問題児たちが特異吸血鬼と共に箱庭に召喚されるそうですよ?―終焉なる真祖は月神の末裔!?―   作:問題児愛

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〝世界の果て〟編をオールで書いたら10000字超えてしまった………


第二話 〝世界の果て〟へ向かう問題児と真祖とウサギであるぞ?

「ジン坊っちゃーン!新しい方を連れてきましたよー!」

「お帰り、黒ウサギ。そちらの女性二人が?」

「はいな、こちらの御四人様が―――」

 

 クルリ、と振り返る黒ウサギ。だが、居たのは二人だけ。あと二人は?カチン、と固まった。

 

「………え、あれ?もう二人いませんでしたっけ?ちょっと目つきが悪くて、かなり口が悪くて、全身から〝俺問題児!〟ってオーラを放っている殿方と、見た目と口調が全く一致しない吸血鬼のお子様が」

「ああ、十六夜君と月夜のこと?彼らなら〝ちょっと世界の果てを見てくるぜ!〟〝ふむ。面白そうだから我も付いていこう!〟と言って駆け出して行ったわ。あっちの方に」

 

 飛鳥の指さす先は上空4000mから見えた断崖絶壁。

 街道の真ん中で呆然と立ち尽くす黒ウサギは、ウサ耳を逆立てて飛鳥と耀に問い質す。

 

「な、なんで止めてくれなかったんですか!」

「〝止めてくれるなよ〟と言われたもの」

「ならどうして黒ウサギに教えてくれなかったのですか!?」

「〝黒ウサギ等に言う必要はない!〟と言われたから」

「嘘です、絶対嘘です!実は面倒臭かっただけでしょう御二人さん!」

「「うん」」

 

 ガクリ、と前のめりに倒れる。まさか新たな人材がこんな問題児ばかりだったとは、と。

 そんな黒ウサギとは対照的に、ジンが青ざめて叫んだ。

 

「た、大変です!〝世界の果て〟にはギフトゲームのため野放しにされている幻獣が」

「「幻獣?」」

「は、はい。ギフトを持った獣を指す言葉で、特に〝世界の果て〟付近には強力なギフトを持ったものがいます。出くわせば最後、とても人間では太刀打ち出来ません!」

「あら、それは残念。もう彼らはゲームオーバー?」

「ゲーム参加前にゲームオーバー?………斬新?」

「冗談を言っている場合じゃありません!」

 

 事の重大さを必死に訴えるジン。しかし叱られる飛鳥と耀は肩を竦めるだけ。

 溜め息を吐きつつ黒ウサギは立ち上がる。

 

「はあ………ジン坊っちゃん。申し訳ありませんが、御二人様のご案内をお願いしてもよろしいでしょうか?」

「わかった。黒ウサギはどうする?」

「問題児達を捕まえに参ります。事のついでに―――〝箱庭の貴族〟と謳われるこのウサギを馬鹿にしたこと、骨の髄まで後悔させてやります」

 

――――――――――

 

 黒ウサギ達からコッソリ抜け出した十六夜と月夜は、現在、〝世界の果て〟を目指して森林を突き進んでいた。―――十六夜が月夜を脇に抱えた状態で。

 

「ぬぅ。真祖たる我が人間より走力で劣り、あまつさえ脇に抱えられるとは………己の不甲斐なさには呆れるばかりだ」

「ヤハハ、吸血鬼(オマエ)の本領発揮は夜だろ。今は昼間、仕方がないさ」

 

 唸る月夜にヤハハと笑って応える十六夜。

 吸血鬼は太陽に弱い。そのせいで月夜も力が弱まり、このような失態をおかしているのだ。

 ―――というよりも、人間である十六夜の方が異常なのだが。

 十六夜の指摘に、月夜はクスリと笑って返す。

 

「ふふ、そうだな。夜になればお主と同速で駆けることなど、真祖の我には造作もない事であるからな!」

 

〝造作もない〟と聞いて、十六夜は瞳を光らせる。

 

「へえ?そいつは楽しみだ!夜になったら競争しようぜ?」

「………競争とな?」

 

〝競争しよう〟と聞いて、月夜は小首を傾げる。

 真祖の彼女に、しかも夜という吸血鬼にとって有利な時間帯に競争を持ち掛けたのだから不思議に思ったのだろう。

 それを察しても、十六夜は不敵な笑みを浮かべながら続ける。

 

「ああ。俺とお前、どっちが早いかかけっこで勝負、ってことだ」

「ほう?中々面白い事を言うな。お主が真祖(われ)に敵うとでも?」

 

