問題児たちが特異吸血鬼と共に箱庭に召喚されるそうですよ?―終焉なる真祖は月神の末裔!?― 作:問題児愛
時は少し遡り、ブンゲローゼン通りから逃走したラッテンは、マルクト教会を目指していた。
だがそこには、既に先客が待っていた。
「―――待っていたわ、偽りの〝ハーメルンの笛吹き〟。いえ、本物の〝
教会のステンドグラスを背に、真紅のドレスを身に纏った久遠飛鳥がラッテンを待っていた。
「なっ………貴女、今まで何処に、」
「〝ラッテンフェンガー〟のコミュニティに匿われていたのよ。貴女を倒す為にね」
飛鳥は自信に満ち溢れた表情で、長い髪とドレスを靡かせる。その肩には、尖り帽子の精霊がいた。
己の真名を偽る怨敵を見つけたラッテンは、艶美な表情を歪ませ、フルートを指揮棒の様に掲げて叫ぶ。
「とうとう姿を現したわね偽物………!ハッ、丁度いいわ!貴女を人質に吸血鬼を抑え込む!捕まえなさい、シュトロム!」
「BRUUUUUUM!」
迫り上がる地盤。教会の外に現れた三体の陶器のシュトロムは壁を打ち砕き、飛鳥を襲う。
飛鳥はシュトロムを一瞥した後、悠々と掲げた。
「いいわ。まずは貸しを一つ返していただきましょう。―――来なさい、ディーン!」
紅の輝きが教会を満たす。ギフトカードからは無印の円陣が浮かび上がり、中から天地を揺らす程の雄叫びが上がった。
「―――――DEEEEEEeeeeeeEEEEEEEN!!!」
主の呼び声に、紅い鋼の巨人―――ディーンは伽藍洞の身体を大きく撓らせて答える。
紅い巨躯の総身に太陽をモチーフとしたと思われる塗装と意匠を凝らし、圧倒的な存在感を放つ巨兵。ラッテンはディーンに驚愕しながらも、シュトロムに命令を下す。
「か、構わないわ!圧殺なさいシュトロム!」
シュトロムは嵐の様に大気を揺らし、周囲の建造物を吸い込み始める。乱気流宛らの風に髪を煽られる飛鳥は、それでもまだ動かない。
余裕に満ちた表情で、シュトロムの一撃を待つ。
「迎え撃つのよディーン。彼らに、格の違いを見せつけてさしあげなさい」
ディーンは不気味な一つ目を揺らして、鈍く頷く。
瓦礫を溜め込んだシュトロムは、顔面に空いた巨大な空洞を臼砲の様にして塊を撃ち出す。刹那、ラッテンが叫んだ。
「潰せ、シュトロムッ!!」
「砕きなさい、ディーンッ!!」
「DEEEEEEeeeeeeEEEEEEEN!!!」
飛鳥の言葉で、ディーンの重鈍な動きが一気に加速する。高速で襲う巨大な岩塊は、振り回される鋼の剛腕によって全て叩き落とされた。
飛鳥は続いてディーンに指示を出す。
「このステンドグラスは〝真実の伝承〟の一つ!壊しては元も子もないわ!教会を出るわよディーン!」
ディーンは承知したかのように鈍く唸り、伽藍洞の身体を撓らせて壁を突き破る。突進したディーンは隣接するシュトロムの一体を押し倒し、打ち砕き、叩き付けて跡形も無く粉砕する。
「DEEEEEEeeeeeeEEEEEEEN!!!」
巨躯の剛腕を、幾度も幾度も陶器の身体に叩き付ける。
雄叫びと共に暴れるその姿は、正に鋼の魔人である。
ラッテンは戦慄きながらも、残りのシュトロムに命令を下す。
「背面の一体!一瞬でいいわ、押さえつけなさい!もう一体は嵐で牽制するのよ!」
ディーンの背面に立っていたシュトロムは全身の風穴から空気を噴出し、突進する。もう一体は嵐の様な乱気流を巻き上げ始める。
しかしその程度、紅い鉄人形には通用しない。乱気流をモノともせず、突進を仕掛けたシュトロムを片腕で受け止める。ディーンの背面に立っていた飛鳥は一度離れ、乱気流に呑み込まれないように教会の柱に掴まりながらディーンに指示を出す。
「力の差を見せつけなさい、ディーン!」
飛鳥の一喝、ディーンはシュトロムの頭を掴んでねじ伏せる。
シュトロムは抵抗虚しく、乾いた音と共に一撃で粉砕された。
これで残り一体。最後のシュトロムを倒す為にディーンに指示を出そうとした飛鳥は―――ふと、ラッテンの姿が無い事に気が付く。
「……消えた………!?」
見失った。一番見失ってはいけない敵を視界から外してしまった。飛鳥は失態に舌打ちしながらも頭を振って周囲を確認する。しかし気が付かない。それもそのはず。
