問題児たちが特異吸血鬼と共に箱庭に召喚されるそうですよ?―終焉なる真祖は月神の末裔!?― 作:問題児愛
「………レティシア様!ライムさん!」
「二度も名を呼ばなくて良いぞ黒ウサギ」
二回名前を呼んだ黒ウサギに、ライムは思わず苦笑を漏らす。レティシアも隣で苦笑していた。
しかしその言葉は黒ウサギには届いておらず、我を忘れて脱兎の如く駆け―――ライムに抱きついた。
「ライムさぁぁぁん―――!!」
「ぬ?―――――むぎゅっ!?」
ライムは黒ウサギの豊胸に顔を埋められた形で抱き付かれた。どこぞの問題児様と駄神様が嫉妬しそうな光景である。
レティシアは瞳を何度も瞬かせて唖然とそれを見つめる。
「ライムさん!黒ウサギは………黒ウサギはっ!貴女様の事が心配で心配で堪らなかったのですよ………!」
「むぐむぐ!」
「魔王の黒死病に斃れたとお聞きして、気が気じゃなかったのですから………」
「むぐ………!」
「こうして復活なさったことに黒ウサギはとても嬉しいのです!感無量なのでございますっ!」
「……………!」
黒ウサギはライムの金髪頭を左手で優しく撫でて、しかし右腕は彼女をがっちりホールドして離さない。
サンドラとペストは置いてけぼりを食らって呆然と立ち尽くす。
レティシアはハッと気が付いて、黒ウサギに呆れながら言う。
「感動の再会のところ邪魔して悪いんだが、黒ウサギ」
「何でございましょう?レティシア様」
「………………」
「早く私の主殿兼ねお
へ?と黒ウサギが一瞬固まり、眼下の己の胸に埋めていたライム見て、ハッとして彼女を離した。
だが時は既に遅く―――
「………………………………………………………………………きゅぅ」
「―――――………あっ、」
ライムは眼を回しながらぐったりとして―――――気絶したのだった。
――――――――――
「まさか、真祖にして不死の王たる此の我が………黒ウサギの
「す、すみません!ライムさんに一週間ぶりに再会出来たことが嬉しすぎて羽目を外してしまったのですよ………」
ライムの言葉に、黒ウサギは反省してしょんぼりとする。
それにライムは一瞬驚き、そしてニヤニヤと笑って黒ウサギをからかう。
「ほう?我に再会出来た事がそんなに嬉しいか。そうかそうか………なら、我の退院祝いとして黒ウサギの豊満なる乳房を」
「揉ませませんッ!!図に乗るなですよこのエロ真祖ッ!!!」
ズパァアンッ!!と黒ウサギの必殺ハリセンが、ライムの金髪頭を強襲。
「うぎゃっ!」と短い悲鳴を上げたライムは、頭を抱えて蹲る。涙目で。
黒ウサギの容赦無しの一撃に沈んだのだ。
「………やりすぎではないか?黒ウサギ」
「いいえ。これぐらいやらなければ躾にはならないのですよ!」
「躾って………黒ウサギはライムの母親か?」
「ですです」
黒ウサギは眼下で蹲るライムを冷めた眼で見下ろす。
レティシアはやれやれだな、と苦笑と共に肩を竦めた。
一方、完全無欠に置いてけぼりを食らっていたペストが、やや不機嫌そうな声音で眼下の黒ウサギ達を見下ろして言う。
「………ねえ。貴女達は何時まで馬鹿やってるつもり?一刻も早く私を倒すんじゃなかったの?―――まあ、私としては時間稼ぎ出来て好都合だけれどね」
ペストの言葉に、ハッと気が付いた黒ウサギとサンドラは、すぐに臨戦態勢に入る。
それにレティシアが右手で制して、黒ウサギとサンドラの顔を交互に見て言う。
「まあ待て黒ウサギ、サンドラ。見たところ君達はペストとの闘いで疲弊してきてるようじゃないか」
「う、それは………はい」
「状況としてはかなり厳しいです」
レティシアの指摘に、黒ウサギとサンドラは悔しそうな顔と瞳を見せ俯く。
レティシアは頷いて、ライムの肩を叩いて起こす。
「ほらお義姉ちゃん。何時までも蹲ってないで戦いに備えるぞ?」
「………んむ?そうであったな。我とレティシアは黒ウサギ達の助太刀に―――否。交代(・・)に来たのだったな」
スクッと立ち上がったライムは、黒ウサギとサンドラを交互に見て言う。
「まあそういうことだから、黒ウサギとサンドラは休んでおくが良いぞ」
「え?ですがペストは死神の神霊です!」
「なぬ?」
黒ウサギの言葉に、ライムとレティシアは眉を顰める。
それにサンドラが付け足して言う。
「はい。私達二人で同時に攻撃してもビクともしませんでした。貴女達二人でも厳しいかと………」
「ふむ?……………御主が死神の神霊というのは本当であるか?ペストよ」
「そうよ。ハッキリ言って貴女達二人が参戦しようと、私に傷を負わせる事すら出来ないわ」
ライムの言葉に、ペストはにべもなく答える。喩え四人で来たところで結果は変わらない、と傲岸な物言いである。
それにライムは―――クスッと笑って言った。
