問題児たちが特異吸血鬼と共に箱庭に召喚されるそうですよ?―終焉なる真祖は月神の末裔!?― 作:問題児愛
あと十六夜vsルイオス&アルゴールがダイジェストじゃなくて普通に書いてしまいました………
飛鳥と耀の活躍書いて十六夜ダイジェストは贔屓だからという理由でもありますが。
『ギフトゲーム名〝FAIRYTALE in PERSEUS〟
・プレイヤー一覧
逆廻 十六夜
久遠 飛鳥
春日部 耀
紅 月夜
・〝ノーネーム〟ゲームマスター ジン=ラッセル
・〝ペルセウス〟ゲームマスター ルイオス=ペルセウス
・クリア条件 ホスト側のゲームマスターを打倒
・敗北条件 プレイヤー側のゲームマスターによる降伏。
プレイヤー側のゲームマスターの失格。
プレイヤー側が上記の勝利条件を満たせなくなった場合。
・舞台詳細・ルール
*ホスト側のゲームマスターは本拠・白亜の宮殿の最奥から出てはならない。
*ホスト側の参加者は最奥に入ってはいけない。
*プレイヤー達はホスト側の(ゲームマスターを除く)人間に姿を見られてはいけない。
*姿を見られたプレイヤー達は失格となり、ゲームマスターへの挑戦資格を失う。
*失格となったプレイヤーは挑戦資格を失うだけでゲームを続行する事はできる。
宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、〝ノーネーム〟はギフトゲームに参加します。
〝ペルセウス〟印』
「姿を見られれば失格、か。つまりペルセウスを暗殺しろってことか?」
白亜の宮殿を見上げ、胸を躍らせるような声音で十六夜が呟く。その呟きにジンが応える。
「それならルイオスも伝説に倣って睡眠中だという事になりますよ。流石にそこまで甘くは無いと思いますが」
「YES。そのルイオスは最奥で待ち構えているはずデス。それにまずは宮殿の攻略が先でございます。伝説のペルセウスと違い、黒ウサギ達はハデスのギフトを持っておりません。不可視のギフトを持たない黒ウサギ達には綿密な作戦が必要です」
黒ウサギが人差し指を立てて説明する。今回のギフトゲームは、ギリシャ神話に出てくるペルセウスの伝説を一部倣ったものだ。
宮殿内の最奥まで〝
〝
「見つかった者はゲームマスターへの挑戦資格を失ってしまう。同じく私達のゲームマスター―――ジン君が最奥にたどり着けずに失格の場合、プレイヤー側の敗北。なら大きく分けて三つの役割分担が必要になるわ」
飛鳥の隣で耀が頷く。本来ならこのギフトゲームは百人、少なくても十人単位でゲームに挑み、その一握りだけがゲームマスターに辿り着けるというもの。
そんなゲームを、彼らは五人で挑まなければならない。役割分担は必須だった。
「うん。まず、ジン君と一緒にゲームマスターを倒す役割。次に策敵、見えない敵を感知して撃退する役割。最後に、失格覚悟で囮と露払いをする役割」
「春日部は鼻が利く。耳も眼もいい。不可視の敵は任せるぜ」
十六夜の提案に黒ウサギが続く。
「黒ウサギは審判としてしかゲームに参加することができません。ですからゲームマスターを倒す役割は、十六夜さんとライムさんにお願いします」
「あら、じゃあ私は囮と露払い役なのかしら?」
む、っと少し不満そうな声を漏らす飛鳥。
だが飛鳥のギフトがルイオスを倒すに至らない事は既に知られている事だ。何より飛鳥のギフトは不特定多数を相手にする方がより力を発揮できる。しかしそれが分かっていても不満なものは不満なのだろう。少し拗ねた口ぶりの飛鳥を十六夜がからかった。
「悪いなお嬢様。俺も譲ってやりたいのは山々だけど、勝負は勝たなきゃ意味がない。あの野郎の相手はどう考えても俺と月夜が適してる」
「………ふん。いいわ。今回は譲ってあげる。ただし負けたら承知しないから」
飛鳥にキッと睨まれて飄々と肩を竦める十六夜。だが月夜が首を振って黒ウサギの提案を却下した。
「黒ウサギ。済まぬがお主の作戦は却下だ」
「え?却下とはどういう意味ですかライムさん!?」
提案を一蹴されて驚く黒ウサギ。それに十六夜がスッと目を細めて月夜に問う。
「なんだ?俺じゃ足手まといだってのか?」
「いや、お主は強い。その
「え?ライムさんが………足手まとい!?」
黒ウサギは月夜の言ってる意味が分からなかった。それもそうだ。自分を真祖と謳っているのに拘わらず、人間である十六夜より遥かに劣ると言ったからである。
その意味を黒ウサギが理解するよりも早く、月夜が頷いて答える。
「うむ。十六夜は神格を倒す程の実力であるぞ?それに比べ我は―――〝神格〟を持たぬ吸血鬼だ。力は十六夜より遥かに劣り、今の純血たる吸血鬼のレティシアよりそこそこ強いくらいだからのぅ………」
「「「「「―――――………は?」」」」」
思いもよらない月夜のカミングアウトに五人は素っ頓狂な声を上げた。まさか月夜が〝神格〟は愚か、今のレティシアと力が然程変わらないと思わなかったのだろう。
唖然としている五人に月夜は自嘲しながら続ける。
