問題児たちが特異吸血鬼と共に箱庭に召喚されるそうですよ?―終焉なる真祖は月神の末裔!?―   作:問題児愛

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第十三話 魔王戦再開!―――最強問題児の頭脳(ちしき)と拳(ちから)は異常!?だそうだ!

「――――様、すみません………私が病弱なばかりに皆様に御迷惑を御掛けしてしまって……」

「〝   〟は悪くないわ。流行病に罹るな、って方が難しいもの」

 

 ケホッと咳き込みながら申し訳なさそうな顔をしてカノジョに謝る金髪ツインテールの幼い少女。この土地にも流行病に罹ってしまったものが出てしまったのだ。

 そんなツインテールの少女の金髪頭を何時ものように優しく撫でるカノジョは、こうして付きっきりで看病してあげていた。

 

「――――様。私と一緒に居ては伝染(うつ)ってしまいます。ですから―――」

「大丈夫よ。私は貴女ほど免疫力は弱くないわ。それに此処で貴女とお別れしてしまったら―――――二度と会えないような気がするのよ」

「――――様………」

 

 カノジョは首を横に振ってツインテールの少女の小さな手を握り締める。この手は絶対に離さない、と。

 だけどツインテールの少女は握り返さずに―――振り払った。

 

「………え?」

「ごめんなさい、――――様。気持ちはとても嬉しいのですが、そんなこと………私が許せません!」

 

 カバッと掛け布団を引っ剥いで立ち上がるツインテールの少女。

 それをカノジョは慌てて立ち上がって行く手を阻んだ。

 

「………っ!退いてください――――様!」

「断るわ!」

「どうしてですか!?」

「貴女が―――――死のうとしてるからに決まってるじゃない(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)!!」

「―――――ッ!!?」

 

 ツインテールの少女は驚愕した。

 カノジョがそれを悟ったことと―――涙を流しながら叫んでいたことに驚いたのだ。

 カノジョは驚愕して固まっているツインテールの少女に歩み寄って、強く、固く、ほどけることがないように抱き締めた。

 

「貴女の眼は………死ぬ覚悟がある者の眼だもの。……………そんな真似、絶対にさせないわ!!断固拒否ッ!!却下ッ!!」

「だ、駄目です!………私が生きていては感染は拡大してしまいます!今はまだ誰も伝染って―――」

「そんなの関係無いわ!」

「………っ!?」

「私は!伝染る伝染らないよりも!貴女が―――――貴女が死ぬ方が嫌ッ!!」

 

 カノジョはありったけの声で叫んで、ありったけの力で抱きしめて、ツインテールの少女を引き止める。

 ツインテールの少女は、カノジョのその言葉に泣きそうになるが、そんなことをしてしまえば死の覚悟が揺らいでしまう。

 それにカノジョにこれ以上迷惑を掛けるわけにはいかない。

 ツインテールの少女はカノジョに微笑んで言う。

 

「―――分かりました。――――様が其処まで仰るのでしたら、私は貴女様の言うことを聞きます」

「………本当に?」

「はい。ですから―――」

 

 ツインテールの少女はカノジョの額に小さな指を押し当てて魔術(あんじ)を掛けた。

 

「――――様。どうか私を―――――殺してください(・・・・・・・)」

「――――――――――わかったわ」

 

 カノジョは魔術を掛けられると、従順よく動いて―――三日月のような鎌を手に取る。

 そしてそれで―――――金髪ツインテールの幼い少女の、心臓を貫いた(・・・・・・)。

 その瞬間にカノジョに掛けられていた魔術は解け、

 

「………え?」

 

 三日月の鎌はツインテールの少女の鮮血()で塗れ、夥しい鮮血が飛沫、カノジョの服を真紅に染め上げる。

 そして金の髪を揺らして少女は、走馬灯のようにゆっくりと倒れ落ちた。

 

「―――――ッ!!?〝   〟ッ!?」

 

 ツインテールの少女の名を悲痛に叫ぶカノジョ。

 すると、ツインテールの少女は小さな手を、カノジョの頬にあてて―――最期にこう言い残したのだった。

 

 

「あり、が……とう。―――――ご、めんな………さい」

 

――――――――――

 

 いつの間にか眠っていたペストはふっと、眠りから目を覚ます。

 下を見ると愛らしい寝顔のライムが―――否。夢に出てきた金髪ツインテールの幼い少女〝   〟が寝息を立てて眠っていた。

 ペストは生前の頃と同じように、ライムの金髪頭を優しく撫でて微笑を浮かべる。

 

「……………まさかこんな近くに居たなんて、ね」

 

 今までどうして気づけなかったのだろう、とペストは思わず苦笑した。

 

