問題児たちが特異吸血鬼と共に箱庭に召喚されるそうですよ?―終焉なる真祖は月神の末裔!?―   作:問題児愛

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十二話 最強問題児は遂に謎を紐解く!?―――我が眷属は同士達に想いを馳せ眠りに就くそうだ!

「――――様!」

 

 金の髪のツインテールを揺らしながら、幼い少女〝   〟は――――の名前を叫ぶ。

 黄金色のライ麦畑の穂波が揺れる畦道に、そのカノジョはいた。カノジョは金髪ツインテールの少女に手を振って微笑する。

 ツインテールの少女はカノジョに駆け寄って―――

 

「――――様♪」

 

 抱き付いた。いきなりの出来事にカノジョは瞳を丸くして固まるが、すぐにスッと目を細めて微笑みを浮かべる。

 カノジョは微笑しながらツインテールの少女の金髪頭を優しく撫で始める。

 

「ふにゃぁぁぁ………♪」

 

 ツインテールの少女はまるで猫のような鳴き声(?)を上げると、カノジョに体を預けて気持ち良さそうに目を細めて笑う。

 

「ふにゃあ………、――――様の撫で撫では極上ですにゃ~♪」

 

 ツインテールの少女は〝まるで〟ではなく〝もはや〟猫化していた。―――語尾が。

 それにカノジョは苦笑して、しかし撫でる手はやめない。金の髪の触り心地がいいからなのだろう。

 カノジョは金髪の少女のツインテールを指先でクルクルと弄びながらその感触を楽しむ。

 今度はそれに金髪の少女が苦笑いを浮かべカノジョを見つめる。

 

「――――様?私の髪は心地良いですか?」

 

 ツインテールの少女の問いに、カノジョは笑ってコクリと頷いた。

 

「そうですか♪――――様なら存分に触って良いですよ!」

 

 ツインテールの少女は頬を若干赤らめて、照れながらそう言った。これはカノジョに対して恋しているわけではないのだが。

 

金髪ツインテールの幼い少女〝   ・     〟はカノジョとは違ってこの土地で生まれた存在ではない。

 ツインテールの少女は行く宛もなく途方に彷徨っていたところを、カノジョが現れて救いの手を差し伸べてくれた、所謂命の恩人というやつである。

 カノジョに出逢って以来、金髪の少女はカノジョを慕っているのだ。

 

「それにしても――――様の恩恵は素晴らしいです!こんなにも美味しそうなライ麦が実ってるのですから………!」

 

 ツインテールの少女はライ麦畑の穂波を手で撫でながらカノジョを褒める。

 カノジョは少女のべた褒めに苦笑するが、唯一誇れるこの土地を褒められて嬉々とした笑みを浮かべた。

 一方、金の髪のツインテールを揺らして少女が項垂れる。

 

「それに比べて私の恩恵は―――役立たずです………」

 

 しょんぼりと肩をガクリと落として項垂れるツインテールの少女。

 そう。ツインテールの少女は普通の人間ではない。〝 〟の恩恵を持つ――の末裔。

 しかし少女の恩恵はこの時期は―――寒冷化が酷いこの時期は〝 〟の恩恵は弱体化している為、意味をなさない。

 そもそも、ツインテールの少女が持つ恩恵は、作物等に無関係であるからそれ以前の問題だった。

 

 それを察したカノジョはクスリ、と笑ってツインテールの少女の金髪頭を優しく撫でて慰める。

 ツインテールの少女はカノジョからもたらされる恩恵(ぬくもり)にしょんぼりとしていた顔は一転して、微笑みに変わったのだった。

 

 だが二人は、すぐそこに迫ってきていた疫病に―――――〝黒死病(ペスト)〟に気付けなかった。

 

――――――――――

 

「………。十六夜?」

「お、起きたか。容体はどうだ?」

 

 耀は意識がはっきりとしない中、寝返りを打つと―――耀のベッドの脇に十六夜がいた。

 交渉から既に六日が経っており、〝ノーネーム〟の同士の中で、耀だけが黒死病を発症し、隔離部屋で黒ウサギ達と別行動になっている。

 そんな危険な部屋に、暢気に忍び込んできた十六夜に、耀は呆れながらも問いかける。

 