「まあそういうことだ。だから済まぬが黒ウサギ。ゲームマスターは十六夜だけにしてくれぬか?足手まといになるのは御免だからな」
「………は、はあ。ライムさんがそう仰るのでしたらすみません十六夜さん。ゲームマスターの打倒は十六夜さんに任せるのです」
「おう。任せとけ。―――しっかしうちの真祖様の実力は神格なしのレティシアと大差無しか………そうかそうか」
十六夜がニヤニヤと月夜を見つめる。それに月夜は思わず身構えて問う。
「ぬ………何だ十六夜?」
「別に?それでアンタはお嬢様と一緒に囮と露払い役って事でオッケーか?」
「うむ、そういうことであるな。―――何せ奴等は名無し風情とたかをくくっておる。そして真祖たる我しか警戒してないだろうな。ならば囮役はこの美少女吸血鬼の真祖たるこの我が適任であろう!ふっはははははははは!」
いつものように腰に手をあてふんぞり返って高らかと笑い飛ばす月夜。
そんな月夜を問題児達はニヤリと笑って、
「「「いや、月夜は駄真祖」」」
「ぐ………ぬぅ」
十六夜・飛鳥・耀の容赦ない言葉に月夜は撃沈した。
一方、苦笑していた黒ウサギはふとやや神妙な顔で不安を口にする。
「残念ですが、必ず勝てるとは限りません。油断しているうちに倒せねば、非常に厳しい戦いになると思います」
五人の目が一斉に黒ウサギに集中する。飛鳥がやや緊張した面持ちで問う。
「………あの外道、それほどまでに強いの?」
「いえ、ルイオスさんご自身の力はさほど。問題は彼が所持しているギフトなのです。もし黒ウサギの推測が外れていなければ、彼のギフトは―――」
「隷属させた元・魔王様」
「そう、元・魔王の………え?」
十六夜の補足に黒ウサギは一瞬、言葉を失った。
しかし素知らぬ顔で十六夜は構わず続ける。
「もしペルセウスの神話どおりなら、ゴーゴンの生首がこの世界にあるはずがない。あれは戦神に献上されているはずだからな。それにもかかわらず、奴らは石化のギフトを使っている。―――星座として招かれたのが、箱庭の〝ペルセウス〟。ならさしずめ、奴の首にぶら下がっているのは、アルゴルの悪魔ってところか?」
「………アルゴルの悪魔?」
十六夜の話が分からない飛鳥・耀・月夜・ジンは顔を見合わせ、小首を傾げる。
しかし黒ウサギだけは驚愕したままで固まっていた。
黒ウサギだけが、今の答えに帰結することの異常さに気が付いていたからだ。
「十六夜さん………まさか、箱庭の星々の秘密に………?」
黒ウサギは信じられないものを見る目で首を振りながら問いかける。
「まあな。この前星を見上げた時に推測して、ルイオスを見た時にほぼ確信した。後は手が空いた時にアルゴルの星を観測して、答えを固めたってところだ。まあ、機材は白夜叉が貸してくれたし、難なく調べる事が出来たぜ」
フフンと自慢げに笑う十六夜。黒ウサギは含み笑いを滲ませて、十六夜の顔を覗き込んだ。
「もしかして十六夜さんってば、意外に知能派でございます?」
「何を今さら。俺は生粋の知能派だぞ。黒ウサギの部屋の扉だって、ドアノブを回さずに開けられただろうが」
「………。いえいえ、そもそもドアノブが付いてませんでしたから。扉だけでしたから」
黒ウサギが冷静にツッコミを入れる。十六夜も気が付いて捕捉した。
「あ、そうか。だけどドアノブが付いていても、俺はドアノブを使わず扉を開けられるぞ」
「…………………………………。参考までに、方法をお聞きしても?」
やや冷ややかな目で黒ウサギが十六夜を見つめる。
十六夜はそれに応えるかのようにヤハハと笑って門の前に立ち、
「そんなもん――――こうやって開けるに決まってんだろッ!」
轟音と共に、白亜の宮殿の門を蹴り破るのだった。
――――――――――
「いたぞ!吸血鬼だ!」
「捕らえて他の奴らの居場所を吐かせろ!」
「ルイオス様に挑戦させる前に一番厄介な
月夜を見つけた騎士達は、喜色の笑みを浮かべて捕獲にあたる。
彼ら騎士達は〝ノーネーム〟にいる吸血鬼の存在をルイオスから聞き、銀製の剣や弓矢を準備していた。
〝銀〟は吸血鬼の弱点であるからそれを知ってでの準備だろう。
しかしこれが〝ノーネーム〟の作戦だということに、彼らは気づけていなかった。
月夜は猛追してくる騎士達を見てクスリと笑った。
「(くくく、本当に我が〝ノーネーム〟の主力だと勘繰っておるな。―――さて、我は飛鳥の待つ場所へ奴等を誘導させるとするか)」
月夜の役割は白亜の宮殿の城内を駆け回って騎士達を誘き寄せること。
武具も持たずに只駆け回っているものだから、騎士達の瞳には金髪の幼い少女が逃げ回ってるようにしか見えないのである。
武具(鎌)を出そうと思えば出せるのだが、それでは騎士達が警戒して近寄ってこないだろう。故に無防備な背中を見せながら駆け回っているのだ。
月夜が駆け回ってる中、飛鳥は正面の階段前広間で襲い掛かってきた騎士達の相手をしていた。
「ええい、小娘一人に何を手間取っている!」
「不可視のギフトを持つ者は残りのメンバーを探しに行け!此処は我々が押さえるぞ!」