「貴女が私が失った………私の義妹のような娘〝   〟。なんで吸血鬼の真祖なんかになったの?」

「…………………………」

「って私の黒死病に斃れてるんだったわね………」

 

 ペストはライムの金の髪のツインテールを指先でクルクルと弄んでまた苦笑。

 

「まあ起きたら起きたで、貴女には色々と訊きたい事が山程あるのだけれどね」

 

 今度は少し黒みがかった笑みを浮かべてペストはニヤリと笑う。

 だが同時に強く決意した。

 

 

『このゲームは絶対に負けられない』と。

 

――――――――――

 

「今回のゲームの行動方針が決まりました。動ける参加者にはそれぞれ重要な役割を果たしていただきます。ご静聴ください………マンドラ兄様。お願いします」

 

 サンドラが促すと、傍に控えていたマンドラは軍服を正し、読み上げた。

 

 

「其の一。三体の悪魔は〝サラマンドラ〟とジン=ラッセル率いる〝ノーネーム〟が戦う。

 其の二。その他の者は、各所に配置された一三〇枚のステンドグラスの捜索。

 其の三。発見した者は指揮者に指示を仰ぎ、ルールに従って破壊、もしくは保護すること」

 

 

「ありがとうございます。―――以上が、参加者側の方針です。魔王とのラストゲーム、気を引き締めて戦いに臨んで下さい」

 

 おおと雄叫びが上がる。クリアに向けて明確な方針が出来た事で士気が上がったのだろう。

 魔王のゲームに勝つため、参加者は一斉に行動を開始する。

 

――――――――――

 

「マスターマスター。どうやら連中、私達の謎を解いちゃったそうですよー?」

「チッ。ギリギリまで最後の謎は解かれないだろうと踏んでいたんだがな」

 

 ラッテンは配下のネズミに情報収集させ、ヴェーザーは黒い短髪を掻き上げ愚痴る。

 ペストは立ち上がり、後ろで両手を組む。

 

「………構わないわ。最悪の場合は皆殺しにすればいいだけよ」

 

 悠々としたその姿勢のままヴェーザーとラッテンに振り返り、

 

「―――ハーメルンの魔書を起動するわ。謎を解かれた以上、温存する理由はないもの」

 

 ペストの言葉に、ラッテンとヴェーザーは凶悪な笑みを浮かべて立ち上がる。

 

「ふふ~ん。いよいよもって盛り上がってきましたねーマスター♪」

「おい、油断するなよラッテン。参加者側には〝箱庭の貴族〟もいる」

「………やっぱり凄いの?〝月の兎〟って」

「ああ。一度戦っているところを見たが、並みの神仏じゃ歯が立たん。アレは正真正銘、最強種の眷属だ。授けられているギフトの数が違う。俺やお前じゃ、とても抑えられんだろうな」

 

 苦い顔で呟くヴェーザーとラッテン。

 そんな二人に、ペストは微かに笑い掛けた。

 

「そっ。なら魔書の他に、もう一つ策を設けるわ」

「策?」

 

 ペストは悠然と歩み寄り、綺麗な指先を伸ばしてヴェーザーの額に押し付ける。

 

「ヴェーザー。貴方に神格を与えるわ。開幕と同時に、魔王の恐怖を教えてあげなさい」

 

――――――――――

 

「なっ………何処だ此処は!?」

 

 参加者の誰かが、驚愕の声を上げた。

 見渡せば数多の尖塔群のアーチは劇的に変化し、木造の街並みに姿を変えている。

 黄昏時を彷彿させるペンダントランプの煌めきは無くなり、パステルカラーの建築物が一帯を造り変えている。

 境界壁の麓は全く別の街へと変貌していた。

 ステンドグラスの捜索側に回っていたジンは、蒼白になりながら叫ぶ。

 

「まさか、ハーメルンの魔道書の力…………ならこの舞台は、ハーメルンの街!?」

「何ッ!?」

 

 マンドラがその声に振り返る。その間も混乱は広がりをみせ、士気高く飛び出した参加者達は余りの劇的な変化に出鼻を挫かれたように足を止めた。

 

「こ、ここは一体!?」

「それに今の地鳴りは!?」

「まさか魔王の仕掛けた罠か!?」

 

 ザワザワと動揺が感染していく。マンドラはチッ、と舌打ちしながらも一喝する。

 

「うろたえるな!各人、振り分けられたステンドグラスの確保に急げ!」

「し、しかしマンドラ様!地の利も無く、ステンドグラスの配置もどうなっているか分からないままでは、」

「安心しろ!案内役ならば此処にいる!」

 

 ガシッ!とマンドラがジンの肩を持つ。

 