「ゲームクリアの、目処はたった?」

「んー………大まかには分かってるんだが、核心には至ってないってとこだな。大体の考察は終わってる。だけど、其処からの解釈に意見が分かれている感じだ」

「………具体的には?」

「ほい」

 

 十六夜が耀に考察したメモ用紙を見せる。

 

 

 ラッテン=ドイツ語でネズミの意。ネズミと人心を操る悪魔の具現。

 ヴェーザー=地災や河の氾濫、地盤の陥没などから生まれた悪魔の具現。

 シュトロム=ドイツ語で嵐の意。暴風雨などによる悪魔の具現。

 ペスト=斑模様の道化が黒死病の伝染元であったネズミを操ったことから推測。黒死病による悪魔の具現。

 

 

・偽りの伝承・真実の伝承が指すものとは、一二八四年六月二六日のハーメルンで起きた事実を右記の悪魔から選択するものと考察される。

 

 

「………?此処まで分かってるのに?」

「ああ。此処まで分かってるんだが………」

 

 十六夜の言葉の切れが悪くなる。言葉を選ぶようにポツポツと説明を始めた。

 

「春日部は以前、黒ウサギが俺達を召喚した時に言っていた、『立体交差並行世界論』って奴を覚えているか?」

「うん、知ってる」

「あれは箱庭に呼ぶ召喚式の一種で、多岐集結型って奴のパターンらしい。要約すると、―――『異なる事象が時間平行線で起きているにも拘わらず、結果が収束するクロスポイント』と言えば分かるか?」

「うん。時間平行線の交差点(クロスポイント)である絶対数α(130人の死)を求める数式Ω(殺害法)が、複数個あるってことだよね?」

 

 お?と一瞬首を傾げる十六夜。

 

「まあ………要点的にはそういうことだが。なんだ、春日部の説明の方が黒ウサギの説明より分かりやすいな。お嬢様に説明するときはそれでいこう」

「そう。それで?」

「つまり数式Ω(殺害法)=数式w(ヴェーザー)=数式x(ラッテン)=数式y(シュトロム)=数式z(ペスト)=絶対数α(130人の死)。この連結式が、連中の霊格を通常の悪魔共より高めているらしい。そして恐らくは、この中で=の繋がらない考察が………〝真実の伝承〟or〝偽りの伝承〟のはずなんだ」

 

 耀はケホッと咳き込み、発熱に苦しみながらも、身体を起こして問う。

 

「なら、真実は横に置いといて。十六夜は、どれが偽物だと思ってる?」

「数式z(ペスト)だ」

 

 十六夜は即答した。そして、そう結論付けた理由を言う。

 

「神隠し、暴風、地災。どれもが刹那的な死因であるにも拘わらず、黒死病だけが長期的な死因として描かれている。〝ハーメルンの笛吹き〟は一二八四年六月二六日という限られた時間内で一三〇人の生け贄が死ななければいけないんだ(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)」

「………?〝黒死斑の魔王(ブラック・パーチャー)〟が偽物のハーメルンなら、彼女を倒せばいいだけじゃ……?」

「それも考えた。だけどそれじゃ第一の勝利条件と被るんだ。こうやって黒死病に関する本も目を通してみたが……病原菌にはヒントはなさそうだ」

 

 十六夜は解けそうで解けないロジックを前に苛立っているのかブン、と本を壁に投げる。

 

「………例の一文も、部分的には解明できてるんだがな。『偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ』この伝承とは一対の同形状であり、〝砕き〟〝掲げる〟ことが出来る物と推測される。なら考えられるのはハーメルンの碑文と共に飾られた、ハーメルンの、ステンドグラスだ(・・・・・・・・)」

「ステンドグラス………ならもしかして、彼らが祭りに潜入した方法って、」

「そうだ。今回のゲームには参加者でも主催者でもないにも拘わらず、祭りに参加できる別枠が存在していたのさ。そしてそれは―――美術工芸の出展物(・・・・・・・・)。ハーメルンの笛吹きの魔道書(グリモア)の正体は恐らく、複数枚で綴られたステンドグラス状のもの。それを通じて奴等は祭典区画内に侵入したんだろ」

