのですよ!黒ウサギだってレティシア様が外に売られるとか私達のコミュニティの為に〝恩恵〟という名の魂を砕いて駆けつけてきてくれたこととかでもう―――頭がパンクしそうだったのですから!」
「………え?」
「黒ウサギだって本当はそんなことをして良いだなんて思ってません!ですがレティシア様がどんな思いを、仕打ちを受けてきたかを分かって黒ウサギはそんな彼女を見捨てることなんて出来ません!だから―――」
「―――っ!だからって貴女が身代わりになる事ないじゃない!そんなの無意味だわ!」
「仲間の為の犠牲が無意味なはずない!」
「夜中に叫ぶな喧しい」
十六夜に押されてガツン!と飛鳥と黒ウサギの頭がヘッドバットする。
突然の衝撃に二人の意識に星が飛んだ。
「「~~~~~~~~~~っ!」」
「お互いの言い分は理解した。それを踏まえて言わせてもらうと、黒ウサギ。それと月夜。お前らが悪い」
「ど、どうしてですか!?」
「ぬ?
オデコを押さえながら涙目で抗議する黒ウサギと小首を傾げる月夜。十六夜は冷めたような目でまず―――黒ウサギを責める。
「レティシアは〝ノーネーム〟の本拠に来た時、もう覚悟していたはずだ。あの目が、お前に助けを求めている目だったか?」
「そ、それは………いえ、助けを求めてないから助けないというのは詭弁でございます!」
「そりゃそうだ。だけど場合による。レティシアがギフトを失った事を黙っていたのは、お前に身代わりになって欲しくないからじゃねえのか?それに会議の時もお前が犠牲になろうとしたことも怒ってただろ?」
ぐっ、と思い出したように言葉を詰まらせる。
レティシアがギフトを失った事を隠していたのは、彼女の想いが黒ウサギ達の重荷になる事を避けたかったからだ。
次に十六夜は飛鳥を見て、
「あとお嬢様も言い方が悪いな。もっとソフトに自分の気持ちを伝えろよ。
『私、黒ウサギの事が心配で心配で堪らないの!お願い、私の傍に居て!』―――とか」
「そ、そんなつもりで引き止めていたわけじゃないわ!」
だが1/4ぐらいは図星だったのだろう。
耳まで真っ赤になった飛鳥を見て、黒ウサギはやや気まずそうに頭を下げる。
「も、申し訳ありません。気持ちは嬉しいのですが、その、黒ウサギにそういう趣味は」
「ここぞとばかりに曲解かしら?ええ、いいわ受けて立ってさしあげてよこの駄ウサギ!」
飛鳥は叫びながらウサ耳を掴んで引っ張る。黒ウサギはあられもない悲鳴を上げた。
飛鳥と黒ウサギは戯れて少し落ち着いたのか、同時に大きな溜め息を吐いて呟いた。
「………心配していたのは本当よ。だって貴女、泣きそうな顔していたもの」
「こ、こちらこそ申し訳ありません。冷静さを失っていました」
仲直りする飛鳥と黒ウサギ。月夜がそれを静聴していると、十六夜が彼女の方に向き直り、
「後回しになっちまって悪いな月夜。そしてもう一度言うぜ。あんたも悪い」
「………ふむ?それで我の何が悪いというのだ?」
今一度、問い返す月夜。十六夜は頷いて話始める。
「まず、お前がレティシアに執着する理由は分からねえが前が全く見えてない。そのせいであの色男に漬け込まれた。―――合ってるな?」
「ああ、そうであったな。その事については我も冷静さを欠かしていた。それは認める」
「だろ?それともう一つ。何より俺達に無断で色男の提案を呑んだことだ。確かにお前は最終判断を黒ウサギに委ねる、とは言ったものの奴を期待させちまった。これはもう確定的にやっちゃいけなかったことだぜ?その意味が分かるか?吸血鬼のご先祖様?」
「……………う、うむ。我も其の事は悪かったと思ってる」
急に様付けする十六夜に怪しいと思い、若干怯む月夜。
そんな月夜にニヤリと笑って十六夜は続ける。
「まあ俺としてはどんな形にせよ、決闘が出来るのはありがたいさ。―――だが、お嬢様や春日部には荷が重すぎると俺は思うぜ?負けたらどうしよう、とプレッシャーに押し潰されちまうんじゃねえのか?」
「―――――っ!」