「成る程のぅ……………それは参った。ふぅむ、仕方無い―――レティシア!作戦変更。我は、本気を出す(・・・・・)!」
「そうか。わかった!………私は待機しておく」
レティシアは頷いて黒ウサギとサンドラと共に待機することにした。作戦というのは単に、二人で(・・・)ペストを倒すという内容だった。
一方、その意味が理解できない黒ウサギとサンドラは小首を傾げる。
「………ライムさん?本気を出すとは一体どういう意味ですか?」
「ん?―――ふふ。本気を出すというのはだな……………神格を解放する(・・・・・・・)ということだ!」
「なっ、」
黒ウサギとサンドラは絶句した。それはそのはず、ライムの口からは〝神格は持ってない〟と言われているからである。
しかし先程のライムの口からは〝神格を解放する〟と言ったのだ。これは詰まり、〝神格を所持している(・・・・・・・・・)〟ということになり、言ってることが前のと矛盾している。
黒ウサギはその矛盾点に気が付き、咄嗟にライムに問い質した。
「え?ちょ、ちょっと待ってください!ライムさんは以前〝神格は所持していない〟と仰ったじゃないですか!あれは嘘だったのですか!?」
「………すまぬ、黒ウサギ。無い(・・)は嘘だ。有る(・・)が真だ」
黒ウサギの問いに、YESと答えるライム。彼女を騙した罪悪感から申し訳なさそうな表情で見つめる。
これには黒ウサギは怒らざるを得なかった。
「な、あ、貴女は何故所持していないと嘘をついたのですか!?あるのなら使えば黒死病で斃れることは無かったはずです………!」
「違うのだよ黒ウサギ。我が神格を解放するのは―――強力過ぎるからだ(・・・・・・・・)!」
「え?」
ライムの言葉に、黒ウサギは一瞬思考が停止した。だがすぐに正気に戻って、黒ウサギの脳裏に一つの可能性が浮上した。
「(ま、まさか………ライムさんの―――――生前の(・・・)
黒ウサギの思考はそこで停止した。
そう。ライムの全身を―――黄金の光が(・・・・・)包んだからである。
「―――――っ!?」
黒ウサギ達四人は、黄金の眩い光に目を細め、見つめる。
そして、その光が収まると―――
漆黒のメイド服の上から黒装束を羽織り。
僧侶の被り物のような黒い帽子。その帽子には、黄金の三日月の付属品が付けられている。
右手には〝松明〟の杖を携えていた。
吸血鬼であることを示す紅い、真紅の双瞳は―――月を示すように黄金の瞳に変わっていた(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)。
神々しい輝きを放つライムの姿が現れたのだ―――!
「なっ、」
ライムの姿と纏うオーラの違いに絶句する一同。
だが、ライムの生前を知るペストはすぐに正気に戻り、クスリと笑って白黒斑のワンピーススカートを風で靡かせながら言う。
「ふふ、それが貴女の―――月神(・・)の恩恵?」
「月………神!?」
笑うペストとは対照的に、黒ウサギ達三人は驚愕して固まった。
だが、黒ウサギはすぐに我に返って、ライムを見ながら考察する。
「(月神………松明………僧侶の被り物―――いえ。鳥兜。―――――トリカブト(・・・・・)っ!?ま、まさか………ライムさんの正体って―――!?)」
黒ウサギはライムの生前の霊格の正体を突き止める。そして、彼女に問い掛けた。
「ライムさん」
「………何ですか?黒ウサギ」
「貴女の名前はライムではなく―――月神ヘカテー(・・・・)ではないですか?」「月神………ヘカテー?」
黒ウサギとは対照的にサンドラとレティシアが小首を傾げる。
ヘカテーとは、古代ギリシャ語〝Hekat〟は、ギリシャ神話の女神である。
意味は古代ギリシャ語で太陽神アポロンの別名『ヘカトス』・〝Hekatos〟。
「遠くにまで力の及ぶ者」又は「遠くへ矢を射る者」。陽光の比喩の女性形であるとも。
古代ギリシャ語で「意思」を意味するとも。
エジプト神話の多産・復活の女神ヘケトに由来するとも言われている。
しかしちゃんとした資料が少ない為、ハッキリとしたことは判っていない。
ペルセースとアステリアの娘でティターン神族の血族に属する。
コイオスとポイベー、ゼウスやデメーテルの娘という説もある。
狩りと月の女神アルテミスの従姉妹。
月と魔術、幽霊、豊穣、浄めと贖罪、出産を司るとされる。
冥府神の一柱でありその地位はハデス、ペルセポネに次ぐと言われている。
黒ウサギの指摘に、ライムはクスッと笑って答える。
「半分正解半分間違いですね。私はヘカテーの―――御母様の娘(・・・・・)です♪」
「「「―――――………は?」」」
ライムの衝撃のカミングアウトに、黒ウサギ、レティシア、サンドラは思わず素っ頓狂な声を上げた。
ペストが驚かないのは、知っているからである。
そう。ライムは〝ヘカテーの娘〟である………!!