 挑発的な笑みで問う月夜。それに十六夜も挑発的な笑みで返す。

 

「ハッ、そんなのやってみなきゃ分からねえだろ。俺も今のが本気ってわけじゃねえしな」

「なに?まだ速くなるのか!?」

 

 月夜は目を見開いて驚いた。

 ただでさえ彼の駆ける速度は人智を超越したものだというのに、まだ速くなるというものだったからそれに驚いたのだろう。

 その表情を見た十六夜はニヤリと笑って答える。

 

「ああ。だから夜、競争しようぜ?真祖様」

「………ふむ。そこまで頼み込まれては断るのは失礼だな。良いだろう。その代わり、間抜け面を拝ませるなよ?」

「ハハ、それはこっちの台詞だ。駄真祖」

 

 挑発的な笑みを交わし合う月夜と十六夜。案外この二人は似た者同士かもしれない。

 そんな会話をしているうちに、森林を抜けて大河の岸辺に出る。

 神秘的な光景を目の当たりにした十六夜と月夜は、思わず感嘆の声を上げた。

 

「ハハ、これはすげえな!この先に〝世界の果て〟ってのがあんのか!?」

「うむ。そうであろうな!ならばそこへ向かって―――」

『―――こんなところに人間が迷い込んでくるとはな。だが此処は我が領域だ。早急に立ち去れ人間共』

「ぬ?」

「あん?」

 

 後方から威厳のある声音で問いかける『何か』。

 月夜と十六夜はその声に反応して振り返るとそこには―――身の丈三〇尺強はある巨躯の白い大蛇が二人を見下ろしていた。

 それを見た十六夜と月夜は各々に呟く。

 

「へえ?随分とデカイ白ヘビじゃねえか!」

「………これ程の巨躯な大蛇は我も見たことないぞ!?」

『ヘビヘビと五月蝿いわ!貴様らが此処へ来たということは―――我が試練をやる為か?』

「………試練とな?」

 

 怒りながらも口にした〝試練〟の単語を聞いた月夜は小首を傾げて聞き返す。

 

『ああ。試練には〝力〟〝知恵〟〝勇気〟の三つのうち、好きなものを一つ選んでそれを示す、というものだ』

「ほう?そういうことか。では」

「おい、そこのオマエ」

 

 月夜の言葉を遮るように十六夜が割り込む。

 

『なんだ?』

「さっきから試練試練とか言ってるがまさか―――俺達を試そうだなんて、上から目線で素敵なこと言わねえよな?」

 

 不機嫌そうな声音で問う十六夜。だがそうとは知らずに巨躯の大蛇はニヤリと笑って答える。

 

『ああ、そうだ。―――して、我の試練に挑むのは小僧、貴様か?それとも』「―――カッ、いいぜ?そっちがその気なら―――――オマエが俺を試せるか、試してやるよ!」

『何!?―――グガァアッ!??』

 

 物騒に笑った十六夜は、地を踏み砕く勢いで跳び上がり、巨躯の大蛇の脳天を―――力任せに殴り付けた。

 視界がぐらつく程の一撃を受けた巨躯の大蛇は、苦悶の声を上げて顔から水面に突っ込んだ。そして、ザバァーン!と巨大な水柱を上げた。

 その光景に月夜は目を丸くしてただ見ていた。

 

「………容赦無いな、お主」

「当然。俺を見下した罰って奴さ」

 

 ケラケラと笑う十六夜。そんな彼に月夜が失笑していると、『何か』が森林から飛び出してきた。

 

「この辺りのはず………」

「あれ、お前黒ウサギか?どうしたんだその髪の色」

「ん?―――本当だな。黒ウサギならぬ紅ウサギであるか?」

 

 森林から飛び出してきた『何か』は―――黒髪を緋色に染め上げていた黒ウサギだった。

 その彼女に十六夜と月夜は首を傾げながら訊ねる。

 一方、黒ウサギは背後から聞こえてきた問題児こと十六夜と月夜の無事を確認した。―――が、胸中には湧き上がる安堵はなく、散々振り回されたせいで限界を迎えていた。怒髪天を衝くような怒りを込め、勢いよく振り返った。

 

 

「もう、一体何処まで来ているんですか!?あと紅ウサギではなく黒ウサギは黒ウサギです!!」

「〝世界の果て〟まで来ているんですよ、っと。まあそんなに怒るなよ」

「紅ウサギではなくて黒ウサギであったか。いやはやそれは済まぬかった」

 