飛鳥の役割も囮。だが逃げ回る事など彼女の性分ではないし、それは月夜がやっているので飛鳥は飛鳥なりの方法で騎士達を誘き寄せていた。それは―――白亜の宮殿を破壊することだった。
「左右から来るわ!まとめて吹き飛ばしなさい!」
一喝、水流が騎士達を襲う。地を駆ける騎士達はその容赦ない一撃に後方へと押し流される。
しかし騎士達はなんとか出来ても宮殿の破壊とまではいかない。決闘をすることが分かっていたため、強度は頑丈なものなのだろう。
騎士達が飛鳥を見逃さないのは、捕らえて他の参加者の居場所を吐かせるためだった。
飛鳥は舌打ちしながらも集まってきた騎士達を見て笑みを浮かべる。
「宮殿の破壊が出来ないのは悔しいけど………ちゃんと集まってきてるみたいね?」
「当たり前だ!貴様を捕らえれば他の参加者も誘き出せる」
「吸血鬼の小娘も必死に逃げ回っているようだが時期に捕まる。さすれば貴様も何も出来まい」
騎士達の挑発発言に飛鳥は耳を傾けない。月夜が簡単に捕まるほど弱い子じゃないと疑っていないのだろう。
それに現時点は飛鳥に戦況は傾いている。幾ら空駆ける靴を履いている騎士達とはいえ、水樹の生み出す圧倒的な水量とそれを自在に操る飛鳥に手も足も出ないのは一目瞭然だった。
「ちっ!とはいえこの水量は厄介だな!このままでは宮殿の一階が水没してしまうぞ!」
「なら早めにあの小娘を捕らえるまでだ!」
騎士達は飛鳥目掛けて一斉に飛び掛かる。飛鳥は伸びる水樹の枝に腰を掛け、水樹に命令する。
「右上方、なぎ払いなさい!」
飛鳥の言葉に支配された水樹は刃物のように高圧縮された水を高速発射し、翼の騎士達を撃墜する。さながらウォーターカッターの様な刃を掻い潜った騎士を、今度は水柱を奔らせて撃退した。
ギフトを支配するギフト。それが飛鳥の〝威光〟による異能の一つだった。
もう一つ、人を支配することも出来る異能なのだが、それは飛鳥が望まない異能な為、強化したくはないのだろう。
その結果、ルイオスを支配することが出来なかったのだが、元々そんな異能は好んでいなかった為、むしろ反発されたことにより自分の人を支配する異能は完全ではないことが証明されて安堵したのかもしれない。
とはいえプライドの高い飛鳥にとって、支配できなかったことに不満に思ったこともあっただろう。
さらにギフトを支配するギフトといえど、支配出来ているのは現時点で水樹のみ。まだまだ殻付きのヒヨコ並みにしか異能を発揮出来ていない。
不満ではあるが反発してくれるお陰で張り合いがあり、飛鳥もやる気が出るというもの。
支配出来ないのならば支配出来るまで精進すればいい。
様々な奇跡を支配出来るようになってみせるわ!っと心の中で意気込んだ飛鳥は真紅のドレスを靡かせ、従順な水樹の上で右腕を掲げた。
――――――――――
「……………ふむ。流石に人数が多すぎるのぅ………」
月夜は逃げ回って飛鳥の元へ誘導するつもりだったが現在―――四面楚歌といった状態に陥っていた。
月夜の周りには約三十人ほどの騎士達が〝銀〟の剣と〝銀〟の弓矢を掲げて包囲していた。
月夜が大広間に出た途端、瞬く間に騎士達に囲まれてしまったのである。
とはいえこの程度の人数を捌くのは月夜にとって造作もないこと。鎌があればだが。
「くくく、ようやく追い詰めたぞ吸血鬼!」
「ちょこまかと逃げるから中々手こずった!」
「真祖の吸血鬼といえど〝銀〟の武具を前に迂闊には動けまい!」
「さあ大人しく我々に捕まり、他の参加者の居場所を吐いてもらおうか!」
騎士達は笑って月夜に向けてじわじわと歩みを進める。彼らはこの数なら月夜を無力化出来ると疑っていなかった。
騎士達を見回して月夜は深い溜め息を吐く。
「………はあ。お主ら。まさか此で勝った気になっておらぬよな?」
「は?負け惜しみはいらん!我々が貴様に何を向けているか理解出来ているのか?」
「ナニを………だと?お主の発想、中々卑猥であるな」
「そっちじゃない!貴様は阿呆か!?我々が小娘貴様に向けているのは吸血鬼の弱点の一つが備わっている〝銀〟でコーティングされた武具だ!」
「………ああ、そっちであったか」
月夜の天然(?)っぷりにその場にいる騎士達全員が一斉にガクリと肩を落とした。敵を前に何をボケているのだろう。
月夜は咳払い一つ。そして騎士達を嘲笑った。
「〝銀〟か。うむ、確かに我々吸血鬼達には猛毒のモノだな。だが―――〝銀〟程度で我が恐れをなすと思ったか?」
「何?」
「我は〝銀〟など然したる障害ではないぞ?ああそうだ。たかが〝銀〟程度、効かぬし致命的な傷を負わせるに価せぬわ!わっはははははははは!」
「なっ………!?」
騎士達は絶句した。まさか真祖だからといって吸血鬼の弱点たる〝銀〟が通じないはずがない。
しかし真祖の少女は〝銀〟を前にして全く恐れる様子がない。あまつさえ、嘲笑っている。効かない、と。
騎士達はこれはきっと小娘の戯れ言、嘘を言ってるに違いない。と結論付けた。
「―――ハッ!そんな戯言で我々を騙せると思ったか?吸血鬼である以上、〝銀〟が効かないなんてことはあり得ん!」
「嘘ではないんだがのぅ………まあ信じる信じないはお主らの勝手であるがな」
