問題児たちが特異吸血鬼と共に箱庭に召喚されるそうですよ?―終焉なる真祖は月神の末裔!?― 作:問題児愛
「何ッ!?」
ヴェーザーが驚きの声を上げた。
全力跳躍した十六夜は一瞬でヴェーザーの前へ現れ、第三宇宙速度を遥かに凌駕した速度で彼を境界壁に叩きつけた。
「き、貴様ッ!?」
「会いたかったぜ魔王様。俺にも一曲恵んでくれよ」
ヤハハと豪快に笑う十六夜。ヴェーザーの首根っこを摘まんで境界壁の岩壁を力任せに踏み抜き、水平に断崖を駆け彼を岩壁に擦り付けながら振り回す。
だがヴェーザーは無傷のまま、
「舐めるな、この糞ガキ!!」
怒号を上げると、棍のような笛を一振り。
すると不気味な風切り音と共に境界壁の岩壁は宛ら生き物のように蠢き始め、十六夜の足を絡めとり駆ける足を封じた。その隙にヴェーザーは十六夜の手から逃れる。
口内を切ったようで、真紅に染まった唾液を吐き捨て十六夜に言う。
「………やってくれるじゃねえか。まさか先手を取られるとは思わなかった」
「そりゃどうも。『意外性に富んだ男の子』ってのが通知表の評価でね。良くも悪くも期待を裏切ることには定評があると自負してる」
ヤハハ!と笑う十六夜。岩壁に対して垂直に立っている状態で。
二人が言葉を交わす最中、シュトロムとペストはそのまま落下。ラッテンだけは岩壁に掴まってヴェーザーの名を叫ぶ。
「ヴェーザー!早く片付けなさいな!」
「あぁ?ならお前の笛の音で捕まえりゃいいだろうが。そっちの方が早いだろ」
ラッテンはチッ、と舌打ちしながらフルートを唇にあて、不協和音を奏でる。
途端、眼下の犇めき合っていた観客席は一斉に動きを止め、その音色を聞くや否や、めまいを起こしたように膝をつき始め、バタバタと観客達は気を失っていく。
それに十六夜は目を見開いて驚くが、正体を悟って不敵に笑う。
「へえ………?今の音色が魔笛か。ならもしかして、その女が本命の〝
「コ、コイツ………!私の音色が効いてないの………!?」
涼しい顔で立っている十六夜を見て、ラッテンは美しい唇をひくつかせ息を呑む。
対照的に、ヴェーザーは冷静さを取り戻し、ラッテンに目配せ。
「ラッテン、お前は先に降りてろ。マスターを一人にしたら皆殺しにしちまうからな」
ラッテンは再度舌打ちしながら飛び降りる。
それを追わず見届ける十六夜。
それが意外だったのか、ヴェーザーが探るような怪訝な瞳を十六夜に向けた。
「………解せねえな。何故見逃した?」
「別に?お前を倒してからゆっくり追うさ、ヴェーザー河の化身様(・・・・・・・・・・)?」
ヴェーザーの顔が驚愕に歪んだ。十六夜の指すヴェーザー河とは、ハーメルンの付近を流れる大河である。ヴェーザーの表情を見て何かの確信を得たのか、十六夜は益々面白そうに嘲笑う。
「ふぅん。〝
―――一二八四年 ヨハネとパウロの日 六月二六日
あらゆる色で着飾った笛吹き男に一三〇人のハーメルン生まれの子供らが誘い出され、
丘の近くの処刑場で姿を消した―――
悪魔という種は、その
故に、グリム童話における〝ハーメルンの笛吹き〟が悪魔の霊格を得て顕現した理由とは、〝一三〇人の子供達〟の
「ハーメルンの伝承には数多の考察がある。人攫いのような人為的なものから神隠し、黒魔術の儀式などetc。その中に〝ヴェーザー河〟が含まれるのは―――自然災害などの天災(・・・・・・・・・)。例えばアンタがこの岩壁を歪ませた力は、土砂崩れや地盤の崩落などを形骸化した霊格だと推測できる。そしてクリア条件である『偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ』は、ハーメルンの事件の真実を暴け、という意味に解釈できる。………どうだ?満点とは言わずとも、八〇点は堅いだろ?」
ヤハハと得意気に笑う十六夜。黙して聞いていたヴェーザーは、十六夜を値踏みするように上から足先まで一瞥。呆れたように頭を掻いて苦笑した。
「チッ。只の糞ガキかと思ったら………随分と頭が回るじゃねえか」
「そうかな?」
「ああ。………まっ、ルールがルールだからな。見どころもあるし一応聞いておくが、」
「断る」
「早ええなオイ!」
「分かりきっている問答に付き合う趣味はねえからな。つーか幻滅させないでくれよ魔王様。ゲーム開始早々に
真っ直ぐと、偽り無い言葉をヴェーザーに向ける十六夜。
「………ほお?そりゃ失礼したな坊主」
ヴェーザーは獰猛に笑い、巨大な笛を大きく振り回す。甲高い風切り音が一帯に響き渡ると、岩壁は大きく変動。その場に平面の足場を造り出した。