 

 次々と推測を並べる十六夜を、耀は感心半分、呆れ半分で見つめた。

 

「十六夜は………一体どんな頭の仕組みをしているの?」

「ん?見たいか?」

「見たい見たい」

「見せるかよ!」

 

 ヤハハハハハ!と笑う十六夜。

 

「………でも此処までだ。いや、正直参った。多分、展示された偽りのステンドグラスを砕いて、本物を掲げろってことなんだろうが………真偽の目処があやふやで、ペスト以外のどのステンドグラスを砕いて掲げればいいのかわからん。なんせ一〇〇枚以上もある。もう最後は天に運を任せて、明日のゲームで魔王を倒すしかねえのかな」

 

 天を仰ぎ、苦笑を洩らす十六夜。ゲーム再開まで二十時間を切っていた。

 

「〝真の芸術は己が宇宙に在り〟、か。いやいや、中々言い得てるぜ。このハーメルンの碑文もその側面がある。様々な考察と推測をすり合わせることで想像力を刺激し、グリム童話のような物語が創造されてきたんだろうが………今必要なのは真実だぜ、白夜叉」

 

 何時ぞやの白夜叉とのやり取りを思い出して笑う十六夜。

 耀は自棄気味の十六夜を見つめ、ふっと小さく笑った。

 

「………おい春日部。参ってる本人の前で笑うのはどうよ?」

「ごめん。だけど十六夜がそんな風に拗ねるのは珍しいなと思って。何時も自信満々で傲岸で自己中で周りの迷惑を全く気にしない唯我独尊な十六夜のそんな姿を見て、正直スッキリ」

「本音出しまくりか。いい根性してるぜ。………フン、お前の主様不在で一人の病室で寂しい思いしんてじゃねえかと思った」

 

 え?と耀は十六夜を見る。

 

「病は気からってな。身体が病むと心も病むもんだ。身体を病魔に蝕まれ、大好きな主様(・・・・・・)不在でこんな寂しい個室で辛いだろうと思って様子を見に来たってのに、酷い言われようだぜホント」

 

 十六夜は投げた本を拾って勢い良く座り込む。耀はバツが悪そうに頭を掻いて、

 

「………本当にごめん。君は、私が思うより優しい人だ」

「おう。俺の優しさに全米が涙してもいいんだぜ?」

「前言撤回。あと十六夜こそ病人の私をからかうなんて酷いよ………!」

「ヤハハ!俺を笑った罰だぜ?大好きな月夜様の眷属様(・・・・・・・・・・・)?」

「ま、また………っ!……………むぅ!」

 

 ぷくぅと頬を膨らませて怒る耀。ヤハハ!と笑う十六夜。月夜ネタに相変わらず弱いな、と。

 

「何にせよ、明日でゲームは決着だ。春日部はその調子だと出られないだろ?だから現状を知るぐらいはしておくべきだと思ってな。………最悪、魔王の首ぐらいは取ってやるさ」

「分かった。そういえば、白夜叉は?」

「例のバルコニーに封印されたまま接触禁止だと。結局、参戦条件も分からず仕舞い」

「そっか。………でも、どうやって封印したんだろうね?夜叉を封印するような一文がハーメルンの碑文にあるの?」

「まさか。夜叉はどちらかといえば仏神側だぞ。それに白夜叉は正しい意味での夜叉ではないらしい。本来持ってる白夜の星霊の力を封印する為に、仏門に下って霊格を落としてんだと」

「………本来の力?」

 

 ケホッと咳き込みながら耀が小首を傾げる。

 

「ああ。なんでも白夜叉は、箱庭の太陽の主権を持っているらしい。太陽そのものの属性と、太陽の運行を司る使命を―――」

 

 ―――ん?と。其処まで考えて、十六夜の脳裏に何かが引っ掛かった。

 

「(………太陽の運行(・・・・・)…………?……………………………………………。十四世紀と寒冷期(・・・・・・・・)?)」

 