やれやれと肩を竦ませる月夜。勿論、月夜の言葉は〝真実〟である。
月夜の体質は真祖であるが故に只の〝銀〟程度では意味がないし通じない。だが真祖の少女にも弱点は存在する。それは―――
〝銀の弾丸〟
だ。
〝銀の弾丸〟は読んで字の如く、『銀で出来た銃弾』のことである。これが月夜に唯一致命的な傷を負わせられる武具。
〝銀の弾丸〟で月夜の心臓を撃ち抜けば、殺すまではいかないが意識を刈り取る事が出来る。
これ以外の弾丸は当然効かない。吸血鬼の真祖を斃すのは非常に困難なものであった。
騎士達はまず―――〝銀〟の弓矢を引いて、一斉に月夜目掛けて放射した。
四方八方から迫りくる〝銀〟の弓矢を見て月夜は獰猛に笑い、
「―――フン、甘いぞ!」
月夜は獰猛に笑い、それらを吹き飛ばした。
「「「「「―――――は……………!??」」」」」
騎士達は素っ頓狂な声を上げた。そうなるのは無理もない。確実に月夜を捉えたはずの〝銀〟の弓矢は、何の前触れもなく吹き飛ばされたのだから。
だが一人の騎士が、月夜の周りに不自然な〝風〟が吹き荒れている事に気づき、声を上げた。
「この吹き抜ける風は外のモノではないぞ!?………まさか小娘。貴様が〝風〟を操って〝銀〟の弓矢の雨を凌いだというのか!?」
「半分正解で半分間違いだ。我は〝風〟などという大層なものは操れぬよ」
「何!?じゃあ貴様の周りに吹き荒れている〝ソレ〟はなんだ!?」
驚愕と共に問いただす騎士達。それに月夜はニヤリと笑って答えた。
「うむ。これは〝風〟に非ず―――〝嵐〟というものだ。〝嵐〟の他に〝雷〟も操れるがな」
「なっ………!?」
月夜の周りに不自然吹き荒れていたモノの正体は―――〝嵐〟だった。
そう。強大な吸血鬼(真祖や貴族等)は『魔眼』の他に『嵐と雷』を自在に操れるのである。まるで幻獣の〝龍〟の如く操れるのだ。
但し今の月夜は〝神格〟を得ていないので、その威力は〝龍〟よりも遥かに劣り、最強種(神霊・星霊・龍の純血種)には全く歯が立たないというのが欠点であるが。
だが目の前の敵はたかが異能を持った程度の〝人間〟。彼らには少々勿体無い異能ではあるが、なりふり構っている場合ではない。上で奮闘している自分の眷属(耀)が心配だったからである。
月夜はスッと目を細めて騎士達を一瞥して呟く。
「………悪いがこれ以上お主らと戯れておる時間は無い。一瞬で片をつけさせてもらうぞ?」
「―――――っ!?な、舐めるな小娘があああああ!!!」
怒号と共に〝銀〟の剣を掲げていた騎士達が月夜目掛けて特攻を仕掛けた。嵐といえど剣なら飛ばされずに斬りかかれる、と思っての行為だった。
だが現実はそう甘くなかった。月夜の周りに不自然に吹き荒れている〝嵐〟は容赦なく騎士達に牙を剥き、
「吹き飛ぶがよいぞ愚民共。お主らは真祖たるこの我とよく戦った!だから―――もう休むとよい!」
「……………っ!?」
吹き荒れてた〝嵐〟に巻き込まれた騎士達は、宣告通りに吹き飛ばされて床に、天井に、壁にドンッ!と強く背や頭、腹を打ち付けると―――――そのまま意識を闇の中へと沈ませていった。
一瞬で約三十人ほどの騎士達を吹き飛ばして、全員の意識を刈り取り、立っていたのは月夜のみとなっていた。
そして月夜は一人呟く。
「……………ふむ。彼らを倒し終えたし、我が
――――――――――
「人が来る。皆は隠れて」
緊張した声で警告。如何に姿が見えないと言っても、物音や匂いまで消せるものではない。耀の高性能の五感は、不可視のギフトに対抗する唯一の手段なのだ。
さらに月夜の眷属になっているので吸血鬼の異能も得ている。血の匂いで彼らの居場所を特定出来るようになっていたのだった。
獣のように腰を落とした耀は、見えない敵に奇襲を仕掛けた。
「な、なんだ!?」
驚愕の声。耀はすかさず後頭部を激しく強打する。騎士は何故居場所がばれたのか分からずに一撃で失神した。前のめりに倒れ込んだ騎士から兜が落ちる。すると虚空から騎士の姿が現れた。その様子を見て耀が察する。
「この兜が不可視のギフトで間違いなさそう」
「ホレ、御チビ。お前が被っとけ」
「わっ」
十六夜が兜を拾い上げてジンの頭に載せる。ジンの姿は瞬く間に色を無くして姿を隠す。
〝ノーネーム〟側のゲームマスターであるジンが見つかれば、その場で敗北が決定する。まずは彼の安全を確保するのが最優先だ。
耀は姿の消えたジンを確認して二度三度と頷く。
「やっぱり不可視のギフトがゲーム攻略の鍵になってる。どんなに気を付けたところで姿を見られる可能性は排除できないもの。最奥に続く階段に数人も護衛をつければ、どうやってもクリアは出来ない」
「連中が不可視のギフトを使っているのを限定しているのは、安易に奪われないためだろうな。………なら最低でもあと一つ、贅沢言えば二つ欲しいところだが………」
珍しく言い淀む十六夜。確実に最奥に進む必要があるのはジン・十六夜の二人だけ。
耀も入れて三つあれば文句ないのだが、欲をかいては仕損じることもある。