「え?」

「知りうる限りで構わん。参加者に状況を説明しろ」

「け、けど、僕も詳しいわけでは、」

「だから知りうる限りで構わんと言っているだろうがッ。貴様が多少なりとも情報を持っている事は既に知れ渡っている。お前の言葉ならば信用するもいるだろう!とにかく動きださねば、二十四時間などすぐに過ぎ去るぞ!」

 

 ぐっとジンも反論を呑み込む。十六夜なら………と捜すが彼は此処にはいない。時間も決められているから悠長にしている暇はない。

 ジンは意を決したように捜索隊の前に立つ。

 

「ま、まずは………教会を捜して下さい!ハーメルンの街を舞台にしたゲーム盤なら、縁のある場所にステンドグラスが隠されているはず。〝偽りの伝承〟か〝真実の伝承〟かは、発見した後に指示を仰いでください!」

 

 ジンの一声で捜索隊が一斉に動き始めるのだった。

 

――――――――――

 

「へえ………?地精寄りの悪魔とは思っていたが、地殻変動そのものを引き起こすとは恐れ入った。そんな地力があったなんてな。それにこの街の建築様式………ハッ、なるほど。ゴシック調の街からルネサンス調に変われば、そりゃ仕込んだ種も割れるって話だ」

 

 街中で一番大きな建物に登り、一帯を見回す。

 ハーメルンの伝承に基づいた場所だけは精巧に造り出されていた。

 

「街道は結構滅茶苦茶だが………あそこにあるのがマルクト教会に、ブンゲローゼン通りかな。押さえるところは押さえているって訳か。さて、どっちから向かうべきか―――」

「―――その前に、決着と行こうぜ坊主ッ!!」

 

 一喝、十六夜の足場にしていた家が真下から吹き飛んだ。

 建築物の地盤ごと砕かれ、木造の建築は跡形も無く粉砕する。

 声に反応した十六夜は反射的に上空へ跳び退いたが、追い打ちをかける様に地面から飛び出したヴェーザーに顔を掴まれる。

 

「テメェ………!」

「前回のお返しだ!先手は譲ってもらうぞッ!!」

 

 棍に似た巨大な笛で、十六夜の腹部を強打する。

 先日とは比べ物にならない巨大な力が宿った一撃は、超振動のように十六夜の身体に浸透し、十六夜はハーメルンの街に流れるヴェーザー河の水面を何度も弾いて、対岸に叩き付けられる。

 ペッ、と血反吐を吐き捨てて十六夜は立ち上がり、口元を拭いながら睨んだ。

 

「………やるじゃねえか。今のは相当効いたぞ」

「当たり前だ。前回と同じと思って油断なんかすんじゃねえぞ坊主。こっちは召喚されて以来、初めての神格を得たんだ。簡単に終わったら興ざめするってもんだ」

「何?」

 

 十六夜が訝しげにヴェーザーを睨むと、ヴェーザーはクックッと牙を剥いて笑って棍を横一閃に薙ぐ。

 すると大地は地鳴りを始め、震動を起こし始めた。

 

「ああ、そうだ。これが〝神格〟を得た悪魔の力……!クク、とんでもねえぜ坊主!一三〇人ぽっちの死の功績なんざ比較にならねえ!今の俺は、星の地殻そのものに匹敵する!」

 

 更に横一閃。星の地殻変動に比するという衝撃は大気を伝達し、ヴェーザー河を叩き割って氾濫させ、河の流れさえも逆流し、隣接する建造物を軒並み粉々に打ち砕いた。

 目に見えて立ち昇るヴェーザーの力に、十六夜は不敵な笑みを零す。

 

「………ハッ、なんだよ。少し楽しめればそれでいいと思っていたのに、随分と俺好みなバージョンアップをしてきたじゃねえか。嬉しいぜ、本物の(・・・)〝ハーメルンの笛吹き(・・・・・・・・・)〟?」

「謎を解いたのはやはりお前か、坊主」

「ああ。だけど土壇場まで騙されてた。お前以外のメンバー全員は偽物。十四世紀以後の黒死病の大流行と共に後付けされた、一五〇〇年代以降のハーメルンの笛吹きの伝承だったのさ(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)」

 

 

 ―――一二八四年 ヨハネとパウロの日 六月二六日

    あらゆる色で着飾った笛吹き男に一三〇人のハーメルン生まれの子供らが誘い出され、

    丘の近くの処刑場で姿を消した―――

 

 

 本来の伝承と碑文には、ネズミを操る道化師が出現してこない(・・・・・・・・・・・・・・・・・)。ハーメルンの笛吹きにネズミとネズミを操る道化師が現れるのは、黒死病の最盛期である一五〇〇年代からの事なのだ。

 