月夜はハッとして飛鳥の顔を見る。飛鳥の顔色は不安に染まっていた。同時に自分勝手に加え、相手の気持ちを理解していなかったことを知り、申し訳が立たなくなった。
「………済まぬ、飛鳥。我はお主の気持ちを全く理解できていなかった。先ほどの弱気発言はそういうことだったのだな………本当に済まなかった」
「………もういいわよ。月夜が私の気持ちに気づけただけで十分だわ」
苦笑しながら月夜を許す飛鳥。こうして女性三人は仲直りを終えた。
一方、十六夜が思い出したように呟く。
「………そういや月夜。何でレティシアに執着してるんだ?吸血鬼の同士だからか?」
「ぬ?………いやそれも我にもさっぱりだな。体が、意志が勝手に動いたみたいなものであるからな」
獣でいう本能がそうしろと囁き掛けてきた。と月夜は言う。それに十六夜がある可能性を思いつき、笑って問う。
「………へえ?俺はてっきり
「我に姫がいる………?そんなはずは―――――ッ!?」
ない。という前にある光景が月夜の脳裏に過った。
そこはとあるお城の謁見の間。それもかなり立派な造りの城内だった。
そして目の前には語りかけてくる自分と同じ金髪ロングの幼い少女。
顔はよく見えないが、金髪ロングのお姫様カットに真紅のお姫様が着るようなドレス服を身につけ、にこやかに笑いかけてくる幼い少女。
そして彼女はこう言うのです。
『ライム御母様!』
と。
それだけを見て、ハッとして我に返る月夜。今の光景は一体………と固まっていると、黒ウサギが心配そうに月夜に声を掛けた。
「………ライムさん?どうかしましたか?」
「………ん?ああ、済まぬ。平気だ!―――――ふふ、『御母様』………か」
「「「御母様?」」」
月夜のふとした呟きに、十六夜・飛鳥・黒ウサギが聞き返す。
月夜はハッとして余計なことを呟いた口元を押さえて目を逸らす。明らかに怪しすぎるその行為に三人がからかった。
「ヤハハ。もしかして月夜様………思い出したか?」
「……………さあ?どうだろうな」
「嘘つかなくていいわよ?バレバレだものね」
「………ぬ?」
「ええ。ライムさん………顔に描いてあるのですよ!」
「…………………………ぬぅ」
月夜は三人の猛攻に遂に唸り声を漏らした。馬鹿正直に自分を真祖真祖と言っていたせいか、嘘をつくことは苦手のようである。
やがて月夜は観念したように三人の問いに答えた。
「………ああいや、その、だな………。思い出したとはいっても、我の姫らしき年端のいかぬ娘がいた程度…………だがな」
「そうかい。だがこれでアンタは天涯孤独っていうのは嘘だってことが判明したな」
「そうね。嘘というよりも欠落していた記憶が復活した―――の方が正しいかもしれないわ」
「YES。これからもライムさんの謎に迫っていきたいのでございますよ♪」
謎多き真祖の吸血鬼―――ライム・ストーン・クイーンには姫君が、真祖の姫君がいるかもしれない。それを知った三人は歓喜の笑みと、さらに詳しく知りたいという探求心が宿る瞳を月夜に向けて笑う。
月夜は勘弁してくれ、とでも言いたそうな表情で頭を抱えるのだった。
――――――――――
―――それから三日後。黒ウサギはジンに謹慎処分を受けていた。
憂鬱そうに窓の外を見ていると、コンコンと控え目なノックが響く。
「はーい、鍵もかかってますし中に誰もいませんよー」
「………。入っていいという事かしら?」
「そうじゃないかな?」
「………いや、その思考回路はどうかしてると思うぞ?」
声は久遠飛鳥・春日部耀・紅月夜のものだ。しかし『誰もいない』と主張しているのに『入って良し』と判断するのはいかがなものだろう?月夜が冷静にツッコミを入れる。
「あら、本当に鍵がかかってるわ」
「ん………ホントだ。こじ開ける?」
ガチャガチャとドアノブを回す飛鳥と耀。黒ウサギは観念したように立ち上がった。
「はいはい、開けます開けます!御二人はライムさんを見習ってもう少しソフトというか、オブラートにですね」
「いっそ壊したらどう?」
「そうだね」
バキンッ!