「おい、御チビ。作戦変更だ。俺と春日部で透明になってる奴を叩く。ギフトを渡せ」
「は、はい」
ジンが十六夜に手渡す。兜を付ける前に、耀に確認する。
「前哨戦をちまちまやっていても埒が明かない。本命はルイオスだ。春日部には悪いけど」
「気にしなくていい」
フルフルと頭を振る耀。派手に動けば不可視の敵も捕らえられるだろうが、耀も失格となるだろう。だがそんな事に拘って勝機を落とす事など考えられない。
「悪いな、いいとこ取りみたいで。これでもお嬢様や春日部、月夜にはソレなりに感謝しているぞ。今回のゲームなんかは、ソロプレイで攻略出来そうにないし」
「だから気にしなくていい。埋め合わせは必ずしてもらうから」
耀は平淡な声音で、取り立てを断言する。
思わず哄笑を上げそうになった十六夜だが、今はそんな場合ではない。―――と言いつつも十六夜はニヤニヤと笑って耀をからかった。
「ああ、そうだな。埋め合わせは必ずする。………月夜がな」
「………え?どうしてそこで月夜の名前が出てくるの?」
「ヤハハ。そりゃアイツは春日部の主様だろ?血だって吸わせてもらってんだしもっと甘えてもいいんじゃねえのか?」
「―――――………ッ!?」
耀が吸血鬼になったことも、月夜から血を吸わせてもらったことなど、この男―――逆廻十六夜にはバレバレだった。
耀は顔を真っ赤にして十六夜を睨む。十六夜の指摘は正しいようだ。
「ヤハハ。俺は別にいいと思うぜ?『主様と眷属の禁断の恋!』ってのも中々面白そうじゃねえか」
「……………むぅ。十六夜のイジワル」
耀が顔を真っ赤にしたまま、ぷくっと可愛らしく頬を膨らませて怒る。それが十六夜には堪らなくおかしかったが、いい加減に本題に入らないと敵に見つかってしまう可能性があるので、耀弄りという新しい遊びはここまでにした。
「―――さて、御チビは隠れとけ。死んでも見つかるな」
「はい。―――それはいいですけど先ほどは耀さんと何を」
「聞かないで。恥ずかしいから………」
「は、はい。すみません耀さん………」
赤面の耀に鋭く睨まれて、ジンは大人しく引き下がった。十六夜はニヤニヤと耀を見つめ、兜を被った。
十六夜の姿が消える。十六夜と耀は物陰から飛び出して白亜の宮殿を駆け回り始めた。
「いたぞ!名無しの娘だ!」
「これで敵の残りは三人だ!」
「よし、その娘を捕らえろ!人質にして残りを炙り出せ!」
耀に襲い掛かる騎士達。それを姿の見えない十六夜が白亜の宮殿の外まで殴り飛ばす。
「邪魔だ!」
「「「………え?―――――ッ!?」」」
殴り飛ばされた騎士達は悲鳴を上げながら壁を幾層も突き破り、揃って第三宇宙速度を維持したまま雲海の向こうまで吹き飛ばされた。相も変わらず容赦のない一撃である。
「どうだ、春日部。分かるか?」
「ううん………飛鳥や月夜が暴れてる音や、他の音が大きすぎてちょっと………わ!?」
突然、前触れなく耀が吹き飛んで壁に叩きつけられる。
十六夜は即座に反対方向へ蹴りを入れるが、何の手応えもない。
だがそれよりおかしいのは、耀の五感を持ってしても接近に気が付けなかったことだ。十六夜にしても、こんな近くに居る人間を感知出来ないのは不自然だ。
もっというと吸血鬼が持つ嗅覚が感知する血の匂いすら、耀は感じ取れなかったのである。
十六夜の脳裏に一つの可能性が浮上する。
「(まさか………レプリカじゃなく、本物を使っている奴がいるのか………!?)」
そう。姿だけでなく臭気や熱量、物音までも消す、完全な気配消失を可能にするギフト。
ギリシャ神話でペルセウスが受けた恩恵。死の国の王の力を持つ、神仏でさえ暗殺できる不可視のギフトを託された騎士が、付近で息を潜めているのだ。
「(ちっ、コレは面倒だぞ。何かのはずみで兜が取れたら失格にされる………!)」
そうなればルイオスを倒しにいけるのはジンのみとなってしまう。それではジンには悪いが明らかに敗北の文字しか見えない。それだけは何としても避けたいものだった。
耀が襲われた時、十六夜は敵の気配に全く気が付けなかった。気配は愚か初期動作さえ全く気が付けないのだ。
〝姿を見られてはいけない〟のルールがある以上、最も忌避しなければならない敵だろう。
「おい春日部!一度引くぞ!」
「待って!そうしたら十六夜の兜が壊される可能性が高いよ」
倒れた耀を抱き上げようとした十六夜。しかしそれに待ったを掛ける耀。
確かに〝姿の見える〟耀を抱えながら移動でもしてみれば、〝姿の見えない〟十六夜の居場所が敵に知られてしまう。
もしそれがバレてしまえば十六夜の兜を破壊しに掛かるだろう。それだけは何としても避けたかった。
「………だがこのままじゃオマエが格好の餌に」
「大丈夫。私には
「は?感知出来なくても攻撃はかわせる?そりゃどういう意味だ春日部?それに貰ったってまさか―――」
十六夜の言葉はここで途切れる事になる。耀が異変を察知したからである。
耀の茶色い瞳は紅い瞳に染まり、その瞳が一層怪しい光を放つと―――耀の頭上に伸びる、かなり太目の紅い線『
「……………っ!?」
『!?』