 肩を竦める十六夜と口元に手を持っていってクスリと笑う月夜。そんな彼らに傷は無い。代わりに落下した時よりびしょ濡れだった。

 十六夜は黒ウサギの脚を見てニヤリと笑って呟く。

 

「しかしいい脚だな。遊んでいたとはいえこんな短時間で俺達に追いつけるとは思わなかった」

「我はお主に抱えられておったからカウントするでない」

「おっと、悪いな」

 

 月夜の指摘にヤハハと笑って返す十六夜。

 一方で黒ウサギは当たり前の事を聞かれてムッと剥れる。

 

「むっ、当然です。黒ウサギは〝箱庭の貴族〟と謳われる優秀な貴種です。その黒ウサギが」

 

 アレ?と黒ウサギは首を傾げる。

 

「(黒ウサギが………半刻以上もの時間、追いつけなかった………?)」

 

 ウサギは箱庭の世界で創始者(帝釈天)の眷属である。

 疾風より速く、力では生半可な修羅神仏など眼がない程の実力を持っている。

 その黒ウサギに悟られずに姿を消したり、追いつけなかったりと、思い返せば人間とは思えない身体能力だった。

 

「………?どうかしたか、黒ウサギ?」

 

 考え込んでいる黒ウサギを心配してか、月夜が声を掛ける。

 黒ウサギはその声にハッとして我に返った。

 

「ま、まあ、それはともかく!十六夜さんも月夜さんも無事でよかったデス。水神のゲームに挑んだと聞いて肝を冷やしましたよ」

「ぬ?ああ、其奴なら十六夜が既に挑んでおるぞ?」

 

 え?と黒ウサギは硬直。

 そして十六夜が川面にうっすらと浮かぶ白くて長いモノ―――巨躯の大蛇を指さして告げる。

 

「水神?―――ああ、アレのことか?」

 

 さらに、え?と黒ウサギが硬直。

 そして―――巨躯の大蛇は鎌首を起こし、

 

『まだ………まだ試練は終わってないぞ、小僧ォ!!』

 

 黒ウサギは巨躯の大蛇を目の当たりにして叫んだ。

 

「蛇神………!って、どうやったらこんなに怒らせられるんですか十六夜さん!?」

 

 ケラケラと笑う十六夜は、事の顛末を話す。

 

「なんか偉そうに『試練を選べ』とかなんとか、上から目線で素敵なこと言ってくれたからよ。俺を試せるかどうか試させてもらったのさ。結果はまあ、残念な奴だったが」

『貴様………付け上がるな人間!我がこの程度の事で倒れるか!!』

 

 蛇神の甲高い咆哮が響き、牙と瞳を光らせる。巻き上がる風が水柱を上げて立ち上る。

 黒ウサギは十六夜の身の危険を察して庇おうとする。

 

「十六夜さん、下がって!」

 

 庇おうとするが、鋭い視線で十六夜はそれを阻む。

 

「何を言ってやがる。下がるのはテメェだろうが黒ウサギ。これは俺が売って、奴が買った喧嘩だ。手を出せばお前から潰すぞ」

 

 本気の殺気が籠った声音の十六夜。月夜もその意見に賛同する。

 

「そうだな。人の獲物を横取りするような真似は、我もいけすかん。大丈夫。彼は負けぬよ―――真祖(われ)が保証する」

「は?な、何を根拠に言ってるんですか月夜さん!?」

 

 何の根拠でその様な事を口に出来るのか、と黒ウサギは怒る。とはいえ始まってしまったゲームには手出し出来ないことに気づき、黒ウサギは歯噛みする。

 一方で、己の力に期待してくれてる真祖の少女に、ニヤリと笑って応える。

 

「ヤハハ、真祖(アンタ)に期待されちゃやるしかねえよな!まあ、俺が負けるわけないが」

 

 十六夜の言葉を聞いた蛇神は息を荒くして応える。

 

『心意気は買ってやる。それに免じ、この一撃を凌げば貴様の勝利を認めてやる』

「寝言は寝て言え。決闘は勝者が決まって終わるんじゃない。敗者を決めて終わるんだよ」

 

 追求するまでも無く、勝者は既決している。

 その傲慢極まりない台詞に、黒ウサギと蛇神は呆れて閉口。月夜は愉悦の笑みを浮かべている。

 

『フン―――その戯言が貴様の最期だ!』

 

 蛇神の雄叫びに呼応し、嵐の様に川の水が巻き上がる。竜巻の様に渦巻く水柱は蛇神の丈より遥かに高く舞い上がり、何百tもの水を吸い上げる。

 竜巻く水柱は計三本。それぞれが生き物の様に唸り、蛇の様に襲い掛かる。

 この力こそ時に嵐を呼び、時に生態系さえ崩す、〝神格〟のギフトを持つ者の力だった。

 

「十六夜さん!」

 

 黒ウサギが叫ぶが、もう遅い。

 竜巻く水柱は川辺を抉り、木々をねじ切り、十六夜の体を激流に呑み込む―――!