「オブラァァァァァト!」
「「五月蝿い」」
飛鳥と耀にピシャリと言われて黙る。稀代の問題児相手に木製のドアはあまりに無力だった。
黒ウサギはウサ耳を垂れさせ、破壊されたドアノブを片手にしくしくと泣き、月夜はそれをニヤニヤと見つめた。
流した涙もそのままに、自前の湯沸し器でお茶を淹れる。その間に飛鳥と耀は持ち込んだ布袋を小皿に広げる。中には手作りと思われるお菓子が入っていた。
「………まさか御二人が?」
「いいえ。コミュニティの子供達が作ったのよ」
「これを持って『お願いですから、黒ウサギのお姉ちゃんと仲直りしてください!』―――って狐耳の女の子や他の年長組の子が」
三人はなんとも言えない複雑な表情に顔を歪ませる。
三日前、〝サウザンドアイズ〟での事を話した時。案の定、ジンも耀も黒ウサギと月夜を怒った。黒ウサギは自己犠牲に走ろうとし、月夜は自分と黒ウサギをチップに決闘を持ち掛けられたのを、勝手に呑んだことに二人は怒ったのだ。
誰に悪気があったわけではない。ただお互いにカッとなって言い過ぎてしまった。そこに飛鳥も参戦して大事になり、結局、全員頭を冷やすために謹慎という事になったのだ。ちなみに月夜だけは責められても冷静さを失っていなかったが。
只一人、傍観者に徹していた十六夜は「ちょっくら箱庭で遊んでくる」と言い残したまま一度も帰ってこない。もしかして〝ノーネーム〟に愛想を尽かしたのかもと誰もが思った。
そんな剣呑な空気を子供達は察したのだろう。
自分達に出来る事を、と必死に考えたのがこの小皿のお菓子だった。
「子供って卑怯だわ。あんな泣きそうな目でお願いされたら、断れるのは鬼か悪魔ぐらいよ」
「ダメだよ飛鳥。きっかけをくれたんだからちゃんと仲直りしないと」
フン、と顔を背ける飛鳥と宥める耀。
それを見た黒ウサギも、困ったように笑った。
「そうですね………黒ウサギ達がしっかりしないと、コミュニティのみんなが困りますよね」
「そういうこと。だから貴女には悪いけど、他所に行かせるわけにはいかないわ。このコミュニティの中心はジン君でもなければ私達でもない。私達を招き入れ、ずっと一人で支え続けた貴女なのよ、黒ウサギ」
「………はい」
しょんぼりする黒ウサギの頭を優しく撫でた後、飛鳥は月夜に振り向いて、
「………勿論貴女もよ、月夜。貴女と黒ウサギをチップにした決闘なんて絶対にやらせてあげないから」
「う、うむ。飛鳥と耀が駄目というのなら我はお主達の意見を尊重する。―――我や十六夜ならばプレッシャーに打ち勝てるが、お主達はそうもいかぬのだしな。それに何かを失うリスクを背負った決闘は変に気持ちを昂らせて悪い結果を導きかねない。挑むのであればなるべくリスクのない決闘を選ぶべきであるな」
「ええ。失うリスクが軽ければ軽いほど変に緊張せずに、落ち着いて決闘に望めるわ。―――とはいえどの条件でも全力を尽くすのだけれどね」
「ああ。だがこれで決闘への挑戦権は剥奪されて振り出しに戻ってしまったな。それにノーリスクで決闘が望める素敵試練とか存在するであろうか?」
うーむ、と唸る四人。〝ペルセウス〟を無条件に動かせるような、そんな都合の良いものが………
「御三人は、ペルセウスのゴーゴン退治を御存知ですか?」
「「え?」」
「ぬ?」
黒ウサギの唐突な質問に三人は驚きながらも、たどたどしく答える。