耀は左に跳んで間一髪、ハデスの兜を被った騎士の察知不可能な一撃をかわした。そして耀が先ほどまでいた床は、音を立てる事もなくめり込んでいた。
不可視の騎士は目を大きく見開いて驚いた。そりゃそうだ。察知不可能でかわせるはずのない一撃をかわされたのだから。マグレか?と思ったが、耀の反応は明らかに攻撃を察知して避けていたので驚愕の表情は拭えなかった。
一方、十六夜も同様に驚いていた。初撃はかわせなかった耀だったのに、瞳が真紅に染まった直後の一撃は攻撃に気づいて慌てて回避していたのだ。
これを見た十六夜は、ある可能性が浮上する。
「(そういや友達から異能を貰ったって言ってたな。それに春日部の瞳の色の変化にその直後に起きた怪しい紅光。―――やはり吸血鬼の、月夜がもたらした異能による力の効果なのか?だがどうして察知不可能な一撃をかわせた?未来視の類いか………?感知せずに攻撃をかわす―――――ん?攻撃をかわす、だと!?………ハッ、そういうことか!解ったぜ、春日部の異能の正体が………!)」
十六夜は耀の異能の―――『死線』を見破り、ほくそ笑んだ。
一方、耀は『死線』で攻撃の軌跡が分かっていても、どのタイミングで打ってくるのか、全く読めないので、反撃が出来ずにいた。
「(攻撃をかわせても、相手を倒せなきゃ意味がない!どうすれば………)」
耀は必死に思考を張り巡らせていると、再び耀に襲い掛かる『死線』が瞳に映った。
今度の一撃は上から下へ左に、袈裟斬りのような軌跡が描かれていた。
それを視た耀は右に体を傾けて敢えてスレスレで『死線』を、敵の一撃をかわし、
「―――ハァアッ!!!」
『―――――ッ!?』
耀が吸血鬼の異能により手に入れた人智を超越した一撃の籠った拳を、踏み込んで不可視の騎士の胴体を打ち抜く。手応えは確かにあった。
だが安心したのは束の間、今度は横一閃に薙ぎ払うような『死線』が耀に突き刺さる。
それを視た耀は跳んで回避すると共に、そのまま体を捻って回し蹴りを不可視の騎士に蹴り込む。
そして耀の蹴りは固い何かに当たると―――――それが外れたのか、不可視の騎士だった男の姿が現れた。
「―――――ッ!??しまっ」
「ヤハハハ!見つけたぜ、〝ペルセウス〟の騎士様!」
姿が見えたのならこっちのもの、と言わんばかりに、十六夜が騎士の胴体に拳を叩き込む。
「ぐ、ぬぅ………!」
苦痛の声を漏らすが、鎧は砕けたものの吹き飛ばずにその場で耐え忍ぶ騎士。その男の顔はルイオスの傍で控えていた側近の男だった。
十六夜はその男に笑い掛ける。
「へえ………よく耐えられたもんだ。加減したとはいっても、空の果てまで飛ばすつもりで殴ったんだがな」
「………ふん。ならば、我等の鎧が優れていたのだろう」
側近の男の言葉は、遠回しな称賛だった。それほど十六夜の拳は重く、苛烈だったのだ。
数々のゲームに挑んだ歴戦の騎士が、たった一撃で敗北を認めてしまうほどに。
側近の騎士は十六夜から耀に視線を移し、怪訝な瞳を向けて問う。
「………小娘に一つ聞きたい。なぜお前は感知出来ていないのに私の攻撃をかわせた?」
「―――――それは、私には優秀な
にこやかに笑って答える耀。それに側近の騎士は一瞬目を丸くして固まったが、フッと笑って頷いた。
「………なるほど。やはりあの真祖の小娘は侮れんというわけか。―――見事。お前達には、ルイオス様に挑むだけの資格がある」
それだけを言った側近の騎士は、膝を突き倒れた。
これで十六夜・ジンの分が集まると、二人は先を急ぎ、耀は「少し疲れた」と呟いて一人此処に残り、床に寝そべるのだった。
――――――――――
それから数分後に月夜が先ほど耀が奮戦していた階層に辿り着く。なぜこんなに登場が遅いのかというと―――途中で不可視の騎士達とも戦っていたせいであった。
そして月夜は、床に寝そべる耀を発見するや否や、大慌てで駆け寄った。
「な………よ、耀!?」
「………すぅ………すぅ………すぅ………」
だがそこには多少傷を負っているものの、大怪我という状態ではなく―――規則正しくも可愛らしい寝息と寝顔の耀がいたのだった。
それを確認した月夜は、安堵の溜め息を吐いて―――耀に跨がってニヤニヤと顔を覗き込んだ。
「―――ふふ、本当に可愛らしい
月夜は無防備に寝顔を晒す耀の頬を手で優しく包み込むと―――可愛らしいオデコに口づけ(もといキス)をした。今日頑張ったご褒美としてのキスなのだろう。
次に月夜は指を噛み切って
そして月夜は自分の左の細白い首筋に『紅月の鎌』を押し当て軽く切り裂く。するとそこから月夜の鮮血が滲み出て滴り、耀の口元にポトリと落ちた。
それが合図だったのか、耀は覚醒したように目を開けてガバッと起き上がり、月夜の鮮血が滴り出る左の首筋に牙を立ててカプッと噛みついた。
「………っ、」
「コクコク………んく、コクコク………んく、」
急に発生した首筋の痛みに顔を顰める月夜。耀はそれを気にせず月夜の鮮血を啜るが、体制が非常に飲みづらいのでそのまま月夜を押し倒すと、さっきとは全く逆の耀が月夜に跨がっているという状態になっていた。