足場に下りたヴェーザーは悠々と笑って臨戦態勢を取った。
「坊主の期待に応える意味で、一つ誤りを正す。―――俺は魔王じゃねえ。只の木っ端悪魔さ。俺らの魔王閣下は、先に落ちた二人のどちらかだ」
ヴェーザーに促されるままに十六夜は眼下に視線を落とす。シュトロムとペストは、月夜とレティシアの二人と交戦中。
戦況は五分といったところだった。月夜とレティシアは神格を持ってないため、魔王との戦闘は容易ではないのだろう。
十六夜は盛大に舌打ちし、傲岸な物言いで宣言する。
「そうかい。じゃあ前座をさっさと済まさねえと、魔王様に失礼って話だ」
「馬鹿を言え。前座はゲームを盛り上げるのが仕事だ。いいクライマックスは、いい前座がいるからこそ映えんだよ。―――ま、坊主じゃ役者不足かもしれんがな」
呵ッ、と笑って十六夜とヴェーザーは構える。
同時に走り出した二人の激突は境界壁に巨大な亀裂を奔らせ、粉塵と共に岩塊を降らせた。
天を衝き、山河を打ち砕く十六夜の拳を、ヴェーザーは巨大な笛で受け止める。
十六夜の拳の重さに思わず面食らったヴェーザーだが、大きく後退しただけで四肢は踏み止まっている。
十六夜は
「ハッ、確かにいい前座になりそうだ………!」
「チッ、そりゃこっちの台詞だ糞ガキ―――!!」
怒号一閃、棍術のような巧みさで巨大な笛を薙ぐ。
上空1000m地点。十六夜とヴェーザーの激闘が始まった。
――――――――――
「………あら?私の相手は金髪吸血鬼の御二人?」
「お前の相手は私がする。覚悟はいいか?」
「………そう。そちらの真祖の吸血鬼は相手してくれないのね」
「ふふ。レティシアの要望でな。我は雑兵共を片す」
ライムは
それにペストは無機質な声でライムに返す。
「あっそ。だけど………シュトロムを舐めたら痛い目見るわよ?」
「………ぬ?」
「BRUUUUUUUUUUM!!」
シュトロムの奇声に応じて鳴動する大気。全身の風穴から空気を吸い込み、四方八方に大気の渦を造り上げる。そしてその乱気流の渦が、周囲の瓦礫を吸収し始めた。
「ほう?嵐を操る巨兵か。面白い。ならば―――――異能『
ライムが天に右手を翳すや否や―――黄金の嵐(・・・・)が吹き荒れた。
ライムを中心に吹き荒れる黄金の嵐は、瞬く間にシュトロムの造り出した嵐と巨兵を呑み込み―――――塵と化した(・・・・・)。
「………え?」
「BRUUUUUUUUUUM!!」
ペストが驚愕に目を見開く。シュトロムは断末魔のような声を上げて、塵となった巨兵は地に降り注がれ、地に還る。
ライムはそれを確認すると、吹き荒れる黄金の嵐をパチン、と指を鳴らして霧散させた。
「くく、何を驚いておるのだ?魔王の娘よ。我は純潔の真祖であるぞ?この程度の相手を消すなど容易いわ!わっはははははははは!」
口元に色白の手を持っていき豪快に笑い飛ばすライム。
ペストが驚愕したまま固まっていると、レティシアが金と紅と黒のコントラストで彩られたギフトカードから長柄の槍を取り出し、
「最初に謝っておくぞ。不意打ちですまない。―――だがお前は〝魔王〟だ。悪いが
「………っ!?」
ハッとしてペストは
レティシアがランスで疾風の如き一刺しでペストの胸を―――
「やったか―――!?」
「やってないわ」
貫けなかった。ペストは抑揚の無い声で返した。驚くべきことに、レティシアの刺し貫いたかに思えたランスは、ペストの身体を持ち上げただけに留まり、槍の尖端は胸部に当たって拉げていた。
ペストは無造作に槍を掴んでレティシアを引き寄せると、その手から黒い風を発生させてレティシアを捕縛。
「(な………何だ、この奇妙な風は……!?)」
レティシアの知識にもない、不気味な風だった。
影のように漆黒でもなく、嵐のように荒々しいでもなく、熱風のように熱いわけでもない。
強いて例えれば黒く、温く、不気味。
蠢く様に生物的な黒い風は、徐々にレティシアの意識を蝕んでいく。
ペストはレティシアの胸倉と顎を掴んで薄い微笑を浮かべた。
「痛かった。凄く痛かった。不意打ちもされて凄く怒った。だけど許してあげる。貴女もいい手駒になりそう」
「う………」
くすり、と笑うペスト。蝕むようにレティシアの全身を覆う黒い風。
そこへ、異変に気が付いたライムが黄金と紅い三日月の模様が描かれたギフトカードを取り出し、自分の
ペストからレティシアを切り離さんとする鎌の一撃が振り翳された。
「フッ―――!!」
その一撃に気付いたペストは、レティシアを離してフワリと飛翔。ライムの鎌を避けたペストは微笑して訊ねた。