 

「―――ハッ―――しゃらくせえ!!」

 

 突如発生した、嵐を超える暴力の渦。

 十六夜は竜巻く激流の中、ただ腕の一振りで嵐を薙ぎ払ったのだ。

 

「………ほう」

「嘘!?」

『馬鹿な!?』

 

 驚愕する黒ウサギと蛇神。対照的に感心そうに笑う月夜。―――が、突如異変が起きた。それは―――

 

「え!?」

『何!?』

 

 十六夜が薙ぎ払った竜巻く水柱は不規則に曲がると―――月夜目掛けて直進してきたのだ。

 月夜は目を見開いて驚くが、十六夜の笑みを見た瞬間―――これは彼の意図的なものだと分かり、溜め息を吐いた。

 

「十六夜め、図ったな?―――仕方がない。真祖たる我が力を魅せてやるか!」

 

 月夜は己の唇を噛み切って、鮮血()を飲むと―――紅き瞳の輝きは増し、さらに指を噛み切り、その指を振って鮮血を宙に舞わす。

 三日月形に鮮血を宙に舞わした後、それを掴み取る様に握る。すると―――

 

『「は?」』

「………へえ?」

 

 ―――鮮血で出来た真紅の鎌が現れたのだ。そしてそれで、

 

「………フン!」

 

 竜巻く水柱を―――真っ二つに斬り裂いた。

 

「は、はい!?」

『な、何だと!?』

「ハハ、マジかよ!流石は真祖様だ!」

『「し、真祖………!?」』

 

〝真祖〟と聞いて、黒ウサギと蛇神は驚愕して固まる。

 逆廻十六夜は人智を遥かに超越した力を持ち。

 紅月夜は吸血鬼の先祖にして真祖。吸血鬼の中でも最高クラスの怪物。

 蛇神はそんな怪物二人の喧嘩を買った(月夜は喧嘩を売ってないが)のは何と愚かだったか、と呆然としていると、十六夜が獰猛な笑いを浮かべて、

 

「ま、中々だったぜオマエ」

 

 大地を踏み砕くような爆音。胸元に跳び込んだ十六夜の蹴りは蛇神の胴体を打ち、蛇神の巨躯は空中高く打ち上げられて川に落下した。その衝撃で川が氾濫し、水で森林が浸水する。

 また全身を濡らした十六夜はバツが悪そうに川辺に戻った。

 

「くそ、今日はよく濡れる日だ。クリーニング代ぐらいは出るんだよな黒ウサギ」

「………濡れたのはお主だけではないぞ?他の事にも気を使ってもらいたいものだな」

「お、おう………そいつは悪かったな」

 

 若干不機嫌そうな声音で話し掛ける月夜。巻き添えを食らって水を被ったのだからそうなるのは仕方がないだろう。

 十六夜はそれを苦笑で返した。

 一方、黒ウサギの頭の中はパニックに陥っていた。

 

(人間が………神格を倒した!?それも只の腕力で!?そんなデタラメが―――!)

 

 ハッと黒ウサギは思い出す。彼らを召喚するギフトを与えた〝主催者〟の言葉を。

 

「彼らは間違いなく―――人類と鬼種最高クラスのギフト保持者よ、黒ウサギ」

 

 黒ウサギはその言葉を、リップサービスか何かだと思っていた。信用できる相手だったが、彼女自身も〝主催者〟の言葉を眉唾に思っていた。

 

「(信じられない………だけど、本当に最高クラスのギフトを所持しているのなら………!私達のコミュニティ再建も、本当に夢じゃないかもしれない!)」

 

 内心の興奮冷めやらぬ黒ウサギは、鼓動が速くなるのを感じ取っていた。

 そんな彼女に忍び寄る―――二つの影。

 

「おい、どうした?ボーっとしてると胸とか脚とか揉むぞ?」

「ふははは!では我もお主がどのような下着を穿いているかチェックさせてもらうとしよう!」

「え、きゃあ!」

 