そして数分後。耀の渇きが潤い、いつも鮮血を提供してくれている月夜に笑いかけた。―――――が、月夜はぐったりとしていた。
耀はその意味が一瞬理解出来なかったが、自分が余りの渇きに月夜の鮮血を殆んど飲み干しかけていた事に気づくと、
「え?つ、月夜ッ!?」
飲み干しかけていた事に気づくと、耀は月夜の肩を揺さぶって心配そうに声を掛ける。
それに月夜は手を振って大丈夫だとアピールする。
「平気だ。………我は、この程度の事で、バテるほど柔では、ない」
「血色は悪いし声も途切れ途切れだよ月夜!?」
どうしよう、とあたふたしていると―――月夜は耀の指を掴み、そのままパクリと口にくわえた。
「え?―――――っ、」
「…………………………」
耀の指をくわえた月夜はそのまま牙で噛み切って鮮血を啜る。耀は不意の痛みに顔を顰めるが、月夜が自分の鮮血を欲しているようだったから大人しく眷属らしく従順に従った。
しかし月夜は二、三口飲んだだけで耀の指を口から解放する。それに耀が不思議そうに小首を傾げて問う。
「………もう飲まなくて大丈夫なの?」
「うむ。耀の鮮血は美味いからな!二、三口でお腹いっぱいだ!」
月夜は勢い良く立ち上がり―――だがしかしフラッとよろめいた。月夜は只強がっていただけなのだった。
耀は苦笑しながら「やっぱり飲む?」と問いかけるが、月夜は「いらぬ!」と断固拒否のようだ。
褐色の光が白亜の宮殿内に射し込んだのは、それから数分後のことだった。
――――――――――
白亜の宮殿内で石化された飛鳥・耀・月夜・〝ペルセウス〟の騎士達を余所に、本命の戦いは闘技場にて激化していた。
ルイオスが炎の弓を引いて放った炎の矢を、十六夜は、
「喝ッ!!」
デタラメな肺活量を持ってして気合い一喝で消し飛ばした。
「ちっ、うちの
ルイオスは炎の弓が通じないことを悟ると、コレを仕舞い、〝星霊殺し〟の鎌・ハルパーを取り出し十六夜を挟み撃ちにしようとする。
「押さえつけろ、アルゴール!!」
「RaAAaaa!!LaAAAA!!」
甲高い叫び声を上げながら両腕を振り下ろす〝星霊〟アルゴール。
十六夜はそれを笑って真正面から受け止め、
「ハッ、いいぜいいぜいいなオイ!!いい感じに盛り上がってきたぞ………!」
「RaAAaaaGYAAAAAAaaaaaa!!」
力比べに持ち込んだ。しかし押し合いになったのは僅か一瞬。アルゴールは耐えきれずに押し切られ、その場でねじ伏せられた。
「GYAAAAAAaaaaaa!!」
「ハハ、どうした元・魔王様!今のは本物の悲鳴みたいだぞ!」
獰猛な笑顔でねじ伏せ、更に腹部を幾度も踏みつける。それだけで闘技場全体に亀裂を発生させ、白亜の宮殿を砕く程の力があった。
その間、ルイオスは背後に飛び回って十六夜に襲い掛かるが、
「図に乗るな!」
「テメェがな!」
十六夜は下半身を捻った勢いで蹴り上げる。ルイオスはその一撃をハルパーの柄で辛うじて受け止めたが、あまりに重たい一撃に空へと吹き飛ばされ、さらに防いだにも拘わらず嘔吐感が込み上げる程だ。
第三宇宙速度より更に速い速度で吹き飛ばされたルイオスに、十六夜は跳躍して一瞬で追いつき、
「どうした?翼があるのに不便そうだな?」
「き、貴様っ………!」
怒りに任せてハルパーを振り翳すルイオスだが、十六夜は難なく受け止め、闘技場で昏倒しているアルゴールに重なるように投げ飛ばし、叩きつけた。
「ガッ!」
「Gya………!」
ルイオスとアルゴールの呻き声。余りのデタラメっぷりに、体を起こしながら狼狽してルイオスは叫ぶ。
「き………貴様、本当に人間か!?一体どんなギフトを持っている!?」
「ギフトネーム・〝
飄々と肩を竦ませて笑う十六夜。余裕を見せる十六夜の背中を見てジンは慌てて叫んだ。
「い、今のうちにトドメを!石化のギフトを使わせては駄目です!」
ジンの叫びとは裏腹に、ルイオスは自分の力でねじ伏せたいのか、更に正面対決を望んだ。
「アルゴール!宮殿の悪魔化を許可する!奴を殺せ!」
「RaAAaaa!!LaAAAA!!」
アルゴールの謳うような不協和音が響き、途端に白亜の宮殿は黒く染まり、壁は生き物のように脈を打つ。宮殿全域にまで広がったソレから、蛇の形を模した石柱が数多に襲う。
十六夜は避けながら思い出したように呟く。
「ああ、そういえばゴーゴンにはそんなのもあったな」
「もう生きて帰さないッ!この宮殿はアルゴールの力で生まれた新たな怪物だ!貴様にはもはや足場一つ許されていない!貴様らの相手は魔王とその宮殿の怪物そのもの!このギフトゲームの舞台に、貴様らの逃げ場は無いものと知れッ!!!」
周囲が見えていないのか、狂気じみた形相で叫ぶルイオスと、魔王アルゴールの謳うような不協和音。
それに合わせて変幻する魔宮は白亜の外壁を、柱を、蛇蠍の如き姿に変えて襲い掛かり、十六夜の体を覆う。千の蛇に呑み込まれた十六夜は、その中心でボソリと呟いた。
「―――……そうかい。つまり、この宮殿ごと壊せばいいんだな?」
「「え?」」