ラッテンはシュトロムの巻き上げた風で―――上空に飛んでいたのだ(・・・・・・・・・・)。
「(鉄人形と距離を置きすぎたわねお嬢さん………!もらったッ!)」
飛鳥とディーンの距離、約十間。護衛出来る範囲を完全に出てしまっている。
ラッテンは勝利を確信し、フルートの尖端を飛鳥の頭上に向ける。
上を見上げ、間一髪気が付いた飛鳥だがもう遅い。かわす暇も無く突き出された魔笛は、
「―――潰しなさい、ディーン」
高速で伸びた(・・・)巨躯の剛腕に、握り潰された。
「ギッ、!」
「Bur………!?」
ズドンッ!!と伸びた剛腕に掴まれたラッテンは、そのまま高速でシュトロムに叩き付けられる。巨腕が叩き付けた衝撃で一帯が揺れた。
三体目のシュトロムに向けた拳もまた、敵を一撃で粉砕し、ディーンは無骨な雄叫びを上げた。普段の重鈍な動きとは裏腹に、戦闘時の動きは軽快ささえ垣間見える。
飛鳥の異能『威光』が、スペック以上の力を引き出しているからだろう。
「DEEEEEEeeeeeeEEEEEEEN!!!」
勝ち
「し、伸縮自在の鋼………!龍種の〝純血〟のみが錬成出来る、神珍鉄の魔人………!」
―――神珍鉄製の
超重量の拳を受けて致命傷を負ったラッテンは、吐血してその場に跪く。
飛鳥はコツコツと歩み寄り、瀕死のラッテンに向かって微笑み掛ける。
「これで蹴り上げられた貸しは無しにしましょう。喧嘩両成敗というものね。………だけどイーブンにはまだ早いわ。まだ貸しを一つ返してもらっていないもの」
パチン!と飛鳥は指を鳴らす。
飛鳥の合図に頷いたディーンは、ラッテンを手放して後ろに下がった。
解放されたラッテンは膝から崩れ落ち、ガクガクと膝を震わせながら地面にへばり付く。白装束を鮮血で染めたラッテンは、トドメを刺さない飛鳥に疑問の色の籠った瞳を向ける。
「なっ………何を、」
「覚えているかしら?私は一週間前、貴女の音色で支配されたネズミ達によって敗北したわ。つまり貸しを返していただくというのは………率直に言うと、一曲所望したいという事よ」
スッと。ディーンの巨大な掌に腰掛け、細く長い指でラッテンを指差す。
「ゲームをしましょう。貴女に一曲分の演奏を許可します。その一曲で、私に服従しているディーンを魅了してみなさい」
飛鳥の挑戦的な瞳には、只勝つだけでは意味が無いという強い意志が見られる。
敗北した相手の
「………なるほど、ね……」
ラッテンは肩が上下するほど乱れた息を、血反吐ごと飲み込む様に吸って正す。
「いいわ………貴女のゲームに乗って、一曲奏でましょう」
魔笛を唇に当て、何時もの茶化した笑顔でウインクした。
「幻想曲〝ハーメルンの笛吹き〟。どうかご静聴のほどを♪」
――――――――――
「サンドラ様!前後で挟みこみます!」
「分かった!」
前方からは黒ウサギが持つ〝
後方からは〝龍角〟の放出する紅蓮の炎が。
黒い風を球体上に纏っているペストは、悠々と棒立ちのまま二つの奔流を遮断する。
「いい加減に、無意味だと分からないの?」
クイッと手首を返す。四本に分かれて竜巻く黒い風が、サンドラを襲う。
黒ウサギとサンドラは異能を収めてペストから跳び離れた。先程から幾度となく繰り返した戦況に、サンドラは焦りを浮かべ始めていた。
「やっぱり、前回と同じ。神格級のギフトが二つ同時に襲い掛かってもビクともしない!」
「確かに。タイムオーバーを狙っているのは明白ですが………少々妙な力でございますね。レティシア様の話では生命力を吸い取る類だと伺っていたのですが」
黒ウサギの声はサンドラに比べて幾分冷静だった。
なぜなら、黒ウサギにはペストの霊格に心当たりがあったからだ。
疲弊したサンドラを一瞥した黒ウサギは足を止め、屋根の上でペストに問う。
「〝
「えっ?」
「そうよ」
「えっ!?」
黒ウサギとペストの遣り取りに、サンドラは驚きながら二人の顔を交互に見る。
「十六夜さんから話を聞いた時、よもやとは思いました。貴女の持つ霊格は〝ハーメルンの笛吹き〟に記述された〝一三〇人の子供の死の功績〟ではなく、十四世紀から十七世紀にかけて吹き荒れた黒死病の死者―――八〇〇〇万もの死の功績(・・・・・・・・・・・)を持つ悪魔ではないか、と」
今度こそサンドラの表情は蒼白に変わった。