 十六夜は黒ウサギの背後に回って腋下から豊満な胸に、ミニスカートとガーターの間から脚の内股に絡むように手を伸ばしていた。

 月夜に至ってはその小柄な体型(身長が)を良いことに、黒ウサギの真正面から堂々とミニスカートの裾を摘まみ捲り上げようとしていた。

 黒ウサギは身の危険を感じ取ると、十六夜を押し退けて飛び退き、感動を忘れて叫ぶ。

 

「な、ば、おば、十六夜さんはお馬鹿です!?二百年守ってきた黒ウサギの貞操に傷をつけるつもりですか!?月夜さんも月夜さんです!なに黒ウサギのスカートの中を覗き見ようとするのですか!?」

「二百年守った貞操?うわ、超傷つけたい」

「くく、お主のスカートの丈が短いのは『どうぞ捲ってください』という意味ではないのか?」

「お馬鹿!?いいえ、お馬鹿!!!―――そんなわけないのですよこのお馬鹿様!!!」

 

 十六夜を疑問形から確定形に言い直し罵り、月夜のお馬鹿発言にも盛大に罵った。

 

「ま、今はいいや。後々の楽しみにとっとこう」

「さ、左様デスか」

「ふむ。では我が先程の続きを」

「させないと言ったはずですよ!?この駄真祖!!!」

「うぎゃっ!?」

 

 ズビシッ!と黒ウサギの渾身の手刀が月夜の金髪頭に一閃された。

 その一撃を見舞われた月夜は、己の金髪頭を押さえながら涙目で黒ウサギを睨んだ。

 それを見た十六夜は、ニヤリと笑って―――

 

「いぎゃっ!?」

 

 ズビシッ!!と黒ウサギが放った一撃よりさらに強力な手刀を十六夜が月夜の能天に一閃する。

 先程より強力な一撃を見舞われた月夜は、泣きそうな表情で己の金髪頭を押さえ遂に―――その場にしゃがみ込んで蹲った。

 喩え吸血鬼でも。

 喩え真祖でも。

 痛いものは痛いのだ。

 その姿を見た十六夜と黒ウサギは『これは真祖(かのじょ)の躾に使える』と黒い笑みを浮かべながら思ったのだった。

 

――――――――――

 

「うぅ………まさか我の数少ない弱点を見つけられてしまうとは………」

 

 いまだに頭を押さえて呟いた月夜は、涙目だった。

 因みにここだけの話だが、頭が弱点というわけではない。殴る、蹴るなどの物理攻撃全般が彼女の弱点なのだ。

 故に、〝数少ない〟という発言は嘘っぱちであった。

 苦笑する黒ウサギは、ハッとして十六夜に問う。

 

「と、ところで十六夜さん。その蛇神様はどうされます?というか生きています?」

「命まで取ってねえよ。戦うのは楽しかったけど、殺すのは別段面白くもないしな。〝世界の果て〟にある滝を拝んだら箱庭に戻るさ」

「ならギフトだけでも戴いておきましょう。ゲームの内容はどうあれ、十六夜さんは勝者です。蛇神様も文句はないでしょうから」

「あん?」

 

 十六夜が怪訝な顔で黒ウサギを見つめ返す。黒ウサギは思い出したように補足した。

 

「神仏とギフトゲームを競い合う時は基本的に三つの中から選ぶんですよ。最もポピュラーなのが〝力〟と〝知恵〟と〝勇気〟ですね。力比べのゲームをする際は相応の相手が用意されるものなんですけど………十六夜さんはご本人を倒されましたから。きっと凄いものを戴けますよー。これで黒ウサギ達のコミュニティも今より力を付ける事が出来ます♪」

 

 黒ウサギが小躍りでもしそうな足取りで大蛇に近寄る。

 しかし十六夜は不機嫌な顔で黒ウサギの前に立った。

 

「―――――」

「な、なんですか十六夜さん。怖い顔をされていますが、何か気に障りましたか?」

「………別にィ。オマエの言うことは正しいぜ。勝者が敗者から得るのはギフトゲームとしては間違いなく真っ当なんだろうよ。だからそこに不服はねえ―――けどな、黒ウサギ」

 

 ふっと十六夜の軽薄な声と表情が完全に消える。それに応じて黒ウサギの表情も硬くなる。

 

「オマエ、なにか決定的な事をずっと隠しているよな?」

「………なんのことです?箱庭の話ならお答えすると約束しましたし、ゲームの事も」

「違うな。俺が聞いてるのはオマエ達の事―――いや、核心的な聞き方するぜ。黒ウサギ達はどうして俺達を呼び出す必要があったんだ?」

 