にべもなく応える。ジンと黒ウサギは、嫌な予感がした。
十六夜は無造作に上げた拳を、黒く染まった魔宮に向かって振り下ろした。
千の蛇蠍は一斉に砕け、十六夜の周囲から霧散する。直後に宮殿全域が震え、闘技場が崩壊し、瓦礫は四階を巻き込んで三階まで落下した。
「わ、わわ!」
「ジン坊っちゃン!」
崩壊に巻き込まれそうになったジンを黒ウサギが受け止める。翼を持つルイオス達は上空に逃げていたが、その惨状に息を呑んでいた。
「……馬鹿な……どういう事なんだ!?奴の拳は、山河を打ち砕くほどの力があるのか!?」
上空で怒りとも恐怖ともいえる叫びを上げるルイオス。
残った闘技場の足場から見上げる十六夜は、やや不機嫌そうに声をかけた。
「おい、ゲームマスター。これでネタ切れってわけじゃないよな?」
「………っ……!」
ルイオスは屈辱に顔を歪ませた。まさか此処まで一方的に押されるなど、考えてもいなかっただろう。しばし悔しそうに表情を歪めていたルイオスは―――スッと真顔に戻る。そして極め付けに凶悪な笑顔を浮かべ、
「もういい。終わらせろ、アルゴール」
石化のギフトを解放した。
星霊・アルゴールは謳うような不協和音と共に、褐色の光を放つ。
褐色の光に包まれた十六夜は、真正面からその瞳を捉え―――
「―――――………カッ。ゲームマスターが、今さら狡い事してんじゃねえ!!!」
褐色の光を、踏み潰した。
アルゴールの放つ褐色の光は、逆廻十六夜の一撃でガラス細工のように砕け散り、影も形もなく吹き飛んだのだ。
「ば、馬鹿な!?」
ルイオスは叫ぶ。叫びたくもなるだろう。
階下から戦況を見守っていたジンと黒ウサギでさえ叫び声を上げていたのだから。
「せ、〝星霊〟のギフトを無効化―――いえ、破壊した!?」
「あり得ません!あれだけの身体能力を持ちながら、ギフトを破壊するなんて!?」
白夜叉が〝ありえない〟と結論付けた理由。その二つの恩恵は、相反するギフトのはずなのだ。
十六夜は他に〝恩恵〟を持っていない。それはギフトカードを見ても明らかだ。
なのに天地を砕く恩恵と、恩恵を砕く力が両立している事になってしまう。
だがそんな魂は、絶対にあり得ないはずなのだ。
「さあ、続けようぜゲームマスター。〝星霊〟の力はそんなものじゃないだろ?」
軽薄そうに挑発する十六夜。だがルイオスの戦意は殆ど涸れていた。
〝箱庭の貴族〟は愚か、〝白き夜の魔王〟でさえ知らない出所不明・効果不明・名称不明と三拍子揃った、正真正銘の〝正体不明〟。
奇跡を身に宿しながら、奇跡を破壊する矛盾したギフト。
ルイオスはありえない存在を前に呆然としていた。黒ウサギが溜め息交じりに割って入る。
「残念ですが、これ以上のものは出てこないと思いますよ?」
「何?」
「アルゴールが拘束具に繋がれて現れた時点で察するべきでした。………ルイオス様は、星霊を支配するには未熟すぎるのです」
「っ!?」
ルイオスの瞳に灼熱の憤怒が宿る。射殺さんばかりの眼光を放つルイオスだが………否定する声は上がらなかった。黒ウサギの言葉が真実だからだろう。
「―――ハッ。所詮は七光と元・魔王様。長所が破られれば打つ手なしってことか」
失望したと吐き捨てる十六夜。これで勝敗は決した。黒ウサギが宣言しようとした、その時―――十六夜は、この上なく凶悪な笑みでルイオスを追い立てた。
「ああ、そうだ。もしこのままゲームで負けたら………お前達の旗印。どうなるか分かっているんだろうな?」
「な、何?」
不意を突かれたような声を上げるルイオス。それもそうだろう。
彼らはレティシアを取り戻す為に旗印を手に入れるのではなかったのか。
「そんなのは後でも出来るだろ?そんなことより、旗印を盾にして即座にもう一度ゲームを申し込む。―――そうだなぁ。次はお前達の名前を戴こうか」
ルイオスの顔から一気に血の気が引いた。
その時、ルイオスは初めて周囲の惨状に目がいったのだ。砕けた宮殿と、石化した同士達に。
だが十六夜は一片の慈悲もなく凶悪な笑顔のまま尚も続ける。
「その二つを手に入れた後〝ペルセウス〟が箱庭で永遠に活動できないように名も、旗印も、徹底して貶め続けてやる。たとえお前達が怒ろうが泣こうが喚こうが、コミュニティの存続そのものが出来ないぐらい徹底的に。徹底的にだ。………まあ、それでも必死にすがりついちまうのがコミュニティってものらしいけど?だからこそ貶めがいがあるってもんだよな?」
「や、やめろ………!」
「そうか。嫌か。―――ならもう方法は一つしかないよな?」
一転して凶悪さを消し、今度はにこやかに笑う十六夜。
指先で誘う様にルイオスを挑発し、
「来いよ、ペルセウス。命懸けで―――俺を楽しませろ」
獰猛な快楽主義者が、両手を広げてゲームの続行を促す。彼はまだまだ遊び足らなかった。自らが招いた組織の危機に直面したルイオスは、覚悟を決めて叫んだ。
「負けない………負けられない、負けてたまるか!!奴を倒すぞ、アルゴオォォォル!!」
輝く翼のルイオスと灰色の翼のアルゴールが羽ばたく。コミュニティの為、敗北覚悟で二人は駆けるのだった。