月の〝神霊〟と〝人間〟のハイブリッド。それがライム―――否。〝 =ヘカテー〟なのだ。
「まあ詳細は置いといて。戦闘を始めましょうか、ペスト」
「え?あ、うん。始めましょ」
「え?ちょ、ちょっとライムさ」
「「五月蝿い」」
ピシャリ、と言い放つライムとペスト。戦いの邪魔をするな、と言わんばかりの眼力の二人に黒ウサギはしょんぼりとするのだった。
――――――――――
ライムとペストが向かい合う。
互いに笑みを交わし合うとまず―――ライムが動いた。
ライムは松明を掲げると、灼熱の炬火を放つ。
ペストはそれを黒死病の黒い風で凌ぐ―――否。相殺した(・・・・)。
互いに〝神霊〟だった為、相殺し合ったのだ。
「………ようやく愉しい戦いになってきたわね………!」
「切り札だったんですがね………まあいいです。御覚悟を!――――様!」
「―――――っ!?ウサギさんがいるのにその名前を出さないでくれる?ルーナ(・・・)!」
「そういう貴女様も私の真名を口にしてますよ?―――どうでもいいですが………!」
「そうね。じゃあお相子ってことで、手を打ちましょ?」
「そうですね。それでいきましょう!」
ライム―――もといルーナは松明の杖を掲げ灼熱の炬火を数多と造り放つ。
ペストは黒死病の黒い風の竜巻を数多と造り放ち、それらを相殺する。
松明の炎と黒死病の風がぶつかり
「………撃ち合いでは埒が明きませんね」
「そうね。なら―――肉弾戦に持ち込みましょ?」
「それいい提案ですね!それにしましょう!」
「ふふ。そうと決まれば行動あるのみね………!」
「はい!」
ルーナとペストは一時動きを止め―――瞬間。
「ハァアアアアア!!!」
「ヤァアアアアア!!!」
第三宇宙速度を遥かに凌駕した速度で大衝突した。
ドゴンッ!!!とルーナとペストの拳と拳がぶつかり合う。
速度を維持したまま千手の、万手の拳と拳がぶつかり合う。
僅か数秒の攻撃と攻撃。防御はどちらもしない。寸分も狂わずに互いの拳と拳をぶつけ合っているのだ。
撃ち合い(・・・・)にせよ、打ち合い(・・・・)にせよ、結局は埒が明かなかったのである。
「………ギフトの撃ち合いと変わらないわね」
「………全くです。こうも決着がつかない戦いって存在するんですね」
「そうね。とはいえ私としては全然ありだけれど」
「はい?不毛な戦いが何故有難いんですか?」
不思議に思い小首を傾げるルーナ。
ペストはクスリ、と笑ってその問いに答える。
「私の目的はさっきも言った通り―――時間稼ぎよ」
「……………っ!そうでしたね。ペストの目的はあくまで時間稼ぎ。このまま戦っても無意味、ですね」
互いに神霊同士だと、これも別の意味で決着がつかない。
それにルーナが使用しているヘカテーの恩恵は―――無制限ではない(・・・・・・・)。
神格所持とはいえ、これはあくまで一時的な解放に過ぎない(・・・・・・・・・・・)。
今の彼女では神霊化出来るのは―――持って十分ぐらい(・・・・・)だったのだ。
ルーナはこのまま戦っていては時期に只の真祖の吸血鬼に戻ってしまう。それを悟ったルーナは、咄嗟にレティシアの名を叫んだ。
「―――レティシア!作戦を変更致します!共にペストを討ちましょう………!」
「―――ああ!その声を私は待っていたぞ!お義姉ちゃん!」
ルーナの叫びに応えて、レティシアは彼女の隣に飛び立った。
レティシアがルーナの隣に来たのを確認したペストは―――クスリと笑って言う。
「ふふ。一人増えたところで私の有利は変わらないわ」
「さあ?それはどうでしょうね?」
「ああ。私を甘く見てもらっては困るぞ、ペスト」
ペストの言葉に、ルーナとレティシアは笑み一つで返す。
その余裕な笑みにペストは一瞬怪訝な顔をするが―――スゥ、と元の余裕な笑みに戻って返した。
「そう。なら―――見事私を討ってみなさい!」
「言われなくても討ってあげますよ。―――では、参りましょうか。レティ姫?」
「そうだな。あの魔王に一泡吹かせてやる………!」
ペスト戦は神霊化したルーナに加え、新たな
月夜の生前は月神ヘカテーの娘ですッ!!
勿論、この作品だけに登場するオリジナル設定の架空人物ですが。
ところで月神ヘカテーは
神霊
or
星霊又は半星霊
どちらが正しいですかね?
前話の後書きが嘘になってしまいすみません。次話こそレティシアの新たな異能を紹介したいと思いマス!