問題児たちが特異吸血鬼と共に箱庭に召喚されるそうですよ?―終焉なる真祖は月神の末裔!?― 作:問題児愛
上空4000mから落下する中、吸血鬼の少女は混乱していた。それもその筈、手紙を見ただけで突如、浮遊感に襲われ、そして急降下している始末なのだから混乱するのは仕方ないことだろう。
寧ろこの状況下で冷静にいられるのなら、その者は愉快な人格の持ち主だ。
因みに彼女は空を飛べる。―――が混乱している為、そのことさえ忘れているのである。
吸血鬼の少女が混乱しているうちに、落下地点に用意してあったのか、緩衝材の様な薄い水膜を何重と通り青く澄んだ湖に投げ出され―――ボチャン、と着水した。
その後に、同様の音を立てて三人の少年少女と猫が着水した。だが着水して無事なのは四人。猫は余りにも小柄な上に軽かった為、溺れかけていた。
猫の飼い主であろう茶髪の少女が慌てて抱き抱え、そして引っ張り上げる。
「………三毛猫、大丈夫?」
『じ、じぬがぼおぼた………!』
三毛猫と呼んだその猫の無事を確認して、安堵する茶髪の少女。
一方、吸血鬼の少女と同じ髪色の少年と黒髪の少女がさっさと陸地に上がると、各々が罵詈雑言を吐き捨てた。
「し、信じられないわ!まさか問答無用で空に放り出すなんて!」
「全くだクソッタレ。下手すりゃその場でリタイアだったぜコレ。まだ石の中に呼び出された方がマシだ」
「………いえ。石の中では動けないでしょう?」
「俺は問題ない」
「そう。身勝手ね」
二人の少年少女は互いに鼻を鳴らし、服の端を絞って水気を出来るだけ減らす。
それに続く様に茶髪の少女が岸に上がって同様に服を絞って水気を減らす。その隣では三毛猫も全身を震わせ体毛に張り付いている水気を弾く。茶髪の少女は服を絞りながらボソリと呟いた。
「此処………何処だろう?」
「さあな。まあ、世界の果てらしいものが見えたんだし、どこぞの大亀の背中じゃねえか?」
茶髪の少女の呟きに応える金髪の少年。何はともあれ、四人とも知らない場所であることは確実。
適当に服を絞って水気をある程度落とし終えた金髪の少年はまず―――湖にいまだに浮かぶ吸血鬼の少女に向かって、彼女に聞こえる程度の声音で叫んだ。
「―――ところで俺と髪が同色で湖に浮かんだまま呆けてる其処のオマエ。そろそろコッチに来てくれると非常に助かるんだが」
「―――――ハッ!?」
少年の声にハッとして正気を取り戻した金髪吸血鬼の少女は起き上がると、陸地に上がってボソリと呟いた。
「………真祖たる者が我を忘れて
「………真祖?へえ、オマエ―――吸血鬼なんだな」
「ん?そうであるぞ?―――うむ。やはり〝真祖〟と名乗るだけで吸血鬼であることがバレるのだな」
うんうんと頷いて納得する吸血鬼の少女。一方で金髪の少年はヤハハと笑って返した。
「まあ俺は分かるが、あいつらには分からなかったみたいだけどな」
「ええ。真祖と呟かれても何の事だかさっぱりだったわ。それと〝アイツ〟ではないわ。―――私は久遠飛鳥よ。以後は訂正、そして気をつけて。それで、そこの猫を抱き抱えている貴女は?」
「………春日部耀。私も真祖の事は分からなかった。後は以下同文で」
「そう。よろしくね春日部さん。次に野蛮で凶暴そうなそこの貴方は?」
「高圧的な自己紹介をありがとよ。見たまんま野蛮で凶暴な逆廻十六夜です。粗野で凶悪で快楽主義と三拍子揃った駄目人間なんで、取り扱いには御注意を―――だぜ?お嬢様」
「そう。取扱説明書をくれたら考えてあげるわ、十六夜君」
「ハハ、マジかよ。今度作っとくから覚悟しとけ、お嬢様。―――んで金髪の吸血鬼で真祖様のオマエは?」
「我か?………〝名前〟とやらは持っておらんな。人間共から〝吸血鬼〟やら〝ヴァンパイア〟やら〝真祖〟やらと呼ばれておったからのぅ………」