 表情には出さなかったが、黒ウサギの動揺は激しかった。

 そんな不穏な空気を感じ取った月夜が不思議に思い小首を傾げる。

 

「………十六夜?」

「月夜。悪いが黙って俺の話に耳を傾けてくれないか?これから重大な事を聞き出すんだからな」

「ぬ?う、うむ。分かった。大人しく聞かせてもらうとする」

 

 十六夜のこの上なく真剣な顔と声音に、月夜は頷いて黙り込み、静聴した。

 一方、黒ウサギはなんとか内の動揺を隠しながら返す。

 

「それは………言った通りです。十六夜さん達にオモシロオカシク過ごしてもらおうと」

「ああ、そうだな。俺も初めは純粋な好意か、もしくは与り知らない誰かの遊び心で呼び出されたんだと思っていた。俺は大絶賛〝暇〟の大安売りしていたわけだし、月夜や他の二人も異論が上がらなかったってことは、箱庭に来るだけの理由があったんだろうよ。だからオマエの事情なんて特に気にかからなかったんだが―――なんだかな。俺には、黒ウサギが必死に見える」

 

 その時、黒ウサギの瞳は揺らぎ、虚を衝かれたように見つめ返す。黒ウサギが初めて動揺を表情に出した瞬間だった。

 十六夜はその動揺を見逃さず、自分の辿り着いた答えを口にした。

 

「これは俺の勘だが。黒ウサギのコミュニティは弱小のチームか、もしくは訳あって衰退しているチームか何かじゃねえのか?だから俺達は組織を強化するために呼び出された。そう考えれば今の行動や、俺がコミュニティに入るのを拒否した時に本気で怒ったことも合点がいく―――どうよ?一〇〇点満点だろ?」

「っ………!」

 

 内心で痛烈に舌打ちする黒ウサギ。この時点でそれを知られてしまうのは余りにも手痛い。苦労の末に呼び出した超戦力、手放すようなことは絶対に避けたかった。

 十六夜はそれに察しながらも、さらに続ける。

 

「んで、この事実を隠していたってことはだ。俺達にはまだ他のコミュニティを選ぶ権利があると判断できるんだが、その辺はどうよ?」

「……………」

「沈黙は是也、だぜ黒ウサギ。この状況で黙り込んでも悪化するだけだぞ。それとも他のコミュニティに行ってもいいのか?」

「や、だ、駄目です!いえ、待ってください!」

「だから待ってるだろ。ホラ、いいから包み隠さず話せ。月夜も勿論聞くよな?」

「ん?う、む。そうだな。我もその事は知っておきたい。故に聞くとしよう」

 

 十六夜に促された月夜は、話を静聴して自分も気になっていたのでそれに賛同して頷くと、彼の隣に歩み寄り立ったまま聞くことにした。

 だが今のコミュニティの状態を話すのは余りにもリスクが大きいため、黒ウサギの顔は渋る。

 押し黙る黒ウサギを煽るように十六夜が遠慮無用に捲し立てる。

 

「ま、話さないなら話さないでいいぜ?俺は月夜連れてさっさと他のコミュニティに行くだけだ」

「ぬ?我もか?」

「ああ。真祖(オマエ)は中々面白そうだからな」

 

 ニヤニヤと笑う十六夜に、苦笑で返す月夜。

 一方、黒ウサギは覚悟して二人に問いかける。

 

「………話せば、協力していただけますか?」

「ああ。面白ければな」

「………我も十六夜と同じだな」

 

 ケラケラと笑う十六夜のその目は、やはりというか笑っていない。

 月夜も彼と同じく〝面白ければ〟に同意するが、実際はただの口実であった。

 そして黒ウサギは意を決したように返した。

 

「………分かりました。それではこの黒ウサギもお腹をくくって、精々オモシロオカシク、我々のコミュニティの惨状を語らせていただこうじゃないですか」

 

 コホン、と咳払い一つで語り始める。しかし内心ではほとんど自棄っぱちだった。

 

「まず私達のコミュニティには名乗るべき〝名〟がありません。よって呼ばれる時は名前の無いその他大勢、〝ノーネーム〟という蔑称で称されます」

「へえ………その他大勢扱いかよ。それで?」

「次に私達にはコミュニティの誇りである旗印もありません。この旗印というのはコミュニティのテリトリーを示す大事な役目も担っています」

「ふぅん?それで?」

「〝名〟と〝旗印〟に続いてトドメに、中核を成す仲間達は一人も残っていません。もっとぶっちゃけてしまえば、ゲームに参加できるだけのギフトを持っているのは一二二人中、黒ウサギとジン坊っちゃんだけで、後は十歳以下の子供ばかりなのですヨ!」