 十六夜はふと黒死病に関する知識を脳内に反復させ、可笑しな点を見つける。

 そして十六夜が目を付けたのは、病状や潜伏期間ではなく、黒死病が流行した年代記だ。

 ハーメルンの碑文が、一二八四年。

 黒死病の大流行が始まったとされるのが、一三五〇年以後の数百年。

 つまり、黒死病の最盛期とハーメルンの碑文は―――時代背景が合わない事になる(・・・・・・・・・・・・・)。

 

「(まさか……ペストは碑文のハーメルンと、無関係の時代から来た悪魔なのか………!?)」

 

 十六夜は何かに駆られるように手にある本のページを捲り、その全てを記憶していく。

 

「黒死病が大流行した寒冷の原因は………太陽が氷河期に入り(・・・・・・・・・)、世界そのものが寒冷に見舞われたと推測される!そうか、これが白夜叉を封印したルールの正体か!」

 

 十六夜は獰猛な笑みを浮かべて叫ぶ。

 太陽の運行を司る白夜叉が封印されたのは、太陽の氷河期―――即ち、太陽の力が弱まっていたとされる年代記をなぞったゲームルールが組み込まれたのだろう。

 十六夜は黒死病の本を強く握り締め、〝偽りの伝承〟の意図を理解する。

 

「なら、連中は一二八四年のハーメルンじゃなく………ああクソッ!完全に騙されていたぜ〝黒死斑の魔王(ブラック・パーチャー)〟!!つまりお前達はグリム童話上の〝ハーメルンの笛吹き〟ではあっても、本物の(・・・)〝ハーメルンの笛吹き(・・・・・・・・・)〟じゃなかった(・・・・・・)ってことか………!!!」

 

 バタン!とドアを勢い良く開けて飛び出す。

 その際、十六夜は一度だけ耀に振り返った。

 

「ナイスだ春日部!おかげで謎が解けた!あとは任せて、枕高くして寝てな!」

「そう。頑張ってね」

 

 コホッ、と咳き込みながら耀は十六夜を見送る。理解できなかったが、十六夜は何かを掴んだのだろう。後の事は彼らに任せてベッドの中に潜り込む。

 ベッドの中には、ずっと話を伺っていた三毛猫がいた。

 

『あの小僧………信用して大丈夫なんかなあ、お嬢』

「大丈夫だよきっと。彼はアレで結構仲間想いみたいだし。それより、三毛猫は私といて大丈夫なの?病気がうつるかも」

『何、お嬢が心配することやないよ。生まれてからの十四年間、ずっと一緒やったんや。お嬢の腕の中で往生するのも悪くない』

「そう。―――ん?私って月夜の眷属で吸血鬼だよね………黒死病で死ぬのかな?」

『どうなんやろな………って嘘やろ!?これじゃあワシ一人の犬死にやないか!?』

「(犬死にって………。猫だよね、三毛猫は。―――っていうよりさっきと言ってることが違うけど?)」

 

 冷静にツッコミする耀だったが、あわあわする三毛猫を見て苦笑した。

 熱に(うな)されながらも耀は三毛猫を引き寄せ抱きしめ、戦いに赴く同士達に想いを馳せながら微睡みに落ちていく。

 意識が途切れる寸前、耀は行方が知れない友人と主兼ねメイドの事を思い出す。

 

「(飛鳥、月夜………無事だといいんだけど)」

 

 耀を守る為に、敵に捕まった飛鳥。

 胸を苛む申し訳なさと共に、父から譲り受けたペンダントを握り締める。

 さらに耀を第一に考え、己を顧みない月夜。

 彼女が黒ウサギの提案を一蹴しようとした本当の理由は―――耀の事が心配だったからだ。

 月夜は自身が弱いのもあるが、それよりも何よりも―――眷属(ムスメ)を大事に想う(ハハ)の気持ちの方が勝っていたのだ。

 他の皆は気が付かなかったが、耀だけはその事に気が付き、一人胸が暖かかった。レティシアとの義姉妹疑惑にはムッとしたが。

 

 

「(飛鳥、月夜……………どうか無事でいて―――!)」

 

 

 耀は二人の無事を祈りながら眠りに就くのだった。




〝 〟の恩恵は後に月夜が〝人類最終試練〟たらしめる異能(ギフト)です。
どんなギフトゲームかはまだ秘密ですが。
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