前にも話したが吸血鬼の少女は〝無名〟の真祖である。親族も、同胞すら持たない孤独な吸血鬼。名付け親も居なければ、己で名を付けることもしなかった為、いまだに〝無名〟の吸血鬼なのだ。
それを知った十六夜・飛鳥・耀は困ったような表情で黙り込む。
暫し静寂が続いた後、ニヤリと笑った十六夜が吸血鬼の少女を指さして、
「名前がないなら俺がつけてやろうか?」
「ぬ?………お主が我の名付け親になると言うつもりか?」
「ああ。オマエが要らないと思っていても、俺らが困るからな。だから勝手につけさせてもらうぜ?」
ニヤニヤと笑う十六夜。するとムッと剥れたような顔をした飛鳥が割り込んだ。
「あら、駄目よ十六夜君。私も吸血鬼さんの名前、考えさせてもらうわ」
「………私も考える」
飛鳥に続いて耀も便乗する。それに十六夜は苦笑して頷いた。
「それで、春日部はなんて名前にしたんだ?」
「………ショコラ」
「―――え?ショコラ?」
「うん、ショコラ」
それ、スイーツだよね?と苦笑する飛鳥と十六夜。スイーツ以外にも、まるでペットにでもつけるような名前であったことにも苦笑したのだろう。
一方、当事者である吸血鬼の少女は、本当に勝手に名前を考え始めた三人に苦笑いを浮かべていた。
「―――それで、お嬢様はなんて名前にしたんだ?」
「ええ。私は………〝
「ほう、月夜とな?」
「そう。月夜。吸血鬼って月の出る夜に姿を現すというものじゃない?それで月夜。苗字は………残念だけれど思いつかなかったわ」
苦笑と共に首を横に振る飛鳥。それに十六夜がニヤリと笑って、
「それなら問題ない。俺が決めてる」
「そ、そう。それで十六夜君の考えた苗字は?」
「ああ。―――
ヤハハと笑って答える十六夜。一方、吸血鬼の少女はそのつけられた名を咀嚼しながら呟く。
「………紅月夜、か。―――うむ!中々良き名であるな!では早速今日から我の事を『月夜様』と呼ぶがよいぞ!」
「「「月夜で」」」
「……ぬぅ。
「「「月夜で」」」
「―――――………ぬぅ」
有無を言わさぬ十六夜・飛鳥・耀に渋々『月夜』と呼ぶことを許すのだった。まあ心の中では彼らに名前をつけてもらったことに喜んでいるのだが、金髪吸血鬼の少女もとい紅月夜と神のみぞ知ることであった。
――――――――――
金髪吸血鬼の少女こと紅月夜に名前をつけ終えて数十分が経過した。
流石に苛立ちを隠せなくなった逆廻十六夜が言った。
「で、呼び出されたはいいけどなんで誰もいねえんだよ。この状況だと、箱庭とかいうものの説明をする人間が現れるもんじゃねえのか?」
「そうね。今のままでは動きようがないもの」
「………この状況に対して落ち着き過ぎているのもどうかと思うけど」
「それを言うならお主もであろう?」
「「「月夜も(ね|な|だよ)」」」
「………ぬぅ」
三人に一斉に言葉で叩かれた月夜は唸り声を上げた。とはいえ孤独にして孤高な真祖の吸血鬼を貫いてきた彼女にとっては、この様に親しく接してくる彼らに、少なくとも
そしてこのままでは拉致があかないと思ったのか、十六夜がふと溜め息交じりに呟いた。
「―――仕方がねえな。こうなったら、そこに隠れている奴にでも聞くか?」
すると、その呟きに反応したように、物陰に隠れていたのであろう黒髪―――というより青に近い髪色にウサギ耳を生やした少女の姿を確認した。彼女が驚いた拍子に飛び跳ねてしまったからであろう。
四人の視線はそのウサ耳の少女に集まり、十六夜の呟きを感心したように彼を見て問いかける。
「あら、貴方も気づいていたの?」
「当然。そっちの猫を抱いてる奴も、吸血鬼の真祖様も気づいていたんだろ?」
「風上に立たれたら嫌でもわかる」