「ペルセウスは星座の名前しか知らないわ。ゴーゴンは蛇の髪を持つ化け物だったかしら?」
「はい。そのゴーゴンを暗殺したのが、ペルセウスという騎士なのです」
―――ペルセウスによる、ゴーゴン退治の伝説。
彼はギリシャの神々から四つの〝恩恵〟を授かり、ゴーゴンを退治する旅に出る。
輝く翼を持つ、ヘルメスの靴。
神霊を殺す鎌、ハルパー。
死国の王の兜、ハデスの兜。
もう一つ、戦神アテナから授かった盾があるのだが、それは箱庭では失われているらしい。
それら強大なギフトを授かったペルセウスだが、ゴーゴンには力及ばぬ事を知り、ハデスの兜を用いて不可視となり、ゴーゴンの寝首を掻く事に成功する。
そして皮肉な事に、ゴーゴンの生首は彼の生涯を成功へと導く最大のギフトとなるのだ。
「そう。それで、その伝説がどうしたの?」
「力のあるコミュニティは自分達の伝説を誇示するために、伝説を再現したギフトゲームを用意する事があります。彼らは特定の条件を満たしたプレイヤーにのみ、そのギフトゲームへの挑戦を許すのです。自らのもつ伝説と―――旗印を賭けて」
それを聞いた飛鳥・耀・月夜は合点がいった様に息を呑んだ。
「旗印………!そうだわ、それを奪えば交渉材料になるかも知れない!」
「はい。ですが、伝説に挑むのですから相応の資格が問われます。提示された二つのギフトゲームを乗り越え、その証しを示さねばなりません。何れも厳しい試練です。クリアにどれだけの年月がかかるか………残念ではございますが、黒ウサギ達にそれだけの時間は―――」
「邪魔するぞ」
その時、ドガァン!と十六夜がドアを蹴り破った。黒ウサギは驚いて声を上げる。
「い、十六夜さん!今まで何処に、って破壊せずに入れないのでございますか貴方達は!?」
「ちょっと待て黒ウサギ。我はドアを破壊などしておらぬぞ?」
「飛鳥さんと耀さんの破壊行為を止めなかったのでライムさんも同罪です!」
「ぬ………」
自分はやってないと月夜は言うが、二人を止めなかったから共犯者扱いする黒ウサギ。
そして最早諦めていたが、開いてるドアをわざわざ破壊して入ってくるなど嫌がらせでしかない。しかし十六夜は悪びれる事もなく肩を竦ませた。
「だって鍵かかってたし」
「あ、なるほど!じゃあ黒ウサギの持っているドアノブは一体何なんですこのお馬鹿様!!!」
ドアノブを力いっぱい投げつける。十六夜はヤハハと笑いながら、脇に抱えていた大風呂敷―――ではなく、黒ウサギに共犯者扱いされて固まっていた月夜の首根っこを摘まんで、
「よっと」
「うぎゃっ!?」
十六夜は月夜を盾にしてドアノブを受け止めた。―――彼女のオデコにクリティカルヒットしてだが。
それを確認した黒ウサギは悲鳴を上げた。
「へ?―――きゃあ!ライムさん!?」
「ぐ………お主。我を盾にするとはいい度胸だな!」
「ヤハハ。丁度いい盾があったからつい、な」
「………ふむ?それならば仕方が」
「ないわけないのですよ!?ってか納得しないで怒りなさいこのお馬鹿様!!」
オデコを痛そうに押さえて涙目だったが、十六夜にこれ以上怒ろうとしない月夜。これに黒ウサギがツッコミを入れる。
一方、十六夜が抱えていた大風呂敷を不思議そうな眼で耀が見る。
「その大風呂敷、何が入ってるの?」
「ゲームの戦利品。見るか?」