「八〇〇〇万の死の功績………!?それだけあれば、神霊に転生する事も可能」
「無理よ」
「無理です」
同時にキッパリ否定され、サンドラは少ししょんぼりした様に黙り込む。
「最強種以外が神霊に成る為に必要な功績は〝一定数以上の信仰〟でございます。如何に規格外の数の死を収集しようと、神霊に至る事は不可能でございますよサンドラ様」
「そ、そっか」
「ですが信仰の形は様々です。恐怖をもって奉られる神仏も決して少なくはありません。密教の悪神にはよくある事でございます。―――しかしペスト。貴女は神霊に成り上がる為の恐怖も信仰も足りなかった。後の医学が
「……………」
「だから貴女は自分に最も近い存在で、恐怖の対象として完成されている形骸を欲したのです。………それが〝幻想魔道書群〟の魔道書に記述された、斑模様の死神。貴女は自分自身を神霊として呼び出すために―――」
「残念ながら、所々違うわ」
へ?と黒ウサギは言葉を止めた。
絶対の自信があった推測を否定され黒ウサギのウサ耳がへにょる。
ペストは毛先を弄りながら、少し憂鬱気に口を開いた。
「だけどそうね………時間稼ぎ程度に教えてあげる。私は自分の力で箱庭に来たんじゃない。私を召喚したのはかの魔王軍・〝幻想魔道書群〟を率いた男よ」
「なっ、」
「きっと私を手駒に加えたかったのね。八〇〇〇万もの死の功績を持つ悪魔……いいえ。〝八〇〇〇万の悪霊群〟である私を死神に据えれば、神霊として開花させられると思ったのよ」
黒ウサギは思わず耳を疑った。
「という事は………貴女は黒死病が神霊化したわけではなく、黒死病の死者の霊群ですと?」
「ええ。その代表が私。………しかしかの魔王は、私達を召喚する儀式の途中で何者かとのギフトゲームに敗北し、この世を去った」
そして幾星霜の月日が流れた。
何かの拍子で召喚式が完成され、時の彼方から呼び出されたのがペスト。
世界人口の三割が減少し、死の病が蔓延る恐慌時代からやってきた少女。
「私が、〝
あまり感情を表に出さないと思われていたペストは、初めて激情で口調を強めた。
ペストは八〇〇〇万の怨嗟の声に応える為、この神々の箱庭で太陽に挑むのだという。
その決意に応じて黒い風が勢いを増して荒れ狂う。
黒ウサギは舞い上がる髪を押さえながら、荒れるペストを見定める。
「太陽に復讐とは………さすが魔王。大きく出たものでございます。太陽の主権を持っている白夜叉様を狙った理由は、そこにあったわけですか」
「ど、どうする?」
「どうするも何も。此方の力が一切通じないのでは打つ手も何も御座いません」
黒ウサギの言葉に、サンドラは一層蒼白になる。それでは二人に勝ち目がない。
―――が不意にバチンッと。一陣の黄金の
だがペストは咄嗟に黒い風を纏って第三者の一撃を凌ぐ。
「―――――っ!………来たわね」
「え?」
「………え?」
ペストの声にハッとして黒ウサギとサンドラは、雷の発信源の方へ振り向くとそこには―――
「………レティシア様!―――――ライムさん(・・・・・)………ッ!」
どうして気が付けなかったのだろう。
黒ウサギの高性能ウサ耳なら、状況を把握するのは簡単な事なのに。
それは、彼女の声を聞いた筈なのに、黒ウサギは勝手に〝彼女が復活するなんてありえない〟と結論付けて空耳だと思い込んでしまっていたからだ。
黒ウサギは泣きそうな顔で彼女達を見つめた。
サンドラも蒼白から一転して、強力な助っ人の登場にパアッと表情が明るくなる。
ペストは突如として現れた第三者の二人を見つめ、それでも尚悠々と構えて薄く笑う。
そして黒ウサギが叫んだ彼女達の名は―――
方やスーパープラチナブロンドの美麗な髪を、蒼と白のメイドスカートを靡かせる幼い少女。
方や同質と言っても過言ではない美麗なツインテールの髪を、漆黒のメイドスカートを靡かせるこれまた幼い少女。
賢い黄金の吸血姫とお馬鹿様な黄金の真祖。
〝箱庭の騎士〟の嘗ては〝
と。
〝 の末裔〟、今は〝
の登場だった―――ッ!!!
次話は遂に月夜の生前の正体が明らかに………!?
月夜がもたらしたレティシアの異能も………!?
ペストvs吸血鬼義姉妹!
完全に戦闘描写がオリジナルになるので上手く書けるか不安ですが頑張りましょう♪