「………ふふ。ようやく私の相手してくれるのね、真祖の吸血鬼?」
「ああ。緊急事態であるからな。悪いがレティシアに代わって我が相手になってやろうか………!」
黒い風の効果により弱っているレティシアを抱き寄せながら宣言するライム。
ライムの瞳は、大切な義妹であるレティシアを酷い目に遭わせたペストを怒りの籠った視線で睨み付けていた。
それを見たペストはただ微笑した。〝純血(・・)〟ではなく〝真祖(・・)〟という未知なる吸血鬼との戦いが楽しみで仕方がないのだろう。
一方、レティシアはライムの腕の中で心配そうに声を上げる。
「………ライム、気をつけろ。彼奴の放つ黒い風は危険だ………!」
「ふむ?忠告ありがとうレティシア。後は我が相手をするから御主は下がっておけ」
「………分かった。本当に、気を付けて―――――
「………ええ。気を付けます―――レティ姫」
クスリと笑みを交わすライムとレティシア。
一方、ペストは〝ライム〟の名を聞いて驚愕して固まっていた。
「(ライム(・・・)ですって?………まるで―――ライ麦畑(・・・・)を連想させる不快な名前ね)」
ペストは不快そうな表情でライムを睨む。
「(名前だけじゃない。あの子の黄金の髪はまるでライ麦畑の―――黄金色の穂波(・・・・・・)を示しているみたいね。漆黒のメイド服は―――夜(・)ってところかしら。夜に揺れる黄金の穂波のライ麦畑(・・・・・・・・・・・・・・・)………っ!なんて不愉快極まりない存在なの!?)」
ペストはまるで過去を思い出させるような存在を前に、ギリッと歯噛みした。
そして、ペストは残酷な決断を下した。
「(―――まあいいわ。純血のヴァンパイアは手駒にして……………ライムとかいう真祖のヴァンパイアは諦めて―――――殺す(・・)とするわ)」
ペストは愛らしい表情を歪ませて笑うと―――早速ライムに向けて黒い風を放った。
「ぬ?―――――っ!?」
異変を察知したライムは、咄嗟に黄金の嵐を発生させ、黒い風を相殺した。
―――――だが、ペストの魔の手はすぐそこに迫っていた。
ペストに気が付いたレティシアは、叫んだ。
「―――!?ライム!後ろだ!!」
「何!?」
「気づかれてしまったわね。―――だけど残念。もう既に手遅れよ」
ペストは無機質な表情と声音で、ライムを背後から抱き付く。そして瞬間―――黒い風がライムの意識を容赦なく蝕んでいく。
「………ぐ、」
「ふふ。貴女は不老不死だと聞いたわ。いつまで私の―――黒死病(・・・)に耐えられるかしらね?」
「……………っ!?」
―――黒死病とは、十四世紀から始まる寒冷期に大流行した、人類史上最悪の疫病である。この病は敗血症を引き起こし、全身に黒い斑点が浮かんで死亡する。
そして、ライムは―――〝 〟は黒死病を知っている。
何故ならライムの生前の頃、人間の幼い少女(・・・・・・・)〝 〟の死因(・・)は他ならぬ―――――黒死病(・・・)なのだから。
そして不死の吸血鬼と言えど、死へと向かう病を無効化することは出来ない(・・・・)。
ライムに至っては不死性が異常な為、通常の人間の、何倍もの苦痛を味わう(・・・・・・・・・・)。そう。ライムにとって黒死病は―――最悪の
「………ぅ、くぅ………」
「あら?貴女、疫病に弱い吸血鬼なのね。なら好都合。このまま死になさい」
「ラ、ライム………ッ!!」
弱々しく呻くライムは、最早飛んでいる事さえ出来ずにペストに抱き抱えられたままぐったりとしていた。このままでは本当に死んでしまうかもしれない。
それを確認したペストはくすり、と笑う。
レティシアは悲痛に叫ぶ。彼女もつい先程まで黒死病の餌食になっていた為、その場から動くことすら出来ない。
そして―――ライムの意識は闇へと沈んでいった。
「(どうして貴女がこんなことをするの………?―――〝 〟様)」
龍がなんちゃらと書いてましたが、レティシアとどこまでも被ってしまうので結局ボツになりました。
原作改変が入りますが、月夜もとい〝 〟の生前は〝人間〟であり、ペストと深い関わりを持つ幼い少女です。
死因は黒死病。
霊となった少女は、絶対に帰ってくるはずのないペストの帰りを待つ為に吸血鬼になる。
その絶対に叶わない願いをしてしまった強い想いが仇となり、自身を〝完全なる不死(バケモノ)〟へと変えてしまった。
それから色々な出来事があり(詳細はまだ秘密)今に至る。
大まかな流れはこんな感じです。少しは吸血鬼の伝承らしくなった………かな?