少しだけ広げて耀に覗かせる。すると彼女の表情が見る見るうちに変わった。そう。目を見開いて瞳を丸くしたのだ。
「―――――………これ、どうしたの?」
「だから戦利品だって言ってるだろ」
「?どうしたの二人とも」
今度は飛鳥が大風呂敷を覗き込む。初めは理解できない様子だった飛鳥も、理解すると同時に小さく噴き出した。
笑いを堪える様に口元を押さえ、半笑いのまま十六夜に問いかける。
「もしかして………貴方、一人でこれを取りに行っていたの?」
「ああ。時間ギリギリまで集めてた」
「ふふ、なるほど。だけどねぇ十六夜君」
少しだけむっとした顔で十六夜の耳を引っ張る飛鳥。彼女はやや不機嫌なフリをして呟いた。
「こういう面白い事を企むなら………次からちゃんと一声かける事。いいわね?」
「そりゃ悪かったな。次は声をかけるぜお嬢様」
十六夜と飛鳥は悪戯っぽく笑みを交わす。まさに問題児といった二人の顔は、新しい遊びを見つけた子供のように輝いていた。
そして十六夜は、大風呂敷を黒ウサギと月夜の前に突き出し、
「逆転のカードを持ってきたぜ。これでオマエが〝ペルセウス〟に行く必要はないし、お前らをチップに賭けてリスクのある決闘を挑む必要もない。後はオマエ次第だ、黒ウサギ」
二人を見回した十六夜はポン、と黒ウサギの膝の上に落とす。だが黒ウサギは中身を確認しようとしない。それは月夜も同じだった。
黒ウサギの瞳は只、自慢げな十六夜の顔を、信じられないような表情で見つめていた。
「まさか………あの短時間で、本当に?」
「ああ。ま、ゲームそのものよりも時間との戦いが問題だったけどな。間に合ってよかった」
肩を竦めて軽薄に笑う十六夜。だが口にするほど楽な戦いではなかったはずだ。
「ありがとう………ございます。これで胸を張って〝ペルセウス〟に戦いを挑めます」
「礼を言われる事じゃねえさ。むしろ、面白いのはここからだからな」
誰の為でも無い。そう言って笑う十六夜。だが誰に言われるまでもなく、コミュニティの為に戦ってくれた事に変わりは無い。黒ウサギはそれだけで胸がいっぱいだった。
「(コミュニティに来てくれたのが皆さんで………黒ウサギは本当によかったと思ってます)」
ギュっと大風呂敷を抱きしめる。中を確かめる必要などない。黒ウサギにはもう中身が何か分かっていた。だから戦利品そのものよりも、彼らの好意の方が何倍も胸に響いた。
黒ウサギが自己犠牲に走ろうとした時、月夜がそれを止めて決闘に持ち込ませようと健闘してくれた。
飛鳥と耀は黒ウサギの間違いを叱って必死になって引き止めようとしてくれた。
そして十六夜が黒ウサギが〝ペルセウス〟に行かずに、また黒ウサギと月夜をチップに賭けて行う決闘すら挑まなくて済むような戦利品を持ってきてくれた。
黒ウサギは溢れそうな涙を拭き、勢い良く立ち上がる。その瞳には何の迷いも見られない。
十六夜・飛鳥・耀・月夜の顔を順に見回した黒ウサギは、高らかに宣言する。
「ペルセウスに宣戦布告します。我等の同士・レティシア様を取り返しましょう」
黒ウサギの宣言を聞いてふと思い出したように月夜が呟いた。
「―――うむ。それはそうと、ルイオスとやらが此の事を知ったら激怒するのではないか?」
「ヤハハ。それはあの色男が俺達〝ノーネーム〟を馬鹿にした罰として丁度いいんじゃねえか?」
「ええそうね。あの外道の顔を歪ませる事が出来るのならむしろ気分は最高よ!」