「………ん?何の話をしておる?あのか弱き
「………へえ?面白いな春日部。―――って、は?」
「「「え?」」」
「………ぬ?なんだお主ら?」
「「「「………別に」」」」
「………?」
不思議そうに小首を傾げる月夜。そして四人は気づいてしまうのだった。この吸血鬼の真祖な彼女は―――〝お馬鹿様〟だということに。
「―――えい」
「フギャ!」
耀が油断していたウサ耳の少女の、その素敵耳を根っこから鷲掴み、勢いよく引っ張った。
「ちょ、ちょっとお待ちを!触るまでなら黙って受け入れますが、まさか初対面で遠慮無用に、しかも油断していた黒ウサギの素敵耳を引き抜きに掛かるとは、どういう了見ですか!?」
「好奇心の為せる業。それと油断している方が悪い」
「自由にも程があります!」
「へえ?このウサ耳って本物なのか?」
「………じゃあ私も」
「へ?ちょ、ちょっと待―――!」
黒ウサギと名乗る、素敵耳を十六夜が右から、飛鳥が左からと左右に勢いよく引っ張った。そして黒ウサギは言葉にならない絶叫を上げるのだった。
――――――――――
「―――あ、あり得ない。あり得ないのですよ。まさか話を聞いてもらうために小一時間も消費してしまうとは。きっとこの様な状況を学級崩壊と言うに違いないのデス」
「ご託はいいからさっさと始めな」
黒ウサギはウサ耳を押さえながら泣きそうになっているが、なんとか話を始められる状況に戻すことに成功した。四人は彼女の前の岸辺に座り込み、聞く姿勢を取っていた。
黒ウサギは咳払い一つで説明を開始した。
「それではいいですか、御四人様。定例文で言いますよ?言いますよ?さあ、言います!ようこそ、〝箱庭の世界〟へ!我々は御四人様にギフトを与えられた者達だけが参加出来る『ギフトゲーム』への参加資格をプレゼンさせて戴こうかと召喚致しました!」
「………ギフトゲーム?」
「そうです!既に気づいていらっしゃるでしょうが、御四人様は皆、普通の人間ではございません!」
「ふふふ、我に至っては人間ですらないからな!吸血鬼にして真―――」
「黙らっしゃい!!今は黒ウサギの説明タイムでございます。茶々入れは断固御断りなのですよ!」
「―――ぬ、ぬぅ。わかった」
黒ウサギに怒鳴られて縮こまる月夜。そんな真祖らしからぬ彼女を見た三人はクスクスと笑った。
黒ウサギはもう一度咳払いし、説明の続きを始めた。
「―――その特異な力は様々な修羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えられた恩恵でございます。『ギフトゲーム』はその〝恩恵〟を用いて競い合う為のゲーム。そしてこの箱庭の世界は強大な力を持つギフト保持者がオモシロオカシク生活出来る為に造られたステージなのでございますよ!」
説明する黒ウサギに飛鳥が挙手して質問した。
「まず初歩的な質問からしていい?貴女の言う〝我々〟とは貴女を含めた誰かなのかしら?」
「YES!異世界から呼び出されたギフト保持者は箱庭で生活するにあたって、数多とある〝コミュニティ〟に必ず属して戴きます♪」
「嫌だね」
「ふむ。それは必ずであるか?」
「属して戴きます!はい、絶対でございますよ?そして『ギフトゲーム』の勝者はゲームの〝
「………〝主催者〟って誰?」
「様々ですね。暇を持て余した修羅神仏が人を試す為の試練と称して開催されるゲームもあれば、コミュニティの力を誇示するために独自開催するグループもございます。特徴として、前者は自由参加が多いですが〝主催者〟が修羅神仏なだけあって凶悪且つ難解なものが多く、命の危険もあるでしょう。しかし、見返りは大きいです。〝主催者〟次第ですが、新たな〝