「「もう崖っぷちだな!」」

「ホントですねー♪」

 

 十六夜と月夜の冷静な言葉にウフフと笑う黒ウサギは、ガクリと膝をついて項垂れる。口に出してみると、本当に自分達のコミュニティが末期なのだなーと思わずにはいられなかった。

 コミュニティの惨状を耳にした十六夜は、その経緯を問う。

 

「で、どうしてそうなったんだ?黒ウサギのコミュニティは託児所でもやってんのか?」

 

 十六夜のその問いに、黒ウサギは沈鬱そうに首を振る。

 

「いえ、彼らの親も全て奪われたのです。箱庭を襲う最大の天災―――〝魔王〟によって」

 

〝魔王〟と聞いた途端、適当に相槌を打っていた十六夜が初めて声を上げ、月夜はなんのことか分からずに小首を傾げた。

 

「ま………マオウ!?」

「………魔王?」

 

 十六夜の瞳は宛らショーウィンドに飾られる新しい玩具を見た子供の様に輝いていた。

 

「魔王!なんだよそれ、魔王って超カッコイイじゃねえか!箱庭には魔王なんて素敵ネーミングで呼ばれる奴がいるのか!?」

「え、ええまあ。けど十六夜さんが思い描いている魔王とは差異があると………」

「そうなのか?けど魔王なんて名乗るんだから強大で凶悪で、全力で叩き潰しても誰からも咎められることの無いような素敵に不敵にゲスい奴なんだろ?」

「ま、まあ………倒したら多方面から感謝される可能性はございます。倒せば条件次第で隷属させることも可能ですし」

「へえ?」

「隷属?吸血鬼でいう眷属と類似しているものか?」

 

 ふと己の種族と照らし合わせる月夜。とはいえ彼女が他者の鮮血を啜り眷属をつくったことは一度もないが。

 その問いに黒ウサギは頷いて答える。

 

「はい。吸血鬼でいう〝眷属〟も、主従関係が成り立っていますし、魔王でいう〝隷属〟と同じ類のものになりますよ。―――って吸血鬼の真祖である貴女がこのような質問をするのはおかしいのでございますよ?」

「んん、いやまあ、そのだな………我はその点については疎いからな―――っと話が脱線してしまってすまなかった。それでその魔王というのはどのようにしてお主らのコミュニティを滅ぼしたのだ?」

 

 言葉を曖昧に濁して話を戻し、黒ウサギに促す月夜。それに十六夜と黒ウサギは怪訝な表情を見せるが、今は話を進めることに徹した。

 

「魔王は〝主催者権限(ホストマスター)〟という箱庭における特権階級を持つ修羅神仏で、彼らにギフトゲームを挑まれたが最後、誰も断ることはできません。私達は〝主催者権限〟を持つ魔王のゲームに強制参加させられ、コミュニティは………コミュニティとして活動していく為に必要な全てを奪われてしまいました」

 

 これは比喩ではなく、黒ウサギ達のコミュニティはその地位も名誉も仲間も、全て奪われたのだ。残されたのは空き地だらけとなった廃墟と子供達だけ。

 しかし十六夜は同情する様子もなく、岩の上で足を組み直す。

 

「けど名前も旗印も無いというのは不便な話だな。何より縄張りを主張できないのは手痛いだろ。新しく作ったら駄目なのか?」

「そ、それは」

 

 黒ウサギは言い淀んで両手を胸に当てる。十六夜の指摘は正しい。だがそれでは駄目なのだと、黒ウサギは話す。

 

「か、可能です。ですが改名はコミュニティの完全解散を意味します。しかしそれでは駄目なのです!私達は何よりも………仲間達が帰ってくる場所を守りたいのですから………!」

 

 仲間の帰る場所を守りたい。それは黒ウサギが初めて口にした、掛け値の無い本心だった。

 

「茨の道ではあります。けど私達は仲間が帰る場所を守りつつ、コミュニティを再建し………何時の日か、コミュニティの名と旗印を取り戻して掲げたいのです。そのためには十六夜さん達のような強大な力を持つプレイヤーを頼るほかありません!どうかその強大な力、我々のコミュニティに貸していただけないでしょうか………!?」

「………ふぅん。魔王から誇りと仲間をねえ」

「……………」

 

 深く頭を下げ懇願する黒ウサギ。だが必死の告白に十六夜は気の無い声で、月夜は無言で返す。その態度は黒ウサギの話を聞いていたとは思えない。黒ウサギは肩を落として泣きそうな顔になっていた。