「グリム童話の魔書に描かれてる、伝承とは異なる童話の悪魔(・・・・・・・・・・・・)。それが〝ネズミ捕りの道化(ラッテンフェンガー)〟と呼ばれる偽のハーメルンの笛吹き。それにこのハーメルンの街並み………『ヴェーザー・ルネサンス建築』って言うんだっけか?このパステルカラーの街並みは。これも十五世紀後期からの出現だ。最初からハーメルンの魔書を開かなかったのは、年代を特定されない為だろ?ゴシック調の造りが目立つ境界壁の街から、ルネサンス調の街に変われば異変は浮き彫りだ」

 

 十六夜の問いに、肩を竦めて返すヴェーザー。

 

「これで黒死病・ネズミ使いの二人は偽物だと断定できる。ハーメルンの笛吹きの考察に黒死病が現れたのは、斑模様であること以上に、伝染元のネズミが原因だったからだ」

「……………」

「〝シュトロム〟も本物かと見せかけて、あれはフェイク。何故なら、碑文の〝丘の近くで姿を消した〟の一文の〝丘〟とは、ヴェーザー河に繋がる丘を指し、天災で子供達が亡くなった象徴とされる。つまりシュトロムもまた、ヴェーザー河の存在を指す。あの巨兵は恐らく、お前達が子飼いにしている、ハーメルンと無関係の怪物か何かだろう。―――よってヴェーザー。アンタだけが、本来のハーメルンの笛吹きの碑文に沿った悪魔だったということになる」

 

 ビッとヴェーザーを指さす十六夜。

 

「そしてハーメルンの魔道書。あれは箱庭に召喚する際に、立体交差する時間軸のクロスポイントを、一二八四年から一五〇〇年以降の〝ハーメルンの笛吹き〟に沿って発生させ召喚するギフト。もし召喚式である魔道書を破壊すれば………さて、何が起こるだろうな?白夜叉の封印が解けて、お前達はみんな消えるとか?」

 

 十六夜の考察に、ひたすら沈黙のヴェーザー。

 それを是と取った十六夜は、最後をこう締め括る。

 

「ハーメルンの伝承と黒死病の年代記が同一視される様になった背景には、諸説あると考えていたんだが………お前が神格を得たことで一つ、大きな候補が浮上した」

 

 十六夜は背筋に心地良い冷や汗を流しながら、魔王の正体を指摘する。

 

「ハーメルンの伝承にある道化師と、黒死病の伝染元のネズミ。この二つは共通した異名がある。その異名こそ、死を運ぶ者。即ち………〝死神〟だ」

 

 ―――神霊・〝黒死斑の死神〟

 十六夜はそう推測した。

 考察を聞き終えたヴェーザーは、心底珍しい珍獣を見る様にまじまじと十六夜の顔を見つめ、

 

「はあー………おい、坊主」

「なんだ?訂正があるなら聞くぜ?」

「いいや全然。つーかなんだ、アレだ。お前やっぱり此方側に移籍しろよ。お前は絶対に、魔王側の方が舞台映えするぜ?」

 

 ヴェーザーの半ば以上本気の勧誘を、十六夜は弾けるような笑いで否定した。

 

「悪いが御断りだ。魔王も面白そうだけど、今は他に目標があるからな」

「そうかよ。けどタイムアップを狙わせてくれるほど手ぬるい相手じゃねえしなあ………」

 

 ヴェーザーは一転、鬼気迫る闘志を放出し、

 

「しょうがねえ。やっぱ死んどけ坊主ッ!!」

「こっちの台詞だ木っ端悪魔ッ!!」

 

 怒号を上げてぶつかり合うヴェーザーと十六夜の衝撃は、ハーメルンの街だけに留まらず、一帯の土地の全てを揺り動かす。

 強大な振動を操るヴェーザーの棍を掻い潜り、蹴りを入れる十六夜だが、体勢が悪くその強襲を紙一重でかわされる。

 振り下ろしたヴェーザーの一撃を、十六夜は身体を回転させることで受け流す。捌かれた一撃は地盤を打ち砕き、宛ら星の揺らぎの如く地響きを上げて粉砕していく。

 

「カッ、何も力だけじゃねえんだぜ坊主ッ!!」

 

 風切り音を上げる巨大な魔笛。

 大地と河川は応ずるように十六夜の足場を崩し、同時に打ち上げた。空中高く放り上げられた十六夜は、先程までの退屈な表情を拭い、心底楽しそうにヴェーザーを睨む。

 

「いいぜいいぜいいなオイ………!最高に盛り上がってきたぞ!」

 

 自由落下する十六夜と眼下で待ち構えるヴェーザー。

 ヴェーザーの地殻変動に比する力を前に、十六夜は拳一つで立ち向かうのだった。

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