後者は参加の為にチップを用意する必要があります。参加者が敗退すればそれらは全て〝主催者〟のコミュニティに寄贈されるシステムです」
「後者は結構俗物ね………チップには何を使うのかしら?」
「それも様々ですね。金品・土地・利権・名誉・人間………そしてギフトを賭け合うことも可能です。新たな才能を他人から奪えばより高度なギフトゲームに挑む事も可能でしょう。ただし、ギフトを賭けた戦いに負ければ当然―――ご自身の才能も失われるので悪しからず」
愛嬌たっぷりの笑顔に黒い影を見せる黒ウサギ。その挑発とも取れるその笑顔に、飛鳥が挑発的な声音で問いかける。
「そう。なら最後にもう一つだけ質問させてもらってもいい?」
「どうぞどうぞ♪」
「ゲームはどうやって始められるの?」
「コミュニティ同士のゲームを除けば、それぞれの期日内に登録して戴ければOK!商店街でも商店が小規模のゲームを開催しているので良かったら参加していって下さいな」
「………つまり『ギフトゲーム』とはこの箱庭の法そのもの、と考えていい?」
「………ふふん?中々鋭いですね。しかしそれは八割正解の二割不正解です。我々の世界でも強盗や窃盗は禁止ですし、金品による物々交換もあります。ギフトを用いた犯罪等もっての外!そんな不逞な輩は悉く処罰します―――が、しかし!『ギフトゲーム』の本質は全く逆!一方の勝者だけが全てを手にするシステムです。店頭に置かれている商品も、店側が提示したゲームをクリアすればタダで手にすることも可能だということでございますね」
「………そう。中々野蛮なのね」
「ごもっとも。しかし〝主催者〟は全て自己責任でゲームを開催しております。つまり奪われるのが嫌な腰抜けは初めからゲームに参加しなければ良いだけの話でございます」
一通りの説明を終えた黒ウサギは、一枚の封書を取り出す。
「さて。皆さんの召喚を依頼した黒ウサギには、箱庭の世界に於ける全ての質問に答える義務がございます―――が、それら全てを語るには少々お時間を有します。新たな同士候補である皆さんを何時までも野外に出しておくのは忍びない。此処から先は我等のコミュニティでお話させて戴きたいのですが………宜しいです?」
「待ちな。まだ俺が質問してないだろ」
今まで静聴していた十六夜が威圧的な声を上げて立った。説明中もずっと刻まれていたはずの軽薄な笑顔が消えていることに気づくと黒ウサギは咄嗟に構えるように聞き返した。
「………どういった質問です?ルールですか?ゲームそのものですか?」
「そんなのはどうでもいい。腹の底からどうでもいいぜ、黒ウサギ。此処でお前に向かってルールを問い質したところで何かが変わるわけじゃねえんだ。世界のルールを変えようとするのは革命家の仕事であって、プレイヤーの仕事じゃねえ。俺が聞きたいのは………たった一つ、手紙に書いてあったことだけだ」
十六夜は視線を黒ウサギから外し、飛鳥、耀、月夜の順に見回し、巨大な天幕によって覆われている都市に向けると―――何もかもを見下す様な視線で一言、
「この世界は………面白いか?」
「―――――」
十六夜の問いの返事を無言で待つ三人。
四人を呼んだ手紙には、
『家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨てて箱庭に来い』と書かれていた。
十六夜・飛鳥・耀にとっては、それに見合うだけのイベントがあるのかどうかこそが、最重要な事だった。
それとは対照的に、元々何も持っていなかった、或いは求めなかった月夜にとっては然程重要ではないのだが、彼女も〝面白い〟事ならば興味津々なのは確かだった。
「―――YES。『ギフトゲーム』は人を超えた者達だけが参加出来る神魔の遊戯。箱庭の世界は外界より格段に面白いと、黒ウサギは保証致します♪」