「その人の顔は見たこと無いけど………うん。そうなればいい気味だね」
「フッフッフ!黒ウサギ達を舐めたらどうなるか、ルイオスに思い知らせてやるのですよ!」
「………お主達。随分と腹黒い奴らだのぅ………」
黒すぎる笑みを浮かべる問題児三人とウサギに、月夜は身震いしながら苦笑するのだった。
――――――――――
「我々〝ノーネーム〟は〝ペルセウス〟に決闘を申し込みます」
「うん。その言葉を待ってたよ!―――それで決闘方式はどうするの?」
ルイオスはにこやかに笑って黒ウサギ達六人を迎え入れる。黒ウサギは頷いて答えた。
「はい。決闘の方式は〝ペルセウス〟の所持するゲームの中で最も高難度のもので構いません」
「………ふぅん?随分と強気のようだね。だけど分かってるのかな?君らはウサギと吸血鬼のご先祖様をチップに賭けて行う
「ええ。―――それと決闘に関しては、我々〝ノーネーム〟はチップなしで行いますし、別に構いません」
「は?」
その言葉の意味をルイオスはすぐには理解できなかった。だが理解すると同時に、ルイオスは黒ウサギを睨んで拍子抜けしたように声を上げた。
「………はぁ?何言ってんのオマエ?そんな決闘僕らが認めるわけないじゃん。つーかオマエらがチップになるなら受けるって言った決闘だぜ?それが呑めないならとっとと帰れよ。あーマジうぜえ。趣味じゃねえけど、あの吸血鬼で鬱憤でも晴らそうか。どうせ傷物でも気にしねえような好色家の豚に売り払うんだし―――」
―――ドサッ、と黒ウサギは、ルイオスの眼前に巨大な大風呂敷を広げる。
風呂敷の中からは〝ゴーゴンの首〟の印がある紅と蒼の二つの宝玉が転がり出た。
それを見て傍で控えていた〝ペルセウス〟の側近らしい男達は眼をひん剥いて叫び声を上げる。
「こ、これは!!?」
「〝ペルセウス〟への挑戦権を示すギフト………!?まさか名無し風情が、
困惑する〝ペルセウス〟一同。決闘はするとは聞いてはいたが、このような事態は予想だにしなかったようだ。
「ああ、あの大タコとババアか。そこそこ面白くはあったけど、あれじゃヘビの方がマシだ」
首を竦ませる十六夜。この宝玉は、ペルセウスの伝説に出てくる怪物達をギフトゲームで打倒することにより得られるギフトだ。
ルイオスは宝玉を見つめて盛大に舌打ちした。
「(ちっ。下層コミュニティが相手なら楽に戦えると思って放置していたってのに………!)」
無くそうと思っていた矢先にこの事態だ。
折角いい人材が手に入ると期待して決闘を待ち望んでいたのに結果はコレだ。ルイオスの不快感は絶頂に達していた。
「ハッ………いいさ、相手してやるよ。元々このゲームは思いあがったコミュニティに身の程を知らせてやる為のもの。チップを無しに決闘をさせて僕を怒らせたことを後悔するがいい!―――ああそうだ、二度と逆らう気が無くなるぐらい徹底的に………徹底的に潰してやる」
華美な外套を翻して憤るルイオス。
それを睨み、黒ウサギは宣戦布告する。
「我々のコミュニティを踏みにじった数々の無礼。最早言葉は不要でしょう。〝ノーネーム〟と〝ペルセウス〟。ギフトゲームにて決着をつけさせていただきます」
あと二話で一巻完結予定です。
十六夜vsルイオス&アルゴールは主人公絡まない上にそのまんまなのですみませんがダイジェストでお送りさせていただきます。