 

「(ここで断られたら………私達のコミュニティはもう………!)」

 

 黒ウサギは唇を強く噛む。後悔するなら初めから話せば良かった、と。

 肝心の月夜はいまだに無言。十六夜も組んだ足を気だるそうに組み直し、たっぷり三分間黙り込んだ後、

 

「いいな、それ」

「―――――………は?」

「HA?じゃねえよ。協力するって言ったんだ。もっと喜べ黒ウサギ」

 

 不機嫌そうに言う十六夜。呆然と立ち尽くす黒ウサギは、二度三度と聞き直す。

 

「え………あ、あれれ?今の流れってそんな流れでございました?」

「そんな流れだったぜ。それとも俺がいらねえのか?失礼なこと言うと本気で余所行くぞ」

「だ、駄目です駄目です、絶対に駄目です!十六夜さんは私達に必要です!」

「素直でよろしい。―――んで真祖(オマエ)はどうすんだ?」

 

 十六夜は月夜に問いかける。そして黒ウサギは喜びから一転して泣きそうな顔に逆戻り。月夜の顔を恐る恐る窺う黒ウサギ。

 

「あ………月夜さん………」

「…………………………」

 

 再び訪れる沈黙の時。月夜は瞼を閉じて考え込む。

 これは前に説明したことだが、月夜は親族も、同胞すら持たない天涯孤独にして孤高の真祖。

 何時生まれ、何処で生まれ、何故生まれたか、不明の謎多き吸血鬼の真祖。

 そんな彼女はこれまで独りで生きてきた。そう。眷属を一切つくらずに。

 集団に属さない孤高の真祖が、黒ウサギ達の〝コミュニティ〟で上手くやっていけるか、不安なのだろう。

 だがこの箱庭の世界を生きていくには、コミュニティに所属しなければならない。

 考え込むこと五分間。遂に沈黙は崩れ、月夜は口を開けて告げた。

 

「―――ふふ、良いだろう。我が力を求めるなら、吸血鬼の真祖たる我がお主らのコミュニティとやらに尽くしてやろうではないか!」

 

 金色のツインテールの髪をフワリと舞わせ、漆黒ドレスのスカートの裾もフワリと舞わせ、一回転して黒ウサギに向き直り、告げた。

 その小柄な少女とは思えないほどの優雅な舞いにポカーンと口を開けて固まる黒ウサギ。

 

「どうした?もしや十六夜だけで十分だったか?ならば我は―――」

「だ、駄目です!月夜さんも私達に必要です!いえ、逃がさないのですよ!」

「ぬ?―――うおっ!?」

 

〝逃がさない〟と言って黒ウサギが問答無用に月夜の手を掴んだ。いきなりのことで驚く月夜。

 嬉々として離さない黒ウサギに、月夜は苦笑を零した。

 一方、十六夜は胸豊かなる美少女同士の戯れをニヤニヤと眺めていた。

 ついでに小柄な割りに胸だけは一人前な通称・黒ロリ巨乳真祖こと紅月夜を見て十六夜が呟く。

 

「しかし本当に月夜は黒好きなんだな」

「ん?それはどういう」

「下着の色まで黒とは中々にエロいチョイスだったぜ!」

「「は?」」

 

 十六夜の発言に固まる黒ウサギと月夜。そして―――赤面した黒ウサギが叫ぶ。

 

「な、な、何を言っちゃって、視ちゃってんですか!?このお馬鹿様は!??」

「ヤハハ、俺の目の前で舞ったのは間違いだったな真祖様?」

「………ふふ、安心しろ十六夜。我はお主を咎めたりはせぬ。見えたのなら仕方がない。我からのご褒美として受け取ってくれるがよいぞ?」

「え?」

「ああ、たしかに受け取った!―――微妙に恥ずかしがってるオマエの表情もな!」

「な………に?」

 

 腕を豊満なる胸の下で組んだ月夜の頬は、微かに朱色に染まっていたらしい。やはりというか、恥ずかしかったのだろう。

 また呆然と立ち尽くす黒ウサギ。十六夜はそんな二人をニヤニヤと見つめているのだった。

 

 その後、黒ウサギが蛇神から『水樹の苗』を貰って奇声を上げて喜んだり、〝世界の果て〟を拝んで三人は感動を補充し、先に箱庭に入った飛鳥・耀・ジンと合流するために噴水広場に向かうのだった。




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主人公が吸血鬼で恋愛無しって可能だろうか………?
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